明日はちゃんと、君のいない右側を歩いてく。

朱宮あめ

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第4章

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「……ねぇ朝香。私の話、聞いてくれるかな?」
 朝香が「なんでも言って」と大きく頷く。
「あのね、私……夜、眠れないんだ」
「……夜?」
「事故のあとから、寝ると悪夢を見るようになったって、前に言ったでしょ」
「うん。……あ、もしかして、それで部屋に戻って来なかったの?」
 小さく頷く。
「悪夢を見ない日はほとんどない。眠っても、すぐに悪夢にうなされて起きるんだ。……だから、部屋でうなされてたら、みんなを起こしちゃうし悪いかなって思って部屋を出た。みんなが眠ってから戻るつもりで」

 すると、朝香がぽんと私の頭を叩いた。驚いて朝香を見ると、直後朝香は私を強く抱き締めた。

「ごめん。前に聞いてたのに、気付いてあげられなくて……ごめんね」
「ううん。ぜんぜん」
「そういうことならオールだオール!」
「え……いや、でもそれじゃみんなが寝不足になっちゃうし」
「いやいや水波サン? 修学旅行でちゃんと寝る生徒のが少ないっての!」
「え? そ、そうなの?」

 朝香は「そうだよ! 知らんけど!」と強く言い、私と目を合わせた。

「ぶっちゃけ、私だって寝る気とかぜんぜんなかったよ」
 言うなり、朝香はすくっと立ち上がった。
「よし。そうと決まれば部屋に戻ってお菓子パーティーしよう! ふたりもまだ起きてると思うし、四人で!」
「でも、もう消灯時間過ぎてるよ!? 電気付けてたら先生にバレちゃうんじゃ……」
「大丈夫! 先生たちジジババは寝ちゃうって! よぅし、夜はこれからだよ! ほら、立って! 今日は寝かさないぞ~!」

 朝香にぐいっと手を引かれ、私はつんのめりながら歩き出す。ちょっと強引だけど、慈愛に満ちた力強い朝香の手を見つめる。
 思えば、綺瀬くんに導かれた光の先にはこの手があった。

 不思議なものだ。
 今の私は、この手がない明日を想像することができない。

「……朝香、ありがとね」

 小さく呟くと、朝香はくるっと振り向いて、「なに?」と聞き返してきた。私は首を振って「なんでもない」と笑い、そのまま朝香のとなりに並んだ。私たちはぴったりとくっついたまま歩いた。

 部屋に戻ると、歩果ちゃんと琴音ちゃんが待っていた。ふたりは布団の中にもぐって息をひそめていて、部屋に入るなりいきなり私たちに襲いかかってきた。

 どこに行っていたのかと責められ、私は琴音ちゃんに、朝香は歩果ちゃんに押し倒され正直に事情を白状する。そうしたらやはり、そのまま四人でお菓子の宴が始まったのだった。

 布団の上にお菓子を広げて女子トーク。
 枕をお腹に抱えて恋バナで盛り上がる。歩果ちゃんも朝香もそれぞれ好きな異性がいたらしく、話を聞いて驚いた。琴音ちゃんは、今は好きな男の子よりもバスケ一筋らしい。大学もバスケで推薦を狙っているのだとか。

 四人で笑いながら語り合っていると、夜はあっという間に明けていった。

 ……ただし朝、部屋で騒いでいたことがだれかの密告により先生にバレて、めちゃくちゃ怒られたのは言わずもがなだ。
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