見世物になった聖女が掴んだもの

フーツラ

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背の高い男

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 大通りの賑わいにはいつも圧倒される。ちょうどお昼時ということもあり、人気の屋台には行列ができ、そうでない屋台からは呼子の声が響く。

 しかし、私に声を掛ける呼子はいない。私に関わると碌なことにならないと思われているからだ。

 誰も並んでいないものの、食欲を刺激する香が漂う屋台に私は吸い寄せられていた。

「おっ、いらっしゃい!」

 他の国から来た人だろうか? 褐色の肌をし、逞しい長身の男が大きな鍋をかき混ぜている。

「……あの、そのスープを一つ」

「ははは! お嬢さん、そんなにビクビクしなくていいよ。銅貨五枚だ」

「……はい」

 銀貨一枚を渡しておつりとスープの入った器を受け取る。野菜と肉がたっぷり入った黄金色のスープは見るから美味しそう。男の方を見ると、「さぁ」と屋台の前の丸椅子を勧められた。

「しかしお嬢さん。あんたチグハグだな!」

「……そ、そうですか?」

「あぁ、そうだ。そのドレス、汚れてはいるが生地は上等だ。お嬢さんは本来、こんな屋台で昼食をとるような身分じゃないように見える」

 男は鍋をかき混ぜる手を止めて、こちらを見ていた。目が合うとパチリと片目をつぶる。この人はきっと最近王都に来た人なのだろう。私が追放され見世物として飼われている存在だと知らないのだ。このドレスはその烙印。

「ほらっ! 食べ終わったらこれで顔を拭きな! せっかくの美人が台無しだ!」

 そう言って男は綺麗な水に浸された手拭いを私の膝の上に置いた。

「……あの、手拭いが汚れてしまいます」

「何を眠たいことを言ってるんだ! 全く!」

 戸惑っている私を見兼ねて男は手拭いを手に取り、私の顔を優しく拭き始めた。恥ずかしくなって固まってしまう。

「ほらっ! これで綺麗になったぞ!」

「……ごめんなさい」

 よく分からない感情になり、謝ってしまった。そして堰を切ったように涙がこぼれ落ちてくる。

「おいおい。店先で美人に泣かれちゃ、客が寄り付かねーだろ! 今日のところは帰んな。俺はしばらくここで店をやってるから、また食べに来てくれよ」

 私は何も言えず、ただ頷いてその屋台から離れた。
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