異世界転生×金属製品製造業 転生したら金属加工のチート職人だった件 ~異世界を"ものづくり"で救います~

もしもノベリスト

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第3章 鍛冶師ギルドへの入門

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ギルドへの登録から三日が過ぎた。

 鋼太郎は、ギルドが所有する共同工房の片隅で、朝から作業を続けていた。

 作っているのは、測定器具だ。

 この世界には、寸法を測る道具がほとんど存在しない。

 物差しに相当するものはあるが、目盛りが粗く、精度は期待できない。職人たちは、自分の指の幅や腕の長さを基準に、「だいたいこのくらい」で物を作っている。

 だから、同じ「一尺」のはずの剣でも、職人によって長さが違う。同じ工房で作った製品でさえ、寸法にばらつきがある。

 これでは、量産などできるはずがない。

 鋼太郎は、前世で使っていた測定器具を思い出しながら、設計図を描いていた。

 まず必要なのは、ノギスだ。

 ノギスは、外径・内径・深さを測定できる万能な測定器具だ。本尺と副尺(バーニア)の組み合わせで、目盛りよりも細かい寸法を読み取ることができる。

 原理自体は単純だ。本尺の目盛りと、わずかにピッチが異なる副尺の目盛りを並べ、両者が一致する点を読み取る。

 前世の高精度なノギスは、0.02ミリ単位で測定できた。この世界の技術で、どこまで再現できるか。

「何を作ってるんだ」

 声をかけられて、鋼太郎は顔を上げた。

 ガルドだった。

 巨漢のギルドマスターは、鋼太郎の手元を興味深そうに覗き込んでいる。

「測定器具だ」

「測定器具?」

「物の大きさを、正確に測るための道具だ」

 ガルドは、鋼太郎が作りかけている真鍮製の部品を手に取った。

「これで何を測る」

「何でも。剣の長さ、刃の厚み、柄の直径。あらゆる寸法を、この道具一つで測れる」

「ふむ」

 ガルドは部品を様々な角度から観察した。

「細かい溝が刻んであるな。これは何だ」

「目盛りだ。この目盛りを読むことで、寸法が分かる」

「物差しと何が違う」

「精度が違う。この道具を使えば、髪の毛一本分よりも細かい違いを測り分けられる」

 ガルドの眉が上がった。

「髪の毛一本分だと?」

「ああ。正確には、この世界の単位で言うと——」

 鋼太郎は一瞬考えた。

 この世界の長さの単位は「リール」という。1リールは、地球の約2.5センチメートルに相当する。つまり、1センチは0.4リールだ。

 ノギスで0.02ミリを測定できるとすれば、それは0.0008リールに相当する。

 この世界の職人には、想像もつかない精度だろう。

「——1リールの千分の一以下を測り分けられる」

 ガルドは、その言葉の意味を理解するのに数秒かかった。

「……馬鹿な」

「馬鹿ではない。事実だ」

「そんな細かい違いに、何の意味がある」

 鋼太郎は、作業台の上に置いてあった二本の短剣を手に取った。

 どちらも、ギルドの職人が作ったものだ。「同じ設計」で、「同じ材料」を使い、「同じ製法」で作られている——はずだった。

「この二本、同じ短剣だと思うか」

 ガルドは二本を受け取り、見比べた。

「……同じだろう。見た目は変わらない」

「持ってみろ」

 ガルドは片方を右手に、片方を左手に持った。

「……重さが違う」

「そうだ。右の方が重い」

「なぜだ。同じ材料で作ったのに」

「同じじゃないからだ」

 鋼太郎は、二本の短剣を並べて置いた。

「刃渡りが違う。柄の太さも違う。刃の厚みも違う。同じ設計のはずなのに、実際の寸法は全く異なる。だから重さも違う」

 ガルドは黙って聞いている。

「職人の腕が悪いわけじゃない。測る手段がないんだ。『だいたいこのくらい』で作るしかないから、毎回違うものが出来上がる。それが当たり前だと、皆が思っている」

「……確かに、そうだな」

「だが、俺の国では違った」

 鋼太郎の目が、遠くを見るように細くなった。

「俺の国では、同じ設計の製品は、同じ寸法で作る。誰が作っても、いつ作っても、同じものができる。そのために、正確な測定器具を使い、許容される誤差の範囲を決めておく。それを『公差』と呼ぶ」

「公差……」

「例えば、刃渡り10リールの短剣を作るとする。だが、完璧に10リールぴったりに作ることは、誰にもできない。だから、『10リール、プラスマイナス0.05リール』というように、許容範囲を決める。この0.05リールが公差だ」

「つまり、9.95リールから10.05リールの間なら、合格ということか」

「そうだ。その範囲から外れたものは、不合格として出荷しない」

 ガルドは腕を組んで考え込んだ。

「なるほど……理屈は分かる。だが、そこまで厳密にする必要があるのか? 短剣の刃渡りが少し違っても、使う分には問題ないだろう」

「問題がある」

 鋼太郎は断言した。

「たとえば、この短剣の鞘を考えろ。刃渡りがバラバラなら、鞘もそれぞれに合わせて作らなければならない。一本ごとに、採寸して、専用の鞘を作る。効率が悪い」

「……確かに」

「だが、全ての短剣が同じ寸法なら、鞘も同じものでいい。一つの設計で、何百個も作れる。それが『量産』だ」

 ガルドの目が、わずかに光った。

「量産……」

「そして、もう一つ。修理だ」

 鋼太郎は、短剣の柄を指した。

「この柄が壊れたとする。今のやり方なら、壊れた柄を外して、新しい柄を一から作らなければならない。刀身に合わせて、採寸して、削り出して。時間がかかる」

「そうだな」

「だが、全ての短剣の柄が同じ寸法なら、予備の柄を作り置きしておける。壊れたら、新しい柄を取り付けるだけでいい。採寸も、削り出しも不要だ」

「……」

「これを『互換性』という。同じ規格で作った部品は、どの製品にも使える。これができれば、生産効率が劇的に向上する」

 ガルドは、長い沈黙の後、深い溜息をついた。

「お前の言うことは、理屈としては正しい。だが——」

「分かっている」

 鋼太郎は、ガルドの言葉を遮った。

「それを実現するには、まず測定器具が必要だ。だから、今これを作っている」

         ◆

 ノギスの試作には、さらに三日を要した。

 最大の問題は、目盛りを刻む精度だった。

 この世界には、精密な目盛りを刻むための工作機械がない。全て手作業で、一本一本、溝を彫らなければならない。

 鋼太郎は、まず「基準」となる尺度を作ることから始めた。

 ガルドに頼んで、王国の度量衡局が管理する「標準尺」を借り受けた。これは、王国内で使用される長さの単位「リール」の公式な基準だ。金属製の棒に、正確に1リールの長さが刻まれている。

 この標準尺を基に、鋼太郎は自分の「マスター尺」を作った。

 1リールを10等分した目盛りを刻んだ真鍮製の板だ。0.1リール——地球の単位で約2.5ミリ——を測定できる。

 だが、これでは粗すぎる。

 次に、このマスター尺を使って、さらに細かい目盛りを刻んだ副尺を作った。

 本尺の10目盛りを、副尺では11等分する。この差を利用して、0.01リール——約0.25ミリ——まで読み取れるようになる。

 七日目の朝、ついにノギスが完成した。

 全長約20センチの、真鍮製の測定器具だ。

 本尺には1リールごと、副尺には0.1リールごとの目盛りが刻まれている。両者を組み合わせることで、0.01リール——約0.25ミリ——の精度で測定できる。

 地球の高精度ノギスには遠く及ばないが、この世界の技術水準を考えれば、革命的な精度だ。

「これが……ノギスか」

 ガルドが、完成品を手に取って言った。

 ギルドの職人たちも、鋼太郎の周りに集まっている。入門試験の日に嘲笑していた者たちも、今は好奇心に目を光らせている。

「使い方を見せてやる」

 鋼太郎は、先日作った短剣を取り出した。

 ノギスの外側測定用のジョーで、刀身の幅を挟む。

「本尺の目盛りを読む。ここは0.9リールと1リールの間だ。次に、副尺の目盛りを見る。本尺の目盛りと一致しているのは……ここだ。0.03だ」

 鋼太郎は、ノギスを周囲に見せた。

「つまり、この刀身の幅は0.93リールだ」

「0.93……」

 職人の一人が、呟くように言った。

「そこまで細かく測れるのか」

「ああ。そして、このノギスを使えば、誰が測っても同じ値が出る。『だいたい1リール』ではなく、『0.93リール』と、正確に言える」

 職人たちがざわめいた。

 鋼太郎は、別の短剣を手に取った。

「じゃあ、こっちの短剣も測ってみよう」

 同じ手順で、刀身の幅を測定する。

「……1.02リールだ」

「1.02?」

「つまり、この二本の短剣は、刀身の幅が0.09リール——約2ミリ——違う」

 職人たちは互いの顔を見合わせた。

 0.09リール。肉眼では、ほとんど見分けがつかない差だ。

 だが、ノギスを使えば、その差が明確に数字として現れる。

「これが、俺が言っていた『公差』の管理だ」

 鋼太郎は、ノギスを掲げた。

「もし、『刀身幅0.95リール、公差±0.03リール』という規格を決めたとする。つまり、0.92リールから0.98リールの間なら合格だ」

 最初の短剣を指す。

「こっちは0.93リールだから、合格」

 二本目を指す。

「こっちは1.02リールだから、不合格」

「不合格にするのか? 使う分には問題ないだろうに」

 職人の一人が、不満そうに言った。

「それが問題なんだ」

 鋼太郎の声が、鋭くなった。

「『使う分には問題ない』と言って、規格外品を出荷し続けたら、どうなる? 次は0.05リールオーバーでも『まあいいか』になる。そのうち0.1リール、0.2リール。気がついたら、規格なんて有名無実になっている」

 職人たちが黙り込んだ。

「規格は、守らなければ意味がない。守るためには、測定しなければならない。測定するためには、正確な道具が必要だ。だから、俺はこのノギスを作った」

 鋼太郎は、ノギスをガルドに手渡した。

「ギルドマスター、これを使ってくれ。そして、職人たちにも使わせてくれ。最初は面倒に感じるかもしれない。だが、慣れれば、製品の品質が劇的に向上する」

 ガルドは、ノギスを受け取った。

 その目は、真剣だった。

「……分かった。試してみよう」

         ◆

 それから二週間が過ぎた。

 ノギスの効果は、予想以上だった。

 最初は半信半疑だった職人たちも、実際に使い始めると、その便利さに気づいた。

 これまで「だいたい」で済ませていた寸法が、数字で管理できる。「大きい」「小さい」ではなく、「0.03リール大きい」と言える。

 特に、後工程の職人たちが喜んだ。

 鍛造工程で作られた部品を、研磨工程で仕上げる。その際、「どれくらい削ればいいか」が、数字で分かるようになったのだ。

 以前は、カンと経験に頼るしかなかった。削りすぎて小さくなったり、削り足りなくて大きすぎたり。そのたびに、やり直しが発生していた。

 ノギスを使えば、「あと0.05リール削れ」と具体的に指示できる。やり直しが激減した。

 そして、鋼太郎が提唱した「公差」の概念も、徐々に浸透し始めた。

 ガルドの指示で、ギルドは「標準短剣規格」を定めた。

 刃渡り8リール±0.05リール。

 刀身幅0.95リール±0.03リール。

 柄の直径0.8リール±0.02リール。

 この規格を満たすものだけを「ギルド公認品」として出荷する。規格外品は、手直しするか、材料として溶かし直す。

 最初は不満の声もあった。「せっかく作ったのに、不合格になるなんて」と。

 だが、一ヶ月後には、状況が変わった。

「神崎、すまない」

 ある日、職人の一人が、鋼太郎のところに来た。

 入門試験の日に、最も激しく嘲笑していた男だ。

「何だ」

「お前の言う通りだった」

 男は、苦い顔で言った。

「ノギスを使い始めてから、不良品が減った。やり直しが減った。つまり、材料の無駄が減った」

「そうか」

「最初は面倒だと思った。いちいち測るなんて、時間の無駄だと。だが、実際には逆だった。測る手間より、やり直しの手間の方がずっと大きかったんだ」

 鋼太郎は、小さく笑った。

「製造業の基本だ。『品質は工程で作り込む』という言葉がある。不良品を後から見つけて直すより、最初から不良品を作らない方が、はるかに効率がいい」

「品質は工程で作り込む……」

「そして、そのためには測定が不可欠だ。測定しなければ、良いか悪いか分からない。分からなければ、改善のしようがない」

 男は、深く頷いた。

「正直、最初はお前のことを馬鹿にしていた。未経験の素人が、何を偉そうに、と」

「知っている」

「だが、今は違う。お前は——本物だ」

 その言葉に、鋼太郎は少し驚いた。

 この世界の職人たちは、プライドが高い。自分の技術に自信を持っている。そう簡単に、外部からの意見を認めるとは思わなかった。

「……礼を言う」

「いや、こっちが礼を言うべきだ。お前のおかげで、俺の仕事が楽になった」

 男は、照れくさそうに頭を掻いた。

「これからも、いろいろ教えてくれ。お前の知識は、俺たちには新鮮だ」

         ◆

 ある夜、ガルドが鋼太郎を呼び出した。

 ギルドマスターの執務室は、本館の最上階にあった。

 壁には、歴代ギルドマスターの肖像画が掛けられている。ガルドの父、祖父、曾祖父。代々、この鍛冶師ギルドを率いてきた一族だ。

「座れ」

 ガルドは、窓際の椅子を指した。

 鋼太郎が腰を下ろすと、ガルドは向かい側に座った。

 窓の外には、王都の夜景が広がっている。魔法の灯りが点在し、星空と溶け合っている。

「お前がギルドに来て、二ヶ月が過ぎた」

 ガルドが、低い声で言った。

「ああ」

「その間に、お前はこのギルドを変えた」

 鋼太郎は黙って聞いている。

「ノギスという測定器具。公差という概念。それを使った品質管理。どれも、俺たちには思いもつかないものだった」

「……」

「正直に言おう。俺は最初、お前を侮っていた。未経験の流れ者が、何ができると思っていた。だが、入門試験の短剣を見て、考えを改めた」

 ガルドの目が、鋼太郎を真っ直ぐに見つめた。

「お前は、ただの職人ではない」

「……」

「お前の知識は、どこで身につけた」

 鋼太郎は、少し考えてから答えた。

「遠い国で、長い時間をかけて学んだ」

「その国の名前は」

「——言えない」

 ガルドは、その答えを予想していたかのように頷いた。

「秘密か」

「ああ。悪いが、詳しくは話せない」

「構わない」

 ガルドは、意外にもあっさりと引き下がった。

「職人には、それぞれ事情がある。俺は、お前の過去を詮索するつもりはない」

「……感謝する」

「ただ、一つだけ聞かせてくれ」

 ガルドが身を乗り出した。

「お前の技術と知識は、本物か? この先も、俺たちに価値をもたらしてくれるものか?」

 鋼太郎は、その問いに即答した。

「本物だ。そして、まだほんの一部しか見せていない」

 ガルドの目が、光を帯びた。

「ほう」

「ノギスは、測定器具のほんの入口に過ぎない。もっと精密なもの、もっと多機能なものを作れる。公差管理も、今はまだ初歩の段階だ。工程管理、在庫管理、原価計算——製造業には、学ぶべきことが山ほどある」

「……」

「そして、それらを組み合わせれば、このギルドの生産効率は、今の十倍にも二十倍にもなる。品質も向上する。コストも下がる」

 ガルドは、長い沈黙の後、深い息を吐いた。

「十倍……」

「嘘ではない」

「信じよう」

 ガルドは立ち上がり、窓際に歩み寄った。

 夜景を見下ろしながら、静かに言った。

「神崎鋼太郎。俺は、お前に提案がある」

「提案?」

「独立しろ」

 鋼太郎は、その言葉の意味を理解するのに数秒かかった。

「独立……?」

「自分の工房を持て。そして、お前の知識と技術を、思う存分に発揮しろ」

「しかし、俺はまだギルドに入ったばかりだ。修行の身で、独立など——」

「通常はそうだ」

 ガルドが振り返った。

「だが、お前は通常の職人ではない。ギルドの共同工房で、他の職人と同じように働かせるのは、お前の才能の無駄遣いだ」

「……」

「俺がギルドマスターとして、お前の独立を支援する。工房の物件を紹介し、開業資金を融通し、最初の顧客を斡旋する」

 鋼太郎は、ガルドの顔を見つめた。

 本気だ。

 この男は、本気で言っている。

「なぜ、そこまでしてくれる」

「言っただろう。お前の才能の無駄遣いは、ギルド全体の損失だ」

 ガルドは、窓枠に手をついて、夜景を見つめた。

「お前が独立して、新しい技術を実践すれば、その成果はギルド全体に波及する。ノギスがそうだったように。公差管理がそうだったように」

「……」

「それに——」

 ガルドの声が、少し柔らかくなった。

「俺は、お前の作る製品を見てみたい。お前が本気で作る剣を、本気で作る甲冑を。ギルドの共同工房では、それは無理だろう。設備も、時間も、自由も足りない」

 鋼太郎は、黙って考えた。

 独立。自分の工房。

 確かに、それは鋼太郎の望みでもあった。

 ギルドの共同工房では、できることに限界がある。設備は他の職人と共用だし、作業時間も制限されている。何より、自分のやり方を自由に試すことができない。

 だが——

「条件がある」

 鋼太郎は言った。

 ガルドが振り返る。

「条件?」

「俺が開発した技術——ノギスの作り方、公差管理の方法——それは、ギルド全体で共有してほしい。俺だけが独占するのではなく、すべての職人が使えるようにしてほしい」

 ガルドの眉が上がった。

「……それは、お前にとって損ではないのか? 独自の技術を持っていれば、競争で優位に立てる」

「それは、俺のやり方ではない」

 鋼太郎の声は、静かだが、確固たるものだった。

「技術は、共有されてこそ価値がある。俺一人が良い製品を作っても、この世界全体の製造業が発展するわけではない。だが、技術が広まれば、この世界の全ての職人が、より良いものを作れるようになる」

「……」

「それが、俺の——俺の国で学んだ、ものづくりの精神だ」

 ガルドは、長い間、鋼太郎を見つめていた。

 そして、ゆっくりと笑みを浮かべた。

「……分かった。お前の条件を受け入れよう」

 ガルドが、右手を差し出した。

「神崎鋼太郎。鍛冶師ギルドマスター、ガルド・ハンマーフェルの名において、お前の独立工房設立を承認する」

 鋼太郎は、その手を握った。

 ガルドの掌は、硬く、熱かった。

 鍛冶場の炉で鍛えられた、職人の手だ。

「よろしく頼む」

「こちらこそ」

 窓の外で、夜明けの光が東の空を染め始めていた。

 新しい一日が、始まろうとしている。

         ◆

 それから一ヶ月後。

 王都ゼルクハイムの西区画に、小さな工房が産声を上げた。

 看板には、こう書かれていた。

 「神崎鍛冶」

 鋼太郎は、その看板を見上げながら、深く息を吸い込んだ。

 炭の匂い。鉄の匂い。冷たい朝の空気。

 ここが、自分の城だ。

 ここから、全てが始まる。

「図面通りに作る。それが俺の、唯一無二の魔法だ」

 誰に言うでもなく、鋼太郎は呟いた。
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