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顧問2年目08月
顧問2年目08月 5
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「「はぁ~~~~!?」」
一瞬後にユニゾンのように二人の声が狭い部屋にこだました。
「なっ、なんでそうなるんだよ!?」
「え、だって、1人だとできないのなら、2人ならできるってことじゃ・・・え!違います?」
なんてことのないように川崎が宣う。
確かにそう捉えることもできなくはないが・・・だからってそんなことを提案するか?そうはならないだろう!さすがに!
胸の内で絶叫しながらも立成はがっくりと肩を落とす。
川崎とは1年以上の付き合いになる。放課後の部活動だけではあるが人となりは理解できたと思っていた。それなのに、ここにきて立成はこれまで以上に川崎のことがわからなくなった。
「駄目ですか?」
「・・・そりゃ、お前・・・お、俺はいいとして・・・つ、筒井が嫌がるだろ!」
「えぇっ!?」
答えあぐねた立成は話の問題をすり替えた。
まるで、『自分はやってもいいが相手がなぁ』といった上から目線のポーズの返答だ。まだ、要らない男のプライドに縋り付いていたのだった。
(ちょっと!なんでこっちの問題にするの?)
(し、仕方ねぇだろ!!)
またも2人は視線だけで罵り合うが、それには川崎は気づかない。
「筒井さんは嫌ですか?」
「い、嫌っていうか、嫌じゃないけどさ、本当は」
「筒井さんだってもうしちゃってますよね、キスくらい」
「へっ?」
「だって、今年くらいから筒井さん、部活で見てるとなんか楽しそうなんで。俺、勝手に彼女できたんだな~って思ってたんですけど・・・」
「・・・」
2人の無言の会話に川崎が割って入る。
何やら意味深な会話が繰り広げられるが、立成はそれどころじゃなかった。
勝手に生徒に主導権を渡しておきながら、その生徒を心のなかで応援していた。
頑張れ筒井!後輩なんかに負けるな筒井!
いつもの筒井なら川崎を丸め込むことなど容易なはずだ。これまでのように、自分をいいように言いくるめる、あの舌ならばこんなの窮地でも何でもない。そう思っていたのだ。
「・・・いいよ、やるよ」
「え?」
「えぇっ!?」
しかし、その勝負は敗北という形であっけなく決着した。筒井が布団の上に上がってきた。
(おいっ!何しやがるんだよ!ふざけてんのか!?おいっ!断れよっ!)
必死にアイコンタクトをとる。
だが、相手がそれを受信しない。目線で会話しようとするができない。淡々と教師の方へ顔と体を向けた。
「じゃ、先生、しよっか、さっきの続き」
あっさりとなんてことのないように言う。覚悟が決まったような、そんな顔をしていた。
その姿に、年上の立成の方が気後れしてしまっていた。混乱していた。
えっ、どうしてこうなった?
本気か?本当にやるの?
「ありがとうございます!えっと、たしか身体を触ってからまた見つめるところからですね」
「そうだね」
川崎が思い出したかのように
お前も冷静に言うな!
本気か?暑さで頭までおかしくなっちまったんじゃ・・・?
またも室内がしんと静まり返る。
変なムードになった。妙に神妙だ。
こ、こんな空気になっちまったら・・・
元来、立成は流されやすい男だった。これだけの大柄な身体に厳つい面構えがだというのに、根が受け身の体質なのだ。今でさえ、生徒2人が醸し出すこの空気に、すっかりと囚われてしまっていた。
今更、やっぱりやめよう、など、立成にはとても言えなかった。こうなったら、従う他無かった。
中断されていた32歳童貞教師による恋人同士のキス講座が再び開講された。
立成は筒井に顔を向ける。その視線は、まるで立成にはそのつもりないのだが、ギロッと睨むような目付きになった。そんな視線であっても生徒はすべてを受け止め、尚も目の前の教師の顔を見つめ返していた。
「・・・あとは、するだけだ・・・」
根負けした立成の講義は続く。
もうどうとでもなれ。自暴自棄ともいえる感情だった。
そう、あとは、するだけなのだ。
しかし、さっきまでの枕相手とは違う。人間相手の接吻だ。
そう、しなくてはならない!!
鼓動が早まる。代謝が活発になる。体温も上がっていく。
まさかこんなことになるなんて。
大事に大事にに取っておいたファーストキスを、今、ここですることになってしまうなんて。
言葉にできないそんな思いが胸をかきむしるように刺して来る。
筒井が目を閉じている。
そんな筒井の顔を見ながら、立成はどこか冷静になっていた。あらためて、おかしなことだな、とも思えた。
確かに男同士のキスなど立成にとってはあり得ないことなのだ。
その一方、この筒井には去年からいいように身体を使われているのだ。人に見せたことも見られたことのない後ろの穴を拡げられ、指も舌も一物も、筒井の全てを受け入れてしまっているのだ。そう、それは、キスなんかよりも、もっと、もっと、深い行為をしているはずなのだ。
それでも、違う。
それでも、キスは違う気がしていた。キスはやっぱり、違うと思っていた。
(俺、どうなってんだぁ?)
不思議な感覚になりながらも、時間は止まらず、目の前の唇に顔は近づいていく。
ゆっくり、ゆっくり。
もうここまで来たら言葉で説明することなんてない。
川崎がじっとその様子を見つめる。
(・・・!!)
筒井の手が立成のガッシリした両肩に周る。
まさにキスをする直前といった体勢だ。
そこまで、やんのかよ・・・!
この場で反論するわけにもいかず、立成は思い出したかのように己の分厚い掌を筒井の身体に回す。
堂々としたところが1mmもない。優雅さなどどこにもないガッチガチに固い、不器用すぎる抱擁だった。
大人の立成がリードしている構図のはずなのに、主導権は明らかに生徒が握っていた。
互いの鼻息さえにも触れているような感覚。そんな距離。
あとは、重ねるだけ。
(・・・えぇいっ!!)
ギュッと目をつぶり、また少しだけ、顔を近づけた。
軽く。ほんの軽く、触れた。
覚悟も何も決まっていないが、とりあえず、やった。
立成のカサカサで薄い唇の表面が、17歳の生徒のソレに触れた。ただ、それだけだった。
(やった・・・・やっちまった・・・・!もう、これでいいだろう・・・!)
お遊びみたいにキス。キスというよりもチュウと呼んだほうがしっくりくるような口づけ。おままごとみたいな情愛表現。
だが、川崎が知りたいのはキスまでの過程だ。キスそのものじゃない。
だから、これでいいはずだ!
そ、それに・・・これくらいなら、まだ俺のファーストキスのカウントには入らないよ、な?
「!!!!!」
ガッと勢いよく背中を押された。筒井の手だった。筒井の身体に引き寄せられると同時に、互いの顔もより密着する。
(ちょ・・・・!)
互いの唇を押し付け合うかのように、確認し合うかのように、ぶつかりあった。
ただふんわりと乗るだけのような、唇同士の接触だけだったその口づけが、一気に濃厚で情熱的な、まさに大人のキスへと変貌した。
(つ、筒井のやつ・・・・!)
何も叫ぶこともできず、立成はただ、唇を奪われてしまっていた。数秒間、教師は生徒に、唇を吸われていたのだった。
だが、それだけではない。
(こいつ!し、舌まで・・・!)
何もできないまま、半開きの立成の口に、ヌメッとしたものが侵入してきた。入ってきたその舌が、立成の舌の上へ裏へと絡み付く。歯の表面の全ての角度からエナメル質が削げ落ちるのではないかと思えるほど舐められる。
何もでず、ただ口内を弄ばれるしかなかった。
荒らされた。
32歳の口の中を開拓されてしまった。
これまで何人たりとも寄せ付けてこなかった立成の口腔。去年の1年間で、尻も犯された。排便も見られた。だか、唇だけは奪われていなかったのだ。そんな、純潔の唇が今、生徒によって犯されていたのだ。32歳の教師のファーストキスが奪われてしまった。
こいつっ!
川崎がいる手前、下手な抵抗はできない。
第一、川崎は立成に主導権があると思っているのだ。立成がリードしてキスの手本を見せていると思っているのだ。当然だ。立成の方が年上で、大人で、経験豊富だと思っているからだ。
そんなところで、拒否するようなことをしたらどうなる!?
今にも筒井の身体を突き放したいという思いを抱えながらもそれは行動にはせず。宙をもがくように両手が彷徨う。見えない何かから逃れようとしているかのように。
(ーーー!!!!)
唾液まで送り込まれてきた。
待て待て!おい!ちょっと待て!
それでも流れ込むそれは止まらない。
迎え入れた分泌液が、立成の口腔に入り込み。混ざり。そして身体へと染み込んでいく。生徒の液が徐々に徐々に入ってくる。
「ーーー!」
身体が震えていた。
恐怖もあった。
だが、これは立成のとって全く知らない感覚だった。
他人には決して晒すことのない、口の中。それを互いに晒し、撫で合い、密着させてとろけ合う。まさかこんな形で情愛を表現するという方法がこの世にあるのだということを、生徒に教えられているような気分だった。
32年間知らなかったキスという行為を分からされてしまっていた。キスの味というのを知らされてしまった。
こ、これが、キス・・・!?
これが、キスなのか・・・・!?
こんな、こんな形で、こんな濃厚すぎるファーストキスを経験しちまうなんて!!
「・・・まっ、こんな感じだよ」
実際は数秒もないような一瞬の時間、2人が互いの舌を味わい尽くした後に唇を離した。別れが断腸の思いであるかのように、2つの唇に唾液の白い橋が架けられ、一瞬にして崩壊した。
「へぇー!そういう風にやるんですね!勉強になりました!ありがとうございます!」
恭しく礼をする川崎。
見せられた教師と生徒の講義に納得いったようだ。
そんな川崎のことなど相手にすることもできず、立成はただ、未だ筒井との接吻をしているかのごとく固まったままだった。
「じゃ、今度のデート、うまくいったかどうか、後で教えてね!」
「はいっ!おやすみなさい!!」
扉が閉まった、その一拍後。
「テメーーーーっっ!!」
「うわーっ!ごめんごめんごめん!」
「何さらしてんじゃーーー!!」
「ごめん!本当ごめん!!」
理性を取り戻した立成が、筒井の胸ぐらをつかみかかる。
今にも本当に殴りかかりそうな気迫にさすがの筒井も平謝りだ。
やりすぎだったか?
さすがにキスは良くなかったか?
多分、先生はしたコトなかったんだろうし・・・
筒井もここでは一発や二発、甘んじて受け入れることを覚悟した。
「お前、お前・・・俺の、俺の・・」
しかし、その後に言葉が続くことはなく、立成は今度はオロオロと弱くなっていく。よほど悔しかったのかもしれない。
初めての唇を、愛する異性ではなく、年下の生徒、それも男子生徒に、いきなり無理やり奪われたのだ。32歳の大人とはいえ、いや、32歳だからこそ、そのショックを受け入れるのは容易いことではないのかもしれない。
「そんなにショックだったの?ごめん、先生のファーストキスなのに・・・」
「うわぁっ!それを言うなぁっ!!」
生徒の胸元に顔を寄せ、嗚咽を漏らし続ける教師。
筒井はそんな教師に驚きながらも、ゆったりとした手つきで、その髪を撫でてやる。びっしょりとした汗で濡れていた。
こんなにも思い詰めるほどだったなんて、と考えると、筒井は立成への申し訳なさとともに、何とも言えない愛おしさが込み上げてきてしまう。
「うっ、うっうっ」
「先生、泣かないで」
「泣いてねぇよっ!」
すぐさま顔を上げた。
目は少々少し血走っているが涙を流していたわけでわないようだ。
本当にただ嗚咽を漏らしていただけのようだった。抱き着いて来る大きな体は大型犬を思わせるのに、こうやっていちいち強がりのように吠えるのは、小型犬のように見えた。
「つーかよ」
「?」
「なんでだよ」
「えーっと?」
「だから、なんであそこまでやったんだよ。やる必要なかっただろ?」
「それは・・・まぁ、せっかくだしなー、と思ったら、つい、やってしまいました・・・」
「・・・・」
「ねぇ、先生、ごめんなさい、許して」
「・・・まぁ、いいけどよぉ・・・」
ようやく気が紛れてきたのだろう。
先ほどまで夢中で筒井の身体にしがみついていた立成が、ノソノソと動き筒井の身体から離れる。
そもそも、おっさんのキス事情でいつまでも不機嫌でいるのもそれはそれでみっともない。
「多分、川崎も勉強になったと思うよ。いや、本当に」
「そうか~?」
「今度、一緒に聞いてみようよ。ちゃんとできたかどうか」
「いらねえよ」
「また拗ねてる・・・そうだね、先生が川崎に聞かないといけないのはキスなんかより、どうすれば彼女ができるかを」
「おぉいっ!」
互いに唇を重ねた後だというのに、しっとりとすることはなく、賑やかな夜が続いていった。
一瞬後にユニゾンのように二人の声が狭い部屋にこだました。
「なっ、なんでそうなるんだよ!?」
「え、だって、1人だとできないのなら、2人ならできるってことじゃ・・・え!違います?」
なんてことのないように川崎が宣う。
確かにそう捉えることもできなくはないが・・・だからってそんなことを提案するか?そうはならないだろう!さすがに!
胸の内で絶叫しながらも立成はがっくりと肩を落とす。
川崎とは1年以上の付き合いになる。放課後の部活動だけではあるが人となりは理解できたと思っていた。それなのに、ここにきて立成はこれまで以上に川崎のことがわからなくなった。
「駄目ですか?」
「・・・そりゃ、お前・・・お、俺はいいとして・・・つ、筒井が嫌がるだろ!」
「えぇっ!?」
答えあぐねた立成は話の問題をすり替えた。
まるで、『自分はやってもいいが相手がなぁ』といった上から目線のポーズの返答だ。まだ、要らない男のプライドに縋り付いていたのだった。
(ちょっと!なんでこっちの問題にするの?)
(し、仕方ねぇだろ!!)
またも2人は視線だけで罵り合うが、それには川崎は気づかない。
「筒井さんは嫌ですか?」
「い、嫌っていうか、嫌じゃないけどさ、本当は」
「筒井さんだってもうしちゃってますよね、キスくらい」
「へっ?」
「だって、今年くらいから筒井さん、部活で見てるとなんか楽しそうなんで。俺、勝手に彼女できたんだな~って思ってたんですけど・・・」
「・・・」
2人の無言の会話に川崎が割って入る。
何やら意味深な会話が繰り広げられるが、立成はそれどころじゃなかった。
勝手に生徒に主導権を渡しておきながら、その生徒を心のなかで応援していた。
頑張れ筒井!後輩なんかに負けるな筒井!
いつもの筒井なら川崎を丸め込むことなど容易なはずだ。これまでのように、自分をいいように言いくるめる、あの舌ならばこんなの窮地でも何でもない。そう思っていたのだ。
「・・・いいよ、やるよ」
「え?」
「えぇっ!?」
しかし、その勝負は敗北という形であっけなく決着した。筒井が布団の上に上がってきた。
(おいっ!何しやがるんだよ!ふざけてんのか!?おいっ!断れよっ!)
必死にアイコンタクトをとる。
だが、相手がそれを受信しない。目線で会話しようとするができない。淡々と教師の方へ顔と体を向けた。
「じゃ、先生、しよっか、さっきの続き」
あっさりとなんてことのないように言う。覚悟が決まったような、そんな顔をしていた。
その姿に、年上の立成の方が気後れしてしまっていた。混乱していた。
えっ、どうしてこうなった?
本気か?本当にやるの?
「ありがとうございます!えっと、たしか身体を触ってからまた見つめるところからですね」
「そうだね」
川崎が思い出したかのように
お前も冷静に言うな!
本気か?暑さで頭までおかしくなっちまったんじゃ・・・?
またも室内がしんと静まり返る。
変なムードになった。妙に神妙だ。
こ、こんな空気になっちまったら・・・
元来、立成は流されやすい男だった。これだけの大柄な身体に厳つい面構えがだというのに、根が受け身の体質なのだ。今でさえ、生徒2人が醸し出すこの空気に、すっかりと囚われてしまっていた。
今更、やっぱりやめよう、など、立成にはとても言えなかった。こうなったら、従う他無かった。
中断されていた32歳童貞教師による恋人同士のキス講座が再び開講された。
立成は筒井に顔を向ける。その視線は、まるで立成にはそのつもりないのだが、ギロッと睨むような目付きになった。そんな視線であっても生徒はすべてを受け止め、尚も目の前の教師の顔を見つめ返していた。
「・・・あとは、するだけだ・・・」
根負けした立成の講義は続く。
もうどうとでもなれ。自暴自棄ともいえる感情だった。
そう、あとは、するだけなのだ。
しかし、さっきまでの枕相手とは違う。人間相手の接吻だ。
そう、しなくてはならない!!
鼓動が早まる。代謝が活発になる。体温も上がっていく。
まさかこんなことになるなんて。
大事に大事にに取っておいたファーストキスを、今、ここですることになってしまうなんて。
言葉にできないそんな思いが胸をかきむしるように刺して来る。
筒井が目を閉じている。
そんな筒井の顔を見ながら、立成はどこか冷静になっていた。あらためて、おかしなことだな、とも思えた。
確かに男同士のキスなど立成にとってはあり得ないことなのだ。
その一方、この筒井には去年からいいように身体を使われているのだ。人に見せたことも見られたことのない後ろの穴を拡げられ、指も舌も一物も、筒井の全てを受け入れてしまっているのだ。そう、それは、キスなんかよりも、もっと、もっと、深い行為をしているはずなのだ。
それでも、違う。
それでも、キスは違う気がしていた。キスはやっぱり、違うと思っていた。
(俺、どうなってんだぁ?)
不思議な感覚になりながらも、時間は止まらず、目の前の唇に顔は近づいていく。
ゆっくり、ゆっくり。
もうここまで来たら言葉で説明することなんてない。
川崎がじっとその様子を見つめる。
(・・・!!)
筒井の手が立成のガッシリした両肩に周る。
まさにキスをする直前といった体勢だ。
そこまで、やんのかよ・・・!
この場で反論するわけにもいかず、立成は思い出したかのように己の分厚い掌を筒井の身体に回す。
堂々としたところが1mmもない。優雅さなどどこにもないガッチガチに固い、不器用すぎる抱擁だった。
大人の立成がリードしている構図のはずなのに、主導権は明らかに生徒が握っていた。
互いの鼻息さえにも触れているような感覚。そんな距離。
あとは、重ねるだけ。
(・・・えぇいっ!!)
ギュッと目をつぶり、また少しだけ、顔を近づけた。
軽く。ほんの軽く、触れた。
覚悟も何も決まっていないが、とりあえず、やった。
立成のカサカサで薄い唇の表面が、17歳の生徒のソレに触れた。ただ、それだけだった。
(やった・・・・やっちまった・・・・!もう、これでいいだろう・・・!)
お遊びみたいにキス。キスというよりもチュウと呼んだほうがしっくりくるような口づけ。おままごとみたいな情愛表現。
だが、川崎が知りたいのはキスまでの過程だ。キスそのものじゃない。
だから、これでいいはずだ!
そ、それに・・・これくらいなら、まだ俺のファーストキスのカウントには入らないよ、な?
「!!!!!」
ガッと勢いよく背中を押された。筒井の手だった。筒井の身体に引き寄せられると同時に、互いの顔もより密着する。
(ちょ・・・・!)
互いの唇を押し付け合うかのように、確認し合うかのように、ぶつかりあった。
ただふんわりと乗るだけのような、唇同士の接触だけだったその口づけが、一気に濃厚で情熱的な、まさに大人のキスへと変貌した。
(つ、筒井のやつ・・・・!)
何も叫ぶこともできず、立成はただ、唇を奪われてしまっていた。数秒間、教師は生徒に、唇を吸われていたのだった。
だが、それだけではない。
(こいつ!し、舌まで・・・!)
何もできないまま、半開きの立成の口に、ヌメッとしたものが侵入してきた。入ってきたその舌が、立成の舌の上へ裏へと絡み付く。歯の表面の全ての角度からエナメル質が削げ落ちるのではないかと思えるほど舐められる。
何もでず、ただ口内を弄ばれるしかなかった。
荒らされた。
32歳の口の中を開拓されてしまった。
これまで何人たりとも寄せ付けてこなかった立成の口腔。去年の1年間で、尻も犯された。排便も見られた。だか、唇だけは奪われていなかったのだ。そんな、純潔の唇が今、生徒によって犯されていたのだ。32歳の教師のファーストキスが奪われてしまった。
こいつっ!
川崎がいる手前、下手な抵抗はできない。
第一、川崎は立成に主導権があると思っているのだ。立成がリードしてキスの手本を見せていると思っているのだ。当然だ。立成の方が年上で、大人で、経験豊富だと思っているからだ。
そんなところで、拒否するようなことをしたらどうなる!?
今にも筒井の身体を突き放したいという思いを抱えながらもそれは行動にはせず。宙をもがくように両手が彷徨う。見えない何かから逃れようとしているかのように。
(ーーー!!!!)
唾液まで送り込まれてきた。
待て待て!おい!ちょっと待て!
それでも流れ込むそれは止まらない。
迎え入れた分泌液が、立成の口腔に入り込み。混ざり。そして身体へと染み込んでいく。生徒の液が徐々に徐々に入ってくる。
「ーーー!」
身体が震えていた。
恐怖もあった。
だが、これは立成のとって全く知らない感覚だった。
他人には決して晒すことのない、口の中。それを互いに晒し、撫で合い、密着させてとろけ合う。まさかこんな形で情愛を表現するという方法がこの世にあるのだということを、生徒に教えられているような気分だった。
32年間知らなかったキスという行為を分からされてしまっていた。キスの味というのを知らされてしまった。
こ、これが、キス・・・!?
これが、キスなのか・・・・!?
こんな、こんな形で、こんな濃厚すぎるファーストキスを経験しちまうなんて!!
「・・・まっ、こんな感じだよ」
実際は数秒もないような一瞬の時間、2人が互いの舌を味わい尽くした後に唇を離した。別れが断腸の思いであるかのように、2つの唇に唾液の白い橋が架けられ、一瞬にして崩壊した。
「へぇー!そういう風にやるんですね!勉強になりました!ありがとうございます!」
恭しく礼をする川崎。
見せられた教師と生徒の講義に納得いったようだ。
そんな川崎のことなど相手にすることもできず、立成はただ、未だ筒井との接吻をしているかのごとく固まったままだった。
「じゃ、今度のデート、うまくいったかどうか、後で教えてね!」
「はいっ!おやすみなさい!!」
扉が閉まった、その一拍後。
「テメーーーーっっ!!」
「うわーっ!ごめんごめんごめん!」
「何さらしてんじゃーーー!!」
「ごめん!本当ごめん!!」
理性を取り戻した立成が、筒井の胸ぐらをつかみかかる。
今にも本当に殴りかかりそうな気迫にさすがの筒井も平謝りだ。
やりすぎだったか?
さすがにキスは良くなかったか?
多分、先生はしたコトなかったんだろうし・・・
筒井もここでは一発や二発、甘んじて受け入れることを覚悟した。
「お前、お前・・・俺の、俺の・・」
しかし、その後に言葉が続くことはなく、立成は今度はオロオロと弱くなっていく。よほど悔しかったのかもしれない。
初めての唇を、愛する異性ではなく、年下の生徒、それも男子生徒に、いきなり無理やり奪われたのだ。32歳の大人とはいえ、いや、32歳だからこそ、そのショックを受け入れるのは容易いことではないのかもしれない。
「そんなにショックだったの?ごめん、先生のファーストキスなのに・・・」
「うわぁっ!それを言うなぁっ!!」
生徒の胸元に顔を寄せ、嗚咽を漏らし続ける教師。
筒井はそんな教師に驚きながらも、ゆったりとした手つきで、その髪を撫でてやる。びっしょりとした汗で濡れていた。
こんなにも思い詰めるほどだったなんて、と考えると、筒井は立成への申し訳なさとともに、何とも言えない愛おしさが込み上げてきてしまう。
「うっ、うっうっ」
「先生、泣かないで」
「泣いてねぇよっ!」
すぐさま顔を上げた。
目は少々少し血走っているが涙を流していたわけでわないようだ。
本当にただ嗚咽を漏らしていただけのようだった。抱き着いて来る大きな体は大型犬を思わせるのに、こうやっていちいち強がりのように吠えるのは、小型犬のように見えた。
「つーかよ」
「?」
「なんでだよ」
「えーっと?」
「だから、なんであそこまでやったんだよ。やる必要なかっただろ?」
「それは・・・まぁ、せっかくだしなー、と思ったら、つい、やってしまいました・・・」
「・・・・」
「ねぇ、先生、ごめんなさい、許して」
「・・・まぁ、いいけどよぉ・・・」
ようやく気が紛れてきたのだろう。
先ほどまで夢中で筒井の身体にしがみついていた立成が、ノソノソと動き筒井の身体から離れる。
そもそも、おっさんのキス事情でいつまでも不機嫌でいるのもそれはそれでみっともない。
「多分、川崎も勉強になったと思うよ。いや、本当に」
「そうか~?」
「今度、一緒に聞いてみようよ。ちゃんとできたかどうか」
「いらねえよ」
「また拗ねてる・・・そうだね、先生が川崎に聞かないといけないのはキスなんかより、どうすれば彼女ができるかを」
「おぉいっ!」
互いに唇を重ねた後だというのに、しっとりとすることはなく、賑やかな夜が続いていった。
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だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
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俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
寮生活のイジメ【社会人版】
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BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
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前作から登場していた清野先生とのまさかの展開にずっと興奮しっぱなしです!
これからも楽しみにしています
ありがとうございます。
更新が遅くて申し訳ないです。
生徒との1年じゃなく、おやじとの1年ですね。。。
8月からはまた生徒との関係となる予定なのですが、それにはまず7月を終わらせないとですね。もうしばらくお待ちいただけると幸いです。
書くのが遅く、またご期待されているような内容とかけ離れてしまっており本当に申し訳ありません。
立成と筒井の関係性は大好きですが、親父達にいたぶられているのが長すぎて、はっきり言って飽き飽きしてきました。それまでの内容とかけ離れている感じですよね。
ご感想いただきありがとうございます。
そして返信が遅くなり申し訳ありません。
今の話(7月)、やはり長いですか。自分もここまでになるとは思っていませんでした。調整が不出来ですね。
次の話の8月以降、お好みの展開になれば幸いです。