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第十三話 ~十二月二十五~ 後編

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 登校は二人だけだが、下校は三人になる。ゆなが加わるからだ。
 ゆなはどことなくワクワクした様子で歩みを進める。今日は十二月の二十五。
 冬期休暇が始まるという事もあるが、今日はクリスマスだからだ。
 ゆなは今夜、二人の元でパーティーをすることを数週間前より企画し、それを二人が許したことで、たける宅ですることが決定しているのである。
 費用は三人で割り勘をすることで決定している。
 二人はアルバイトをしているためそこから切り崩し、ゆなはアルバイトをする事が出来ない──現役の運動部員である──ため、自腹を切って持つことになっている。
 ウキウキとした雰囲気の中、ゆなはふと思いついたかのようにつぶやく

「ねぇ、冬休み、何する?」
「えっ……何するって……?」
「ほら、スキーに行くとかさ、冬にしかできない遊びがあるじゃん?」
「つまり、俺ら三人でどこかに行きたい……と?」
「そう!」
「でも、私たち冬休みはバイトとか入ってるよ?」
「そんなの、休みを見つけて行けばいいのよ!」

 ゆなは二人に向けて指をさし、無い胸を張った。
 気圧けおされたふたりは、苦笑いをするしか出来なかった。

       ☆☆☆ ★★★ ☆☆☆

 道中、荷物を取るということでそれぞれ分かれた。
 たけるは場所の準備を、きよみは母と共に料理の準備を、ゆなは飾りの用意を担当している。
 ゆなは飾りを持ち、たけるの家に駆け込む。そこにはきよみとこよみがすでに料理の準備を始めていた。
 作るはタンドリーチキンとクリスマスケーキ。
 たけるの両親──特に母親は料理や製菓が大好きな人で、生前は毎週末ケーキをたけるやその友人に振る舞っていたほど。そのため、ケーキを作るためのオーブンなどは完備してある。ただ、この数年の間使ってこなかったため、数日前まで埃を被っていたが……。
 数日前、きよみがふと掃除をしていた時に見つけ、それをこよみに相談し、掃除に踏み切った。
 そして、たけると二人で話そうと目論んでいたゆなは失敗に終わり落胆していた。が、たけると二人で飾りつけをすることでそれが実現できることに気付いた彼女はたけるに飾りつけを手伝って貰う事にした。
 そこでたけると二人であんなことやこんなこと──きよみとの最近の仲について詳しく話を聞いた。
 たけるの家で家事全般を代行していくきよみの姿が昔の母親に重なってしまう事、作ってくれる食事がまんま母の味で昔の事を思い出してしまう事。
 ゆなはその話を親身に聞く。ゆなも幼いころに父親をある意味亡くしている──突然の失踪をした──が故に、彼の気持ちはよく分かった。
 ここに集まる者たちは全員親を亡くしている。こよみの許しを貰い、聞き耳を立てていたきよみは予想外の褒め言葉に頬を紅潮させながらも、たけるの言う言葉に共感していた。
 特にきよみは幼いころに父親を事故で亡くしているが故に父親の温かさというものを知らずに育ってきたため、たけるそばで彼のぬくもりを知ったとき、無意識に父親の事を思い出していた。
 すでに亡くしてしまったものは帰ってこないとは分かってはいても、いつかは帰ってくるのではないか、ふと思う事もある。だが、前を向かなければ何も始まらない。こよみの一件があってから余計にそう思うようになってしまっていた。

       ☆☆☆ ★★★ ☆☆☆

 外は夕日が出る時間になった。夜が、聖夜が始まる。
 準備したクリスマスパーティーは始まりを見せた。四人はクラッカーを鳴らし合い、聖夜を祝った。
 沢山のタンドリーチキンと二ホールのクリスマスケーキ。
 たらふく夕食を食べた三人はクリスマスプレゼントを交換し合う。その三人の姿を微笑ましく眺めるこよみ。

(──この光景を見れるのはもう永くないんだろうな)

 と、縁起でもない事を思いながら。くも膜下出血が快方に向いたとはいえ、再発しないとは限らないのである。
 だからこそ、再発しないように予防をしなければならないのである。
 いつまた再発するか分からない事を実は三人に伝えていない。心配をかけて、雰囲気を破壊する事だけは避けたい。
 だからこそ、一人で出来るだけの再発予防を──。

       ☆☆☆ ★★★ ☆☆☆

 パーティーが終わり、四人は後片付けをも終え、四人は解散をする。
 ──いや、こよみの勧めできよみはたけるの元で一夜を過ごすことになった。
 何もないとは言えないだろう状況で、一体どのようになってしまうのか。
 ドキドキと高鳴る胸を抑え、きよみは入浴し、たけると共に同じ布団に入る。
 たけるの香り、どことなく男らしい香り。ただ、恥ずかしさのあまり、たけるとは反対に顔を向けて寝そべっていた。

「ねぇ」

 突然の呼びかけにきよみは思わずびくりと肩を揺らしてしまう。

「ちょっとこっち向いてよ」

 たけるからの猛烈なアプローチにきよみは恐る恐る振り向く。
 そこにはほのかに微笑むたけるがいた。
 何を言うでもなく、ただ、腕を広げる。おいで、と。
 きよみは安堵したように腕の中に入る。その後の事は、想像にお任せします──。
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