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第二章~悪魔のことが好きなあたし~

親父が出した条件

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「そういう問題じゃねぇよ……」



あれから4年の月日が経ってもなにも変わっちゃいねぇ。
親父の考えも、俺の気持ちも。



「どうしてもわかってもらえないんだな……」



寂しそうな目をする親父。



「どうにか俺だけで、萌香さんの家を巻き込まなくできないのかよ……」



萌香さんまで犠牲になることはない。
泰治のことが好きなのに、俺と結婚するなんてそんなのはだめだ。



「じゃあ、留学しろ」


「……留学?」


「アメリカに行って経営学を学んでこい」


「アメリカ……」



いつかは海外で勉強することは考えてた。

でも、俺の頭によぎるのは心海のこと。



「何年かかるかはわからんぞ?その間、あのこと離れなきゃならないけど萌香ちゃんと結婚するよりはいいんじゃないのか?」


「日本に帰ってくる目安は?」


「お前の頑張り次第」



親父の目は本気だった。

一筋縄では心海と一緒にいることはできない。
そんなのは最初からわかってた。



「それが条件ってこと?心海と一緒にいる」


「そうだな……。海外経営学の資格、なんでもいいからまずはとってこい」


「まじか……」



いつかは取らないとならないと思ってた経営学の資格。



「なにも、MBAを取れとか難しいことを言ってるわけではない」


「MBAなんて言われたらさすがに神経疑う」



MBAなんて一体何年かかるかわからないくらいの資格だ。

でも、他の資格もなかなかの難易度だけど。



「取れるまでは向こうにいてもらう。その間、茅ヶ崎さんとの接触はできない。スマホ持たないでいけ」


「きっつ」


「それが条件だ。何年かかるかはわからないし茅ヶ崎さんの気持ちが変わらない保証もない。それでもやるか?」


「……やる」



もし、心海の気持ちが離れるならそのときはまた俺の方を向いてみせる。



「さすがだな。いつまでが目標?」


「大学卒業」


「あと四ヶ月か。道は険しいぞ」


「できる気しかしねぇ」



心海を本当の意味で手に入れられるなら、俺はガムシャラになれる。
すべてをなくしてでも、心海が欲しいんだ。




「正直、あの高校生のときの子のこと乗り越えられたのは親として嬉しいんだ。だから、茅ヶ崎さんには感謝してる部分もある」


「乗り越えられてなんかいねぇよ」



乗り越えられてたら、今頃心海とはいない。
また別の人といるはずだ。



「乗り越えられてない?」


「あぁ……。俺はいまも想ってる」


「まぁ、誰を想うのも自由だけど大切なうちの社員を傷つけないでくれよ」


「いや、傷つけようとしたの親父だろ」



どの口が言うかと思った。



「ははっ、それもそうだな」


「俺がいない間、心海のことよろしく頼む」



親父に向かって頭を下げる。



「お前に頭を下げられたのは、あの時以来か」


「あの時……」



最後にもう一日だけ、一緒にいさせて欲しいと願ったあの夜。



「あの時は自分のためだったけど、今度は茅ヶ崎さんのために頭を下げるんだな」



見上げた親父の顔は笑顔だった。



「親父……」


「息子の成長はやっぱり嬉しいもんだな。母さんも喜んでるだろうな、暁が女の子を大事にするようになって」


「……そうかもな」



高校三年。
母親の生まれ故郷に行って、アイツに出会うまで俺は女を取っ替えひっかえしてた。

そんな俺を心配してた母さんも今頃笑ってるかな。
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