是非もない

kokorononekko

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反省文

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 公立の進学校であるがゆえ、カレンの通っている高校は遅刻にはとても厳しい。一度でも遅刻すると、反省文を書いて生徒指導室へ提出、さらに担任から親へ連絡もいくことになっている。

「反省文書けた?」
 声をかけてきたのは2年連続同じクラスになった桐嶋優希だ。
「うーん、もう少し」
 携帯で定型文を確認しながら、カレンはA4用紙の3分の2くらいまで書き上げていた。
「いっつもぎりぎり間に合ってたのに今日はどしたのよ?」
「駅の階段でつまづいて、死にかけた」
「あらら。その割には無傷じゃない」
「うん、前にいた人が抱きとめてくれてね……」
 彼に抱きとめられた体の感触、匂い。未だにカレンに残っているかのように感じられる。

「若い、男の人?」
「教えない」
「ふーん、そうなんだ」
「なんにも言ってないでしょ」
 優希はとてもサバサバしていて男っぽい性格であるけれど、彼氏持ちだ。優希の彼は隣のクラスの藤井聖。バスケ部に所属していて、優希と付き合っていても女子からとても人気がある。どっちもサバサバした性格なので、二人の甘い雰囲気などは見たこともないけれど、当人同士はもちろん、周囲も二人はつきあっているとの認識だ。

「ね、どんな人だったか言ってみてよ」
「別に……連絡先とか、全然わからないし」
「また会いたい?」
「ちゃんとお礼したかったなってだけ。なんせ受け止めてくれなかったら大けがしてたと思うし……」

「なんか安心した」優希はカレンを見てにまりと笑う。
「何が?」
「あんた告られてもことごとくぶったぎってたからさ。そういう顔もするんだ……ってね」
「そういうんじゃないから」

「ね、生活指導室一緒に行ってあげる」
「ありがと。優希は生活指導室行ったことあるの?」
「1回だけね」
「理由は?」
「教えなーい」
 カレンは口をへの字に曲げながらも、付き合ってくれる友に感謝しながら書き上げた反省文を手に廊下を歩いていた。向こうから担任の生田ゆり子が歩いてくるのが見える。

「生田先生」
「佐々木さん」
 言いたいことはわかっているという顔だ。生田先生は言葉だけではなく、いつも生徒の表情をみて読み取ろうとしてくれる。
「遅刻してすいませんでした。父にはもう連絡されたのですか?」
「まだよ」
「もう遅刻はしないので、父への連絡は今回は見逃してくれませんか?お願いします」カレンは深く頭を下げる。
「決まりだからあなただけ特別扱いはできないわ。でも、そうね……、連絡するのは今夜少し遅い時間になるかもしれない。学校から連絡がある前に自分からまず報告したらどうかしら」
 ゆり子は、カレンの腕に触れた。気遣われているのが伝わってくる。30代前半だと思うが、きれいで華奢なのに指導力があって生徒に信頼されている。カレンも生田先生が好きな多くの生徒のうちの一人だ。
「カレンの親父さんってそんなに怖かったっけ?」
 今のやりとりを聞いていた優希は不思議そうに尋ねてくる。優希は何度かうちに泊まりにきたこともあって、父誠一ともその都度会っている。
「そういうわけじゃないけど」カレンは肩をすくめておどけて見せた。
「がっかり、させたくないだけ」言葉を続けるとじんわり涙が出てきた。遅刻したのは自業自得なのに……。
「すいません」カレンは横をむいて慌てて涙をぬぐう。
「佐々木さんはお父さん思いなのね」
「カレンの親父さんはスーパー主婦なんですよ~。料理とか洗濯家のこと全部やってる上に、仕事は文部科学省勤務」
「もうっ、あたしだって家事はやってるから」
「具体的になによ?」
「洗濯物取り込むとか、部屋の掃除器がけとか……」どれも毎日やっていることではない。カレンには母親がいなくても、そのことで苦労させたくないというのが誠一の考えだからだ。カレンが小さい時からこなしてきた家事を、カレンが大きくなった今も父はそのままこなしていて、自分流に家事を楽しんでいるようにも見える。
「佐々木さんのお父さんはイクメンなのね、しっかりね」ゆり子は再びカレンの腕に手を添えた。

 やっぱりもう少し家事を手伝ったほうがいいかも……。今のやり取りでのゆり子からの評価を気にしたカレンは自分を改めなおすのであった。
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