明日はちゃんと、君のいない右側を歩いてく。

朱宮あめ

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第4章

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 ある日突然奪われた平穏。どこにぶつけたらいいか分からない怒り。悲しくて泣きたくても、あまりの絶望に泣き方すら分からなくなってしまう。呼吸の仕方すら忘れてしまう。

 これは物語などではない。
 本当に起こったできごとなのだと、他人事のように笑って通り過ぎていく人たちに、当事者は声を上げて訴えたくなる。

「……水波、大丈夫?」

 ふと視線を感じ、ハッとする。気が付くと、琴音ちゃんがそっと私の手を握ってくれていた。私は微笑みを返し、「ありがとう、大丈夫」と告げる。
「そっか」
 琴音ちゃんは優しく微笑んだ。

「水波はすぐぼけっとするから、迷子になりそうで心配」

 そう言って、琴音ちゃんは私の手を握ったまま、ゆっくりと歩き出す。繋がれた手から伝わる体温は、泣きたくなるくらいにあたたかい。

「ぼけっとって……そんなことないけどね。でも、ありがとう」

 心がぽかぽかと陽だまりに包まれたような心地になる。私は琴音ちゃんの手をぎゅっと握り返し、微笑みを返した。

 その日の夜。大広間での夕食を食べ終えた私は、ひとりホテルのロビーにいた。

 今日泊まる部屋は四人部屋で、メンバーは班と同じ朝香たちだ。
 きっと今頃、部屋ではお菓子を広げながら女子トークやらトランプ大会やら、怖い話大会が行われていることだろう。

 私にとって、修学旅行の最大の問題は夜だった。
 夜は、どうしたってうなされる。夢を見ずに眠れるのは、綺瀬くんがとなりにいてくれるときだけだ。これだけはどうしようもない。

 ロビーの時計を見る。とうに消灯時間は過ぎていたけれど、今はまだ部屋に戻る気にならない。
 みんなが寝た頃に戻って、みんなが起きる前に起きればいい。
 自動販売機で買った水をちびちび飲みながら、スマホをいじって時間を潰した。

 スマホの連絡先一覧をスクロールしながら、とある名前のところで手を止める。

 ――穂坂ほさか陽太ようたさん。

 今回、修学旅行に来る前に両親に頼んで教えてもらった恩人の連絡先だ。

 修学旅行へ行く前に連絡しようと思っていたのだが、ごちゃごちゃと悩んでいるうちにあっという間に修学旅行になってしまったのだった。

 もう一度時計を見る。
 もう夜遅いけど、連絡してみてもいいだろうか。いや、でもさすがにこの時間に電話するのは不謹慎……いやいや、でも今を逃したらきっと、沖縄に来ることなんてないかもしれない。
 またずるずると悩みの沼にハマりそうになり、いけない、と頬を叩く。

 きっと、連絡するなら今しかない。
 しばらくスマホ画面とにらめっこしてから、えいっと発信ボタンを押した。
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