是非もない

kokorononekko

文字の大きさ
4 / 5

再会

しおりを挟む
 父誠一の職場である文部科学省に着くと、カレンはすぐに車で別の所に連れていかれた。国の研究機関だというそこは広く、建物へ車でたどりつくのにもかなりの距離があった。車寄せに誠一が停車させると、白衣姿の男性が近づいてくる。

「こんにちは。よく来てくれたね」
 助手席のドアを開けて、男性はやさしい笑みをむける。
「すいません、ありがとうございます」
「佐々木、連れてきてくれて感謝する」連れてきてくれて……?カレンはとまどいながら車を降りた。
 誠一は運転席からまわってきてカレンの横に立った。男性とは対照的に渋い顔をしている。
「ああ……。カレンこちらは大学からの友人で山路。ここの研究所の所長をしている。挨拶して」
「佐々木カレンです。はじめまして」
 山路がカレンをまるでこの世で初めてのものを見るかのように、興味をもって見つめてくるので、カレンはおもわず父の陰に隠れた。山路はようやく自分の無粋に気が付いたようで、カレンから視線をそらせた。
「とにかく中へ」山路は二人を中に促した。誠一はやさしくカレンの背中に手をあて、建物の中に導いた。

 山路所長と誠一に続き研究所とよばれる大きな建物の中に入ったものの人気はほとんど感じられない。カレンは怖くなって父の腕をつかんだ。
「ここは、あたらしい研究プロジェクトを立ち上げたため、前研究職員と総入れ替えになってね……。今は立ち上げメンバー数人しかまだいないんだ。この部屋は前室といってね――」靴音を建物内に響かせながら山路は説明を続ける。
「何の研究を始めるんですか?」
「そうだね……カレンくん。エベレストの頂上とここでは時差が存在するのは知ってるかい?時差と言っても地理上の時差ではなく、物理的な時差のことだよ」
「タイムスリップってことですか?」なんとなく聞いたことはある。
「そう。時間の遅れ現象は、2つの状況下で起こる。1つは、地球など巨大な物体の近くにいるほど、時間の進み方は遅くなるというものだ。つまり、エベレストなどの高い位置では時間はわずかだけれども、早く進んでいる。もう一つは静止している状態では、動いている状態と比べて時間が速く進むというものだ。ロケットや航空機などですでに証明されている。もちろん人間の営みの時間から言ったらごくわずかな時間だ。でももしその時間を効率的に生み出さることが可能だったら?そういう研究施設を作ろうと思っていた矢先に――」そういいながら山路は奥にある扉を開けてカレンを中へと促した。

 その部屋に一歩入ってあっと驚きの声を上げた。向かいの窓辺に男性が一人たっている。逆光の中でもすぐにわかった。“彼だ”

「我々の中に彼がすぐに現れたんだよ」
 カレンの後ろで山路言った。その声は信られないと言った震えを帯びていた。





 





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

処理中です...