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異変
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静か過ぎる。昨日までとは打って変わって、森の奥に進めば進むほど、魔物の気配はなくなっていった。先行するジョアンも困惑した様子だ。エルムンドは皆を集めて話し始めた。
「この辺りが何かの魔物の縄張りになっていることは間違いない。しかし、魔物の気配は全くじゃ。ジョアン、どういったことが考えられるかの?」
「完全に夜行性の魔物の縄張りか、それとも隠密性の極めて高い魔物の縄張り。もしくは、既に魔物が移動してしまったか。考えられるのはこんなものかと」
「そうじゃな。既に何者かに倒されているっていうのが一番ありがたいんじゃがな」
「それじゃー、報酬が減っちまうよ。早いとこ元凶に出てきてもらおーぜ。適当に魔法をぶっ放したら出てくんじゃねーか?」
ガスタが適当なことを言い出す。やっぱりこいつは一度殴った方がいいな。
「わざわざ不利な状況で魔物と戦うのは早死にしたい奴だけじゃ。もう少し調べてみよう。ジョアン、地中や樹の上にも気を配ってくれ。皆も気を抜くなよ」
調査団は更に森の深部へと進む。
***
何かあったのだろう。先行していたジョアンが立ち止まり、俺達後続の到着を待っている。エルムンドが振り返り、急ぐように最後尾の俺を促す。一体なんだ。
「あれを見ろ」
そう言ったジョアンの視線は樹の上を指していた。いや、違う。その視線の先は樹の枝に縛られるようにしてある人間の子供ほどの繭だ。あの中に一体何が入っているのか。確かめないわけにはいかないが、碌なことにならないのも予想できる。
「シシー。あれを落とすか、切り裂いて中身を確認することはできるか?」
「団長!了解でありまーす!そいっ!」
エルムンドの依頼に軽く返したシシーは素早い魔力の展開から控えめのエアブレイドを発動し、繭を風の刃で縦に切り開いた。支えを失った繭の中身が樹の上から落下する。幸いなことに人間ではなさそうだ。
「ゴブリンか。まだ死んでからそれほど経ってないな」
ジョアンが屈んでゴブリンの死体をナイフの腹で探っている。外傷を見ているのだろう。
「ゴブリンを食べるなんてとんでもない悪食の魔物がいるもんだぜ」
ガスタがオエオエ言いながら悪態をつく。ここにゴブリンの血を吸ったことのある俺がいますけどなにか?一人バツの悪い思いをしていると、急に辺りの空気が変わった。
「上じゃ!散れ!」
エルムンドの警告に横に飛び退く。転がりながら元いた場所に視線をやると、人間と変わらない大きさの蜘蛛がガスタに組み付いていた。
「クソ!離しやがれ!」
ガスタが体をよじって逃れようとするが、8本の足にガッチリ掴まれているようで蜘蛛が剥がれる様子はない。それどころかガスタごと蜘蛛が宙を浮き、するすると上に登っていく。
「シシー!糸を切れ!」
「ほいさ!」
さっきから大活躍のエアブレイドが宙を薙いだ。どうやら上手く糸は切れたらしい。蜘蛛とガスタが地面に叩きつけられ、その衝撃で蜘蛛がガスタから離れる。
「っせい!」
蜘蛛の頭にメイスを落とすと蜘蛛の頭と地面が抉れた。しかし、まだ蜘蛛の脚は動いている。気持ち悪い。
「まだ来るぞ!走れ!」
嘘だろ!上を見上げると何体もの蜘蛛が脚を大きく広げて降ってくる。とんでもない数だ。地面に降りた蜘蛛達の赤い眼が一斉にこちらに向く。ヤバい。きもい。身体が落ち着かない。
「ジョアンに続け!逃げるぞ!」
エルムンドの言葉に我に返り、慌てて走り始める。全員一応無事なようだ。ガスタもしっかりとした足取りで俺の前を走っている。殿は俺だ。それならば役割を果たすとしよう。俺が時間を稼ぐ。
「この辺りが何かの魔物の縄張りになっていることは間違いない。しかし、魔物の気配は全くじゃ。ジョアン、どういったことが考えられるかの?」
「完全に夜行性の魔物の縄張りか、それとも隠密性の極めて高い魔物の縄張り。もしくは、既に魔物が移動してしまったか。考えられるのはこんなものかと」
「そうじゃな。既に何者かに倒されているっていうのが一番ありがたいんじゃがな」
「それじゃー、報酬が減っちまうよ。早いとこ元凶に出てきてもらおーぜ。適当に魔法をぶっ放したら出てくんじゃねーか?」
ガスタが適当なことを言い出す。やっぱりこいつは一度殴った方がいいな。
「わざわざ不利な状況で魔物と戦うのは早死にしたい奴だけじゃ。もう少し調べてみよう。ジョアン、地中や樹の上にも気を配ってくれ。皆も気を抜くなよ」
調査団は更に森の深部へと進む。
***
何かあったのだろう。先行していたジョアンが立ち止まり、俺達後続の到着を待っている。エルムンドが振り返り、急ぐように最後尾の俺を促す。一体なんだ。
「あれを見ろ」
そう言ったジョアンの視線は樹の上を指していた。いや、違う。その視線の先は樹の枝に縛られるようにしてある人間の子供ほどの繭だ。あの中に一体何が入っているのか。確かめないわけにはいかないが、碌なことにならないのも予想できる。
「シシー。あれを落とすか、切り裂いて中身を確認することはできるか?」
「団長!了解でありまーす!そいっ!」
エルムンドの依頼に軽く返したシシーは素早い魔力の展開から控えめのエアブレイドを発動し、繭を風の刃で縦に切り開いた。支えを失った繭の中身が樹の上から落下する。幸いなことに人間ではなさそうだ。
「ゴブリンか。まだ死んでからそれほど経ってないな」
ジョアンが屈んでゴブリンの死体をナイフの腹で探っている。外傷を見ているのだろう。
「ゴブリンを食べるなんてとんでもない悪食の魔物がいるもんだぜ」
ガスタがオエオエ言いながら悪態をつく。ここにゴブリンの血を吸ったことのある俺がいますけどなにか?一人バツの悪い思いをしていると、急に辺りの空気が変わった。
「上じゃ!散れ!」
エルムンドの警告に横に飛び退く。転がりながら元いた場所に視線をやると、人間と変わらない大きさの蜘蛛がガスタに組み付いていた。
「クソ!離しやがれ!」
ガスタが体をよじって逃れようとするが、8本の足にガッチリ掴まれているようで蜘蛛が剥がれる様子はない。それどころかガスタごと蜘蛛が宙を浮き、するすると上に登っていく。
「シシー!糸を切れ!」
「ほいさ!」
さっきから大活躍のエアブレイドが宙を薙いだ。どうやら上手く糸は切れたらしい。蜘蛛とガスタが地面に叩きつけられ、その衝撃で蜘蛛がガスタから離れる。
「っせい!」
蜘蛛の頭にメイスを落とすと蜘蛛の頭と地面が抉れた。しかし、まだ蜘蛛の脚は動いている。気持ち悪い。
「まだ来るぞ!走れ!」
嘘だろ!上を見上げると何体もの蜘蛛が脚を大きく広げて降ってくる。とんでもない数だ。地面に降りた蜘蛛達の赤い眼が一斉にこちらに向く。ヤバい。きもい。身体が落ち着かない。
「ジョアンに続け!逃げるぞ!」
エルムンドの言葉に我に返り、慌てて走り始める。全員一応無事なようだ。ガスタもしっかりとした足取りで俺の前を走っている。殿は俺だ。それならば役割を果たすとしよう。俺が時間を稼ぐ。
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