Observer ー観測者ー

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ミレル・レヴィア

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「人類の生存確率は?」
少し騒がしさが残る。
マイクを通じて拡大された声が、希望の薄い未来に夢をみようと縋るような質問だった。
「限りなく低いと思われます。人類生存確率Aクラスでもパーセンテージは4~6…。」
Bクラス、1.5~3パーセント、Cクラス、0.5~1パーセント…。
絶望的な数値が淡々と読み上げられていく。
そこにいる世界のトップ達は全員顔が死んでいて、まるで世界の葬式みたいだと思った。
「宇宙船に乗り込むことの出来る人数は?」
「おそらく10億人が限界かと。」
「ふざけるな!!この地球上には今137億人も居るんだぞ!残りの127億人を見殺しにするのか?」
1人の科学者がそう怒鳴った。そうすると他の科学者や政治家、研究者達も連なるように各々の意見を叫び始めた。
しばらく収集がつかなく、私はそんな様子をぼんやりと眺めた。
「クソ!…冷凍人間!!お前の意見を聞かせろ!人類の命運は“お前達”にかかっているんだぞ!」
そんな状況に痺れを切らしたのか、怒り任せの理不尽な問いを乱暴にぶつけてきた。
全員の狂気に満ちた視線が私たちに集まる。
ああ、なんなんだこのクソジジイ達は。
いい歳こいた親父がこんなに無様に叫び散らして恥ずかしくないのか。
さらに責任転嫁も甚だしい発言にも、いい加減恥を知って欲しい。
奥歯を食いしばった。荒んだ言葉は喉まで出てきていた。
「…そろそろ現実を見つめる時期なのではないかと。10億人が限界なら、その10億人に全てを賭ける。それでお終いにしませんか?」
クソジジイ共を沈めたのは私ではなく、彼だった。
銀縁のメガネの隙間から、凛としたエメラルドグリーンの流し目が牙を剥く様だった。
「貴方たちが可愛がっているのは所詮自己だ。顔も見た事のない、そもそも存在しているのかすら曖昧な人種も年齢も違う赤の他人のことなど眼中に無いくせにエゴに浸るな。」
彼は続ける。
「全人類のDNA採取は既に終了しています。これからは宇宙船に乗る人類の選定と教育が不可欠かと。」
その発言でこの日の議会は解散だった。

地上600メートルのビルから地上を見渡す。
所々からは狼煙が上がり、文字通り世紀末を表しているようだった。
「本当、うんざりするな。」
そう言いながら彼は彼と同じ温かいカフェオレを私に差し出した。
「さっきはごめん…。私、感情的になるところだった。」
私の隣に腰かけカフェオレに口をつけた。
彼、サイ・リカールは私の婚約者であり、世界最大の宇宙研究施設、TEARS WAYの数少ない同期の一人でもあった。
「来年の今頃、私たち本当に冷凍されちゃうのかな。」
私も彼を真似るようにカフェオレに口をつけた。想像していたよりも甘かった。
「そりゃそうだろ。俺たちが最後の希望、みたいなところは少なからずあるんだから。」
なにそれ、そう言って笑いたかった。でも笑えなかった。
ビルの窓越しに、空を眺めた。
清いほどの青空。この空の奥に、私たちはこれから飛び出す。
私なんかが冷凍されていいのかな。最近そう悩むことが増えた。
地球では多少優秀であっても、何百年か何千年かの未知の未来に新しい惑星に突然放り出される私…。もしかしたら何の役にも立たないのではないか。
今冷凍人間への理解を進める教育をしていたとしても、未来の人類に私が気持ち悪いミイラと認識されればそこまでだ。
炙り殺されるかもしれない、拷問を受けるかもしれない、なにかの実験にされるかもしれない。
そもそも、未来にたどり着く前に故障して死ぬかもしれない。
苦しい怖い不安辛い辞めたい、逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい。
「新境地で、結婚しよう。」
「… … …え?」
サイは私を真っ直ぐ見つめた。
「未来のどこかで、未来人に囲まれて結婚する。こんな大層なご時世だ。俺たちにふさわしい。」
何か言いたかった。自分の本当の気持ちがすぐに出てこなかったとしても、ありがとう、とかなにか簡単な感想を述べる言葉だけで十分だったのに、私は涙を流すことしか出来なかった。
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