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ダンジョン

退職

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「本件に関しては根岸君に一任しておりましたので……」

課長のその言葉で全身の血が沸き立つのを感じた。

テッメー!よくもそんな言葉吐けるな!お前の指示に従って入札額を引き上げたのに、敗退したら人のせいかよ!

部長に対する課長の言い訳は続き、俺の血液は蒸発しそうだ。

「なんとか別の案件でリカバリーさせますので。大丈夫です。なっ、根岸君?」

グーパンチで返事しようかと思ったが、流石にまずい。

無言で課長を睨む。

「なんだね!その態度は!失敗して反省するどころか、逆ギレかね?全くこれだから若いヤツは……」

「失礼します」

こんな茶番に付き合ってられない。俺は口をパクパクさせる課長を置き去りにし、自分の席に戻った。

そしてあらかじめ用意していた退職届とパパ活に勤しむ課長の姿がプリントされたビラを手にとり、100人ほどいるフロアの端からビラを丁寧に配る。

「え、なにこれ、安藤課長?」

「安藤さん、娘さんいたっけ?」

「てか、全部違う女の子じゃない?」

「不倫?パパ活?」

様々な声が社内に広がる。

「ちょっと根岸君!何してるんだね!」

課長が掴みかかってきたので振り解き、退職届を投げつけた。

「何してる?それは課長の方じゃありませんか?かわいい奥さんと息子さんがいるにも拘らず、毎週のようにパパ活。それも食事だけなんて可愛いやつじゃないですよね?例えばこの子、Twittorで顔出ししてるんで、すぐ画像検索で引っかかりましたけど、大人専門って書いてましたよ。大人ってなんですか?課長?大人の安藤課長。答えてください」

「いや、それは……」

「ははは。この後課長がどんな風にリカバリーするのか楽しみですよ。では、私は有給をきっちり消化してから退職します。お世話になりました」

はぁ。すっきり。

#####

俺は安ウィスキーをあおりながら、ぼんやりとテレビを見ていた。テレビでは美の神に認められた者達だけ集めて結成されたアイドルグループが新曲とやらを披露している。

美の神に認められた。これは比喩ではなく、本当に美の神に認められたのだ。その証拠はある。彼女達の首にある神の刻印を見れば明らかだ。

くだらねえ。何が神だ。世界が変わって、いや、くっついてから碌なことが起こらない。

グラスにウィスキーを継ぎ足し、チャンネルをニュース番組に合わせる。

ニュース番組では新宿ダンジョンの到達階層が更新されたと大きく報じられていた。

キャスターが世界の主要ダンジョンの到達階層が書かれたフリップを取り出し、早く日本もダンジョンを攻略して異世界との交流を始めなければいけません。と締めた。

#####

頭が重い。いや、首の後ろか。とにかく飲み過ぎた。スーツのまま床に寝てしまっていたらしい。今日が仕事なら慌てるところだが、なんせ有休消化中だ。ゲロ吐いてもヨユーだ。だがしかし、この酒臭い身体をなんとかしないとな。風呂だな風呂。

シャワーを頭からかぶったまま、昨日の出来事を思い出す。

ははは。あの糞課長、今日も会社行ってるのかな。パパ活課長とか呼ばれているんじゃないか?よーし、頭が冴えてきた。

頭を上げて鏡を見る。

あれ、なんか汚れている。首が黒い。

慌ててボディーソープをつけてこするが、その黒い何かが落ちることはない。

冴えてきた頭で昨日のアイドルグループのことを思い出した。

「ははは。まさかこれ、神の刻印なのか?」

俺は慌てて浴室を飛び出した。
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