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ノア様との出会い
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「ノア。今日からこの人形がお前に仕える。」
「ミカエルと申します。よろしくお願い致します。」
そう言って、怯えたような目でこちらを見る美しい紫の瞳で、私は前世を思い出した。
ここは、乙女ゲーム「白薔薇姫」の世界。現実世界から突如異世界に召喚された主人公:ヒロインが、イケメンの攻略対象達と仲を深め、魔王を倒し、その中の誰かと恋に落ちる。友情エンドも勿論あったが、それをするには全キャラの好感度を一定のラインに保ち、上げないことが条件だったので、滅多に成功する人はいなかった。
そして今目の前にいる、この美しい少年は、攻略対象の中でも熱狂的な人気を誇るノア・アダムス。通称「闇堕ちヤンデレ貴公子」。濡羽色の髪、紫水晶の瞳は蠱惑的なまでに美しいが、このアダムス家、そして世界では歓迎されないものらしかった。
「後は任せたぞ。」
「はい。任務を遂行します。」
ぞんざいに言うと、私を連れて来たノア様の父親は、実の息子に見向きもせず、部屋を出て行った。夜なのに灯りも付いていない真っ暗な部屋は、公爵家にしては余りにも狭すぎる。あちこちに散らばったゴミや、ボロボロのおもちゃ。まるで、中にいる人物を閉じ込める為の箱のようだった。
彼は部屋の隅で縮こまり、薄汚れたウサギの人形を抱きしめていた。明らかに怯えている。
「ノア様」
なるべく優しい声を出したつもりだけれど、びくっと彼の肩が震えた。怖い、逃げたい。そんな感情が、嫌でも伝わって来た。この暗い部屋、見知らぬ若い男(人形だが)と二人きりなんて、この歳の子供には恐怖でしかないだろう。
「私は、ミカエルです。貴方様専用の絡繰人形。」
そう言って、私は彼に目線を合わせるように膝をついた。彼はまだ震えていたが、ゆっくりと目を合わせてくれた。
「私は貴方様の為ならば、何でも致します。決して、貴方様を傷付けることはありません。」
「…なんでも?」
小さな口から、初めて声を聞いた。子供っぽい、あどけない声だ。
「ええ、何でも。まずは、部屋の灯りを付けても?」
「あっ…」
彼が私を止めるように手を伸ばして来た。が、私が魔法で火を灯すほうが早かった。ぼうっと柔らかな、とろけるような炎が蝋燭に宿る。部屋が、蝋燭を中心に少しだけ明るくなった。
「…すごい」
蝋燭の火を、惚けたように見つめる。その反応に、少しの違和感を感じる。
「貴方様は、魔法をご存じですか?」
「…しってる。何もおそわってないけど」
あのクソ親父。教育すらまともに受けさせてないのか。仮にも公爵家の次男だぞ。
「このへや、マッチが無いから、ミカエルもこまると思った」
も、だもんな。これも公爵家の仕業だろう。主に父親。ていうか、
「初めて名前を呼んでくださいましたね」
「っ…だめだった?」
「いいえ、いいえ。もっと呼んでください。私は貴方の人形なのですから。」
私が言うと、彼の体から安心したように力が抜けた。それに、何だか眠たそうに見える。部屋の時計を確認する。深夜十二時。そりゃ眠たいはずだ。健全な五歳児が起きてていい時間じゃない。
「ノア様、とお呼びしてよろしいでしょうか」
「…うん。いいよ」
「ではノア様、そろそろご就寝の時間にございます。」
そっと手を差し伸べると、彼は一瞬躊躇ってから、小さな手を私の冷たい手に乗せた。彼の手を引いて、粗末なベッドまで案内する。魔法で軽くベッドメイクしてから、彼を横たわらせた。
「ノア様、おやすみなさい。どうかいい夢が見られますように。」
「…おやすみなさい」
目を瞑ると、彼はすぐに眠りについた。やっぱり、疲れていたのだろう。自分を虐げている父親と顔を合わせ、知らない人形が自分の部屋を歩いていたのだから。
「あ」
手を、握ったままだ。私の手は人形だから、とても冷たいだろう。ノア様の体を冷やしてはいけない。そっと私が手を離そうとすると、小さな手に、ぎゅっと握り込まれた。
「…失礼します」
私は彼のベッドの脇に座ると、彼の寝顔を眺めた。幼いながらも、その美貌は健在。切れ長の吊り目、今は見えないけれど紫水晶の綺麗な瞳、筋の通った鼻筋、形の良い唇。将来は絶世の美青年だろう。色白で、頼りなげだが、これから成長していくのだから大丈夫だろう。
「…さて、」
整理しよう。私は、乙女ゲーム「白薔薇姫」の世界に転生した。前世はゲーム好きな女子高生。この世界の、ノア様の行く末を知っている。ノア様は将来、家族に愛されなかったことから孤独を深めて、闇堕ち系ヤンデレになる。そしてヒロインと出会い、恋に落ちる。
だが。もしヒロインと結ばれなければ、ヒロインを殺し、永遠に自分だけのものにしようとする。それを阻止する他の攻略対象に殺害され、その存在は忘れ去られる。
「…それは駄目」
シンプルに推しだ。推しが尊い。推しの幸せが一番。推しの幸せの為ならこの命すら捨てることを厭わない。はぁ~~好きだ。彼は世界の宝。絶対に不幸にはさせない。
「守りますからね…」
握った手に力を込めて、私も仮睡眠に入った。
「ミカエルと申します。よろしくお願い致します。」
そう言って、怯えたような目でこちらを見る美しい紫の瞳で、私は前世を思い出した。
ここは、乙女ゲーム「白薔薇姫」の世界。現実世界から突如異世界に召喚された主人公:ヒロインが、イケメンの攻略対象達と仲を深め、魔王を倒し、その中の誰かと恋に落ちる。友情エンドも勿論あったが、それをするには全キャラの好感度を一定のラインに保ち、上げないことが条件だったので、滅多に成功する人はいなかった。
そして今目の前にいる、この美しい少年は、攻略対象の中でも熱狂的な人気を誇るノア・アダムス。通称「闇堕ちヤンデレ貴公子」。濡羽色の髪、紫水晶の瞳は蠱惑的なまでに美しいが、このアダムス家、そして世界では歓迎されないものらしかった。
「後は任せたぞ。」
「はい。任務を遂行します。」
ぞんざいに言うと、私を連れて来たノア様の父親は、実の息子に見向きもせず、部屋を出て行った。夜なのに灯りも付いていない真っ暗な部屋は、公爵家にしては余りにも狭すぎる。あちこちに散らばったゴミや、ボロボロのおもちゃ。まるで、中にいる人物を閉じ込める為の箱のようだった。
彼は部屋の隅で縮こまり、薄汚れたウサギの人形を抱きしめていた。明らかに怯えている。
「ノア様」
なるべく優しい声を出したつもりだけれど、びくっと彼の肩が震えた。怖い、逃げたい。そんな感情が、嫌でも伝わって来た。この暗い部屋、見知らぬ若い男(人形だが)と二人きりなんて、この歳の子供には恐怖でしかないだろう。
「私は、ミカエルです。貴方様専用の絡繰人形。」
そう言って、私は彼に目線を合わせるように膝をついた。彼はまだ震えていたが、ゆっくりと目を合わせてくれた。
「私は貴方様の為ならば、何でも致します。決して、貴方様を傷付けることはありません。」
「…なんでも?」
小さな口から、初めて声を聞いた。子供っぽい、あどけない声だ。
「ええ、何でも。まずは、部屋の灯りを付けても?」
「あっ…」
彼が私を止めるように手を伸ばして来た。が、私が魔法で火を灯すほうが早かった。ぼうっと柔らかな、とろけるような炎が蝋燭に宿る。部屋が、蝋燭を中心に少しだけ明るくなった。
「…すごい」
蝋燭の火を、惚けたように見つめる。その反応に、少しの違和感を感じる。
「貴方様は、魔法をご存じですか?」
「…しってる。何もおそわってないけど」
あのクソ親父。教育すらまともに受けさせてないのか。仮にも公爵家の次男だぞ。
「このへや、マッチが無いから、ミカエルもこまると思った」
も、だもんな。これも公爵家の仕業だろう。主に父親。ていうか、
「初めて名前を呼んでくださいましたね」
「っ…だめだった?」
「いいえ、いいえ。もっと呼んでください。私は貴方の人形なのですから。」
私が言うと、彼の体から安心したように力が抜けた。それに、何だか眠たそうに見える。部屋の時計を確認する。深夜十二時。そりゃ眠たいはずだ。健全な五歳児が起きてていい時間じゃない。
「ノア様、とお呼びしてよろしいでしょうか」
「…うん。いいよ」
「ではノア様、そろそろご就寝の時間にございます。」
そっと手を差し伸べると、彼は一瞬躊躇ってから、小さな手を私の冷たい手に乗せた。彼の手を引いて、粗末なベッドまで案内する。魔法で軽くベッドメイクしてから、彼を横たわらせた。
「ノア様、おやすみなさい。どうかいい夢が見られますように。」
「…おやすみなさい」
目を瞑ると、彼はすぐに眠りについた。やっぱり、疲れていたのだろう。自分を虐げている父親と顔を合わせ、知らない人形が自分の部屋を歩いていたのだから。
「あ」
手を、握ったままだ。私の手は人形だから、とても冷たいだろう。ノア様の体を冷やしてはいけない。そっと私が手を離そうとすると、小さな手に、ぎゅっと握り込まれた。
「…失礼します」
私は彼のベッドの脇に座ると、彼の寝顔を眺めた。幼いながらも、その美貌は健在。切れ長の吊り目、今は見えないけれど紫水晶の綺麗な瞳、筋の通った鼻筋、形の良い唇。将来は絶世の美青年だろう。色白で、頼りなげだが、これから成長していくのだから大丈夫だろう。
「…さて、」
整理しよう。私は、乙女ゲーム「白薔薇姫」の世界に転生した。前世はゲーム好きな女子高生。この世界の、ノア様の行く末を知っている。ノア様は将来、家族に愛されなかったことから孤独を深めて、闇堕ち系ヤンデレになる。そしてヒロインと出会い、恋に落ちる。
だが。もしヒロインと結ばれなければ、ヒロインを殺し、永遠に自分だけのものにしようとする。それを阻止する他の攻略対象に殺害され、その存在は忘れ去られる。
「…それは駄目」
シンプルに推しだ。推しが尊い。推しの幸せが一番。推しの幸せの為ならこの命すら捨てることを厭わない。はぁ~~好きだ。彼は世界の宝。絶対に不幸にはさせない。
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