4 / 5
観測室
しおりを挟む
ケイは脅威の生命力で、ピッタリ4ヶ月が経過するとほとんどの損傷が回復していた。
全てのギプスや包帯が取れ、つい先日トレーニング許可も降りたという。
彼は自分も怪我をしていながらも、毎日お見舞いに来てくれていた。ケイが話に来てくれるから退屈しなかったのは事実だった。
私、アルダも順調に回復してきている。
まだ点滴は手放せないが、毎日のリハビリをこなし、自力でほとんどの私生活を送れるようになってきていた。
「よう、アルダ。体調はどうだ?」
「まあまあ。ケイはこれからトレーニング?」
今日も私の病室まで来てくれたケイ。もう病衣ではなく通常の軍服にタンクトップという姿だった。
私よりも頭2つ分程高い身長に、さっぱりとした短髪。ぱっちりとした瞳は光を取り戻していたように見えた。
しかし4ヶ月身体を十分に動かしていないとなると、筋肉は衰えかなり細くなっていた。
「なんか痩せたね。」
「まあな。…4ヶ月分の筋肉、早く取り戻さないとここに居られなくなる。」
そう言われて、私も自分自身の身体を見渡した。街にいる女の子と変わらないくらいか細くなってしまった腕、胴、足。
「…私も早くトレーニングしないと。」
「何言ってんだよ。まずは怪我全部治すところからだろうが。自分のペースでいいんだよ。」
軽口のようにそう言って額を軽く押してきた。
「アルダちゃん!あら、ケイも。」
いつも通り白衣を纏ったミレル博士だ。
・
「案内したい所って、なんですか?」
あの後少し雑談しケイには、女の子の秘密、と称して席私たちはを外した。
「まあまあ、あと少しで着くからちょっと待ってよ。アルダちゃん、毎日リハビリばかりで他に何もやることないでしょ?退屈じゃないかなーと思ってね。」
軍事本部から、今はもう使われていない旧軍事司令塔へと連絡通路を通じて向かっている。
旧軍事司令塔は、今の軍事本部と同じく役割を果たしていたらしいが、現在はほとんどが倉庫代わりとして使われているそうだ。
普段は基本的に立ち入り禁止にされていて、私たち以外の人気は全くない。
白い床、壁、天井が続いて無機質な古い空調の音とミレル博士のヒールが鳴る音だけが響く。
点滴を押す私に歩調を合わせてくれているミレル博士をチラリと横目で見た。
ミレル・レヴィア博士は冷凍されていた先祖ニンゲンだ。なので容姿も私たちと少し違う。
175センチ近くあるだろう身長に、相反して身体は酷く薄くきっととても軽いはずだ。
真っ白い肌に細長い手足。パッチリとしているのに切れ長の瞳。美容に疎い私が分かるくらい化粧だって、どこか独特だった。
この世で唯一、故郷の景色を知る人間、それがミレル・レヴィアだった。
当初はそう考えると、どこか恐ろしく自分が対等に会話すること自体に不安感を覚えていたが、関係を築くにつれてその感情は消えていった。
雑に束ねたストレートロングの髪。薄手のキャミソールに、白衣をワンピースのように纏っている。
きっと私は歩けないだろう高いハイヒールを履いている。
彼女の感性は独特ながらも、とても優しい心の持ち主だと私は評価している。
ただ時々、表情が無くなるときがある。表情が無くなるというのは、全ての感情が消えうせた「無」というか、瞳に光が無く博士だけの時間が止まってしまっているような感じだった。
彼女はただ1人の故郷のニンゲン。彼女の家族や友人だった人達はとっくの昔に死んでいて悲しいのかもしれない…と私は勝手に考えていた。
目的に到着したようで、彼女は南京錠の掛けられた扉に鍵を刺した。そして重い鉄の2枚扉を両手で開けて私をエスコートしてくれた。
「…すごい。」
かなり広い空間だった。ガラス張りの天井に、部屋の中心にあるのは…巨大な鉄の塊。
部屋は空に浮かぶ恒星の青白い明かりで照らされていた。
「あ、アルダちゃんはこれ見た事ないよね?これは望遠鏡っていうんだよ。」
ミレル博士は望遠鏡近づき、それに触れた。
「その…望遠鏡、というのは宇宙を眺めるものですか?」
一瞬キョトンとした顔をした博士はそのあと少し笑った。
「宇宙を眺めるって、なんだか不思議な言い回しだね?でも正解。ここの部屋は5000年前の宇宙船を何百年もかけて改造して作られた空間なんだよ。」
望遠鏡の周りには散乱した書類、長い間眠っていたような、不思議な器具たち。
しんとした静寂が漂う。
まるでずっと時が止まっていたような不思議な空間だった。
「宇宙は眺めるんじゃなくて、観測するんだよ。」
全てのギプスや包帯が取れ、つい先日トレーニング許可も降りたという。
彼は自分も怪我をしていながらも、毎日お見舞いに来てくれていた。ケイが話に来てくれるから退屈しなかったのは事実だった。
私、アルダも順調に回復してきている。
まだ点滴は手放せないが、毎日のリハビリをこなし、自力でほとんどの私生活を送れるようになってきていた。
「よう、アルダ。体調はどうだ?」
「まあまあ。ケイはこれからトレーニング?」
今日も私の病室まで来てくれたケイ。もう病衣ではなく通常の軍服にタンクトップという姿だった。
私よりも頭2つ分程高い身長に、さっぱりとした短髪。ぱっちりとした瞳は光を取り戻していたように見えた。
しかし4ヶ月身体を十分に動かしていないとなると、筋肉は衰えかなり細くなっていた。
「なんか痩せたね。」
「まあな。…4ヶ月分の筋肉、早く取り戻さないとここに居られなくなる。」
そう言われて、私も自分自身の身体を見渡した。街にいる女の子と変わらないくらいか細くなってしまった腕、胴、足。
「…私も早くトレーニングしないと。」
「何言ってんだよ。まずは怪我全部治すところからだろうが。自分のペースでいいんだよ。」
軽口のようにそう言って額を軽く押してきた。
「アルダちゃん!あら、ケイも。」
いつも通り白衣を纏ったミレル博士だ。
・
「案内したい所って、なんですか?」
あの後少し雑談しケイには、女の子の秘密、と称して席私たちはを外した。
「まあまあ、あと少しで着くからちょっと待ってよ。アルダちゃん、毎日リハビリばかりで他に何もやることないでしょ?退屈じゃないかなーと思ってね。」
軍事本部から、今はもう使われていない旧軍事司令塔へと連絡通路を通じて向かっている。
旧軍事司令塔は、今の軍事本部と同じく役割を果たしていたらしいが、現在はほとんどが倉庫代わりとして使われているそうだ。
普段は基本的に立ち入り禁止にされていて、私たち以外の人気は全くない。
白い床、壁、天井が続いて無機質な古い空調の音とミレル博士のヒールが鳴る音だけが響く。
点滴を押す私に歩調を合わせてくれているミレル博士をチラリと横目で見た。
ミレル・レヴィア博士は冷凍されていた先祖ニンゲンだ。なので容姿も私たちと少し違う。
175センチ近くあるだろう身長に、相反して身体は酷く薄くきっととても軽いはずだ。
真っ白い肌に細長い手足。パッチリとしているのに切れ長の瞳。美容に疎い私が分かるくらい化粧だって、どこか独特だった。
この世で唯一、故郷の景色を知る人間、それがミレル・レヴィアだった。
当初はそう考えると、どこか恐ろしく自分が対等に会話すること自体に不安感を覚えていたが、関係を築くにつれてその感情は消えていった。
雑に束ねたストレートロングの髪。薄手のキャミソールに、白衣をワンピースのように纏っている。
きっと私は歩けないだろう高いハイヒールを履いている。
彼女の感性は独特ながらも、とても優しい心の持ち主だと私は評価している。
ただ時々、表情が無くなるときがある。表情が無くなるというのは、全ての感情が消えうせた「無」というか、瞳に光が無く博士だけの時間が止まってしまっているような感じだった。
彼女はただ1人の故郷のニンゲン。彼女の家族や友人だった人達はとっくの昔に死んでいて悲しいのかもしれない…と私は勝手に考えていた。
目的に到着したようで、彼女は南京錠の掛けられた扉に鍵を刺した。そして重い鉄の2枚扉を両手で開けて私をエスコートしてくれた。
「…すごい。」
かなり広い空間だった。ガラス張りの天井に、部屋の中心にあるのは…巨大な鉄の塊。
部屋は空に浮かぶ恒星の青白い明かりで照らされていた。
「あ、アルダちゃんはこれ見た事ないよね?これは望遠鏡っていうんだよ。」
ミレル博士は望遠鏡近づき、それに触れた。
「その…望遠鏡、というのは宇宙を眺めるものですか?」
一瞬キョトンとした顔をした博士はそのあと少し笑った。
「宇宙を眺めるって、なんだか不思議な言い回しだね?でも正解。ここの部屋は5000年前の宇宙船を何百年もかけて改造して作られた空間なんだよ。」
望遠鏡の周りには散乱した書類、長い間眠っていたような、不思議な器具たち。
しんとした静寂が漂う。
まるでずっと時が止まっていたような不思議な空間だった。
「宇宙は眺めるんじゃなくて、観測するんだよ。」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる