結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ

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after story ~ふたりの小話~

後悔はさせない

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「バージンロード.......本当にお父さんと歩けるんだね」



結婚式を明日に控えた夜。



「当たり前だろ、親父はちとせのお父さんだよ」


「うん、そうなんだけどね。こんな日がくるなんて思ってなくて」



まだ、歩いていないのに、想像しただけでもう泣きそうだ。



「最初、ちとせが世間体のためにお父さん役を雇った方がいいとか言い出したときは、親父と顔を見合わせたよな」


「だって.......」



✱✱✱



「え!?お父さん役を雇う!?」



あたしが言い出した言葉に学くんが、目を丸くしている。



「ちとせ、それは俺じゃあ役不足ってことかな?」



眉を下げて、心配そうな顔になるお父さん。



「あ、違うの.......ただ、やっぱり学くんは立場もあるし、あたしに父親がいないとか世間体が.......「お前には父親はいるだろ、何言ってんだよ」



あたしの両頬をパチンと叩く学くん。



「でも、〝社長があたしのお父さんです〟なんて言われて〝はい、そうですか〟とはいかないでしょ?」



いくら、本当にあたしのお父さんだからって、本当のことなんて世間に知らせるわけにはいかないのだ。

あたしにお父さんがいないから、学くんのお父さんとバージンロードを歩いたってことにするしかない。

そうすると、やっぱり結婚相手のあたしにはお父さんがいないってことになる。



「俺が本当にお父さんであることはもちろん言えない.......でも、もしもちとせが俺の本当の子供じゃないとしても学と結婚した時点で俺は、本当の子供だと思って接するよ」


「.......お父さん」


「だから、自分には親がいないとかそういうことは考えなくていい」



本当は結婚式をすることにものすごく不安があった。

あたしには、お父さんどころかお母さんもいないから。
よくある、花嫁からの手紙をお母さんに読んであげることができない。

前に大学時代の友人の結婚式にいったとき、その手紙にすごく感動したのを覚えてる。



「なんか、他に不安なことあるのか?」



あたしの様子をみて、顔を覗き込んでくる学くん。



「.......手紙」


「手紙?」


「花嫁からの手紙ってよくあるじゃない?それもできないんだなぁって.......」



お母さんが生きていたら、だなんてもう考えることは少なくなっていたのに。
こうして、人生の節目にくるとやっぱり考えてしまう。



「そっか.......」



学くんが悩ましい顔になって、好きな人にこんな顔をさせたいわけじゃなかったのにと、胸が痛む。



✱✱✱



「ちとせ、手紙は用意できたか?」


「.......うん、でもよかったのかな?」


「お前、俺が考えた案にケチつけるつもり?」



フッと笑って、あたしの頭を撫でる。



「ううん、学くんの案凄く嬉しかったよ」



✱✱✱



結婚式の内容が大方決まったとき、学くんが「これを追加してほしい」と自分で書いたメモを持ってきた。



「え、これ?」



渡された紙をみて、あたしは学くんの顔を見上げる。



「どうしても、ちとせに笑っていて欲しいから」



そういう学くんに胸が暖かくなった。



「これを流そうと思ってる」



そう、学くんが流したDVDに映し出された映像は、お母さんに抱かれた赤ちゃん、そしてそれをみるお父さんと上の子であろう男の子。

まぎれもなく、あたしとお母さん、お父さんとタマだ。



「こんなのあるなんて、聞いてないよ.......」


「親父が待ってた。あいつこんなん隠し持ってるなんて聞いてねーぞ」



ははっと笑う学くんには、以前のような恨んでいる様子はない。



「これ、流していいの?でも、社長だってバレちゃわない?タマだって.......」



タマもいまでは、うちの会社で働いていて、持ち前の人当たりの良さから人気がある。



「似てるやつとでも思わせとけ。環に至っては幼いから大丈夫だろ。で、手紙読めよ。今はもういないお母さんへ」


「.......いいの?」


「ちとせが満足のいくような結婚式にしたいって言ったろ?夢なんだろ?手紙を読むの」


「うん」



学くんがあたしのために行動をしてくれているのがすごく嬉しかった。



✱✱✱



「手紙は、俺は当日の楽しみにしとくな」


「うん、泣いちゃったらごめん」


「いいんだよ。泣け泣け、そんで会場を感動させとけ」



ポンッとあたしの頭に乗せる手が暖かくて、この人にならずっとついていけるって思えた。



「学くんは、本当にあたしのこと分かってくれるよね」


「好きだからな。分かる努力をしてるだけだよ」


「あたしが言葉に出さなくても悩んでるとか、全てわかってくれるじゃん」



そんなの、努力したからってできるものでは無いと思うから。



「ちとせが高校生の頃から、ずっとみてきてるんだからな」


「.......うん」


「離れたって、ストーカーのように見てたわけだし」


「.......ストーカーって」



ずっと会ってない間も、あたしのことを見ていた学くん。
本人いわく、監視してたらしいけど。
たとえ、監視だとしてもみていてくれたことが嬉しいだなんて、少しおかしいのかな。



「なんでも、わかりないんだよ。ちとせのことは」



あたしの頬に手を触れる。



「たくさん傷つけたぶん、これからはたくさん愛すから。結婚したこと後悔なんてさせないから」


「うん。後悔なんてしない」



元々、あたしのことを好きじゃないと思っていたときも結婚できて嬉しかったくらいだ。

こんなに愛をもらって、後悔なんてするわけがない。

この人と、生涯生きていくんだ。

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