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東京
旅立ち
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「本当に行くのか? 集落の住人はルーメンのことを受け入れているし、俺も居てくれると助かる」
どこで聞きつけたのか。一条院がわざわざ部屋にやって来て、寝起きの俺にそう言った。
ベッドから起き上がり、眠たい目を擦って見ると、いつになく真剣な表情だ。
「もう一ヶ月近く世話になっているからな」
「まだ、一ヶ月だ。一年ぐらい居着くやつもザラにいる」
「そんなに長逗留出来るかよ。俺は今も昔も根無し草だ」
一条院は部屋に踏込み、頭を掻く。
「ちっ。……正直に言う。ルーメンがこの集落に居てくれるだけで、俺は安心して狩猟や漁に出ることが出来る。能力者が居ると成果が段違いなんだよ。頼む! もう少しだけ、この集落に居てくれないか!?」
「やめてくれ。集落のボスが俺みたいなモノに頭を下げるな」
って、カメラ切るの忘れて寝てたな。これ、配信されてるぞ。
「この通りだっ!」
一条院が更に深く頭を下げた。いやこれ、不味くないか? 俺は恐る恐るスマホを取り出してコメント欄をチェックする。
コメント:何この展開!?!?!?
コメント:一条院がルーメンの部屋に
コメント:へえなんのお願いかなぁ……
コメント:ウホッ! いい男!!
コメント:ルーメン、男心は分かるのか…
コメント:えっ、このまま配信するの?
これはよくない! とんでもない方向に行ってしまっているぞ!!
「断る!!」
「そこをなんとか!!」
一条院がグッと近寄って来た。
コメント:ああぁぁ!一条院んんー!!
コメント:ぐいぐいくるなぁ
コメント:接続数の上がり方がエグいw
コメント:ルーメン、そうだったの?
コメント:ちょ、これ以上はBAN
コメント:アッー!!
「くどい! 俺は配信者だぞ! 常に新しい絵が必要なんだ!!」
「……」
「諦めろ」
「……すまなかった。忘れてくれ」
一条院は踵を返し、静かに部屋から出て行った。少しだけ罪悪感を覚えたが、仕方ない。俺に、ここに留まるという選択肢はないのだから。
「……早々に出発しよう」
誰にきかせるわけでもなく、自分の意思を固めるための独り言。これ以上居たら、馴れ合っちまう。そんな退屈な日々を視聴者に見せるわけにはいかない。
さあ、出発の準備だ。
#
二十一時にもなると大井町集落はすっかり寝静まっている。俺はリュックに詰め込めるだけ荷物を詰め、ハイオークのハンマーを手にして外に出た。一部の見張りを除いて音を立てる者はいない。
久しぶりにナイトビジョンを取り出して周囲を確認する。物見櫓の上で見張りが欠伸をしていた。正面から出て行ってもいいが、確実に見つかるな。面倒はごめんだ。
しかし、フナムシの天日干しを切らしているのが痛い。バフをキメれば、ひとっ飛びだったのに……。
俺は結局、世奈に教えてもらったバリケードの抜け穴──子供達の間で知られている──を目指すことにした。大人が通るにはギリギリだが、無理をすればなんとかなる。
足を忍ばせながら、夜の集落を歩く。何か悪いことをしている気分だ。
かつてパドックのあった所の裏に、その抜け穴はある。
瓦礫がうずたかくある所の一部、廃タイヤを退かすとぽっかりと向こう側が見えた。
「……さらば。大井町集落」
──ジャリ。 砂を踏む音がする。
「待って!」
……暗闇の中から声がした。月の光が声の主を照らす。
世奈だ。
「夜遊びは感心せんな」
「違います! ……ルーメンさんがいなくなるって聞いて」
「一条院から聞いたのか?」
「……はい」
次の言葉は続かない。
「もう行く」
「あのっ! また戻って来てくれますか?」
「……生きていたらな」
「ルーメンさんは死なないタイプです! だから戻ってくるってことですね! 了解です!!」
「勝手なことを……」
「あと、これ。みんなからの餞別です!」
世奈は後ろ手に持っていた大きな麻袋を差し出す。何やら、ぎっしり詰まっている。
「有り難く頂戴する。……じゃーな」
「はいっ! いってらっしゃい」
身体を縮めてようやっと穴を抜けた。
リュックに麻袋、ハイオークのハンマー。随分と大荷物になってしまったな。
少しして麻袋を開けると、魔物化した虫がこれでもかと詰まっていた。……よく分かっている。
俺は振り返ることなく歩き始めた。
どこで聞きつけたのか。一条院がわざわざ部屋にやって来て、寝起きの俺にそう言った。
ベッドから起き上がり、眠たい目を擦って見ると、いつになく真剣な表情だ。
「もう一ヶ月近く世話になっているからな」
「まだ、一ヶ月だ。一年ぐらい居着くやつもザラにいる」
「そんなに長逗留出来るかよ。俺は今も昔も根無し草だ」
一条院は部屋に踏込み、頭を掻く。
「ちっ。……正直に言う。ルーメンがこの集落に居てくれるだけで、俺は安心して狩猟や漁に出ることが出来る。能力者が居ると成果が段違いなんだよ。頼む! もう少しだけ、この集落に居てくれないか!?」
「やめてくれ。集落のボスが俺みたいなモノに頭を下げるな」
って、カメラ切るの忘れて寝てたな。これ、配信されてるぞ。
「この通りだっ!」
一条院が更に深く頭を下げた。いやこれ、不味くないか? 俺は恐る恐るスマホを取り出してコメント欄をチェックする。
コメント:何この展開!?!?!?
コメント:一条院がルーメンの部屋に
コメント:へえなんのお願いかなぁ……
コメント:ウホッ! いい男!!
コメント:ルーメン、男心は分かるのか…
コメント:えっ、このまま配信するの?
これはよくない! とんでもない方向に行ってしまっているぞ!!
「断る!!」
「そこをなんとか!!」
一条院がグッと近寄って来た。
コメント:ああぁぁ!一条院んんー!!
コメント:ぐいぐいくるなぁ
コメント:接続数の上がり方がエグいw
コメント:ルーメン、そうだったの?
コメント:ちょ、これ以上はBAN
コメント:アッー!!
「くどい! 俺は配信者だぞ! 常に新しい絵が必要なんだ!!」
「……」
「諦めろ」
「……すまなかった。忘れてくれ」
一条院は踵を返し、静かに部屋から出て行った。少しだけ罪悪感を覚えたが、仕方ない。俺に、ここに留まるという選択肢はないのだから。
「……早々に出発しよう」
誰にきかせるわけでもなく、自分の意思を固めるための独り言。これ以上居たら、馴れ合っちまう。そんな退屈な日々を視聴者に見せるわけにはいかない。
さあ、出発の準備だ。
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二十一時にもなると大井町集落はすっかり寝静まっている。俺はリュックに詰め込めるだけ荷物を詰め、ハイオークのハンマーを手にして外に出た。一部の見張りを除いて音を立てる者はいない。
久しぶりにナイトビジョンを取り出して周囲を確認する。物見櫓の上で見張りが欠伸をしていた。正面から出て行ってもいいが、確実に見つかるな。面倒はごめんだ。
しかし、フナムシの天日干しを切らしているのが痛い。バフをキメれば、ひとっ飛びだったのに……。
俺は結局、世奈に教えてもらったバリケードの抜け穴──子供達の間で知られている──を目指すことにした。大人が通るにはギリギリだが、無理をすればなんとかなる。
足を忍ばせながら、夜の集落を歩く。何か悪いことをしている気分だ。
かつてパドックのあった所の裏に、その抜け穴はある。
瓦礫がうずたかくある所の一部、廃タイヤを退かすとぽっかりと向こう側が見えた。
「……さらば。大井町集落」
──ジャリ。 砂を踏む音がする。
「待って!」
……暗闇の中から声がした。月の光が声の主を照らす。
世奈だ。
「夜遊びは感心せんな」
「違います! ……ルーメンさんがいなくなるって聞いて」
「一条院から聞いたのか?」
「……はい」
次の言葉は続かない。
「もう行く」
「あのっ! また戻って来てくれますか?」
「……生きていたらな」
「ルーメンさんは死なないタイプです! だから戻ってくるってことですね! 了解です!!」
「勝手なことを……」
「あと、これ。みんなからの餞別です!」
世奈は後ろ手に持っていた大きな麻袋を差し出す。何やら、ぎっしり詰まっている。
「有り難く頂戴する。……じゃーな」
「はいっ! いってらっしゃい」
身体を縮めてようやっと穴を抜けた。
リュックに麻袋、ハイオークのハンマー。随分と大荷物になってしまったな。
少しして麻袋を開けると、魔物化した虫がこれでもかと詰まっていた。……よく分かっている。
俺は振り返ることなく歩き始めた。
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