明日はちゃんと、君のいない右側を歩いてく。

朱宮あめ

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第3章

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 九月の半ば。

 遠く、空のずっと向こうにあったと思っていた雲は、落ちてくるんじゃないかと思うほどに低く、近くに浮かんでいる。

 窓から入ってくる風はからりとして、ついこの間まで空気の中に混じっていた水気はいつの間にやらどこかにいってしまったようだ。

「えーそれでは、今年の二年四組の文化祭は巫女カフェをやるということで決定しました」

 一限目のロングホームルーム。
 今日の議題は、今月末にやる文化祭について。文化祭実行委員が主体となって、出し物を決めている最中だ。

 クラス全員で大いに盛り上がっているが、私にはあまり関係のない話である。南高の文化祭は、基本自由参加だから、私は昨年同様今年も出るつもりはない。

「異議はありますか?」
「さんせーい」
「えー待て待て。女子はいいけどさぁ、俺たちなにやるんだよ」
「巫女だよ」
「女装すんの!?」
「ほかになにやんのよ。お決まりでしょー」
「えー俺やだよ」
「はーい、静かに。異論は手を挙げてからお願いしまーす」

 ガヤガヤと浮き足立つ教室の隅で、私は窓の向こうの空を見上げ、息をついた。

 秋の背中が見え始めている。
 夕立が傘を鳴らす日が一日、また一日と減り、夏の暑さが弱まってくると学校はすぐに節電をうたい、冷房を切る。そうなると学生たちは窓を開けて暑さに対抗するわけだが、それが私は苦手だった。

 暑いのが、ではなく、窓から吹き込む少しひんやりした秋風が苦手なのである。

 午前中の授業が終わって昼休みになり、私と朝香はいつものように教室の机を向かい合わせて、お弁当を広げた。

 私はお母さんが作ってくれたお弁当。朝香は購買のパンだ。焼きそばパンと、プリンあんまん。これが彼女の毎日のお昼ご飯。
 ちなみに前者はいいとして、プリンあんまんはなかなか攻めたパンである。
 朝香があまりに美味しそうに食べるものだから、じっと見ていたら、この前ひとくち食べる? と聞かれた。
 食べたらまぁ、想像通りの味だった。不味くはないけど……うん。もういらないかも。
 朝香いわく、革命的な味でしょ! やみつきになるでしょ! ……とのことだ。
 私はやみつきになる前に断念した。

「プリンあんまん、食べる?」

 今日も今日とて熱心にプリンあんまんを推してくる朝香をやんわり断りながら、私もじぶんのご飯を食べ始めた。

 しばらく昨日のドラマの話で盛り上がったあと、ふと朝香が思い出したように言った。
「夏もそろそろ終わりだねぇ。やっと涼しくなるよ」

 朝香の視線につられるように、私も窓のほうへ視線を向ける。
 窓の向こうには、燦々とした太陽がある。あらためて、夏が終わり秋が近付いていると実感する。

 少しひんやりとした風が、頬を撫でる。秋色が滲む風に、知らずと冷や汗が出た。
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