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プロポーズ
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セシルが王都に来てからというもの、テオドールは目に見えて若返り、生気を取り戻した。何事かと側近達は訝しんだが、セシルの存在が知られてからは、「なるほど」と皆、納得した。
テオドールは国王の役割を精力的にこなし、時間を見つけてはセシルに会いにいく。その度に付き合わされる近衛達は「いい迷惑ですよ」と笑った。
一方のセシルはもうすっかり女性らしい。五年の歳月が彼女を大人にした。私の記憶にある、私が最も輝いていた頃の姿をセシルは身に宿していた。
そして、セシルの王立貴族学院の卒業が迫ってきたある日。
テオドールは朝から落ち着きがなかった。執務室の鏡の前に何度も立ち、自分の顔を真剣に見つめている。
「セシリア……。君は応援してくれるかな?」
応援するに決まっているでしょ。
「私はセシルを王妃として迎えたいと思っている。勿論、彼女が受け入れてくれればだが……」
大丈夫よ。セシルは私だもの。
大きく息を吐き、決心したテオドールは扉を開けて出て行く。向かう先は王城の中庭だ。
細やかに手入れされた中庭の花壇には、淡く透き通るような水色の薔薇が咲き誇っている。
そこに、女性の姿があった。銀髪を靡かせ、水色の瞳で薔薇を見つめている。
「あら、テオドール。ご機嫌麗しゅうございますか?」
セシルはじゃれ合うつもりで口を開くが、テオドールの固い顔を見てサッと身構えた。
「セシル。突然呼び出してすまない」
「ちょうど薔薇の綺麗な時期だから、私を呼び出したの?」
テオドールからスッと視線を外し、セシルはまた薔薇を見つめた。
「セシル……」
「なにかしら?」
二人は見つめ合う。
「君のことを愛している。私の妻になってくれないか?」
「孤高の王じゃなかったの?」
「それは君に出会うまでの話だ。君と人生を共にしたい」
ふぅと息を吐き、セシルはテオドールに向かって走り出す。そして胸に飛び込んで顔を上げた。
「喜んで」
二人の婚約は近衛達によってあっという間に拡散され、三日後には王都中で噂となり、十日後には周辺国にまで広がったそうだ。
#
セシルの十七歳の誕生日に合わせて婚約披露のパーティーが開かれることになった。
王国中の貴族が招待され、会場は煌びやかな雰囲気で満たされている。
通路に立つセシルは瞳の色に合わせた水色のドレスで着飾り、とても幸せそうだ。もちろん、その横に並ぶテオドールも。
管楽器の音色に合わせて二人が入場すると、大きな拍手が巻き起こり、セシルの美貌に感嘆の声が漏れた。
私も鼻が高い。
壇上に二人が上がると更に拍手は大きくなり、テオドールが合図をすると収まる。
わざとらしく咳払いをし、会場内を一望してからテオドールは語り始めた。
「国王とは国に身を捧げ、国を守り、国の発展を望むものだ。王位継承以来、それだけを胸に日々を送ってきた。しかし……私は大事なことを忘れていた。国民に夢を与える。国の象徴として私は充分ではなかったかもしれない……。私は人生を共にする女性を見つけた。ノルシュタイン公爵家令嬢セシル。彼女を王妃として迎える。どうか、祝福して欲しい」
どっと沸き立つような歓声が起こり、管楽器の演奏が更にそれを盛り立てる。
この日を待ち望んでいた貴族達が我先にとセシルとテオドールの元へ向かい、大袈裟な祝辞を並べた。
延々と続く挨拶にセシルが飽きてしまった頃にやっと、婚約披露のパーティーはお開きとなる。
珍しく深く酔っ払ったテオドールは近衛に支えられながら寝室に雪崩込み、セシルは疲れ果てた顔で公爵家の屋敷へと帰っていった。
ただただ幸せな日々。そんな未来を想像して二人とも眠りについたに違いなかった。
テオドールは国王の役割を精力的にこなし、時間を見つけてはセシルに会いにいく。その度に付き合わされる近衛達は「いい迷惑ですよ」と笑った。
一方のセシルはもうすっかり女性らしい。五年の歳月が彼女を大人にした。私の記憶にある、私が最も輝いていた頃の姿をセシルは身に宿していた。
そして、セシルの王立貴族学院の卒業が迫ってきたある日。
テオドールは朝から落ち着きがなかった。執務室の鏡の前に何度も立ち、自分の顔を真剣に見つめている。
「セシリア……。君は応援してくれるかな?」
応援するに決まっているでしょ。
「私はセシルを王妃として迎えたいと思っている。勿論、彼女が受け入れてくれればだが……」
大丈夫よ。セシルは私だもの。
大きく息を吐き、決心したテオドールは扉を開けて出て行く。向かう先は王城の中庭だ。
細やかに手入れされた中庭の花壇には、淡く透き通るような水色の薔薇が咲き誇っている。
そこに、女性の姿があった。銀髪を靡かせ、水色の瞳で薔薇を見つめている。
「あら、テオドール。ご機嫌麗しゅうございますか?」
セシルはじゃれ合うつもりで口を開くが、テオドールの固い顔を見てサッと身構えた。
「セシル。突然呼び出してすまない」
「ちょうど薔薇の綺麗な時期だから、私を呼び出したの?」
テオドールからスッと視線を外し、セシルはまた薔薇を見つめた。
「セシル……」
「なにかしら?」
二人は見つめ合う。
「君のことを愛している。私の妻になってくれないか?」
「孤高の王じゃなかったの?」
「それは君に出会うまでの話だ。君と人生を共にしたい」
ふぅと息を吐き、セシルはテオドールに向かって走り出す。そして胸に飛び込んで顔を上げた。
「喜んで」
二人の婚約は近衛達によってあっという間に拡散され、三日後には王都中で噂となり、十日後には周辺国にまで広がったそうだ。
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セシルの十七歳の誕生日に合わせて婚約披露のパーティーが開かれることになった。
王国中の貴族が招待され、会場は煌びやかな雰囲気で満たされている。
通路に立つセシルは瞳の色に合わせた水色のドレスで着飾り、とても幸せそうだ。もちろん、その横に並ぶテオドールも。
管楽器の音色に合わせて二人が入場すると、大きな拍手が巻き起こり、セシルの美貌に感嘆の声が漏れた。
私も鼻が高い。
壇上に二人が上がると更に拍手は大きくなり、テオドールが合図をすると収まる。
わざとらしく咳払いをし、会場内を一望してからテオドールは語り始めた。
「国王とは国に身を捧げ、国を守り、国の発展を望むものだ。王位継承以来、それだけを胸に日々を送ってきた。しかし……私は大事なことを忘れていた。国民に夢を与える。国の象徴として私は充分ではなかったかもしれない……。私は人生を共にする女性を見つけた。ノルシュタイン公爵家令嬢セシル。彼女を王妃として迎える。どうか、祝福して欲しい」
どっと沸き立つような歓声が起こり、管楽器の演奏が更にそれを盛り立てる。
この日を待ち望んでいた貴族達が我先にとセシルとテオドールの元へ向かい、大袈裟な祝辞を並べた。
延々と続く挨拶にセシルが飽きてしまった頃にやっと、婚約披露のパーティーはお開きとなる。
珍しく深く酔っ払ったテオドールは近衛に支えられながら寝室に雪崩込み、セシルは疲れ果てた顔で公爵家の屋敷へと帰っていった。
ただただ幸せな日々。そんな未来を想像して二人とも眠りについたに違いなかった。
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