3 / 6
背の高い男
しおりを挟む
大通りの賑わいにはいつも圧倒される。ちょうどお昼時ということもあり、人気の屋台には行列ができ、そうでない屋台からは呼子の声が響く。
しかし、私に声を掛ける呼子はいない。私に関わると碌なことにならないと思われているからだ。
誰も並んでいないものの、食欲を刺激する香が漂う屋台に私は吸い寄せられていた。
「おっ、いらっしゃい!」
他の国から来た人だろうか? 褐色の肌をし、逞しい長身の男が大きな鍋をかき混ぜている。
「……あの、そのスープを一つ」
「ははは! お嬢さん、そんなにビクビクしなくていいよ。銅貨五枚だ」
「……はい」
銀貨一枚を渡しておつりとスープの入った器を受け取る。野菜と肉がたっぷり入った黄金色のスープは見るから美味しそう。男の方を見ると、「さぁ」と屋台の前の丸椅子を勧められた。
「しかしお嬢さん。あんたチグハグだな!」
「……そ、そうですか?」
「あぁ、そうだ。そのドレス、汚れてはいるが生地は上等だ。お嬢さんは本来、こんな屋台で昼食をとるような身分じゃないように見える」
男は鍋をかき混ぜる手を止めて、こちらを見ていた。目が合うとパチリと片目をつぶる。この人はきっと最近王都に来た人なのだろう。私が追放され見世物として飼われている存在だと知らないのだ。このドレスはその烙印。
「ほらっ! 食べ終わったらこれで顔を拭きな! せっかくの美人が台無しだ!」
そう言って男は綺麗な水に浸された手拭いを私の膝の上に置いた。
「……あの、手拭いが汚れてしまいます」
「何を眠たいことを言ってるんだ! 全く!」
戸惑っている私を見兼ねて男は手拭いを手に取り、私の顔を優しく拭き始めた。恥ずかしくなって固まってしまう。
「ほらっ! これで綺麗になったぞ!」
「……ごめんなさい」
よく分からない感情になり、謝ってしまった。そして堰を切ったように涙がこぼれ落ちてくる。
「おいおい。店先で美人に泣かれちゃ、客が寄り付かねーだろ! 今日のところは帰んな。俺はしばらくここで店をやってるから、また食べに来てくれよ」
私は何も言えず、ただ頷いてその屋台から離れた。
しかし、私に声を掛ける呼子はいない。私に関わると碌なことにならないと思われているからだ。
誰も並んでいないものの、食欲を刺激する香が漂う屋台に私は吸い寄せられていた。
「おっ、いらっしゃい!」
他の国から来た人だろうか? 褐色の肌をし、逞しい長身の男が大きな鍋をかき混ぜている。
「……あの、そのスープを一つ」
「ははは! お嬢さん、そんなにビクビクしなくていいよ。銅貨五枚だ」
「……はい」
銀貨一枚を渡しておつりとスープの入った器を受け取る。野菜と肉がたっぷり入った黄金色のスープは見るから美味しそう。男の方を見ると、「さぁ」と屋台の前の丸椅子を勧められた。
「しかしお嬢さん。あんたチグハグだな!」
「……そ、そうですか?」
「あぁ、そうだ。そのドレス、汚れてはいるが生地は上等だ。お嬢さんは本来、こんな屋台で昼食をとるような身分じゃないように見える」
男は鍋をかき混ぜる手を止めて、こちらを見ていた。目が合うとパチリと片目をつぶる。この人はきっと最近王都に来た人なのだろう。私が追放され見世物として飼われている存在だと知らないのだ。このドレスはその烙印。
「ほらっ! 食べ終わったらこれで顔を拭きな! せっかくの美人が台無しだ!」
そう言って男は綺麗な水に浸された手拭いを私の膝の上に置いた。
「……あの、手拭いが汚れてしまいます」
「何を眠たいことを言ってるんだ! 全く!」
戸惑っている私を見兼ねて男は手拭いを手に取り、私の顔を優しく拭き始めた。恥ずかしくなって固まってしまう。
「ほらっ! これで綺麗になったぞ!」
「……ごめんなさい」
よく分からない感情になり、謝ってしまった。そして堰を切ったように涙がこぼれ落ちてくる。
「おいおい。店先で美人に泣かれちゃ、客が寄り付かねーだろ! 今日のところは帰んな。俺はしばらくここで店をやってるから、また食べに来てくれよ」
私は何も言えず、ただ頷いてその屋台から離れた。
0
あなたにおすすめの小説
聖女をぶん殴った女が妻になった。「貴女を愛することはありません」と言ったら、「はい、知ってます」と言われた。
下菊みこと
恋愛
主人公は、聖女をぶん殴った女を妻に迎えた。迎えたというか、強制的にそうなった。幼馴染を愛する主人公は、「貴女を愛することはありません」というが、返答は予想外のもの。
この結婚の先に、幸せはあるだろうか?
小説家になろう様でも投稿しています。
婚約者を処刑したら聖女になってました。けど何か文句ある?
春夜夢
恋愛
処刑台に立たされた公爵令嬢エリス・アルメリア。
無実の罪で婚約破棄され、王都中から「悪女」と罵られた彼女の最期――
……になるはずだった。
『この者、神に選ばれし者なり――新たなる聖女である』
処刑の瞬間、突如として神託が下り、国中が凍りついた。
死ぬはずだった“元・悪女”は一転、「聖女様」として崇められる立場に。
だが――
「誰が聖女? 好き勝手に人を貶めておいて、今さら許されるとでも?」
冷笑とともに立ち上がったエリスは、
“神の力”を使い、元婚約者である王太子を皮切りに、裏切った者すべてに裁きを下していく。
そして――
「……次は、お前の番よ。愛してるふりをして私を売った、親友さん?」
清く正しい聖女? いいえ、これは徹底的に「やり返す」聖女の物語。
ざまぁあり、無双あり、そして……本当の愛も、ここから始まる。
冤罪で婚約破棄したくせに……今さらもう遅いです。
水垣するめ
恋愛
主人公サラ・ゴーマン公爵令嬢は第一王子のマイケル・フェネルと婚約していた。
しかしある日突然、サラはマイケルから婚約破棄される。
マイケルの隣には男爵家のララがくっついていて、「サラに脅された!」とマイケルに訴えていた。
当然冤罪だった。
以前ララに対して「あまり婚約しているマイケルに近づくのはやめたほうがいい」と忠告したのを、ララは「脅された!」と改変していた。
証拠は無い。
しかしマイケルはララの言葉を信じた。
マイケルは学園でサラを罪人として晒しあげる。
そしてサラの言い分を聞かずに一方的に婚約破棄を宣言した。
もちろん、ララの言い分は全て嘘だったため、後に冤罪が発覚することになりマイケルは周囲から非難される……。
運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。
ぽんぽこ狸
恋愛
気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。
その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。
だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。
しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。
五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。
聖女の魔力を失い国が崩壊。婚約破棄したら、彼と幼馴染が事故死した。
佐藤 美奈
恋愛
聖女のクロエ公爵令嬢はガブリエル王太子殿下と婚約していた。しかしガブリエルはマリアという幼馴染に夢中になり、隠れて密会していた。
二人が人目を避けて会っている事をクロエに知られてしまい、ガブリエルは謝罪して「マリアとは距離を置く」と約束してくれる。
クロエはその言葉を信じていましたが、実は二人はこっそり関係を続けていました。
その事をガブリエルに厳しく抗議するとあり得ない反論をされる。
「クロエとは婚約破棄して聖女の地位を剥奪する!そして僕は愛するマリアと結婚して彼女を聖女にする!」
「ガブリエル考え直してください。私が聖女を辞めればこの国は大変なことになります!」
「僕を騙すつもりか?」
「どういう事でしょう?」
「クロエには聖女の魔力なんて最初から無い。マリアが言っていた。それにマリアのことを随分といじめて嫌がらせをしているようだな」
「心から誓ってそんなことはしておりません!」
「黙れ!偽聖女が!」
クロエは婚約破棄されて聖女の地位を剥奪されました。ところが二人に天罰が下る。デート中にガブリエルとマリアは事故死したと知らせを受けます。
信頼していた婚約者に裏切られ、涙を流し悲痛な思いで身体を震わせるクロエは、急に頭痛がして倒れてしまう。
――目覚めたら一年前に戻っていた――
婚約破棄ですか……。……あの、契約書類は読みましたか?
冬吹せいら
恋愛
伯爵家の令息――ローイ・ランドルフは、侯爵家の令嬢――アリア・テスタロトと婚約を結んだ。
しかし、この婚約の本当の目的は、伯爵家による侯爵家の乗っ取りである。
侯爵家の領地に、ズカズカと進行し、我がもの顔で建物の建設を始める伯爵家。
ある程度領地を蝕んだところで、ローイはアリアとの婚約を破棄しようとした。
「おかしいと思いませんか? 自らの領地を荒されているのに、何も言わないなんて――」
アリアが、ローイに対して、不気味に語り掛ける。
侯爵家は、最初から気が付いていたのだ。
「契約書類は、ちゃんと読みましたか?」
伯爵家の没落が、今、始まろうとしている――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる