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第十四章 機械と魔法
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南西の砂漠から、卒業生チームの報告が届いた。
「四番目の大基準点、復活成功」
遠隔座標転送装置を通じて届いた声は、疲労と達成感に満ちていた。
「よくやった」
測は安堵の息を漏らした。
四つの大基準点が復活した。残りは一つ——海底に沈んだ、五番目の大陸。
「ハカル」
リーネが傍に来た。機械帝国での外交任務を終え、座標院に戻ってきていた。
「四つ揃ったわね」
「ああ。これで——」
測はスキルを起動した。
四つの大基準点が同期したことで、スキルの精度は飛躍的に向上していた。今や、大陸を越えた座標も認識できる。そして——
「見えた」
「何が?」
「五番目の大基準点の位置。海の底——この大陸から南西に約三千キロメートル。深度約千メートル」
「千メートル……」
リーネは絶句した。
海面下千メートル。人間が潜れる深さではない。魔法を使っても、そこまで到達するのは困難だ。
「どうやって行くの?」
「機械帝国の技術を使う」
測は言った。
「グスタフ殿と連絡を取った。帝国には、深海探査用の潜水艇を製作する技術がある。協力を約束してくれた」
「帝国政府との関係は?」
「宰相のシュテルンは失脚した。大基準点復活の後、帝国内部で権力闘争が起きて——結局、協力的な派閥が勝った」
リーネは安堵した表情を浮かべた。
「それは——良かったわ」
「ああ。だが、問題はまだある」
「歪曲公?」
「そうだ。四つの大基準点が復活したことで、歪曲公の力は大幅に弱まっている。だが、完全に消滅したわけではない。最後の一つを復活させるまで——奴は妨害を続けるだろう」
測は窓の外を見た。
座標院の中庭では、卒業生たちが訓練を行っている。彼らは、測が育てた測量師たちだ。この世界に座標を刻む者たち。
「最終決戦になる」
測は呟いた。
「五番目の大基準点——世界の原点。そこで、歪曲公との決着をつける」
────
潜水艇の製作には、三ヶ月を要した。
機械帝国の技術者ギルドと、座標院の卒業生たちが協力し、前例のない深海探査艇を設計・建造した。
「完成したぞ」
グスタフが満足げに言った。
港に浮かぶ潜水艇は、鋼鉄の巨体を海面に横たえていた。全長三十メートル、幅十メートル。円筒形の船体に、複数の観測窓と操縦翼が取り付けられている。
「『デプスシーカー号』と名付けた。深さを探す者、という意味だ」
「ありがとう、グスタフ殿」
測は深々と頭を下げた。
「礼を言うのは、すべてが終わってからだ。成功を祈っている」
乗組員は八人。
測、リーネ、ボルガ、ミーシャ、クロード——そして、帝国から派遣された三人の技術者。
「最後の旅だな」
ボルガが言った。
彼は北東の大陸から戻ってきていた。凍傷の跡が手に残っているが、戦意は衰えていない。
「最後の——そして、最も困難な旅だ」
測は頷いた。
「海底千メートル。未知の世界だ。何が起きるかわからない」
「だが、行くしかないんだろう」
「ああ」
「なら、行こう。俺は——最後までお前に付き合うと決めた」
ボルガは拳を突き出した。測もそれに応えて、拳を合わせた。
「ありがとう、ボルガ」
「礼は——全てが終わってからだ」
────
潜水艇が港を出発したのは、夜明け前のことだった。
見送りに来た人々——卒業生たち、辺境伯、アクアダクト王国の使者、機械帝国の代表——に手を振りながら、測たちは船室へ戻った。
「目的地まで、約七日間の航海だ」
帝国の技術者——航海士を務めるエルンストが説明した。
「海上を五日、潜水して二日。予定通りに進めば、一週間後には目的地に到着する」
「了解した。各自、持ち場につけ」
測は指示を出した。
潜水艇の内部は、狭いが機能的だった。操縦室、居住区、機関室、そして観測室。限られた空間に、必要なすべてが詰め込まれている。
「ハカル」
リーネが声をかけてきた。
「何だ」
「少し、話したいことがあるの」
二人は観測室へ移動した。丸い窓から、海の青が見えている。まだ水面近くだが、深くなるにつれて、光は届かなくなるだろう。
「何の話だ」
「この旅が終わったら——」
リーネは言葉を切った。少し照れたように、視線を逸らす。
「どうした」
「その……私、あなたに言いたいことがあるの。でも、今は——」
「今は?」
「今は、戦いに集中すべきだと思う。だから——全てが終わったら、聞いてくれる?」
測は少し考え、そして頷いた。
「わかった。全てが終わったら、聞かせてくれ」
リーネは微笑んだ。その微笑みには、何か特別な感情が込められているようだった。
「約束よ」
「ああ、約束だ」
二人は窓の外を見つめた。海は青く、深く、未知の世界への入り口を開けている。
────
五日目の朝、潜水艇は潜航を開始した。
「潜航深度一〇〇メートル」
エルンストが報告する。
「船体に異常なし。気圧正常」
観測窓の外は、青から濃紺へと変わっていく。光が薄れ、闘が深まる。
「潜航深度三〇〇メートル」
「五〇〇メートル」
「七〇〇メートル」
深度が増すにつれて、船体が軋む音が聞こえ始めた。水圧が増している証拠だ。
「大丈夫なのか」
ボルガが不安げに訊ねた。
「設計上は、一千五百メートルまで耐えられる。心配はない」
エルンストは冷静に答えた。だが、その声にも、わずかな緊張が混じっている。
「潜航深度一〇〇〇メートル」
目的の深度に達した。
観測窓の外は、完全な闘だった。船外灯の光が、わずかに周囲を照らしている。その向こうに——
「見える」
測が呟いた。
「何が?」
「古代の都市だ」
スキルを起動する。座標格子が視界に浮かぶ。そして、その格子の向こうに——
巨大な構造物が浮かび上がった。
石造りの建物群。崩れかけた塔。広場のような空間。そして、その中央に——
「あれが、世界の原点だ」
黒い石柱が、海底に聳え立っていた。
他の大基準点と同じ形式。だが、規模が違う。高さは五十メートル以上。そして、その石柱から放たれる座標の波動は——世界全体を覆っている。
「『始原の石』」
ミーシャが囁いた。
「千年前の記憶に——ある。あれが、世界の座標系の原点。すべての基準点の、基準となる場所」
「接近する」
エルンストが操縦桿を握った。
潜水艇は、ゆっくりと古代都市に近づいていく。
そして——
「敵だ」
ボルガが叫んだ。
闇の中から、人影が現れた。黒衣を纏った人物——いや、人物ではない。水中にいるにもかかわらず、普通に立って歩いている。
「歪曲公……」
測は息を呑んだ。
歪曲公の姿が、潜水艇の前に立ちはだかった。
彼の周囲で、座標が渦巻いている。歪曲の力が、空間そのものを捻じ曲げている。
「ようこそ、測量師」
歪曲公の声が、船内に響いた。どうやって伝わっているのかわからない。だが、声は確かに聞こえている。
「ここで、すべてを終わりにしよう」
「四番目の大基準点、復活成功」
遠隔座標転送装置を通じて届いた声は、疲労と達成感に満ちていた。
「よくやった」
測は安堵の息を漏らした。
四つの大基準点が復活した。残りは一つ——海底に沈んだ、五番目の大陸。
「ハカル」
リーネが傍に来た。機械帝国での外交任務を終え、座標院に戻ってきていた。
「四つ揃ったわね」
「ああ。これで——」
測はスキルを起動した。
四つの大基準点が同期したことで、スキルの精度は飛躍的に向上していた。今や、大陸を越えた座標も認識できる。そして——
「見えた」
「何が?」
「五番目の大基準点の位置。海の底——この大陸から南西に約三千キロメートル。深度約千メートル」
「千メートル……」
リーネは絶句した。
海面下千メートル。人間が潜れる深さではない。魔法を使っても、そこまで到達するのは困難だ。
「どうやって行くの?」
「機械帝国の技術を使う」
測は言った。
「グスタフ殿と連絡を取った。帝国には、深海探査用の潜水艇を製作する技術がある。協力を約束してくれた」
「帝国政府との関係は?」
「宰相のシュテルンは失脚した。大基準点復活の後、帝国内部で権力闘争が起きて——結局、協力的な派閥が勝った」
リーネは安堵した表情を浮かべた。
「それは——良かったわ」
「ああ。だが、問題はまだある」
「歪曲公?」
「そうだ。四つの大基準点が復活したことで、歪曲公の力は大幅に弱まっている。だが、完全に消滅したわけではない。最後の一つを復活させるまで——奴は妨害を続けるだろう」
測は窓の外を見た。
座標院の中庭では、卒業生たちが訓練を行っている。彼らは、測が育てた測量師たちだ。この世界に座標を刻む者たち。
「最終決戦になる」
測は呟いた。
「五番目の大基準点——世界の原点。そこで、歪曲公との決着をつける」
────
潜水艇の製作には、三ヶ月を要した。
機械帝国の技術者ギルドと、座標院の卒業生たちが協力し、前例のない深海探査艇を設計・建造した。
「完成したぞ」
グスタフが満足げに言った。
港に浮かぶ潜水艇は、鋼鉄の巨体を海面に横たえていた。全長三十メートル、幅十メートル。円筒形の船体に、複数の観測窓と操縦翼が取り付けられている。
「『デプスシーカー号』と名付けた。深さを探す者、という意味だ」
「ありがとう、グスタフ殿」
測は深々と頭を下げた。
「礼を言うのは、すべてが終わってからだ。成功を祈っている」
乗組員は八人。
測、リーネ、ボルガ、ミーシャ、クロード——そして、帝国から派遣された三人の技術者。
「最後の旅だな」
ボルガが言った。
彼は北東の大陸から戻ってきていた。凍傷の跡が手に残っているが、戦意は衰えていない。
「最後の——そして、最も困難な旅だ」
測は頷いた。
「海底千メートル。未知の世界だ。何が起きるかわからない」
「だが、行くしかないんだろう」
「ああ」
「なら、行こう。俺は——最後までお前に付き合うと決めた」
ボルガは拳を突き出した。測もそれに応えて、拳を合わせた。
「ありがとう、ボルガ」
「礼は——全てが終わってからだ」
────
潜水艇が港を出発したのは、夜明け前のことだった。
見送りに来た人々——卒業生たち、辺境伯、アクアダクト王国の使者、機械帝国の代表——に手を振りながら、測たちは船室へ戻った。
「目的地まで、約七日間の航海だ」
帝国の技術者——航海士を務めるエルンストが説明した。
「海上を五日、潜水して二日。予定通りに進めば、一週間後には目的地に到着する」
「了解した。各自、持ち場につけ」
測は指示を出した。
潜水艇の内部は、狭いが機能的だった。操縦室、居住区、機関室、そして観測室。限られた空間に、必要なすべてが詰め込まれている。
「ハカル」
リーネが声をかけてきた。
「何だ」
「少し、話したいことがあるの」
二人は観測室へ移動した。丸い窓から、海の青が見えている。まだ水面近くだが、深くなるにつれて、光は届かなくなるだろう。
「何の話だ」
「この旅が終わったら——」
リーネは言葉を切った。少し照れたように、視線を逸らす。
「どうした」
「その……私、あなたに言いたいことがあるの。でも、今は——」
「今は?」
「今は、戦いに集中すべきだと思う。だから——全てが終わったら、聞いてくれる?」
測は少し考え、そして頷いた。
「わかった。全てが終わったら、聞かせてくれ」
リーネは微笑んだ。その微笑みには、何か特別な感情が込められているようだった。
「約束よ」
「ああ、約束だ」
二人は窓の外を見つめた。海は青く、深く、未知の世界への入り口を開けている。
────
五日目の朝、潜水艇は潜航を開始した。
「潜航深度一〇〇メートル」
エルンストが報告する。
「船体に異常なし。気圧正常」
観測窓の外は、青から濃紺へと変わっていく。光が薄れ、闘が深まる。
「潜航深度三〇〇メートル」
「五〇〇メートル」
「七〇〇メートル」
深度が増すにつれて、船体が軋む音が聞こえ始めた。水圧が増している証拠だ。
「大丈夫なのか」
ボルガが不安げに訊ねた。
「設計上は、一千五百メートルまで耐えられる。心配はない」
エルンストは冷静に答えた。だが、その声にも、わずかな緊張が混じっている。
「潜航深度一〇〇〇メートル」
目的の深度に達した。
観測窓の外は、完全な闘だった。船外灯の光が、わずかに周囲を照らしている。その向こうに——
「見える」
測が呟いた。
「何が?」
「古代の都市だ」
スキルを起動する。座標格子が視界に浮かぶ。そして、その格子の向こうに——
巨大な構造物が浮かび上がった。
石造りの建物群。崩れかけた塔。広場のような空間。そして、その中央に——
「あれが、世界の原点だ」
黒い石柱が、海底に聳え立っていた。
他の大基準点と同じ形式。だが、規模が違う。高さは五十メートル以上。そして、その石柱から放たれる座標の波動は——世界全体を覆っている。
「『始原の石』」
ミーシャが囁いた。
「千年前の記憶に——ある。あれが、世界の座標系の原点。すべての基準点の、基準となる場所」
「接近する」
エルンストが操縦桿を握った。
潜水艇は、ゆっくりと古代都市に近づいていく。
そして——
「敵だ」
ボルガが叫んだ。
闇の中から、人影が現れた。黒衣を纏った人物——いや、人物ではない。水中にいるにもかかわらず、普通に立って歩いている。
「歪曲公……」
測は息を呑んだ。
歪曲公の姿が、潜水艇の前に立ちはだかった。
彼の周囲で、座標が渦巻いている。歪曲の力が、空間そのものを捻じ曲げている。
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