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ダンジョン

胸くそ

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まだ胃がムカムカする。ペットボトルの水を飲み干してもダメだ。押し寄せてくる胃液に耐えながらヨロヨロと冒険野郎を目指す。この吐き気を抑えるポーションの類を手に入れるためだ。

イラッシャイマセ。無機質な声に接待され店内に入るも、人混みで更に気分が悪くなる。これは不味い。クラクラしてきた。

「おい、どうしたんだ?大丈夫か?」

顔馴染みの厳つい店員の声がした。声の方を向くとひどく驚いた顔をしている。

「気持ち悪くて死にそうなんだ。胃に効くポーションをくれ」

「ついに毒でも盛られたのか?とりあえず解毒ポーションでいいか?」

「今ある全種類のポーションを持ってきてくれ」

「わ、わかった!ちょっと座って待っててくれ」

試着コーナーの椅子を勧められ、崩れるように座る。くそ。とんだ失態だ。あの富沢って男は一体何をしたんだ。

俺が三毛猫社で意識を取り戻した時、俺以外に店にいた人はまだ全員、気を失っていた。店員を揺すって起こすもえずいて使い物にならなかった。とりあえず救急車を呼び、俺は這這の体でなんとか店を出たのだ。

「ほら、先ずは解毒ポーションだ」

目の前に出された解毒ポーションを飲み干して目を瞑る。喉に胃にポーションが流れていくのが分かる。そして効果がないことも。

「……駄目だ。次のを頼む」

「こっからは値段が張るぞ?いいのか?」

「大丈夫だ。くれ」

「分かった。ハイポーションだ」

瓶の中身を飲み干して少々待つが、やはり効果はない。

「……まだ駄目だ。次を頼む」


#######


結局、体調が戻ったのはダメ元で聖水を飲んだ後だった。それまでにダンジョン由来の様々なポーションを飲んでいたので300万の出費だ。カフェでコーヒー飲んで300万とられた気分だ。

やっと身体が落ち着き、呼吸が普段通りになってきたところで厳つい店員、伊集院が話しかけてきた。

「で、一体何があったんだ?」

「俺はさっきまで隣の三毛猫社にいたんだ」

「最近よく居るみたいだな。客が噂してるぞ。死神の連れが三毛猫社に居るって」

「ちっ。まぁいい。とにかく俺が三毛猫社で座っているととんでもなく太った男が現れたんだ。その男は自分をあるクランの幹部だと紹介した。そのクランの名前はカオスサーガ。知ってるか?」

「……厄介な名前が出て来たな」

「奴が店のケーキを食べた途端、俺は激しい吐き気を覚えて最終的に意識を失った。多分店中の人が俺と同じ状態になった筈だ」

「それは加護の力だな。間違いなく」

「カオスサーガって奴らは有名なのか?」

「ちょっとここではな。奥へ行こう」

厳つい店員、伊集院はそう言って俺を店のバックヤードへと誘った。
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