悪役女王、役を全うしようとしてるのに溺愛されてます 〜鏡よ鏡、ちょっと黙ってくれないか?〜

うまうま

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10.おわりとはじまり

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* * *

 

「鏡よ、鏡――」

 

ようやく立て直した地下室。

砕けた破片を一つ残らず拾い集め、なんとか元に戻した“魔法の鏡”。


……いいえ。
"魔法の鏡だったもの"。

パズルのようにつなぎあわせた鏡面はひびだらけ。
黒く濁って、何も映さない。私の姿さえも。

 

「きっと大丈夫ですわ、お義母さま!」

「そうだよ女王さま! もしだめでも、また別の方法を考えようぜ!」

 

緊張で言葉が詰まる私に、皆があたたかく笑いかける。


――その笑顔が、何よりの魔法だわ。




よみがえる、あの言葉。

 

『真実を変えられなくても、
物語の"余白"に真実を作ることはできる』

 

彼が遺した言葉。

私は、その"余白"に一文を加えた。

 

『魔法の鏡を作ったのは女王。
女王なら、鏡が壊れても蘇らせることができる』

 

小さく、深く、息を吸って。


そしてもう一度、黒く濁った鏡に向かって問いかける。

 

「――鏡よ鏡。この世で、いちばん美しいものは何?」

 

沈黙。

空気が張り詰める。

冷たさが、指先まで染みてくる。


ああ、やっぱり……



「これでは、だめみた――」


 
その瞬間――


 



――パァァァァッ!!!

 

「うわっ!? まぶしい!」

「なんか爆発した!? 誰か消火器ィ!」


 
銀の閃光が、地下室を飲み込む。
鏡が、内側から光を放っている。


――ヒビが、音もなく消えてゆく。


時間を巻き戻すように、かつての鏡となってゆく。

私は目を細め、光のなかを見つめた。

 

「……鏡よ鏡……お願い……答えて……!」



浮かび上がる、双つの白い光。

黒い影が煙のように揺れ、やがて輪郭がはっきりと浮かび――

 

「………っ、ヒルデ、さま?」

 
あの声。

あの瞳。

あのとき私の代わりに砕け散った、魔法の鏡に宿る彼。



彼は驚いたようにまたたく。
それでも、静かに、微笑んで――

 

「……この世でいちばん美しいもの――
それは、あなたの心です。ヒルデ女王さま」

 


背後で響く歓声。
すすり泣く声。


私はふるえる手を伸ばし、
差し出されたその手を、強く、強く――握った。


鏡の中の男は、もう道具ではない。
彼の意志で、生きられるように――



私は、最後の一文を加える。



"鏡に閉じ込められし男"ではなく、
"物語のをつづきを、自由に生きる男"に。


彼はすうっと鏡から出てきて――


鏡を振り返る。

己が離れても、なお光を放つ鏡を見て息を呑む。



「……魔法のようです。また、あなたの隣に立てるなど」



私はにじんだ視界で彼を抱きしめる。

あたたかい。

帰ってきた。
私の元へ、帰ってきてくれた。



「あなたこそが、私の魔法であり――私を救ってくれた奇跡よ。
……おかえりなさい。私の愛しい鏡さん」

「……っ、ヒルデさま……この命あるかぎり、永遠に、あなたの物語の傍に……」



背後から、「え、鏡と女王さまってできてるのか!?」「うるせえ、静かにしてろ粗チン野郎ッ!」という声が聞こえる。



私は苦笑しながら腕を離し、みんなを振り返る。



「やっと、みんな揃ったわね。"私たちの物語"……さあ、始めましょう!」

「「「うおおーっ! 女王さまバンザイッ!!」」」




生き生きと動き、騒ぎ、笑うキャラクターたち。


もう、悪役はいない。


これから私たちの手で、物語のページを紡いでいくのだから。





おわり
……そしてはじまり。




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