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第4章
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しおりを挟む翌日の放課後、私は朝香たちに予定があるからと言って、早々に学校から帰った。そのまままっすぐ、綺瀬くんのところへ行く。
山の上の神社の、そのさらに上を目指して石段を登っていく。
「綺瀬くん!」
神社の奥、石段をさらに上がった先にある、空の下にぽっかりと空いた広場に出ると、そこには見慣れたシルエットの青年がいた。
「水波。来てくれたんだ」
ベンチには、爽やかな笑顔をたたえた綺瀬くんがいた。小走りで駆け寄り、となりに腰を下ろす。
「今日はなんだか悩んでる顔してるね」
顔を合わせるなり、綺瀬くんが言う。
「……そ、そうかな?」
誤魔化しながらも、どきりとするじぶん。綺瀬くんの言う通りだった。
先生に修学旅行のことを言われてから、あまりまともに眠れていない。
しかし、いくらひとりで考えても答えを出せないからと、今日はその件を綺瀬くんに相談しようと思ってここへきたのだ。
「いいよ、話してごらん」
優しく言われ、私は素直に頷く。
「私ね、十二月に修学旅行なの」
「おぉ。それは楽しみだね」
「…………うん」
「……って、あれ。もしかしてそうでもないのかな?」
「そんなことはないんだけど……ただ場所がね、沖縄なんだ。それがちょっとひっかかってて」
行き先を告げると、綺瀬くんは息を呑んだ。
「先生は、無理しないでいやなら欠席していいって言ってくれたんだけど……友達はみんなすごく楽しみにしてる。一緒の班になろうって私のことも誘ってくれたの。みんなの楽しみの中にね、私と一緒にっていうのも入ってるんだ。だから、行くか行かないか、すごく迷ってて」
夏休みが明けたばかりの頃の私は、ひとりぼっちだった。当時の私なら、行かないと即答しただろう。
でも、今は。
今はとなりに朝香がいる。ほかにも、歩果ちゃんや琴音ちゃんがいる。
本心を言えば、行きたいと思っている……と思う。
「でも……私、あれから一度もあの場所に行ってない。海なんて絶対無理だし、それに……水族館とかも正直行ける気がしないんだ」
そっか、と綺瀬くんは吐息混じりに言った。
「……ねぇ、水波はなにが怖い?」
「行くのはいいの。ただ……」
行ってみて、案外なんともなかったな、と思うのがいちばん怖い。
沖縄で、ふつうでいられるじぶんがいたら、私はたぶん、じぶんにどうしようもない嫌悪感を覚えるだろう。
それが、怖い。
そう言うと、綺瀬くんは目を伏せた。
「……そっか」
「先生に言われたときからずっと考えてるんだけど、ぜんぜん答えを出せなくて。……どうしたらいいかなって、悩めば悩むほど分かんなくなっちゃって」
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