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第1章~2人の奇妙な関係~
これからよろしくね
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「ちょっと待ってて」
学くんにそう言われ、あたしは市役所の椅子に座ったまま頷く。
どこに行くんだろうと、行く先を見てみれば何やら役所の人と話している様子。
お付き合い期間もないまま、社長の言う通り籍を入れることになったあたしたちは今日〝婚姻届〟を出しに来たんだ。
「お待たせ、出しに行こうか」
学くんがジャケットのポケットから綺麗に折り畳められた紙をだす。
「うん。なに、話してたの?」
「あいつ、大学の同級生なんだ。来たらわかるよ」
そのまま、あたしの手を握って同級生という彼の元に歩き出す。
「大塚、これ頼むわ」
「了解。受理しますね」
学くんを見たあとにあたしに笑顔を向けてくれる。
「結婚、おめでとうございます」
「あ、あ……ありがとうございます」
「なに、噛んでんだよ」
可笑しそうにあたしを見て笑う。
「だって、どういう風になるのかはじめてだから分からなくて……」
「そんなん俺だって初めてだわ」
「仲いいな。幸せにな」
「お、おう」
大塚さんに言われると、学くんは少し困ったように返す。
学くんは、お父さんに言われて仕方なくだもんね。
それでもいいと決めたんだ。
あたしが好きなのは学くんだから。
あたしが学くんの妻たなった事実は変わらないから。
この先も一緒にいて、いつか好きになってもらえたらそれで。
だってあの時は、学くんだって……。
「ちとせ」
ふいに呼ばれた名前。
ずっと〝ちゃん〟づけだったのに、急にされた呼び捨てにドキドキするあたしの心臓。
「大塚がこれ貸してくれた」
にっこりと笑いながらあたしにひとつのボードを差し出す。
「これ……?」
あたしは大塚さんの方を見る。
「記念にどうぞ」
ボードには、今日の日付と〝結婚しました〟という文字。
ささやかだけど、心遣いが嬉しくて。
「ありがとうございます」
何度も何度も大塚さんに頭を下げた。
「お前ってバカみたいに正直だよな」
「バカみたいは余計です」
「そういうところが……」
何かを言いかけてハッとしたように口をつぐむ。
「学くん?」
「なんでもない。早く撮って行くぞ」
さっきまですごく優しい表情をしていて、あの時に戻ったみたいだったのに一瞬にして冷たい表情に早変わり。
「大塚、撮ってくれよ」
大塚さんにスマホを投げる。
「いいよ」
そんな学くんに慣れているのだろう。
大塚さんもすんなりと受け止める。
「ちゃんとかわいく映れよ」
「顔は変えれないですけど」
そりゃこんな記念の写真があるなら、もっとお洒落してきたのに。
知らなかったから普段着だし、メイクだって普通だ。
でも、自分の顔がブサイクではないけど平凡だってことも重々承知だ。
それでも、顔は変えれないから仕方ない。
「はいチーズ」
でも、この日を特別な日だって思ってるから。
大塚さんの掛け声に思いっきりの笑顔。
作り笑顔なんかじゃない。
好きな人と幸せになれると信じてるからこそ、出るこの笑顔。
「かわいいから。いまメガネしてないし」
「メガネしてたらブサイクってこと?」
〝かわいい〟なんてセリフ言われ慣れてないから。
ドキドキしてしまうのは仕方ない。
それにこの人はあたしの好きな人だ。
「メガネしててもしてなくてもお前は可愛いから、ずっと笑ってろ」
「……っ」
どうしてそんな事を言うのだろう。
こうして一緒に過ごしていれば、あの時みたいに通じ合える?
「大塚ありがとう」
スマホと引き換えに借りていたボードを大塚さんに渡す。
「おう。じゃあな」
「大塚。さっきのくれぐれもよろしくな」
「わかってる」
二人でなにやらあたしの知らない会話。
まぁ、あたしには関係のないことなのだろうと、気に留めていなかった。
「帰りますか、奥さん」
「うん。帰りましょうか旦那様」
「これからよろくね、ちとせ」
二人で言い合って、二人で笑う。
こんなふうに優しい時間が過ぎていくのは久しぶりだ。
学くんにそう言われ、あたしは市役所の椅子に座ったまま頷く。
どこに行くんだろうと、行く先を見てみれば何やら役所の人と話している様子。
お付き合い期間もないまま、社長の言う通り籍を入れることになったあたしたちは今日〝婚姻届〟を出しに来たんだ。
「お待たせ、出しに行こうか」
学くんがジャケットのポケットから綺麗に折り畳められた紙をだす。
「うん。なに、話してたの?」
「あいつ、大学の同級生なんだ。来たらわかるよ」
そのまま、あたしの手を握って同級生という彼の元に歩き出す。
「大塚、これ頼むわ」
「了解。受理しますね」
学くんを見たあとにあたしに笑顔を向けてくれる。
「結婚、おめでとうございます」
「あ、あ……ありがとうございます」
「なに、噛んでんだよ」
可笑しそうにあたしを見て笑う。
「だって、どういう風になるのかはじめてだから分からなくて……」
「そんなん俺だって初めてだわ」
「仲いいな。幸せにな」
「お、おう」
大塚さんに言われると、学くんは少し困ったように返す。
学くんは、お父さんに言われて仕方なくだもんね。
それでもいいと決めたんだ。
あたしが好きなのは学くんだから。
あたしが学くんの妻たなった事実は変わらないから。
この先も一緒にいて、いつか好きになってもらえたらそれで。
だってあの時は、学くんだって……。
「ちとせ」
ふいに呼ばれた名前。
ずっと〝ちゃん〟づけだったのに、急にされた呼び捨てにドキドキするあたしの心臓。
「大塚がこれ貸してくれた」
にっこりと笑いながらあたしにひとつのボードを差し出す。
「これ……?」
あたしは大塚さんの方を見る。
「記念にどうぞ」
ボードには、今日の日付と〝結婚しました〟という文字。
ささやかだけど、心遣いが嬉しくて。
「ありがとうございます」
何度も何度も大塚さんに頭を下げた。
「お前ってバカみたいに正直だよな」
「バカみたいは余計です」
「そういうところが……」
何かを言いかけてハッとしたように口をつぐむ。
「学くん?」
「なんでもない。早く撮って行くぞ」
さっきまですごく優しい表情をしていて、あの時に戻ったみたいだったのに一瞬にして冷たい表情に早変わり。
「大塚、撮ってくれよ」
大塚さんにスマホを投げる。
「いいよ」
そんな学くんに慣れているのだろう。
大塚さんもすんなりと受け止める。
「ちゃんとかわいく映れよ」
「顔は変えれないですけど」
そりゃこんな記念の写真があるなら、もっとお洒落してきたのに。
知らなかったから普段着だし、メイクだって普通だ。
でも、自分の顔がブサイクではないけど平凡だってことも重々承知だ。
それでも、顔は変えれないから仕方ない。
「はいチーズ」
でも、この日を特別な日だって思ってるから。
大塚さんの掛け声に思いっきりの笑顔。
作り笑顔なんかじゃない。
好きな人と幸せになれると信じてるからこそ、出るこの笑顔。
「かわいいから。いまメガネしてないし」
「メガネしてたらブサイクってこと?」
〝かわいい〟なんてセリフ言われ慣れてないから。
ドキドキしてしまうのは仕方ない。
それにこの人はあたしの好きな人だ。
「メガネしててもしてなくてもお前は可愛いから、ずっと笑ってろ」
「……っ」
どうしてそんな事を言うのだろう。
こうして一緒に過ごしていれば、あの時みたいに通じ合える?
「大塚ありがとう」
スマホと引き換えに借りていたボードを大塚さんに渡す。
「おう。じゃあな」
「大塚。さっきのくれぐれもよろしくな」
「わかってる」
二人でなにやらあたしの知らない会話。
まぁ、あたしには関係のないことなのだろうと、気に留めていなかった。
「帰りますか、奥さん」
「うん。帰りましょうか旦那様」
「これからよろくね、ちとせ」
二人で言い合って、二人で笑う。
こんなふうに優しい時間が過ぎていくのは久しぶりだ。
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