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第1章~2人の奇妙な関係~
久しぶり
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「久しぶり、ちとせちゃん」
1枚の扉を開けて目に入った光景。
広々としたリビングと、高級そうなソファーに手垢がつきそうなガラス張りなのにピカピカなテーブル。
そして、ソファーで雑誌をみていたのだろうか。
その雑誌を膝の上においてニッコリと微笑む男の人。
「ま、なぶくん……」
彼の言うとおり、あたし達は久しぶりに会った。
そのせいか声が上ずる。
いや、そのせいなんかじゃない。
彼は、あたしがずっとずっと好きだった人だから。
「親父が俺と結婚しろって言ったのって、ちとせちゃんだったんだ?」
フッと笑って、読みかけの雑誌を置いてソファーから立ち上がる。
「そんな案に乗るとか、ちとせちゃんも案外簡単なんだね?」
「いや、あの……」
じわじわとあたしに近づいてくる学くんに、だんだんと後ずさりをしていく自分。
どうなっているのだろう。
こんな、学くんがいるなんて想定外だ。
どうして、こんなことになっているのか。
話は昨日に遡る。
✱✱✱
『君は親御さんがいないんだったね?』
『はい。幼い頃に母は亡くなりまして、父とは結婚もしてなかったのでそれからは親戚の家で暮らしてましたが……』
『その親戚と折り合いが合わず、施設暮らし……だろ?』
社長の言葉にこくんと頷く。
ただただ、あの頃の嫌な思い出が蘇る。
母親の妹夫婦からのたび重なる暴力。
なぜか貧乏だったはずの母親には多額の貯金があった。
そのお金目当てに妹夫婦に引き取られたあたし。
居場所があってよかったと思ったのに、与えられたが現実はそんないいものではなかった。
目に見えるアザが増えていくあたしに、学校からの通報であたしは保護されて施設に入った。
施設に入っても、あたしの寂しさを埋めるものなんてなにもなかったけど。
『君がうちに入社してくれてよかったよ』
『……え?』
社長の言葉が理解できなくて、首を傾げる。
『入社試験の写真を見て、息子が君を気に入ったようでね』
『はぁ……』
社長の息子といえば、たしか副社長だ。
どこの資料にも副社長の写真はないから。
どんな顔なのかもわからないけど、一説によるとひどくイケメンらしい。
沢山言い寄ってくる女の子もいるけど、来るもの拒まず去るもの追わず。
社長的にそろそろ結婚して落ち着いてほしいけど、当の本人に一切そのつもりがないそうだ。
そんな噂の副社長があたしを……?
これは何かの間違いかそれか罰ゲームだ。
そうとしか考えられなかった。
『だから、君には息子と結婚して欲しいんだよ』
『へ!?』
突然出てきた〝結婚〟の文字に当然ながら、驚きを隠せない。
こんなこと言われたら誰もがそうなるだろう。
『結婚をしてくれたら今後、君の全ての面倒を見る』
『はぁ……』
どうしたらいいかなんてわからない。
これから新社会人として、やっていこうとした矢先だった。
『結婚の日取りとかは君たちで決めていいから』
『はぁ』
曖昧な返事のあたしにも構わずに社長は話を続ける。
『あいつを落ち着かせたいんだ。頼む』
あたしに深々と頭を下げる社長に、断ることなんてできなかった。
『頭をあげてください!わかりましたから!』
『本当か、よかった』
笑顔を見せる社長に、本当に息子さんことを想ってると感じた。
1枚の扉を開けて目に入った光景。
広々としたリビングと、高級そうなソファーに手垢がつきそうなガラス張りなのにピカピカなテーブル。
そして、ソファーで雑誌をみていたのだろうか。
その雑誌を膝の上においてニッコリと微笑む男の人。
「ま、なぶくん……」
彼の言うとおり、あたし達は久しぶりに会った。
そのせいか声が上ずる。
いや、そのせいなんかじゃない。
彼は、あたしがずっとずっと好きだった人だから。
「親父が俺と結婚しろって言ったのって、ちとせちゃんだったんだ?」
フッと笑って、読みかけの雑誌を置いてソファーから立ち上がる。
「そんな案に乗るとか、ちとせちゃんも案外簡単なんだね?」
「いや、あの……」
じわじわとあたしに近づいてくる学くんに、だんだんと後ずさりをしていく自分。
どうなっているのだろう。
こんな、学くんがいるなんて想定外だ。
どうして、こんなことになっているのか。
話は昨日に遡る。
✱✱✱
『君は親御さんがいないんだったね?』
『はい。幼い頃に母は亡くなりまして、父とは結婚もしてなかったのでそれからは親戚の家で暮らしてましたが……』
『その親戚と折り合いが合わず、施設暮らし……だろ?』
社長の言葉にこくんと頷く。
ただただ、あの頃の嫌な思い出が蘇る。
母親の妹夫婦からのたび重なる暴力。
なぜか貧乏だったはずの母親には多額の貯金があった。
そのお金目当てに妹夫婦に引き取られたあたし。
居場所があってよかったと思ったのに、与えられたが現実はそんないいものではなかった。
目に見えるアザが増えていくあたしに、学校からの通報であたしは保護されて施設に入った。
施設に入っても、あたしの寂しさを埋めるものなんてなにもなかったけど。
『君がうちに入社してくれてよかったよ』
『……え?』
社長の言葉が理解できなくて、首を傾げる。
『入社試験の写真を見て、息子が君を気に入ったようでね』
『はぁ……』
社長の息子といえば、たしか副社長だ。
どこの資料にも副社長の写真はないから。
どんな顔なのかもわからないけど、一説によるとひどくイケメンらしい。
沢山言い寄ってくる女の子もいるけど、来るもの拒まず去るもの追わず。
社長的にそろそろ結婚して落ち着いてほしいけど、当の本人に一切そのつもりがないそうだ。
そんな噂の副社長があたしを……?
これは何かの間違いかそれか罰ゲームだ。
そうとしか考えられなかった。
『だから、君には息子と結婚して欲しいんだよ』
『へ!?』
突然出てきた〝結婚〟の文字に当然ながら、驚きを隠せない。
こんなこと言われたら誰もがそうなるだろう。
『結婚をしてくれたら今後、君の全ての面倒を見る』
『はぁ……』
どうしたらいいかなんてわからない。
これから新社会人として、やっていこうとした矢先だった。
『結婚の日取りとかは君たちで決めていいから』
『はぁ』
曖昧な返事のあたしにも構わずに社長は話を続ける。
『あいつを落ち着かせたいんだ。頼む』
あたしに深々と頭を下げる社長に、断ることなんてできなかった。
『頭をあげてください!わかりましたから!』
『本当か、よかった』
笑顔を見せる社長に、本当に息子さんことを想ってると感じた。
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