2 / 24
第2章「異世界の朝」
しおりを挟む
集落に近づくにつれて、建吾は違和感を覚え始めていた。
遠目には牧歌的な田園風景に見えたその場所は、近づいてみると荒廃の色が濃かった。畑の作物は伸び放題で、明らかに手入れがされていない。家屋の壁には亀裂が走り、屋根は一部が崩落している。
そして、人の気配がない。
十数軒の家屋が点在する小さな集落だったが、通りには誰もいなかった。煙を上げていたのは、村外れの一軒から細く立ち上る煙だけ。それ以外は、すべてが静まり返っていた。
建吾は慎重に歩を進めた。
靴底が、乾いた土を踏む音だけが響く。風が吹くたびに、壊れかけた扉がきしんだ。
——廃村か。
いや、完全な廃村ではない。煙が上がっているということは、誰かがいる。建吾はその煙の元へと向かった。
村外れの家屋は、他と比べればまだましな状態だった。壁にはひび割れがあるものの、屋根は健在で、窓には布が垂れ下がっている。
扉の前で、建吾は立ち止まった。
ノックするべきか。だが、この世界のマナーがわからない。無礼な行為をして、いきなり敵対されても困る。
迷っている間に、扉が内側から開いた。
現れたのは、老婆だった。深い皺が刻まれた顔、白く濁った瞳、杖にすがるように立つ痩せた体。彼女は建吾を見上げ、ゆっくりと口を開いた。
「……旅人かい」
言葉が、通じた。
日本語ではない。だが、意味が直接頭に入ってくる感覚。建吾は自分の口を動かし、返事をした。
「ああ。道に迷って、ここに辿り着いた」
自分の声が、知らない言語を話していた。それなのに、話している本人には日本語のように聞こえる。奇妙な感覚だったが、建吾は動揺を表には出さなかった。
老婆は、しばらく建吾を見つめていた。警戒と、それ以上の疲弊が、その目に浮かんでいた。
「……入りな。外は危ない」
建吾は頷き、家の中に入った。
内部は薄暗かった。小さな窓から差し込む光が、わずかに室内を照らしている。土間があり、その奥に居間らしき空間。囲炉裏で火が燃え、鍋が煮えていた。
建吾の目は、自然と壁や天井の状態を追っていた。職業病だ。
土壁。おそらく木舞下地に土を塗りつけた構造。天井は梁が剥き出しで、茅葺きか何かが直接載っている。断熱性は低く、気密性もほぼない。冬は寒く、夏は暑いだろう。
壁には、いくつかの亀裂が走っていた。経年劣化と、おそらくは地盤の不同沈下による構造的な歪み。補修された形跡はない。
「座りな」
老婆が囲炉裏の傍を指差した。建吾は言われるまま腰を下ろした。
老婆は鍋から椀に何かをよそい、建吾に差し出した。薄い粥のようなものだった。
「食べな。たいしたものはないけど」
「……ありがとう」
建吾は椀を受け取り、一口すすった。味は薄いが、温かさが体に染みた。
老婆は向かい側に座り、じっと建吾を見ていた。
「どこから来たんだい、旅人」
「遠くからだ。……この村は、何があったんだ」
老婆の目が、わずかに曇った。
「魔物だよ。半年前から、この辺りに出るようになった。畑は荒らされ、家畜は殺され、若い者は逃げ出した。残ったのは、逃げられない年寄りだけさ」
「魔物」
「ああ。領主様は何もしてくれない。兵を送る余裕がないんだとさ。辺境の小さな村なんざ、見捨てられたのさ」
建吾は黙って聞いていた。
魔物。ファンタジー小説でよく出てくる概念だ。この世界では、それが現実として存在する。
そして、領主。封建制度のような社会構造があるということだ。
「この辺りの領主は、誰なんだ」
「グライフェンベルク辺境伯様さ。もっとも、今は御当主が亡くなって、若いお嬢様が継いだばかりだとか。戦(いくさ)続きで、領地は疲弊しきっている」
建吾は頷いた。情報を整理する。
この世界には、魔物と呼ばれる脅威がある。封建制度に近い社会構造。領主は存在するが、末端までは手が回っていない。戦争が頻発しており、社会は不安定。
そして、建築技術は——
建吾は改めて室内を見回した。
低い。技術水準が、低すぎる。
土壁は原始的で、補修の技術すらまともにない。この程度の亀裂なら、日本の左官屋なら半日で直せる。だが、この世界では、それすらできていない。
壁の隅に、何かの道具が立てかけてあった。建吾は目を細めて見た。
曲尺(かねじゃく)のようなもの。直角を測る道具だ。だが、明らかに精度が低い。目盛りも大雑把で、ミリ単位の測定は不可能だろう。
「その道具は」
「ああ、これかい。うちの爺さんが大工だったんだよ。もう二十年も前に死んじまったけどね」
老婆は懐かしそうに道具を見た。建吾は黙って、その曲尺に似た道具を手に取った。
木製。経年で歪んでいる。だが、構造は間違っていない。直角を測るという発想は、この世界にもある。
ただ、精度と技術が追いついていない。
建吾は道具を戻し、老婆に向き直った。
「俺は……建築の仕事をしていた」
「建築?」
「家を建てたり、直したりする仕事だ」
老婆の目が、わずかに輝いた。
「それは……大工仕事かい?」
「似たようなものだ。壁を立てたり、天井を張ったりするのが専門だった」
老婆は少し考え込むように俯き、それから顔を上げた。
「なら、旅人よ。この家の壁を直せるかい。冬が来る前に、何とかしたいんだが……金はないから、飯と寝床くらいしか出せないけど」
建吾は壁の亀裂を見た。
土壁の補修。専門外ではあるが、原理は知っている。亀裂部分を削り、下地を調整し、新しい土を塗り込む。日本の伝統工法だ。
だが、問題は材料と道具だ。この世界の土の性質がわからない。藁すさや石灰の代用品があるかもわからない。
とはいえ——
「できるか試してみる」
建吾は立ち上がった。
これが、この世界での最初の「仕事」になる。まずは、材料と道具の調査からだ。
外に出て、周囲を観察する。集落の家屋は、すべて似たような構造だった。木造の骨組みに、土壁。屋根は茅か藁。基礎は、ほぼないに等しい。直接、土の上に柱を立てている。
地盤が緩ければ、不同沈下を起こすのは当然だ。
建吾は地面にしゃがみ、土を手に取った。
粘土質。水を含むとよく練れそうだ。これに繊維質のもの——藁や草——を混ぜれば、ある程度の強度は出せる。
問題は、乾燥時の収縮だ。土だけでは、乾くと縮んで亀裂が入る。現代日本では、これを防ぐために砂や石灰を混ぜる。
この世界に、石灰に相当するものはあるか。
建吾は立ち上がり、集落を歩いた。廃屋を一軒一軒確認していく。住人はいないが、残された道具や材料が、この世界の技術水準を教えてくれる。
ある家の裏手で、建吾は足を止めた。
白い粉が、袋に入れられて放置されていた。雨に濡れて固まりかけているが、まだ使えそうだ。建吾は手に取り、匂いを嗅ぎ、舌先で少量を舐めた。
石灰だ。消石 ite——いや、生石灰に近いか。殻を焼いて作ったものかもしれない。
これが使える。
建吾は袋を持ち上げ、老婆の家に戻った。
「これ、使わせてもらっていいか」
「ああ……それは昔、漆喰を塗ろうとして買ったんだが、爺さんが死んでそのままさ。使えるなら持っていきな」
建吾は頷き、作業の準備を始めた。
水を汲み、粘土質の土を掘り起こし、藁を集める。石灰を少量ずつ混ぜ、練り具合を確認する。
異世界だろうと、物理法則は変わらない。土と水と繊維の配合比率、乾燥収縮率、接着強度——数十年の経験が教えてくれたノウハウを、一つずつ検証していく。
日が傾き始めた頃、建吾はようやく満足のいく配合を見つけた。
壁の亀裂部分を削り、下地を調整し、練り上げた土を塗り込む。コテは、廃屋で見つけた錆びた金属板を加工して作った。
作業は深夜まで続いた。
老婆は最初、興味深そうに見ていたが、やがて眠りについた。建吾は一人、囲炉裏の火を頼りに、壁と向き合い続けた。
これが、俺の仕事だ。
異世界だろうと関係ない。
壁の亀裂を塞ぐ。空間を守る。人が安心して眠れる場所を、作る。
それだけだ。
夜明け前、建吾は作業を終えた。補修した壁は、乾けば元よりも強固になるはずだ。少なくとも、この冬は持つだろう。
建吾は汚れた手を見下ろした。
パテを塗る感触。ボードのジョイントを均す作業。何千回、何万回と繰り返してきた動作だ。それが、異世界でも同じように機能した。
不思議な達成感があった。
老婆が目を覚ましたのは、朝日が窓から差し込んだ時だった。彼女は壁を見て、目を丸くした。
「これは……」
「乾くまで触らないでくれ。三日もすれば、しっかり固まる」
「旅人……あんた、本当に大工かい。こんな仕事、見たことがないよ」
建吾は肩をすくめた。
「俺は大工じゃない。内装工だ」
「ないそう……?」
「壁や天井、床を仕上げる専門職だ。家を建てるのは別の人間がやる。俺は、その後の仕事を担当する」
老婆は首をかしげたが、建吾の言葉の意味を完全には理解していないようだった。この世界には、内装という概念自体がないのかもしれない。
だが、それでいい。
今はまだ、この世界を知る段階だ。
「なあ、婆さん。この辺りで、建物を建てている場所はあるか。大きな工事をしている場所とか」
「建物……ああ、そういえば、領都では城の修繕をするとか言ってたね。もっとも、金がなくて進んでいないらしいけど」
「領都は、ここからどのくらいだ」
「馬で半日ってとこかね。歩きなら、二日はかかるよ」
建吾は頷いた。
城の修繕。大規模な建築工事。そこに行けば、この世界の建築技術について、もっと詳しく知ることができるだろう。
そして、もし俺の技術が役に立つなら——
建吾は窓の外を見た。二つの太陽が、地平線から昇り始めていた。
新しい朝だ。
新しい現場が、待っている。
遠目には牧歌的な田園風景に見えたその場所は、近づいてみると荒廃の色が濃かった。畑の作物は伸び放題で、明らかに手入れがされていない。家屋の壁には亀裂が走り、屋根は一部が崩落している。
そして、人の気配がない。
十数軒の家屋が点在する小さな集落だったが、通りには誰もいなかった。煙を上げていたのは、村外れの一軒から細く立ち上る煙だけ。それ以外は、すべてが静まり返っていた。
建吾は慎重に歩を進めた。
靴底が、乾いた土を踏む音だけが響く。風が吹くたびに、壊れかけた扉がきしんだ。
——廃村か。
いや、完全な廃村ではない。煙が上がっているということは、誰かがいる。建吾はその煙の元へと向かった。
村外れの家屋は、他と比べればまだましな状態だった。壁にはひび割れがあるものの、屋根は健在で、窓には布が垂れ下がっている。
扉の前で、建吾は立ち止まった。
ノックするべきか。だが、この世界のマナーがわからない。無礼な行為をして、いきなり敵対されても困る。
迷っている間に、扉が内側から開いた。
現れたのは、老婆だった。深い皺が刻まれた顔、白く濁った瞳、杖にすがるように立つ痩せた体。彼女は建吾を見上げ、ゆっくりと口を開いた。
「……旅人かい」
言葉が、通じた。
日本語ではない。だが、意味が直接頭に入ってくる感覚。建吾は自分の口を動かし、返事をした。
「ああ。道に迷って、ここに辿り着いた」
自分の声が、知らない言語を話していた。それなのに、話している本人には日本語のように聞こえる。奇妙な感覚だったが、建吾は動揺を表には出さなかった。
老婆は、しばらく建吾を見つめていた。警戒と、それ以上の疲弊が、その目に浮かんでいた。
「……入りな。外は危ない」
建吾は頷き、家の中に入った。
内部は薄暗かった。小さな窓から差し込む光が、わずかに室内を照らしている。土間があり、その奥に居間らしき空間。囲炉裏で火が燃え、鍋が煮えていた。
建吾の目は、自然と壁や天井の状態を追っていた。職業病だ。
土壁。おそらく木舞下地に土を塗りつけた構造。天井は梁が剥き出しで、茅葺きか何かが直接載っている。断熱性は低く、気密性もほぼない。冬は寒く、夏は暑いだろう。
壁には、いくつかの亀裂が走っていた。経年劣化と、おそらくは地盤の不同沈下による構造的な歪み。補修された形跡はない。
「座りな」
老婆が囲炉裏の傍を指差した。建吾は言われるまま腰を下ろした。
老婆は鍋から椀に何かをよそい、建吾に差し出した。薄い粥のようなものだった。
「食べな。たいしたものはないけど」
「……ありがとう」
建吾は椀を受け取り、一口すすった。味は薄いが、温かさが体に染みた。
老婆は向かい側に座り、じっと建吾を見ていた。
「どこから来たんだい、旅人」
「遠くからだ。……この村は、何があったんだ」
老婆の目が、わずかに曇った。
「魔物だよ。半年前から、この辺りに出るようになった。畑は荒らされ、家畜は殺され、若い者は逃げ出した。残ったのは、逃げられない年寄りだけさ」
「魔物」
「ああ。領主様は何もしてくれない。兵を送る余裕がないんだとさ。辺境の小さな村なんざ、見捨てられたのさ」
建吾は黙って聞いていた。
魔物。ファンタジー小説でよく出てくる概念だ。この世界では、それが現実として存在する。
そして、領主。封建制度のような社会構造があるということだ。
「この辺りの領主は、誰なんだ」
「グライフェンベルク辺境伯様さ。もっとも、今は御当主が亡くなって、若いお嬢様が継いだばかりだとか。戦(いくさ)続きで、領地は疲弊しきっている」
建吾は頷いた。情報を整理する。
この世界には、魔物と呼ばれる脅威がある。封建制度に近い社会構造。領主は存在するが、末端までは手が回っていない。戦争が頻発しており、社会は不安定。
そして、建築技術は——
建吾は改めて室内を見回した。
低い。技術水準が、低すぎる。
土壁は原始的で、補修の技術すらまともにない。この程度の亀裂なら、日本の左官屋なら半日で直せる。だが、この世界では、それすらできていない。
壁の隅に、何かの道具が立てかけてあった。建吾は目を細めて見た。
曲尺(かねじゃく)のようなもの。直角を測る道具だ。だが、明らかに精度が低い。目盛りも大雑把で、ミリ単位の測定は不可能だろう。
「その道具は」
「ああ、これかい。うちの爺さんが大工だったんだよ。もう二十年も前に死んじまったけどね」
老婆は懐かしそうに道具を見た。建吾は黙って、その曲尺に似た道具を手に取った。
木製。経年で歪んでいる。だが、構造は間違っていない。直角を測るという発想は、この世界にもある。
ただ、精度と技術が追いついていない。
建吾は道具を戻し、老婆に向き直った。
「俺は……建築の仕事をしていた」
「建築?」
「家を建てたり、直したりする仕事だ」
老婆の目が、わずかに輝いた。
「それは……大工仕事かい?」
「似たようなものだ。壁を立てたり、天井を張ったりするのが専門だった」
老婆は少し考え込むように俯き、それから顔を上げた。
「なら、旅人よ。この家の壁を直せるかい。冬が来る前に、何とかしたいんだが……金はないから、飯と寝床くらいしか出せないけど」
建吾は壁の亀裂を見た。
土壁の補修。専門外ではあるが、原理は知っている。亀裂部分を削り、下地を調整し、新しい土を塗り込む。日本の伝統工法だ。
だが、問題は材料と道具だ。この世界の土の性質がわからない。藁すさや石灰の代用品があるかもわからない。
とはいえ——
「できるか試してみる」
建吾は立ち上がった。
これが、この世界での最初の「仕事」になる。まずは、材料と道具の調査からだ。
外に出て、周囲を観察する。集落の家屋は、すべて似たような構造だった。木造の骨組みに、土壁。屋根は茅か藁。基礎は、ほぼないに等しい。直接、土の上に柱を立てている。
地盤が緩ければ、不同沈下を起こすのは当然だ。
建吾は地面にしゃがみ、土を手に取った。
粘土質。水を含むとよく練れそうだ。これに繊維質のもの——藁や草——を混ぜれば、ある程度の強度は出せる。
問題は、乾燥時の収縮だ。土だけでは、乾くと縮んで亀裂が入る。現代日本では、これを防ぐために砂や石灰を混ぜる。
この世界に、石灰に相当するものはあるか。
建吾は立ち上がり、集落を歩いた。廃屋を一軒一軒確認していく。住人はいないが、残された道具や材料が、この世界の技術水準を教えてくれる。
ある家の裏手で、建吾は足を止めた。
白い粉が、袋に入れられて放置されていた。雨に濡れて固まりかけているが、まだ使えそうだ。建吾は手に取り、匂いを嗅ぎ、舌先で少量を舐めた。
石灰だ。消石 ite——いや、生石灰に近いか。殻を焼いて作ったものかもしれない。
これが使える。
建吾は袋を持ち上げ、老婆の家に戻った。
「これ、使わせてもらっていいか」
「ああ……それは昔、漆喰を塗ろうとして買ったんだが、爺さんが死んでそのままさ。使えるなら持っていきな」
建吾は頷き、作業の準備を始めた。
水を汲み、粘土質の土を掘り起こし、藁を集める。石灰を少量ずつ混ぜ、練り具合を確認する。
異世界だろうと、物理法則は変わらない。土と水と繊維の配合比率、乾燥収縮率、接着強度——数十年の経験が教えてくれたノウハウを、一つずつ検証していく。
日が傾き始めた頃、建吾はようやく満足のいく配合を見つけた。
壁の亀裂部分を削り、下地を調整し、練り上げた土を塗り込む。コテは、廃屋で見つけた錆びた金属板を加工して作った。
作業は深夜まで続いた。
老婆は最初、興味深そうに見ていたが、やがて眠りについた。建吾は一人、囲炉裏の火を頼りに、壁と向き合い続けた。
これが、俺の仕事だ。
異世界だろうと関係ない。
壁の亀裂を塞ぐ。空間を守る。人が安心して眠れる場所を、作る。
それだけだ。
夜明け前、建吾は作業を終えた。補修した壁は、乾けば元よりも強固になるはずだ。少なくとも、この冬は持つだろう。
建吾は汚れた手を見下ろした。
パテを塗る感触。ボードのジョイントを均す作業。何千回、何万回と繰り返してきた動作だ。それが、異世界でも同じように機能した。
不思議な達成感があった。
老婆が目を覚ましたのは、朝日が窓から差し込んだ時だった。彼女は壁を見て、目を丸くした。
「これは……」
「乾くまで触らないでくれ。三日もすれば、しっかり固まる」
「旅人……あんた、本当に大工かい。こんな仕事、見たことがないよ」
建吾は肩をすくめた。
「俺は大工じゃない。内装工だ」
「ないそう……?」
「壁や天井、床を仕上げる専門職だ。家を建てるのは別の人間がやる。俺は、その後の仕事を担当する」
老婆は首をかしげたが、建吾の言葉の意味を完全には理解していないようだった。この世界には、内装という概念自体がないのかもしれない。
だが、それでいい。
今はまだ、この世界を知る段階だ。
「なあ、婆さん。この辺りで、建物を建てている場所はあるか。大きな工事をしている場所とか」
「建物……ああ、そういえば、領都では城の修繕をするとか言ってたね。もっとも、金がなくて進んでいないらしいけど」
「領都は、ここからどのくらいだ」
「馬で半日ってとこかね。歩きなら、二日はかかるよ」
建吾は頷いた。
城の修繕。大規模な建築工事。そこに行けば、この世界の建築技術について、もっと詳しく知ることができるだろう。
そして、もし俺の技術が役に立つなら——
建吾は窓の外を見た。二つの太陽が、地平線から昇り始めていた。
新しい朝だ。
新しい現場が、待っている。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
空手馬鹿の俺が転生したら規格外の治癒士になっていた 〜筋力Eのひ弱少年治癒士が高みを目指す!?〜
くまみ
ファンタジー
前世は空手部主将の「ゴリラ」男。転生先は……筋力Eのひ弱な少年治癒士!?
「資質がなんだ!俺の拳は魔法を超える!……と、思うけど……汗」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺は五里羅門(ごり・らもん) 35歳独身男だ。硬派すぎて女が寄り付かず。強すぎる空手愛と鍛え抜かれた肉体のせいで不本意ながら通称「ゴリラ」と呼ばれていた。
仕事帰りにダンプに跳ねられた俺が目覚めると、そこは異世界だった。だが転生した姿は前世とは真逆。
病弱で華奢。戦闘力最低と言われる職業の「治癒士」(ヒーラー)適正の10歳の少年・ノエル。
「俺は戦闘狂だぞ!このひ弱な体じゃ、戦えねぇ!
「華奢でひ弱な体では、空手技を繰り出すのは夢のまた夢……」
魔力と資質が全てのこの世界。努力では超えられない「資質の壁」が立ちふさがる。
だが、空手馬鹿の俺の魂は諦めることを知らなかった。
「魔法が使えなきゃ、技で制す!治癒士が最強になっちゃいけないなんて誰が決めた?」
これは魔法の常識を「空手の技」で叩き壊す、一人の少年の異世界武勇伝。
伝説の騎士、美少女魔術師、そして謎の切り株(?)を巻き込み、ノエルの規格外の挑戦が今始まる!
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる