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顧問2年目08月
顧問2年目08月 4
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「で、何があったんだ?」
ずり下ろしていたハーフパンツを履きなおし、筒井とともに教師用の宿泊室へ入ると、川崎が畳の上で正座して待っていた。ここは合宿中に立成が泊まるための部屋として使用している部屋だ。
「あ、すみません立成先生、お呼びしちゃって」
「別にいいけど・・・・よっこらせっと」
「やめてよ、おっさんくさい・・・」
今朝からだらしなく敷きっぱなしにしていた布団の上に胡坐で座り、4畳ほどの狭い空間で川崎と向かい合う。立成に付いてきた筒井も川崎の横に腰を下ろした。
さて、こいつのは相談とやらは一体なんだろうか。
教師を呼び出してまでしたいという相談なのだから、深刻な事だろうと推測する。
もしかしたら、部活をやめる、とかか?
新部長になって思い詰めている?まぁ、ありえなくもないか。
だが、部活中のコイツの言動を見るに、そういう気配は無い。毎日部活には来ているし、部員たちを彼なりにまとめようとしている。後輩の指導にも熱心だし、自分の練習時間の確保のために自主練習だってしている。
そんな川崎が、部活をやめたい、なんて思っているとは思えない。
隠しているという可能性もないではないが、立成だって腐っても教師歴は10年くらいある。
そのくらい思い詰めている生徒の考えは見抜ける、はず・・・・だと思っているのだが・・・
「あの・・・・」
「なんだ、はっきり言うんだ」
しっかりと顔を合わせようせず目線も逸らしている川崎の顔を下から覗き込むようにする。
がっしりとした顎にデカい鼻、口元にも顎にも無精ひげ。濃い眉が吊りあがっいる。厳つい顔の男がそんなことをすると、因縁をつけようとしている『や』のつく職業の輩のようで迫力満点だ。
「ちょっと、先生、それ怖いから・・・川崎も、ちゃんと先生の方見ないと・・・」
「あ、すみません・・・」
「悪い・・・」
筒井の窘めでなんとか顔を元の状態に戻すと、川崎もようやくこちらを見てくれた。
「その、ですね・・・」
とはいえ、それでも切り出さなかった。
こうなったら持久戦だ。
話したく無い奴に話させても仕方ない。
こちらが急かしたとて、それが本音かどうかだって怪しいだろう。
(ねぇ、先生から聞かないの?)
(聞いても仕方ねぇだろ、コイツが話さねぇと)
(そうだけどさぁ)
無言の川崎を見守りながらも、筒井と目線だけで会話する。
そんなことをしながらもゆっくりと時間の流れに身を任せていたら、とうとう川崎が口にした。
「俺、先月から・・・彼女できたんです」
「!?」
2人、立成と筒井が顔を見合わせる。
川崎があまりにも突飛なことを言い出されたため脳内の処理が追い付かなかった。
これだけ申告しずらい雰囲気を出しているのだから、さぞかしネガティブなことを告げられるだろうと思っていた。だからそういう心構えで、そういう対処をするつもりでずっと待っていたのだ。
それは筒井も同じだろう。後輩の新部長がどれだけ辛い思いをしているのか。それにどれだけ苦しみを和らげられるか。そのために何ができるのか。
2人がそんなことを考えていたというのにこんなことを言われてしまえば、3流コメディのようにずっこけてしまいそうにもなる。
「・・・っと、えっ、本当?知らなかった!!やったじゃん!ね、先生?」
「んあ!?あ、ああ。そ、そうか。それは・・・・よかったな・・・・」
「へへ、どうもっす」
頭を掻きながら2人を見返す川崎。
すっきりしたのか表情も柔らかくなっていた。というよりも、その顔は言いづらかったことを話したことによる解放感と、たった今噛みしめている幸福感がいっぱいであるように見えた。
そんな川崎を素直に祝福する筒井。一方立成はというと。
(・・・ぬぁんだこいつ!彼女なんか作りやがって!俺への嫌味か?)
じっくりと思いやって待って待って、蓋を開けたら彼女ができました、となれば、先ほど自分の婚期を気にしていた立成にとっては不意打ちの攻撃を食らったようなものだった。
10歳以上年の離れた少年からの彼女できました宣言。
それに対して八つ当たりとしか言えない大人げなさすぎる憎しみがフツフツと湧き上がってきてしまう。
こちとら32年も彼女を作っていないというのに!
・・・いや、彼女ができなかったというのに!!
「どうやって付き合い始めたの?てか、相手はどこの子?」
「中学時代の同級生なんですけど、この前遊んだときに・・・」
「遊んだときに?」
「その、告白されて・・・」
「えー、相手からなの?やるじゃん!」
「いや、そんな・・・えへへへっ」
高2と高3がじゃれつくようにはしゃぎだす。顔を赤らめながらはにかむ新部長と、それを弄り倒す旧部長。
コメディが終わったと思えば今度は青春小説でも始まったのかと思えるような甘酸っぱいやり取りだ。
32歳のおっさん一歩手前(?)である立成からすれば、あまりにもアオハルすぎる盛り上がりで目の毒、耳の毒、心臓の毒だ。とんでもないことだ。よそでやってくれ。
「・・・で、それで。俺に相談ってのは何なんだよ」
トントントン。知らず知らずのうちにハーフパンツからはみ出た自分の膝頭を、指の腹で叩いている。
立成がイライラた時にしてしまう癖の1つだった。
一応、教師なのだから生徒にあたっても仕方のないことなのだが、どうしても言動に現れるのを防ぐことができなかった。そもそも、許せない。何でこいつらばっかりで、俺は・・・
「まぁまぁ。先生落ち着いてよ」
どうどうどう、と暴れ牛を落ち着かせようとしているかのように筒井が立成を宥める。
急に女関係の話をしだした川崎に対して、立成が内心ではイラつきだしたことを察したのだろう。
それがわかっているから、その筒井の顔と言えば、ぷっと吹き出しそうになるのを必死に堪えた顔だ。
そんな筒井の顔は、横にいる川崎からは見えず、正面にいる立成からは丸見えだ。
立成の過去の女性関係事情(といっても、悲しいことにそういう『関係』が無かったことの事情であるが)を全て把握済みの筒井からの、『男子高生でも彼女ができているのに、先生は未だに・・・』という、上から目線での憐みの顔なのだ。
くそっ!この野郎めっ!!屈辱だ・・・!!
「で、相談ってなんなの?」
「先生に・・・教えもらいたいんです」
「何を」
川崎に対して思わず低い声で返していた。
さすがに筒井がぎろっと睨む。
立成としてもそこまで感情ムキ出しにするつもりもなかったため、大人気がなさすぎたか?とごまかすように空咳をしてお茶を濁した。
そんな立成に目を合わせて、川崎が言った。
「俺に、女の子とのキスの仕方を教えてください!!」
・・・・・・・・・・・・・・?
沈黙。
静寂。
無音。
またも、どれだけ時間が経っただろう。
あっけにとられるというのは、こういうことを言うのだろう、か。
何を言ってるんだ??
さっきまで呑気に立成のことを笑っていた筒井も、川崎の言葉を聞いて同じようなことを思っている顔をしている。
「あの、その子とは付き合いだしてから何回かデートしたんですよ。先週も映画館行ったし・・・で、次のデートあたりで、その・・・」
そこで区切られた。
立成は先ほどまでの苛立っていたというのに、思わず生唾をゴクリと飲み込む。
その、なんだ・・・?
「・・・キスまで、したいなって・・・」
そこまで言った川崎の頬が染まる。
聞いている立成の方まで、顔がカーッと赤くなってしまった。
いつしか自分が忘れてしまった、みずみずしいまでの十代の思春期といいうものを、何の前触れもなく眼前に差し出されてしまった。立成が経験したことのない、10代にしか経験できない、10代同士の瑞々しい恋愛・・・
そんな立成の思いなど知るはずもなく、ポツポツと語り出す川崎。
「でも・・・俺、恥ずかしいんですが、女の子と付き合ったことないし・・・ても、当日ミスっちゃったらかっこ悪いし・・・なので、先生に教えてもらおうと思って」
それ以降の話は立成の頭にはあまり入ってこなかった。
「お願いします!」
気が付いたら川崎は両手をついて頭を垂れる。
恥もプライドも捨てた頼みだ。この年頃の男子が、こんなことをあけすけに語り、こんなことをしてまで教師に頼るなんて相当のことだ。普通なら大人に打ち明けることなんてないことだ。
しかし、そう感じているとはいえ、そんな17歳の少年の後頭部を見ながら立成が思うことはただ1つ。
(キスを教えろだと~?)
そんな川崎とは対照的に、恥もプライドも捨てきれない立成は怒りと屈辱で紅潮する。
それと同時に、額にも眉間にも目尻にも頬にも、顔中のいたるところに皺が寄っていた。かつてないほどの険しい顔に勝手になってしまっていた。
(お、俺だって女の子と付き合ったこともやったことも無えっつーの!!)
脳内で叫ぶ。絶叫する。訴える。あらん限り。
何だコイツは!
なーーーーんで、俺にそんな事を言うんだ!
大体、なんで俺なんだよぉっ!!
「ま、川崎、一旦落ち着こっか」
「・・・恥ずかしいっす」
筒井からの語り掛けに川崎がうつむいたまま恥ずかしそうにはにかんで答える。
恥ずかしいのはこっちだっていうのに!
「わ、わかった。川崎が悩んでるものわかったが・・・その、だな、男女のその・・・き、キスってやつは、それは、お、俺が教えるものなか、な?」
「・・・お願いしたいです」
何とか必死に冷静なふりをしながらも明らかにおかしくなった呂律で必死の抵抗を試みるが、川崎には瞬殺されてしまった。
「例えば・・・そうだ、お前の担任の角田センセなんかどうだ?ちょうど保健体育のセンセなんだし。そっちには相談してみたのか?」
「角田先生は、ちょっと・・・」
「ん?」
「なんというか、あんまりそういう話はしたくないですね。どうせこっちのことを馬鹿にするだけだと思いますし」
あぁ出た。また出た。
駄目だろあいつ!クラスの生徒にそんな風に思われちゃ!
というか、あいつ、どれだけ人望無いんだ?吉田先生にも嫌がられてたし!あの野郎!ちゃんとやっとけよ!!
意味もなく脳内で角田に八つ当たりをする。
「そ、それに!」
「?」
「それに、立成先生は優しいし・・・いや、優しいだけじゃないんですけど。なんていうか・・・去年からの筒井さんへの声掛けと見ていると、本当に親身になってくれてるなって、ずっと思ってて。正直、うらやましいなって気もしてて。だから・・・だったら、俺のこんなしょうもない悩みも、ちゃんと聞いてくれるかなって、そう、思って、るんです・・・」
教師として、生徒の言葉が刺さってしまった。
普段はちょっと変わった奴で、筒井よりもしっかりしているというか。妙に大人っぽいというか。10代の割にはあまり感情が読めない生徒だと思っていた。
こいつも、やっぱ高校生なんだなぁ。
そして、そんな奴に、こんなことを言われてしまうと・・・・
「・・・だってよ。川崎がここまでしたんだからさ、先生、教えてあげなよ」
ぽんぽんと川崎の背中を叩きながら筒井が言う。
その顔は・・・・心底楽しそうにニヤついていた。
こいつは・・・・!手に取るようにわかる!
俺が・・・俺が、女との経験の無いことをわかっているから、この状況を楽しんでやがる!
自然と筒井につかみかかろうとする己の腕を必死で抑える。こめかみに血管が浮き出るほどの苛立ちをなんとか耐える。
しかし、どうするか・・・?
『すまん、実はなぁ、先生も女の子とキスしたことがないからわからんのだよ、ハハハ!!』
なんて言えるかっ!!絶対言えん!!
くそっ・・・言えたらなぁ・・・素直に言えたらいんだが・・・・はぁ・・・
「し、仕方ねぇなぁっ!わかったよっ!川崎に俺のとっておきのテクをご教授してやるよっ!!」
空元気のヤケクソ大声で自分に発破をかける。自分におまじないをかけるようだった。
そんな内心の焦燥は手足に現れてしまうのだろう。意味もなく両手でTシャツの両袖をまくり上げたり胡坐の脚を組みなおしたりと落ち着きが無かった。
それでも、顧問からの承諾の言葉は、川崎の顔がパアッと輝かせるものだった。
「あ、ありがとうございます!」
川崎は嬉しそうだった。
信頼があるようなのはいいんだけどなぁ。
とりあえず勢いで引き受けちまったけど・・・
ど、どうしよおおおっ!
「き、キスだな。キスはなぁ・・・い、いいか、キスするときはな・・・そうだ!ムードだ!ムードが大事なんだぞ!ちゃーんと女の子が好きそうなムードを作ってやるんだ。そうしたら大丈夫だ!そしたらな、女の子にな、め、目ぇ瞑らせて、その隙に、チュッて、な・・・」
とりあえず思いつくことを言ってみた。とはいっても、テキトーにもほどがあるような内容だ。
これでも、かつて無いほどに頭を回しての説明だ。だが、あまりに抽象的かつ初歩的な事ばかりでアッバイスでもなんでもない。
聞く人が聞けば『もしかしてコイツはキスすらしたことのない童貞教師なのではないか?』と思い当たること必至だった。
「あ、それはわかってます。それをどうやってやればいいかってのがわかんないんで、それを教えてください」
(あああーーーんだとっ!?なんだこいつ!!)
なんてドライな言い方だ。そして残酷なことを言うのだろう。
息が荒れる。こんなことを言ってのける川崎に対して何十何百何千という罵詈と恨みつらみを浴びせさせてしまいそうなのを必死に堪える。
お前、生徒だからって何言っていもいいわけじゃねぇんだぞ!
大人だってな、大人だってな・・・・くそっ・・・・
・・・・悲しくなってくるから、もう考えるのはよそう。ははは・・・
しかし大変だ。
さっきの説明だって、結構頑張ったんだぞ!アドリブの割にはいい感じに喋れてたぞ!
なーんで相談し来るそっちが注文付けてくるんだよ!!
立成はさっきの説明レベルでも乗り切れると思っていたのであるが、全くのお門違いだった。
もっと具体的にぃ、だと・・・?
「立成先生は大人なので、そういう女の人としてきたことをやってくれればそれでいいですよ?」
「えっ・・・・ははは、そ、そうだな。それでいいか。当たり前だ。お、俺は32歳の大人なんだからな。ハハハ・・・」
考えあぐねていた立成へのフォローのようなことを川崎が口にした。
本人としては、思ったことを口にしただけなのだろう。しかし、その一言一言が立成の心へ次々と刺さる。
オウム返しのように川崎へ返しながらも、その乾いた笑いをすればするほど空しくて悲しくて死にたくなってしまう。もし、今こいつらがこの部屋から出ていったなら、本当に泣いてしまうかもしれない・・・
「・・・なぁ、おい。お前ら、俺を騙そうとしてないよな?」
「え?だます?何をですか?」
「い、いや、何でもない、気にするな」
コイツらが自分をからかう為に仕込んだイタズラである可能性が脳裏をを疑ったが、そうではないらしい。
むしろ、そっちの方が助かったまであるのではあるが・・・・
「はーっ」
深いため息をつくき落ち着こうとしながらも、頭の中ではどうすればいいか必死に考える。
過去に見た様々なものの中から、自分の人生で経験していない『キス』という行為について参考になるようなものが無いかを捜索する。脳内のフォルダに検索をかけ片っ端から洗い出す。
あの漫画は?ちょっとガキ臭いか?
そういやあの小説は?文学的すぎるかな・・・
あっ、ドラマ!!うーん、ちょっと嘘くさいよねぇ。
映画は参考になるか?あ、俺そういう映画見ねぇわ。
そういや昨日、合宿前だから抜いておこうと思って見たAVは・・・ダメダメダメ!!絶対に参考にしちゃダメ!!
脳内に何人もの立成が出現して活発な議論を交わすものの、検討だらけで解決の糸口が出てこなかった。
「いいか、女とキスするときはな・・・・」
とうとう立成が口火を切った。
川崎がその顔は必死だった。立成の顔も必死だった。必死ではないのは、この部屋では筒井だけだった。
(あっそうだ!大学の時に『これであなたも女性を堕とせるマル秘テクニック!』ってやつ買ったんだ!あれ、どんなこと書いてたっけ?キスするときの準備とかがあったような!思い出せ、思い出せ・・・)
20歳を過ぎたというのに彼女どころか女友達すらできず、コンプレックスをこじらせ始めたあのときに、友人にすら言わずにコンビニでこっそり買ってしまった、恥ずかしすぎる本を思い出す。
だが、その内容は追い詰められているからか全然思い出せない。
見出しの下世話な煽り文ですらモザイクがかっていて何もわからない。
思い出せることといったら・・・そういやあの本、挿絵の絵が結構エッチだったな・・・・って今それはどうでもいい!
「・・・いいか。まずは、相手の顔を見るんだ・・・」
片手で持ちあげた枕を女の子の顔に見立てながら、そんなことを言い始めた。いや、言い始めてしまっていた。
もうアドリブだ。何をやってんだ俺は・・・
冷静で脳内にセルフツッコミをしながらも、教師として生徒への指導を開始する。
自分でやったこともされたこともない、接吻という行為について偉そうに宣う。
童貞教師による『恋人とのキス指南講座』が開講したのだった。
汗が止まらない。喉がカラカラで掠れてしまいそうだ。こんな風になりながら教えるなんて、初めて教師として教壇に立った時以来だ。
脂汗ダラダラの顔だが、この暑さのおかげで違和感は与えていないようだ。
しかし、焦燥感による風呂上りとは思えないほどに脂ぎっていた。それも、ある意味女との接吻をイメージした雄
味が増してきているかのようにも見えていた。
そんな顔で必死になりながらも、受講生1人に向けた哀しすぎるキス指南の講座は続いていた。
「で、な。まだだぞ、まだやらねぇんだ・・・相手の身体をな、手で優しく・・・」
(あれぇ、何言ってんの俺!AV男優じゃねんだぞ!)
途中まではそれっぽいことを言っていたような気もするが、何だか雲行きが怪しくなってきた。口から変な言葉出てしまっていた。
それでも出てくる言葉をつなぐしかない。今はそれしかできることがない。
立成はとりあえず、枕を持っていない空いている方の手の5本の指をソワソワと動かして見せてみた。
やったこともない愛撫の真似事をしているつもりの滅茶苦茶な動きだった。そうした方が大人っぽいと思ったからだ。熟練者ぽいと思ったからだ。経験者ぽいと思ったからだ。
先ほどまで笑っていた筒井が真顔になり、表情を硬くした。今、目の前で顧問がしているのは、高校生がデートでするようなキスのことだろうか・・・?いや、絶対に違うだろう!そう言いたくて言いたくてたまらなかった。
「そうしたら、女はそういうモードになるんだ。そういうもんなんだ。その後は・・・」
立成はちらっと受講生を横目で見る。
川崎は真剣な顔で見つめている。こんな話でもきちんと学ぶ姿勢のままだった。
一方、筒井は・・・・顔をブンブンと振っていた。
おちょくる様子でもなく、硬い表情のまま。
その顔とその仕草は・・・『それ、絶対今教えることじゃないヤツ!!』と語っていた。
や、やっぱ違うよな!なんか違うよなっ!?
でもどうすればいいんだよ!キスなんてしたこともないというのにっ!
もうどうしようもなかった。
走り出した列車は普通では止めることができなかった。だから、止めるためにはこうするしかなかった。
「だーーーーっ!!」
宵も更けてきた時間だというのに立成は全力で叫んだ。
(恥ずかしい!ぞわぞわする!キモチ悪い!何言ってんだよ俺)
もう抱えきれないほどの羞恥心と自己嫌悪に耐えられなくなり布団に顔を擦りつける。
殺してくれ!もう、誰でもいいから俺を殺してくれ!!
「ど、どうしたんですか先生!?」
「無理!もう無理!できない!できないって!!」
「え、そんなことは」
「大体、1人でキスして見せろっていうのがおかしいんだよ!」
「え、駄目ですか?」
至極真っ当な思いを叫ぶ立成だが、それに対しても川崎は困り顔で反応する。ボケでも何でもない、本当にどうしようか、と言いそうな顔だった。
うぅ、そうだよなぁ。こいつは本気で言ってるんだなぁ・・・・
「ま、まぁ、川崎クンも本番になったらきっとうまくできるさ、うん」
もう無理だ。そう感じた立成は、川崎に何とかして協力したいという気持ちはありながらも、自分の実力不足をこれでもかと感じたため、勝手にこの議論を終わりに持っていこうとしていた。大人の汚いやり口で子供を丸め込もうとたのだった。
「うーん・・・」
だが、川崎は何か考え事をしているかのようだ。明らかに納得していない様子だった。
また何か考えてるのか?
もう今日は寝ようぜ、な?な?
立成が心の声で説得しようとするが、当然受け入れてもらえない。
「それじゃ・・・」
川崎が横にいる筒井を見る。そして目の前の立成を見て口を開く。
「筒井さんとやってみせてくれませんか?」
ずり下ろしていたハーフパンツを履きなおし、筒井とともに教師用の宿泊室へ入ると、川崎が畳の上で正座して待っていた。ここは合宿中に立成が泊まるための部屋として使用している部屋だ。
「あ、すみません立成先生、お呼びしちゃって」
「別にいいけど・・・・よっこらせっと」
「やめてよ、おっさんくさい・・・」
今朝からだらしなく敷きっぱなしにしていた布団の上に胡坐で座り、4畳ほどの狭い空間で川崎と向かい合う。立成に付いてきた筒井も川崎の横に腰を下ろした。
さて、こいつのは相談とやらは一体なんだろうか。
教師を呼び出してまでしたいという相談なのだから、深刻な事だろうと推測する。
もしかしたら、部活をやめる、とかか?
新部長になって思い詰めている?まぁ、ありえなくもないか。
だが、部活中のコイツの言動を見るに、そういう気配は無い。毎日部活には来ているし、部員たちを彼なりにまとめようとしている。後輩の指導にも熱心だし、自分の練習時間の確保のために自主練習だってしている。
そんな川崎が、部活をやめたい、なんて思っているとは思えない。
隠しているという可能性もないではないが、立成だって腐っても教師歴は10年くらいある。
そのくらい思い詰めている生徒の考えは見抜ける、はず・・・・だと思っているのだが・・・
「あの・・・・」
「なんだ、はっきり言うんだ」
しっかりと顔を合わせようせず目線も逸らしている川崎の顔を下から覗き込むようにする。
がっしりとした顎にデカい鼻、口元にも顎にも無精ひげ。濃い眉が吊りあがっいる。厳つい顔の男がそんなことをすると、因縁をつけようとしている『や』のつく職業の輩のようで迫力満点だ。
「ちょっと、先生、それ怖いから・・・川崎も、ちゃんと先生の方見ないと・・・」
「あ、すみません・・・」
「悪い・・・」
筒井の窘めでなんとか顔を元の状態に戻すと、川崎もようやくこちらを見てくれた。
「その、ですね・・・」
とはいえ、それでも切り出さなかった。
こうなったら持久戦だ。
話したく無い奴に話させても仕方ない。
こちらが急かしたとて、それが本音かどうかだって怪しいだろう。
(ねぇ、先生から聞かないの?)
(聞いても仕方ねぇだろ、コイツが話さねぇと)
(そうだけどさぁ)
無言の川崎を見守りながらも、筒井と目線だけで会話する。
そんなことをしながらもゆっくりと時間の流れに身を任せていたら、とうとう川崎が口にした。
「俺、先月から・・・彼女できたんです」
「!?」
2人、立成と筒井が顔を見合わせる。
川崎があまりにも突飛なことを言い出されたため脳内の処理が追い付かなかった。
これだけ申告しずらい雰囲気を出しているのだから、さぞかしネガティブなことを告げられるだろうと思っていた。だからそういう心構えで、そういう対処をするつもりでずっと待っていたのだ。
それは筒井も同じだろう。後輩の新部長がどれだけ辛い思いをしているのか。それにどれだけ苦しみを和らげられるか。そのために何ができるのか。
2人がそんなことを考えていたというのにこんなことを言われてしまえば、3流コメディのようにずっこけてしまいそうにもなる。
「・・・っと、えっ、本当?知らなかった!!やったじゃん!ね、先生?」
「んあ!?あ、ああ。そ、そうか。それは・・・・よかったな・・・・」
「へへ、どうもっす」
頭を掻きながら2人を見返す川崎。
すっきりしたのか表情も柔らかくなっていた。というよりも、その顔は言いづらかったことを話したことによる解放感と、たった今噛みしめている幸福感がいっぱいであるように見えた。
そんな川崎を素直に祝福する筒井。一方立成はというと。
(・・・ぬぁんだこいつ!彼女なんか作りやがって!俺への嫌味か?)
じっくりと思いやって待って待って、蓋を開けたら彼女ができました、となれば、先ほど自分の婚期を気にしていた立成にとっては不意打ちの攻撃を食らったようなものだった。
10歳以上年の離れた少年からの彼女できました宣言。
それに対して八つ当たりとしか言えない大人げなさすぎる憎しみがフツフツと湧き上がってきてしまう。
こちとら32年も彼女を作っていないというのに!
・・・いや、彼女ができなかったというのに!!
「どうやって付き合い始めたの?てか、相手はどこの子?」
「中学時代の同級生なんですけど、この前遊んだときに・・・」
「遊んだときに?」
「その、告白されて・・・」
「えー、相手からなの?やるじゃん!」
「いや、そんな・・・えへへへっ」
高2と高3がじゃれつくようにはしゃぎだす。顔を赤らめながらはにかむ新部長と、それを弄り倒す旧部長。
コメディが終わったと思えば今度は青春小説でも始まったのかと思えるような甘酸っぱいやり取りだ。
32歳のおっさん一歩手前(?)である立成からすれば、あまりにもアオハルすぎる盛り上がりで目の毒、耳の毒、心臓の毒だ。とんでもないことだ。よそでやってくれ。
「・・・で、それで。俺に相談ってのは何なんだよ」
トントントン。知らず知らずのうちにハーフパンツからはみ出た自分の膝頭を、指の腹で叩いている。
立成がイライラた時にしてしまう癖の1つだった。
一応、教師なのだから生徒にあたっても仕方のないことなのだが、どうしても言動に現れるのを防ぐことができなかった。そもそも、許せない。何でこいつらばっかりで、俺は・・・
「まぁまぁ。先生落ち着いてよ」
どうどうどう、と暴れ牛を落ち着かせようとしているかのように筒井が立成を宥める。
急に女関係の話をしだした川崎に対して、立成が内心ではイラつきだしたことを察したのだろう。
それがわかっているから、その筒井の顔と言えば、ぷっと吹き出しそうになるのを必死に堪えた顔だ。
そんな筒井の顔は、横にいる川崎からは見えず、正面にいる立成からは丸見えだ。
立成の過去の女性関係事情(といっても、悲しいことにそういう『関係』が無かったことの事情であるが)を全て把握済みの筒井からの、『男子高生でも彼女ができているのに、先生は未だに・・・』という、上から目線での憐みの顔なのだ。
くそっ!この野郎めっ!!屈辱だ・・・!!
「で、相談ってなんなの?」
「先生に・・・教えもらいたいんです」
「何を」
川崎に対して思わず低い声で返していた。
さすがに筒井がぎろっと睨む。
立成としてもそこまで感情ムキ出しにするつもりもなかったため、大人気がなさすぎたか?とごまかすように空咳をしてお茶を濁した。
そんな立成に目を合わせて、川崎が言った。
「俺に、女の子とのキスの仕方を教えてください!!」
・・・・・・・・・・・・・・?
沈黙。
静寂。
無音。
またも、どれだけ時間が経っただろう。
あっけにとられるというのは、こういうことを言うのだろう、か。
何を言ってるんだ??
さっきまで呑気に立成のことを笑っていた筒井も、川崎の言葉を聞いて同じようなことを思っている顔をしている。
「あの、その子とは付き合いだしてから何回かデートしたんですよ。先週も映画館行ったし・・・で、次のデートあたりで、その・・・」
そこで区切られた。
立成は先ほどまでの苛立っていたというのに、思わず生唾をゴクリと飲み込む。
その、なんだ・・・?
「・・・キスまで、したいなって・・・」
そこまで言った川崎の頬が染まる。
聞いている立成の方まで、顔がカーッと赤くなってしまった。
いつしか自分が忘れてしまった、みずみずしいまでの十代の思春期といいうものを、何の前触れもなく眼前に差し出されてしまった。立成が経験したことのない、10代にしか経験できない、10代同士の瑞々しい恋愛・・・
そんな立成の思いなど知るはずもなく、ポツポツと語り出す川崎。
「でも・・・俺、恥ずかしいんですが、女の子と付き合ったことないし・・・ても、当日ミスっちゃったらかっこ悪いし・・・なので、先生に教えてもらおうと思って」
それ以降の話は立成の頭にはあまり入ってこなかった。
「お願いします!」
気が付いたら川崎は両手をついて頭を垂れる。
恥もプライドも捨てた頼みだ。この年頃の男子が、こんなことをあけすけに語り、こんなことをしてまで教師に頼るなんて相当のことだ。普通なら大人に打ち明けることなんてないことだ。
しかし、そう感じているとはいえ、そんな17歳の少年の後頭部を見ながら立成が思うことはただ1つ。
(キスを教えろだと~?)
そんな川崎とは対照的に、恥もプライドも捨てきれない立成は怒りと屈辱で紅潮する。
それと同時に、額にも眉間にも目尻にも頬にも、顔中のいたるところに皺が寄っていた。かつてないほどの険しい顔に勝手になってしまっていた。
(お、俺だって女の子と付き合ったこともやったことも無えっつーの!!)
脳内で叫ぶ。絶叫する。訴える。あらん限り。
何だコイツは!
なーーーーんで、俺にそんな事を言うんだ!
大体、なんで俺なんだよぉっ!!
「ま、川崎、一旦落ち着こっか」
「・・・恥ずかしいっす」
筒井からの語り掛けに川崎がうつむいたまま恥ずかしそうにはにかんで答える。
恥ずかしいのはこっちだっていうのに!
「わ、わかった。川崎が悩んでるものわかったが・・・その、だな、男女のその・・・き、キスってやつは、それは、お、俺が教えるものなか、な?」
「・・・お願いしたいです」
何とか必死に冷静なふりをしながらも明らかにおかしくなった呂律で必死の抵抗を試みるが、川崎には瞬殺されてしまった。
「例えば・・・そうだ、お前の担任の角田センセなんかどうだ?ちょうど保健体育のセンセなんだし。そっちには相談してみたのか?」
「角田先生は、ちょっと・・・」
「ん?」
「なんというか、あんまりそういう話はしたくないですね。どうせこっちのことを馬鹿にするだけだと思いますし」
あぁ出た。また出た。
駄目だろあいつ!クラスの生徒にそんな風に思われちゃ!
というか、あいつ、どれだけ人望無いんだ?吉田先生にも嫌がられてたし!あの野郎!ちゃんとやっとけよ!!
意味もなく脳内で角田に八つ当たりをする。
「そ、それに!」
「?」
「それに、立成先生は優しいし・・・いや、優しいだけじゃないんですけど。なんていうか・・・去年からの筒井さんへの声掛けと見ていると、本当に親身になってくれてるなって、ずっと思ってて。正直、うらやましいなって気もしてて。だから・・・だったら、俺のこんなしょうもない悩みも、ちゃんと聞いてくれるかなって、そう、思って、るんです・・・」
教師として、生徒の言葉が刺さってしまった。
普段はちょっと変わった奴で、筒井よりもしっかりしているというか。妙に大人っぽいというか。10代の割にはあまり感情が読めない生徒だと思っていた。
こいつも、やっぱ高校生なんだなぁ。
そして、そんな奴に、こんなことを言われてしまうと・・・・
「・・・だってよ。川崎がここまでしたんだからさ、先生、教えてあげなよ」
ぽんぽんと川崎の背中を叩きながら筒井が言う。
その顔は・・・・心底楽しそうにニヤついていた。
こいつは・・・・!手に取るようにわかる!
俺が・・・俺が、女との経験の無いことをわかっているから、この状況を楽しんでやがる!
自然と筒井につかみかかろうとする己の腕を必死で抑える。こめかみに血管が浮き出るほどの苛立ちをなんとか耐える。
しかし、どうするか・・・?
『すまん、実はなぁ、先生も女の子とキスしたことがないからわからんのだよ、ハハハ!!』
なんて言えるかっ!!絶対言えん!!
くそっ・・・言えたらなぁ・・・素直に言えたらいんだが・・・・はぁ・・・
「し、仕方ねぇなぁっ!わかったよっ!川崎に俺のとっておきのテクをご教授してやるよっ!!」
空元気のヤケクソ大声で自分に発破をかける。自分におまじないをかけるようだった。
そんな内心の焦燥は手足に現れてしまうのだろう。意味もなく両手でTシャツの両袖をまくり上げたり胡坐の脚を組みなおしたりと落ち着きが無かった。
それでも、顧問からの承諾の言葉は、川崎の顔がパアッと輝かせるものだった。
「あ、ありがとうございます!」
川崎は嬉しそうだった。
信頼があるようなのはいいんだけどなぁ。
とりあえず勢いで引き受けちまったけど・・・
ど、どうしよおおおっ!
「き、キスだな。キスはなぁ・・・い、いいか、キスするときはな・・・そうだ!ムードだ!ムードが大事なんだぞ!ちゃーんと女の子が好きそうなムードを作ってやるんだ。そうしたら大丈夫だ!そしたらな、女の子にな、め、目ぇ瞑らせて、その隙に、チュッて、な・・・」
とりあえず思いつくことを言ってみた。とはいっても、テキトーにもほどがあるような内容だ。
これでも、かつて無いほどに頭を回しての説明だ。だが、あまりに抽象的かつ初歩的な事ばかりでアッバイスでもなんでもない。
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お前、生徒だからって何言っていもいいわけじゃねぇんだぞ!
大人だってな、大人だってな・・・・くそっ・・・・
・・・・悲しくなってくるから、もう考えるのはよそう。ははは・・・
しかし大変だ。
さっきの説明だって、結構頑張ったんだぞ!アドリブの割にはいい感じに喋れてたぞ!
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立成はさっきの説明レベルでも乗り切れると思っていたのであるが、全くのお門違いだった。
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「立成先生は大人なので、そういう女の人としてきたことをやってくれればそれでいいですよ?」
「えっ・・・・ははは、そ、そうだな。それでいいか。当たり前だ。お、俺は32歳の大人なんだからな。ハハハ・・・」
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本人としては、思ったことを口にしただけなのだろう。しかし、その一言一言が立成の心へ次々と刺さる。
オウム返しのように川崎へ返しながらも、その乾いた笑いをすればするほど空しくて悲しくて死にたくなってしまう。もし、今こいつらがこの部屋から出ていったなら、本当に泣いてしまうかもしれない・・・
「・・・なぁ、おい。お前ら、俺を騙そうとしてないよな?」
「え?だます?何をですか?」
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コイツらが自分をからかう為に仕込んだイタズラである可能性が脳裏をを疑ったが、そうではないらしい。
むしろ、そっちの方が助かったまであるのではあるが・・・・
「はーっ」
深いため息をつくき落ち着こうとしながらも、頭の中ではどうすればいいか必死に考える。
過去に見た様々なものの中から、自分の人生で経験していない『キス』という行為について参考になるようなものが無いかを捜索する。脳内のフォルダに検索をかけ片っ端から洗い出す。
あの漫画は?ちょっとガキ臭いか?
そういやあの小説は?文学的すぎるかな・・・
あっ、ドラマ!!うーん、ちょっと嘘くさいよねぇ。
映画は参考になるか?あ、俺そういう映画見ねぇわ。
そういや昨日、合宿前だから抜いておこうと思って見たAVは・・・ダメダメダメ!!絶対に参考にしちゃダメ!!
脳内に何人もの立成が出現して活発な議論を交わすものの、検討だらけで解決の糸口が出てこなかった。
「いいか、女とキスするときはな・・・・」
とうとう立成が口火を切った。
川崎がその顔は必死だった。立成の顔も必死だった。必死ではないのは、この部屋では筒井だけだった。
(あっそうだ!大学の時に『これであなたも女性を堕とせるマル秘テクニック!』ってやつ買ったんだ!あれ、どんなこと書いてたっけ?キスするときの準備とかがあったような!思い出せ、思い出せ・・・)
20歳を過ぎたというのに彼女どころか女友達すらできず、コンプレックスをこじらせ始めたあのときに、友人にすら言わずにコンビニでこっそり買ってしまった、恥ずかしすぎる本を思い出す。
だが、その内容は追い詰められているからか全然思い出せない。
見出しの下世話な煽り文ですらモザイクがかっていて何もわからない。
思い出せることといったら・・・そういやあの本、挿絵の絵が結構エッチだったな・・・・って今それはどうでもいい!
「・・・いいか。まずは、相手の顔を見るんだ・・・」
片手で持ちあげた枕を女の子の顔に見立てながら、そんなことを言い始めた。いや、言い始めてしまっていた。
もうアドリブだ。何をやってんだ俺は・・・
冷静で脳内にセルフツッコミをしながらも、教師として生徒への指導を開始する。
自分でやったこともされたこともない、接吻という行為について偉そうに宣う。
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そんな顔で必死になりながらも、受講生1人に向けた哀しすぎるキス指南の講座は続いていた。
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(あれぇ、何言ってんの俺!AV男優じゃねんだぞ!)
途中まではそれっぽいことを言っていたような気もするが、何だか雲行きが怪しくなってきた。口から変な言葉出てしまっていた。
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「そうしたら、女はそういうモードになるんだ。そういうもんなんだ。その後は・・・」
立成はちらっと受講生を横目で見る。
川崎は真剣な顔で見つめている。こんな話でもきちんと学ぶ姿勢のままだった。
一方、筒井は・・・・顔をブンブンと振っていた。
おちょくる様子でもなく、硬い表情のまま。
その顔とその仕草は・・・『それ、絶対今教えることじゃないヤツ!!』と語っていた。
や、やっぱ違うよな!なんか違うよなっ!?
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もうどうしようもなかった。
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「だーーーーっ!!」
宵も更けてきた時間だというのに立成は全力で叫んだ。
(恥ずかしい!ぞわぞわする!キモチ悪い!何言ってんだよ俺)
もう抱えきれないほどの羞恥心と自己嫌悪に耐えられなくなり布団に顔を擦りつける。
殺してくれ!もう、誰でもいいから俺を殺してくれ!!
「ど、どうしたんですか先生!?」
「無理!もう無理!できない!できないって!!」
「え、そんなことは」
「大体、1人でキスして見せろっていうのがおかしいんだよ!」
「え、駄目ですか?」
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うぅ、そうだよなぁ。こいつは本気で言ってるんだなぁ・・・・
「ま、まぁ、川崎クンも本番になったらきっとうまくできるさ、うん」
もう無理だ。そう感じた立成は、川崎に何とかして協力したいという気持ちはありながらも、自分の実力不足をこれでもかと感じたため、勝手にこの議論を終わりに持っていこうとしていた。大人の汚いやり口で子供を丸め込もうとたのだった。
「うーん・・・」
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また何か考えてるのか?
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「それじゃ・・・」
川崎が横にいる筒井を見る。そして目の前の立成を見て口を開く。
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