是非もない

父の存在

「カレン、今いいか？」
　優希と今年から同じクラスになった美玖とランチ中、父から電話がかかってきた。
　カレンは二人に「父から」と断って廊下に出る。
「えっと、何？」
「今日、放課後こっちに寄ってほしいんだが」
「え？パパの職場に？」
「……会わせたい人がいるんだ」
「会わせたい人？わかった。あの、パパ。ごめんなさい、あたし今日遅刻してしまって……、その担任の先生からパパに連絡が行くことになっているから」
「担任って、生田先生から？」
「そう。少し連絡は遅くなるって」
「わかった。先生に携帯の方に連絡してほしいと伝えてくれるかな？今日は遅くなりそうだから……」
「うん、わかった」
「省に着いたら受付に声をかけて、伝えておくから」
「うん、何か持ってきてほしいものとかある？」
「いや、大丈夫だ。学校が終わったらすぐに来てほしい。遅刻の件も今夜話そう」
「わかった」

　父との手短な話を優希と美玖に話すと美玖がはしゃいだ声をあげた。
「それって、あれでしょ？」
「あれって？」
「カレンのパパ、再婚考えてるんじゃない？」
　カレンは思わす箸でつかんでいた卵焼きを床に落とした。
「あー、もう。何やってんのよ」優希の方にころがったそれをてばやくティッシュで拾いあげる。
「いいなぁ。もしかしたらかっこいいお兄ちゃんとかもできるかも」
　妹と姉妹の美玖は心底羨ましがった。
「再婚……。でもそんなそぶり全然……」
「職場の人なんじゃない？いつも一緒に働いてるからカレンには気づきにくかったのかも」
「……」
　カレンは最近の父の行動をす頭の中でチェックした。仕事が忙しいと言って休日出勤はしていたけれど、遅くても10時くらいには家に帰っていたし、出張とかもまったくない。母が亡くなってから父は配置換えを希望してずっとカレンの側にいられるようにしてくれた。カレンが高校生になった今もそれは変わっていない。
「まーだわかんないじゃん。それにカレンパパってかっこいいけど色恋に興味なさそう。まだ指輪はめてるし」優希は先走る美玖を諫めるように言った。
「そ、そうよ。パパまだ指輪はめてる」
「ふーん、じゃあないか……」
「なんであんたががっかりするのよ」
　優希は美玖にあきれて言った。