測量士×異世界転生_異世界で丁張りを立てたら、世界を救う設計図になりました  〜測量士は今日も座標を刻む〜

もしもノベリスト

文字の大きさ
15 / 22

第十五章 地下の決戦

しおりを挟む
歪曲公の力は、予想以上だった。

「船体が——」

エルンストが叫んだ。

潜水艇の周囲で、空間が歪み始めている。座標が狂い、方向感覚が失われる。上下左右が曖昧になり、どちらに進んでいるのかわからなくなる。

「歪曲の術だ」

測は集中した。

スキルを全力で起動する。歪みを検知し、本当の座標を見極める。

「エルンスト、右舵一〇度、下に傾斜五度」

「了解」

測の指示に従い、潜水艇は進路を修正した。歪曲公の術を避けながら、石柱に近づいていく。

「させない」

歪曲公が手をかざした。

空間がさらに激しく歪む。潜水艇が振り回され、乗組員たちが壁に叩きつけられる。

「くそ——」

ボルガが唸った。

「こんなところで、戦えない。船を降りる」

「無理だ。水深千メートルでは——」

「俺に任せろ」

ミーシャが前に出た。

彼女の体から、淡い光が放たれる。古代の魔法——エルフが伝承してきた、太古の力。

「『水の加護』。この術があれば、深海でも生きられる」

「ミーシャ……」

「私と、ボルガと、クロード。三人で外に出て、歪曲公を引きつける。ハカル、あなたは——石柱に向かって」

「わかった」

測は頷いた。

「リーネ、俺と一緒に来い。エルンストたちは、潜水艇を守ってくれ」

「了解」

三人が船外に出た。

ミーシャの魔法で、水中でも呼吸ができる。動きは遅いが、戦えないわけではない。

「歪曲公」

ボルガが剣を抜いた。

「お前の相手は俺だ」

「傭兵風情が——」

歪曲公が手をかざす。歪みの波動がボルガに向かって放たれる。

だが、ボルガはそれを——避けた。

「何——」

「座標は、ハカルが教えてくれた」

ボルガは笑った。

「歪みがどこにあるか、わかっている。避けるのは、簡単だ」

「小賢しい——」

歪曲公がさらに攻撃を仕掛ける。だが、ミーシャとクロードが援護に入り、歪曲公の注意を引きつけた。

その隙に、測とリーネは石柱へ向かった。

────

石柱の根元に到達した。

「これが——世界の原点」

測は石柱を見上げた。

黒い石の表面に、無数の文字が刻まれている。座標値、計算式、そして——何かの図形。

「これは——」

リーネが図形を見つめた。

「世界地図だわ。千年前の——正確な世界地図」

五大陸の配置が、石柱に刻まれていた。そして、各大陸に一つずつ、点が打たれている。大基準点の位置だ。

「五番目の大陸が——ある」

石柱に刻まれた地図には、今は海に沈んだ五番目の大陸が、まだ存在していた。そこには、都市の名前らしき文字が書かれている。

「『アトラテ』」

リーネが読み上げた。

「千年前、ここには——『アトラテ』という都市があった。古代測位文明の中心地」

「そして、歪曲公が最初に破壊した場所だ」

測は石柱に手を触れた。

「座標を——入力する」

スキルを起動する。四つの大基準点から得たデータを元に、世界の原点の正確な座標を計算する。

《X 0.000、Y 0.000、Z -1024.567》

これが——世界の原点だ。すべての座標の、基準となる点。

測は、その座標を石柱に向かって投射した。

だが——

「させない」

歪曲公が現れた。

ボルガたちの防衛を突破し、石柱の前に立ちはだかる。

「千年前——私はここで、座標系を破壊した。再び——破壊する」

歪曲公の体から、巨大な歪みの波動が放たれた。

石柱を中心に、空間が激しく揺れる。座標が狂い、測の投射が遮断される。

「くっ——」

測は踏ん張った。

だが、歪曲公の力は強大だ。測一人では、太刀打ちできない。

「ハカル!」

リーネが叫んだ。

彼女は——石柱の反対側に回り込んでいた。

「私も——やれるわ」

「何?」

「私の家——カルトグラフ家は、古代測位師の末裔よ。血の中に——座標を感じる力がある」

リーネは石柱に両手を触れた。彼女の体が、淡く光り始める。

「一人じゃ無理でも——二人なら」

測は理解した。

「一緒にやるぞ、リーネ」

「ええ」

二人は同時に、石柱に向かって座標を投射した。

測の「絶対座標認識」と、リーネの血に眠る古代の力。二つの座標感覚が、石柱に流れ込む。

歪曲公が叫んだ。

「やめろ——」

だが、もう遅かった。

石柱が光り始めた。白い光が、石柱から放射状に広がっていく。海底全体を——いや、世界全体を照らしていく。

五つの大基準点が、完全に同期した。

世界の座標系が——正常化していく。

「これで——」

測は呟いた。

だが、その瞬間——

激しい痛みが、体を貫いた。

「がっ——」

測は膝をついた。視界が霞む。体から何かが——抜けていく感覚。

「ハカル!」

リーネの声が、遠くに聞こえる。

「絶対座標認識」のスキルが——消えていく。石柱に吸収されていくように、測の能力が失われていく。

原点を復活させるための——代償。

「そうか——こういうことか……」

測は理解した。

世界の原点を復活させるには、座標を感じる力を捧げる必要がある。測のスキルは、原点の一部となって、世界を支える力になる。

「……それでいい」

測は微笑んだ。

能力を失っても——知識は残る。経験は残る。測量士としての誇りは、消えない。

「これで——この世界は、正しく測れるようになった」

歪曲公が悲鳴を上げた。

彼の体から、歪みの力が消失していく。千年間維持してきた力が、原点の復活によって無効化されていく。

「なぜ——」

歪曲公は崩れ落ちた。

「なぜ——お前は、能力を捨ててまで——」

「能力がなくても、測量はできる」

測は答えた。

「道具と知識があれば、誰でも座標を刻める。俺の役目は——それを伝えることだ」

歪曲公は黙っていた。

やがて、彼の体が——薄れ始めた。

「私は——間違っていたのか」

「間違っていたとは言わない。だが——方法が違った」

測は歪曲公を見つめた。

「座標を消しても、争いは消えない。大切なのは——正確な情報を共有し、互いを理解することだ」

歪曲公は微笑んだ。それは——千年ぶりの、穏やかな微笑みだった。

「そうか——そうだな。私は——疲れた」

歪曲公の体が、完全に消えた。

千年の戦いが——終わった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...