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第三章~悪魔の気持ち~

また出会えるときがあれば、その時は

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「昼の便で帰るからな」



明くる日の朝。
親父が仏頂面で俺の前に立つ。



「……っ」


「1日やっただろ」


「……わかってる」



──やっぱり取り消してほしい。
そんな願いは聞いてくれるわけはない。
そんなの親父と今まで関わってきたんだからわかってる。
それが俺の親父だ。



「学校、昼まで行ってくるから」



親父に言い残し、制服を着て家を出る。



「この制服も最後か……」



たった2週間くらいしか袖を通さなかった。
制服を用意したのに、それも無駄にするなんてほんともったいねぇ。

でも、いままでもそういえば何でも無駄にしてきた。
別にもったいなくなんてなかった。

すべて、一時の暇つぶしだったんだ。



「心海に言わなきゃ」



──嫌われる一言を。

昨日スマホで撮ったふたりのツーショット。
俺も心海もめちゃくちゃ笑顔なんだ。
やっと心が通いあったんだ。

……でも、それも終わり。



✱✱✱



「……心海」



廊下で友達と話してる心海に声をかける。



「暁!」



笑顔で俺に向かってくる。

……傷つけたくなんかないのに。
でも、傷つく言葉を言わないと俺は離れられる気がしない。



「ちょっといい?」


「うん!」



俺の言葉に大きく頷く。

この素直で嘘を知らないような瞳が本当に大好きだ。



「あのさ、心海……」



空き教室に入って、ぎゅっと心海を抱きしめる。



「暁?」



こんなことしたら、もっと離れられなくなるのに。
でも、触れたかった。
もう触れられない体に触れたかった。



「俺、東京戻るな」


「……え?」



俺の顔をビックリして見るその瞳が揺れてる。



「最後に心海を抱きたかったんだ」


「……え?」



さっきと同じ返事をくり返す。



「田舎の女ってちょろいんだな」


「……っ!?」



心海の目が大きく見開く。



「東京にはさ、すんげぇ綺麗な彼女いんの。ほら」



前に誰だか知らない女と寝たときに、相手が勝手に撮った俺らの裸の写真。
こんな時に役に立つとは思わなかった。



「な、にそれ……」


「見ての通りだけど、わかんねぇ?」


「あたしは……?」


「お前わかりやすいんだもん。初めて見た時から遊ぶのにちょうどいいなって。俺は東京帰るの決まってたし、軽い気持ちでさ」



わざとらしく笑ってみせる。

本当は泣きたかった。

泣きそうな顔をする心海を抱きしめたかった。


──お前が好きだよ、お前だけだよ
そう言いたかった。


でも、俺の人生にそれは許されないことだから。



「ひどい……」


「俺さ、日本で1番でかい会社の御曹司なわけ。こんな田舎で一般人と付き合ったらどうなんかなーって思ってな」



いままで言ってなかった。
自分の家のこと抜きで見て欲しかったから。

自分の家のこと抜きに見てもらって、好きになってくれて。
それが初めてのことですげぇ嬉しかった。



「……それで、楽しかったの?」


「全然。やっぱさ、金使う遊びしか俺にはむいてないんだよ。だから彼女の元に帰るわ。待ってるしね、俺のカワイイ彼女が」



ペラペラと心海を傷つく言葉が出てくる自分の口が嫌だ。
でも、こうするしかなかった。



「さい……ってい!」



その言葉と同時に俺の頬に痛みが広がる。



「……にすんだよ」



心海に叩かれた頬。
その頬よりも心が痛かった。



「こんなのってないよ!こんなに好きにさせといて!」


「ふーん?そんなに好きになってくれたんだ?じゃあもう1回抱かれとく?ここで」


「もう大嫌い!!!」



俺を突き飛ばして、教室から飛び出す。



「嫌われちゃったー……」



笑いがこみ上げてくる。
乾いた笑いが。



「お前、なにやってんだよ。いま茅ヶ崎さん飛び出してったけど」



ひょっこり顔を出したのは、草太。



「……草太。俺、今日の昼には東京戻る」


「もしかして、親父さんにバレたのか?」



草太には全部話してた。
いつかこうなる時に1人くらい知ってくれてる奴がいた方が心が軽くなるから。



「あぁ。バレた。で……心海を傷つけた」


「お前……」


「俺はまだ、ガキだから……親父の言うことを聞くしかない。でも、本当は手放したくなんてなかった!あんなこと言いたくなんてなかった」



教室にある机を蹴りあげる。



「暁……」


「俺、どうすればよかった?なぁ草太……」


「わかんねぇけど……金持ちも大変なんだな」



俺が蹴り上げた机を草太が元に戻す。



「草太……お前だけは俺の本当の気持ち知っててくれ」


「わかったよ。俺が証明してやる。お前が茅ヶ崎さんに真剣だったって」


「さんきゅ。いつかお前も東京に遊びにこいよ!親父の会社に来たらあえると思う」



なぜか親父の会社で作られた俺の名刺を渡す。



「進藤コーポレーション!?」



草太が大きな声をあげる。



「声大きいって」


「いや、めっちゃでかいとこじゃん」


「まぁ、な……」



だから、あまり言いたくはなかった。
俺がでかくしたわけでもないのに、みんなすごいばっかり言うから。



「ま、お前はお前か。またいつか絶対会うぞ」


「あぁ」



草太という理解者がいたおかげで、なんとなく気持ちが少しは軽くなった。

心海の傷ついた顔を思い出すと胸が痛むけど。


また、いつか会える時があれば。
その時はすべてかっさらいたい。
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