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第4章
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しおりを挟むそういえば、今日はどこか口数が少なかった。
戦争体験の話を聞いて落ち込んでいるのかと思っていたら、そうではなかったのか。
私はぶんぶんと首を振った。
「朝香は、私の親友だよ。朝香がいない毎日なんて考えられないもん」
そう言うと、朝香はにこりと微笑んだ。
「ありがと。でも、いいよ。無理しないで」
「無理なんてしてないよ」
「……私ね、中学のとき友達関係でいろいろあって……だから高校は友達にあんまり深入りしないようにしてたんだ」
「いろいろって?」
「私、ちょっと独占欲が強いっていうか……仲良くなった子を独り占めしたくなっちゃうんだよね。べつに、他の子が嫌いとかそういうわけじゃないんだけど、なんか……不安になっちゃうんだ。私には歩果とか琴音みたいな人としての魅力がないから、いつか離れていっちゃうんじゃないかって」
だから、本当はふたりきりがよかったなって思っちゃったんだと、朝香は言う。
朝香は気まずそうに笑って、「ごめんね」と言った。
「なんで謝るの?」
謝られるようなことを言われた覚えはない。
「だってこんなの、重いでしょ」と、朝香は私から目を逸らした。その瞳は所在なさげに揺らめいていて、もしかして、と思う。
朝香は、いつだって明るくて優しくて、笑顔だった。
でもそれは、強がりだったのかもしれない。私と同じように、ひとりぼっちが苦しいと、だれかに助けてと言えなかっただけなのかもしれない。
それなら、今度こそ。
私は朝香の手を取り、まっすぐに見つめて言う。
「私の一番は、朝香だよ。朝香がそんなふうに思ってくれてたって知って、すごく嬉しい。ありがとう」
「水波……」
朝香の瞳に涙が溜まっていく。
「朝香が私に話しかけてくれた日にね、私の人生は変わったんだ。つまらなかった毎日が、楽しくなった。うさぎのキーホルダーを見るたびに、笑顔になれた。学校に行くのが楽しみになった。テレビを見て面白かったときとか、明日朝香に話したいって思うようになったんだよ」
この経験は、一生変わらない。これから先、どんな経験をしようと、朝香が私に話しかけてくれたときの嬉しかった気持ちは絶対になくならないし、変わることはない。
「前、ある人に言われたの」
目を閉じ、綺瀬くんがくれた言葉を口にする。
『いつかきっと、喧嘩してもまた会いたいって思える運命の子に出会える』
「私……朝香がその運命の子だと思ってるよ」
まっすぐに朝香を見つめて言い切る。瞳を潤ませる朝香に、私は続けた。
「今も、心配して探しに来てくれてありがとう」
「……ううん」
「ごめんね」
「え?」
「私、まだ馴染めなくて」
もうひとりじゃないのに、気を抜くとすぐひとりになろうとしてしまう。
これは私の悪い癖だ。直さないといけない。
だって、私には相談できる人がいる。意地を張らなくても、受け止めてくれる人たちがいるのだから。
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