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第4章
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修学旅行二日目の今日は、学年で二手に分かれて、美ら海水族館と熱帯ドリームセンターという施設へ行くことになっている。
ドリームセンターは今年急遽追加されたツアーで、水族館が怖いという私のわがままを聞いてくれた先生の配慮である。先生は、私以外にも魚が苦手な子もいるだろうからということで主張を通したと言っていた。
そういうわけで私たちは今、植物の楽園ドリームセンターにいる。
ドリームセンターには、南国の植物たちがまるで絵画のように鮮明に美しく咲き誇っていた。関東では馴染みのない植物ばかりで、まさに南国といった感じで夏を感じる。
……まぁ、今は冬なのだけれど。
「見てみて水波! めちゃくちゃハワイっぽい花咲いてる! あっ! こっちには食虫植物もいるよ! やば! こわ!!」
朝香は昨晩の夜更かしなどぜんぜん堪えていないというような顔をして、温室の中で人一倍はしゃいでいた。まるで、花と花の間を飛び回るミツバチのようにせわしない。
元気だな、と思いながら、私はひっそりと欠伸をかみ殺した。すると、朝香が駆け寄ってきた。
「水波、眠い? 大丈夫?」
「あ、ううん。これはいつもの癖みたいなものだから、大丈夫」
「そっか」
朝香がホッとしたように笑う。
「ありがとね、朝香」と礼を言うと、朝香は黙って微笑み、首を振った。
色鮮やかな花の楽園を歩きながら、私は前を行く朝香に「ねぇ」と声をかける。朝香が振り向く。
「みんなで写真撮ろうよ」
「おっ! いいね! 撮ろ!」
歩果ちゃんと琴音ちゃんを呼んで、四人ではしゃぎながらたくさん写真を撮った。
撮った写真を見つめながら、綺瀬くんにも見せてあげようと思う。
そういえば、お土産はなににしよう。キーホルダーでいいだろうか、なんて考えていると、パシャッと音がした。
「え?」
「隙ありだね!」
音のしたほうへ視線を向けると、朝香がスマホのカメラを私に向けていた。
「あー撮ったな!」
「えへへ~油断してるからだよっ」
「いいもん、私も変顔撮ってやる」
「えー、そこは可愛いショット希望なんだけど!」
「じゃあ気を抜いちゃダメだよ」
肩を並べて温室を歩いていると、「水波ー、朝香ーっ!」と、後ろから私たちを呼ぶ声がした。
「ちょっと水波ちゃんたち歩くの早いってばー!」
「早く来ないと置いてくよ」
「おおっ、なにこの花、きれいだな。見てみて歩果、これさっきの虫にちょっと似てない?」
「ちょっと琴ちゃん!」
「ははっ! 冗談だって」
楽しそうにはしゃぐ私たちのうしろで、歩果ちゃんは琴音ちゃんにぴったりと張り付いて歩いている。
歩果ちゃんはただの花や草が揺れただけでもびくびくしていた。どうやら、さっき見た虫が相当怖かったらしい。
「うわぁ、もう早く出ようよ~」
青白い顔をした歩果ちゃんは、もしかしたら水族館のほうがよかったのかもしれない。少し申し訳ないことをしてしまった気分になる。
じっと見つめていると、歩果ちゃんと目が合った。
「水波ちゃん? どうしたの?」
歩果ちゃんがきょとんとした顔で私を見てくる。
「……いや。なんでもない」
それでも、文句一つ言わずについてきてくれた歩果ちゃんはすごく優しい子だと思う。
色鮮やかな世界をゆったりと歩きながら、私はこの三人を大切にしようと思った。
ドリームセンターは今年急遽追加されたツアーで、水族館が怖いという私のわがままを聞いてくれた先生の配慮である。先生は、私以外にも魚が苦手な子もいるだろうからということで主張を通したと言っていた。
そういうわけで私たちは今、植物の楽園ドリームセンターにいる。
ドリームセンターには、南国の植物たちがまるで絵画のように鮮明に美しく咲き誇っていた。関東では馴染みのない植物ばかりで、まさに南国といった感じで夏を感じる。
……まぁ、今は冬なのだけれど。
「見てみて水波! めちゃくちゃハワイっぽい花咲いてる! あっ! こっちには食虫植物もいるよ! やば! こわ!!」
朝香は昨晩の夜更かしなどぜんぜん堪えていないというような顔をして、温室の中で人一倍はしゃいでいた。まるで、花と花の間を飛び回るミツバチのようにせわしない。
元気だな、と思いながら、私はひっそりと欠伸をかみ殺した。すると、朝香が駆け寄ってきた。
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「あ、ううん。これはいつもの癖みたいなものだから、大丈夫」
「そっか」
朝香がホッとしたように笑う。
「ありがとね、朝香」と礼を言うと、朝香は黙って微笑み、首を振った。
色鮮やかな花の楽園を歩きながら、私は前を行く朝香に「ねぇ」と声をかける。朝香が振り向く。
「みんなで写真撮ろうよ」
「おっ! いいね! 撮ろ!」
歩果ちゃんと琴音ちゃんを呼んで、四人ではしゃぎながらたくさん写真を撮った。
撮った写真を見つめながら、綺瀬くんにも見せてあげようと思う。
そういえば、お土産はなににしよう。キーホルダーでいいだろうか、なんて考えていると、パシャッと音がした。
「え?」
「隙ありだね!」
音のしたほうへ視線を向けると、朝香がスマホのカメラを私に向けていた。
「あー撮ったな!」
「えへへ~油断してるからだよっ」
「いいもん、私も変顔撮ってやる」
「えー、そこは可愛いショット希望なんだけど!」
「じゃあ気を抜いちゃダメだよ」
肩を並べて温室を歩いていると、「水波ー、朝香ーっ!」と、後ろから私たちを呼ぶ声がした。
「ちょっと水波ちゃんたち歩くの早いってばー!」
「早く来ないと置いてくよ」
「おおっ、なにこの花、きれいだな。見てみて歩果、これさっきの虫にちょっと似てない?」
「ちょっと琴ちゃん!」
「ははっ! 冗談だって」
楽しそうにはしゃぐ私たちのうしろで、歩果ちゃんは琴音ちゃんにぴったりと張り付いて歩いている。
歩果ちゃんはただの花や草が揺れただけでもびくびくしていた。どうやら、さっき見た虫が相当怖かったらしい。
「うわぁ、もう早く出ようよ~」
青白い顔をした歩果ちゃんは、もしかしたら水族館のほうがよかったのかもしれない。少し申し訳ないことをしてしまった気分になる。
じっと見つめていると、歩果ちゃんと目が合った。
「水波ちゃん? どうしたの?」
歩果ちゃんがきょとんとした顔で私を見てくる。
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それでも、文句一つ言わずについてきてくれた歩果ちゃんはすごく優しい子だと思う。
色鮮やかな世界をゆったりと歩きながら、私はこの三人を大切にしようと思った。
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