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27 国王は口八丁

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「そなたは若年ながら敏い」

「ふふふっ」


 日本人若手組が不得要領なのは良しとして、ガーラントが分かっていない様子に国王は苦笑する。

 しかし、国王もハニー・ビーも説明することなく話題は移った。


 聖女には最大限の便宜を図るので、どうか瘴気の浄化に協力してほしい。これはお願いであって強制ではない。拒否されたとしても、今後の生活はなるべく望みが叶うよう努力する。浄化に協力してもらえるなら、当然、褒章も出す。現時点で困っていることがあるのなら言ってほしい。善処する。


「あ、あの、召喚された時はすごくムカつきましたけど、今は協力するつもりでお勉強しています。なので、もう頭を下げるのはやめてください。お願いします」


「あたしゃ年も年だしね。若い子たちのようにはいかないだろうけど、ここでもうひと働きするのも悪かないと思ってる。今、困っている人等がいるんだろ?」


「私は……お二人もそう言うし、私で出来ることがあるなら……」


 こうして聖女たちは浄化を行うことを肯った。


「聖女殿、感謝する。甥がしでかしたと聞いたときにはどうしてくれようかと思ったが、こうして寛大な方々を招いた事を考えれば、不見識だったのは私の方かもしれん。まさに聖女の名に相応しい麗しくも情に厚い方々が我々の為に力を貸してくださるのだから」


「では、ガーラントさんが首を切られるって事は無いと思っても?」

 翔馬が訊ねた。


「首を?それは役職的にか、身体的にか」

「どっちもですけど……後者が特に」


「功績として褒めることはせぬが、愛国心故の行動と考え、罰する気も無い」


 国王の言葉に、ガーラントはホッとしたように息をついた。

 召喚について報告したのは、十日前の事だ。聖女三人の召喚が成り、瘴気石での試しを数度行った結果、間違いなく浄化の力があること、その上で協力をしてもらえそうだと確認し、無断で召喚をし、5人をこちらに呼んだこと、うち3人が聖女であることを国王に報せたのだ。


 その時、国王からは叱責も詰問もなく、身の置き所が無かったことをガーラントは思い出した。


「そして、魔女殿、勇者殿、お二方にもご協力願いたい」

「え?俺も?」


 驚きの声をあげた翔馬に向き直った国王が重々しく頷く。


「いや、俺、勇者って称号あるらしいですけど、戦闘経験皆無ですし性格的にも向いてないと思うんです」

「それは勇者殿が今までそれを必要としていなかったからであろう。勇者殿は攻めるための戦はせずとも、守るものの為になら命を賭して動ける方と推察する。どうか聖女殿たちが瘴気浄化の旅に出るときは同行願いたい。そなたの力を借りたいのだ」


 いや、今会ったばかりの人にそんなこと言われても……とハニー・ビーは思ったが翔馬はそうではなかったらしく、恥ずかしそうに、でも嬉しそうにしている。


 えー、ねーさんたちもにーさんもそれでいいの?

 そうは思ったが、余計なお世話だし自分には関係のない事だからと口はつぐんだままだ。


「そして魔女殿」

「ん?あたしは関係ないよー。ニホン?とかってとこから来たわけじゃないし、魔女だし。それよか、王様をいつまでも立たせておいていいの?」


 国王が入室したときに立ち上がったガーラント、頭を下げたときに立ち上がった日本人組ともにまだ椅子に座っていない。この場で座っているのはハニー・ビーだけだった。


「構わん。甥の悪さを詫びに来たんだからな」


 国王はそう言ったが、ガーラントは慌てて席を整えた。そうされれば国王も当然のように席に着く。


「魔女殿は比類ない技を使われると聞いた。どうか、聖女殿たちの行脚に付き添うていただきたい」

「いやいやいや」

「対価として、この国にある魔導書・魔術書は禁書庫のものも含んで全て閲覧許可を出そう」

「……いや、あたしのほうが魔法に関して優秀だし」


 国王から目を逸らし小声で言うハニー・ビーに、彼は更に言う。


「魔女殿は知の僕とみた。自身の知らぬ魔法陣をつぶさに観察し、魔導士たちに質問も重ねたと聞く。例え、魔女殿がより高度な魔術を行使できようと、系統の違う魔術や陣などに興味は魅かれぬか?」


 的確に人の弱みを突くことに長けた国王を、ハニー・ビーは拗ねたように睨んだ。もちろん、国王は痛痒を感じない。


「見たいと思えば、どんなとこにある禁書だって見に行けるし」


 実際、彼女が欲したならばそれを止める手立てはランティス国にはないだろう。


「それはせぬな。出来るがしないだろう。魔女殿は道義にもとることはされぬ。確かに魔女殿がいた世界とランティスとでは法も礼儀も違うだろう。だが、魔女殿は倫理や礼節に堅いであろう?」


 やられたらやりかえす・やられるまえにやれをモットーとしている魔女。

 しかし、彼女は罪なき者にあげる手は持たないし、自分本位の部分があるとはいえ社会通念を進んで破るアウトロー的な性質はなかった。


 彼女の中では、加害者から直接慰謝料徴収することは正義にもとった行動ではないのだ。


 その辺りは国王の言う通りだ。


「縁あって誼を通じた彼女らを、どうか、見捨てないで頂きたい」


 この言葉も魔女の弱みを突いたものだ。見捨てるも見捨てないも、責任はガーラントとランティス国にあるというのに、なぜ召喚された魔女に押し付けるのかと思いながらハニー・ビーは舌打ちをする。


「……王様ってやっぱ人が悪くないとやってられない商売だねぇ」


「魔女殿は元の国で王と近しかったのか?」


「あたしっていうか師匠がね。まー、その縁で可愛がってはもらったよ。単純バカのようでいて腹に一物って感じの良い王様だった」


「ほほう。わたしも魔女殿に”良い王様”と言ってもらえるよう精進するとしようか」


 言質は取っていないものの、魔女の同行も確定とみて国王は笑う。


「対価が安い」

「希望は?」

「入手可能な茶葉を全て。国内外問わずで」

「承ろう」


 蚊帳の外に置かれたガーラントは、自分の報告が「5人の召喚、うち3人が聖女」であったのに何故、国王は勇者と魔女だと知っているのか――それに気づきもしなかった。


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