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最終章~あたしの大事な人~

本気に決まってんだろ

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「誕生日おめでとう」


「……!覚えて!?」



自分でも忘れてた。
今日が誕生日なんてまったく忘れてた。



「当たり前だろ。1度も忘れたことなんてない」


「……暁」


「1度も祝えたことないけど、毎年お前が生まれたことに……出会えたことに感謝する日ではあったよ」


「……っ」



いつの間にか、この人はあたしが欲しい言葉をいうようになっていた。

いつだって、俺様だった。
強引で横暴だった。



「これ、もらって」



パコッと暁が開けた箱の中に見えるのは、雪の結晶がモチーフになっているネックレス。



「綺麗……」


「誕生日プレゼントなんだけど、いる?」



いらないなんて、言うわけないのに。
そんなことわかってるくせに、聞いてくる暁はやっぱり意地悪で悪魔だ。



「欲しい……です」


「じゃあ、家に入れてよ」


「あっ!」



暁の言葉にまだ彼が靴をはいたまま玄関にいることに気づく。



「ごめん、忘れてた」


「いやどう見てもここ玄関だし」



口角あげた表情をしている暁に、これはあたしがすきな俺様悪魔だなと感じる。

いつの間にか、あたしが好きなのは俺様な暁になっていた。
というか、初めからか。

高校生の頃からすでにこの俺様に惹かれてたんだから。



「解決した?」



部屋に入るとあたしの椅子に座ってる音哉。



「あ……」



音哉がいることすっかり忘れてた。



「その顔、俺がいること忘れてただろ?」



ポンっと持っていた小さな冊子であたしの頭を叩く。



「あ、それ……」


「俺と心海の思い出が詰まったアルバム」


「どこに!?」


いままで1度だってこの部屋で見たことない。
見つけていたら、思い出してたはずなのに。



「俺が持ってた。いつも持ち歩いてた」


「いつも?」


「ん。俺のなんかお守りみたくなってんだ。だから、これからもこれは俺が持ってるから」



そのインデックスで分割された写真が入った小さいアルバム。
すごくミニサイズだから、音哉はシャツの胸ポケットに入れる。



「え、でもあたしも……「俺との思い出じゃ不満なわけ?」



暁があたしの言葉を遮って、あたしと音哉の間に立つ。



「おーおー、本調子だ。こりゃ」



椅子から立ち上がる音哉。



「音哉、色々ありがとう」


「おう。もう手放すなよ」



暁のことを見つめる。



「はい。もう後悔したくないので」



ぎゅっとあたしの手を握る。



「心海も。これからはこの御曹司を頼れよ」


「うん。いつも迷惑ばかりでごめんね」


「なんも。じゃ、俺帰るな」



ドアに向かう。



「心海のことありがとうございました」



ぺこりと音哉の背中に向かって頭を下げる。



「つぎ傷つけたら、遠慮なくもらうからな」



ふっと笑って、ドアを開けて帰っていく。



「いいやつだよな……あいつ」


「……うん」



我ながら、いい人を好きになったもんだと思う。



「あのさ……」



暁があたしを見つめる。



「ん?」



暁にみつめられるだけで、あたしの心臓は正直ものだからバクバクいって止まらなくなる。
いつか心臓がおかしくなってしまいそうだよ。



「俺、自分勝手なんだ」


「は?」



何を今更と思って、声が大きくなってしまった。



「昨日からあいつといたんだろ」


「へ?音哉?」


「ん。飛行機乗る前に心海に電話したときに出たのが先輩だったから……」



少しふくれっ面で話す暁。



「もしかして嫉妬?」


「なっ……。いや……うん」



だんだん語尾が小さくなっていく暁。



「なんか可愛くなった?」


「うるせーよ。お前のこと、何年好きだと思ってんだよ」


「……っ」



今の言葉はときめいた、キュンときた。



「やっと本気でお前にいけんだよ」


「いままで本気じゃなかったの?」



あたしの言葉にムッとした表情になる。



「本気に決まってんだろ」



ぐいっと腕を引っ張られて、暁の腕の中にすっぽりうもる。
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