結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ

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after story ~ふたりの小話~

不安になったら、俺が溶かしてやる

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「なんだろう、これ」



家の掃除をしていたとき、学くんの書斎の机に置かれた白いもの。

机の上を片付けておくように言われていたので、その白いものを持ち上げる。



「.......え?」



その白いものの間から落ちてきた紙に一瞬自分の頭が白くなる。



〝学に、ぴったりな女性です。きっと気に入るでしょう〟と達筆な字でそこには書かれていた。

そばに置いてあった封筒を見ると、そこには学くんのお祖母様が差出人として書かれていた。

お祖母様の手紙の内容に、イケナイと思いつつも白いものを開く。



「綺麗な人.......」



これは、見たことがないものだけど。
なんなのかは、わかる。

お見合い写真だ。
相手の女性にも学くんの写真がいっていることだろう。

学くんのお祖母様に結婚の挨拶に行ってないわけではないし、再来週に行われるあたし達の結婚式にもお祖母様は出席される。

なのに、お見合い写真を送ってきた意図はなんなのだろう。



「認められてないってこと.......?」



そう思うと、途端に胸が苦しくなる。

いくら、他の会社の提携がなくてもうちの会社だけでやっていけるといっても、お祖母様的にはきちんとしたお家柄の人と結婚して欲しいということだろう。

できれば、みんなに祝福されて結婚したいけど、それは無理な話なのだろうか。

学くんも学くんで、書斎を掃除するように言うなら、こういったものは見えない所に置いて欲しい。
それとも、本当はやっぱりあたしとの結婚は嫌になってしまったのだろうか。

元々、自分に自信がないあたしは、どうしてもそんなふうに考えてしまうのだ。



「ちとせ?まだここにいたのか?」



あたしがこんなふうに思ってるなんて、学くんが書斎の扉を開ける。



「え!?ちとせ、泣いてる!?」



机の前にいるあたしをみて、大慌てで駆け寄ってくる。



「どうした?ちとせ」



あたしの顔を覗き込んで、親指で涙を拭ってくれる。



「.......これ」


「あぁ.......」



あたしが、お見合い写真を見せると、納得したような顔になる。



「学くん、本当はあたしと結婚なんてしたくなかったの?」


「は?おい、なんでそっちに話がいくんだよ!」



怪訝そうな顔になる。



「だって.......どうしても不安になっちゃう」


「あー.......ちとせを不安にさせてるのは、俺のいままでの言動だよな」



はぁっとため息をついて、あたしを彼の腕の中へと引き込む。



「学くん.......」


「俺が結婚したいと思ってるのは、ちとせだけだよ。これは、お祖母様が認知症で、よくわかんなくなっちゃってるだけで.......相手の女性にも電話して、謝っておいたんだ」



そっかと納得する部分もありながらも、それを全く知らなかったことで、あたしは彼から必要されていないのではないかなんて、考えが浮かんできてしまう。

自分に自信がないあたしは、こんな些細なことで自分のバランスが崩れてしまう。



「ちとせ、わかってくれた?」


「うん」



学くんに心配をかけたくなくて、こくんと頷くけど、そんなのはすぐに学くんに見透かされてしまう。



「どうしたら、安心できる?」



あたしの額に自分の額をコツンとくっつける。



「ぎゅってしてくれるだけでいい」



ただ、それだけで満たされる。
最近は、学くんの仕事は忙しいし、あたしは結婚式の準備に追われてるしで、お母さんのお墓に行って以来、二人の時間がもてなかった。

すれ違いの生活もあって、不安になってしまったのだろう。



「そんなの、いつでもしてやるよ」



フッと優しい表情で笑って「おいで」と、手を広げてくれる。



「学くんの腕の中が1番安心できるの」



そんな学くんの腕の中に飛び込むと、すぐにぎゅっと背中に腕を回してくれる。



「可愛いな、本当に。」


「さっきまで不安だったのが嘘のように溶けていくよ」


「これからも不安になったら、俺が溶かしてあげるから。溜めないで言えよ?」



あたしが育ってきた環境のせいで、人一倍孤独を感じやすいのを学くんがわかってくれようとしている。

そして、学くんがそんなふうに感じることのないように、振舞ってくれているのがわかるし、万が一今日みたいになったときは、察知してあたしの不安を解消しようとしてくれる。



「ありがとう、学くん」


「いままで、辛い思いさせたぶん、俺が幸せにするから。絶対、俺になんでも言えよ」



チュッと軽く口付けをしてくれる。



「うん、学くんと一緒に幸せになりたい」



あたしだけじゃなくて、きちんと学くんにも幸せになってほしい。
2人で幸せになるために、まだ未熟なあたしだけど、誰にも文句を言われないような妻になっていこうと誓った。

お祖母様の認知症が発揮されても、あたしのことをわかってもらえるような妻になるんだ。

もう、凹んでなんかいられない。


もうすぐ結婚式だ。
学くんの腕の中で守られてるおかげで、誰がなんといっても学くんの妻でいられる自信がつく。

だから、愛する学くんと一緒に。

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