悪役女王、役を全うしようとしてるのに溺愛されてます 〜鏡よ鏡、ちょっと黙ってくれないか?〜

うまうま

文字の大きさ
11 / 14

8.新たな"真実"

しおりを挟む

鏡の男が、すうっと姿を変える。
一枚の大きな鏡が、そこに現れた。

 

「女王さまは――"魔法の鏡に操られて、毒リンゴを作った"。」

 

銀色の光が、鏡面を走る。
そこに映ったのは私だった。

 

恍惚とした目で鏡に語りかけ、その"洗脳"のままに動く私。

粛清を重ね、恐怖で国を縛りつけ、
そして――

 

毒リンゴを完成させる私の手元。
"鏡の言うとおりに"。



「……な……にを、言って……」



私は息をのんだ。

………まさか。
鏡は、私の代わりに"悪役"になるつもり…?

 

「鏡よ、やめなさい! それは真実ではありません……!」



声がふるえる。



「女王――私という悪役が消えてこそ……この物語は『めでたし』を迎えるのです!」

 

鏡の中の彼が、ふっと微笑む。
昨日と同じ、あのやさしい目で。

 

「女王さま。私は真実を映す鏡。
真実を歪めることはできません。
……しかし」

 

ピシッ。


銀の鏡面に、黒い線が走る。
彼に、大きなヒビが入っていた。

 

「"物語の余白"に、新たな真実を映すことは……できるのです」

 

ピキ……パキ……



音を立てて、鏡面に裂け目が広がっていく。

心が割れていく音のように。



「あれ……俺たち、なにして……?」



ひとりの小人が、夢から醒めたように声を漏らした。



「なんか、夢でも見てたような……女王さまが姫を殺す? そんなはずないだろうよ」

「嘘だろ……たとえ夢でも、俺が、尊い推しである女王さまに弓矢を向けたなんて…!
何かに身体を乗っ取られたみたいだった!!」



狩人が弓を床に叩きつける。
動物たちはしゅんとうなだれ、そろそろと後退した。


王子は信じられないというように鏡と私を交互に見つめ――



「やっぱり、女王さまは悪役なんかじゃなかったんだ!
……けど、誰かが悪役にならないと…この物語は終らないってことか?」



「……そうよ。"悪役"が生きてる限り、この物語は終わらないわ」



けど……
だからって、こんなの……!



「お願い、やめて……!」



叫ぶ私を制するように、彼は言い放った。

 

「"女王を操っていたのは、魔法の鏡"。つまり、真の悪役は私……
悪役が消えることで、この物語は『めでたし』を迎えるのです」

「――だめよっ! そんな結末、いらないわ……!」

 

私は鏡へ駆け出した。



「だめよッ! 私の身代わりにならないでッ!!」

 

夢中で、手を伸ばす。

鏡の中から、彼も私に向かって手を差し出して――

 


「……もしまたあなたに会えるなら……
次は、あなただけを映す鏡になりたい」

 

バリィン――!!!

 

指先が触れ合った、その瞬間。

鏡が砕けた。


銀の破片が宙に舞う。
黒く濁ったそれは、何も映さなくなっていた。

 

そして――世界が、剥がれ落ちた。

 

壁も、天井も、床も。
城にあったもの全てが、
紙のようにペリペリとめくれて、消えていく。



「うわっ……なんだよ、これ……!?」

「文字が消えてる……! カンペも……!」



あわてて床を叩く小人。
狩人や王子は、ただその場に立ち尽くしていた。



剥がれた先には、ただ――白。

 

まるで、本の最後の一ページ。
文も絵もない。

私たちは、そこに立っていた。

 

そして、その空白に――新しい文字が浮かびあがる。

 

『悪役が消えた。めでたしめでたし』



セリフもない。
物もない。音もない。


……鏡の、声も。

もう、聞こえなかった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

転生したら巨乳美人だったので、悪女になってでも好きな人を誘惑します~名ばかり婚約者の第一王子の執着溺愛は望んでませんっ!~

水野恵無
恋愛
「君の婚約者が誰なのか、はっきりさせようか」 前世で友達と好きな人が結婚するという報告を聞いて失恋した直後に、私は事故で死んだ。 自分の気持ちを何も言えないまま後悔するのはもう嫌。 そんな強い決意を思い出して、私は悪女になってでも大好きな第二王子を身体で誘惑しようとした。 なのに今まで全然交流の無かった婚約者でもある第一王子に絡まれるようになってしまって。 突然キスマークを付けられたり、悪女を演じていたのがバレてしまったりと、振り回されてしまう。 第二王子の婚約者候補も現れる中、やっと第二王子と良い雰囲気になれたのに。 邪魔しにきた第一王子に私は押し倒されていた――。 前世を思い出した事で積極的に頑張ろうとする公爵令嬢と、そんな公爵令嬢に惹かれて攻めていく第一王子。 第一王子に翻弄されたり愛されたりしながら、公爵令嬢が幸せを掴み取っていくお話です。 第一王子は表面上は穏やか風ですが内面は執着系です。 性描写を含む話には*が付いています。 ※ムーンライトノベルズ様でも掲載しています 【2/13にアルファポリス様より書籍化いたします】

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~

花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。  だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。  エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。  そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。 「やっと、あなたに復讐できる」 歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。  彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。 過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。 ※ムーンライトノベルにも掲載しております。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

日常的に罠にかかるうさぎが、とうとう逃げられない罠に絡め取られるお話

下菊みこと
恋愛
ヤンデレっていうほど病んでないけど、機を見て主人公を捕獲する彼。 そんな彼に見事に捕まる主人公。 そんなお話です。 ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。

処理中です...