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離れ離れの気持ち
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「イケメンでモテるから、流星が自分の物になれば、みんな私を羨ましがるっていう、ただの私欲だった。」
「そう、だったんか」
「でも、今気付いたんだ。」
「何を?」
「私は、優一の事が好きなんだって。」
優一はりみの突然の吐露に心底驚いた様子で言葉が出なかった。
「好きなの!優一が!優一のこと応援するって言ったけど、自分でもそう決めたけど、優一の気配り出来るところとか、誰に対しても平等に優しいところとか、一緒にいて楽しいところとか!笑顔が可愛いところとか!全部グッときて、好きになった。本気で!恋愛してる自分に酔ってるとか言われるかもしれないけど、確かに酔ってる!私は優一のことも、優一の事が好きな自分のことも、どっちも好き!大好き!」
りみはじっと優一を見つめる。
言ってやった。
ずっと言えなくてモヤモヤしてたこと。言えた。
でも、優一がなんて答えるかは分かってる。
でも、こんなとこで終われない。
ここで終わったら、また私は自分を嫌いになる。
「そうやったんや、俺、全然気付かんくて、俺、ごめんな。」
突然の優一からの謝罪にりみは困惑した。
「え、なんで?!なんで優一が謝るの?」
「りみの気持ちに気付いてなかったとはいえ、りみにミヤの話とかたくさんしてもうたし、」
「そんなのいいわよ!全然気にしてないから。」
「…それに、俺はりみの気持ちには応えられへん。」
「まだ、答えは出さないで。」
「え?」
「私、絶対優一を落としてみせるから!」
「落とすってそんな…」
「私を舐めないで頂戴。これでも、元祖ぶりっ子だったんだから。私に落とせない男はいない!」
りみは堂々と胸を張った。
「………ははははっ!」
りみの自信満々な宣言に優一は思わず吹き出した。
「おもろいこと言うなあ。でも、そんなに言うなら、お手並み拝見や」
優一はりみに優しく笑いかけた。
りみにも自然と笑みがこぼれた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ミヤは詩音と一緒に帰り道を歩いていた。
「もうすぐ3年かあ、早いね」
「本当にね。ミヤは大学行くの?」
「うん、詩音は?」
「私も、多分進学すると思う。」
「そっか、体育会系の?」
「んーどーだろ。でも、最近体育教師も良いなって思ってさ、教員免許取ろうかなって」
「あー良いじゃん!詩音運動神経良いし成績も良いから向いてるんじゃない?」
「成績が良いって、オール5のミヤに言われたくないな。」
「それは、1学期だけだから!」
「とかいって2学期も1個落としただけだったじゃん。」
「まあまあ、この話はもういいよ。」
仕切り直すようにミヤはそう言った。
「そういうミヤは?将来の夢」
ミヤはそのことについて詩音に問われた途端、言葉が出てこなくなってしまった。
思わず目が泳いでしまう。
いくら親友の詩音でも将来の夢のイメージが1つも出てこないのは恥ずかしかった。
ミヤは焦りを募らせながら、何か無いかと考えを巡らせる。
が、ミヤの頭には何も浮かんでこなかった。
そんなミヤをみて詩音が口を開いた。
「その様子は…まだ無いみたいだね。」
「…情けない。」
「難しく考えすぎなんじゃない?ほら、もう私達の年齢になると軽く考えすぎるのも良くないけど、難しく考えたって良いことないと思うよ?」
「うん…そうだよね」
私、どんな大人になりたいんだろう。
よく考えたら、そんなこと考えたこと無かったかも。
それって結構やばくない?!
そんな高校2年生いる?!
「私って超やばいじゃん」
「え?」
「将来のこと考えたこと無かった。今まで生きてきて」
「嘘?!高校受験の時は?」
「その時は、自分の選択の幅が広がれば良いと思いながら勉強してただけで、明確にどんな大人になりたいか考えながら勉強してなかった…」
「はぁぁ。ミヤ、あんたってやっぱ、ぬけてるよね~。」
「うぅ。どうしよう。」
「まあまだ3年まで少し時間あるから、それまでに色々考えよう!私も協力するから!」
「ありがとう、詩音」
「詩音はやっぱ凄いなあ」
「え?笑」
「ちゃんと自分のこと考えられてて。」
「ミヤがそれができない理由って、自分のこと考えてない分、人のことを考えられてるってことじゃないの?それは、ミヤの良い所だと思うんだけどな~」
「ダメなとこだよ!」
「ミヤはそう思うの?」
「うん」
「そっかぁ、ねえ!今週末、暇?」
「ええ、うん。」
「連れていきたいとこある!だから、絶対空けといてね、ばいばーい!」
そう言いながら、詩音は大きく手を振り、言ってしまった。
「はあ。私、大丈夫かな。」
ミヤは一言そう呟き、重い足取りで歩いた。
帰宅し、自分のベッドに突っ伏すと、今日が週に一度の流星と話が出来る日だと思い出し、重い体を起こした。
パソコンを起動させ、流星にビデオ電話を掛ける。
しばらく、着信音がミヤの部屋に鳴り響いた後、流星の顔がミヤのパソコンに映し出された。
「ミヤ!元気?」
「うーん、あんまり」
「疲れた顔してんな。なんかあった?」
「ちょっと進路のことで。」
「進路かー、そうか、もう俺たち3年だから考えなきゃいけないのか。」
「そうだよー、流星の将来の夢は?」
「んー、」
流星はこめかみに指を当てて考える。
「小説家!とか?」
「小説家!その考え無かったなー。」
「徳島浩史みたいな綺麗な小説を書きたい!」
「流星なら出来るよ!あ、でも、」
ミヤは口を噤んだ。
ミヤの様子から察したように、流星が一言付け加える。
「大丈夫だよ、目と耳が機能しなくても小説は書ける。」
「そっか、そうだよね!」
「うん、それよりさ、」
「何?」
「浮気してない?」
「するわけないでしょ!」
「そうだよな。」
「そんな信用無いの?」
「違う違う!心配なの、ミヤ、可愛いから」
ミヤは突然のその言葉に反応が一瞬遅れる。
「はは!照れてる!可愛い~」
「やめてよ!」
「やめない」
「え」
流星は真剣な表情で画面の向こうからミヤを見つめる。
「こんなこと言ったら、重いって思われるかもしれないけど、離れ離れになって、俺寂しくて毎日死にそうだから。でも、週に一度のこのテレビ電話でどうにか頑張れてる。だからミヤ、どこにも行くなよ。ずっと俺のミヤでいて。」
流星はミヤを愛おしそうに見つめた。
ミヤの顔がぽっと赤くなった。
「私だって、毎日寂しいんだから。学校での面白い出来事も感動する出来事も、全部、流星がいたらって考えてる。早く戻ってきて。手術成功させて、帰ってきて。」
「わかってる。俺も早く戻りた「りゅうせーい!」
すると突然、流星の言葉を誰かが遮った。
その声のすぐ後に金髪の美少女が画面に姿を現した。
その金髪の美少女は画面に思いっきり顔を近づけて、
「えー!この子誰?!彼女?かーわーい!」
「ちょっと、アンナ!そこどけよ!あっち行けって!」
「えーやだ!このあとカラオケ行ってくれる約束でしょ?」
「おい!俺がいつそんな約束した?」
「昨日いいよって言ってた!」
「言わせたの間違いだろ」
仲良さそうに会話を繰り広げる2人を画面越しに見ていたミヤにはふつふつと怒りが湧いてきた。
「随分仲が良いのね。」
ミヤが怒りの感情を含ませてそう言った。
すると金髪の美少女が画面を覗き込みながら、
「そうよ!ねえ、流星!」
と言った。
「んなわけあるか!ミヤ、違うんだ、ミヤ、」
「もういい!!嘘つき!」
ミヤは怒鳴り散らしたあと勢いよくパソコンの電源を切ってしまった。
なんなのあいつ。
調子の良いこと言っといて。
ばか。
ミヤはまたもやベッドに突っ伏し
た。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「はぁ」
「お前、キモイんだけど」
1つため息をついたミヤに向かって匡平が毒づいた。
「え、何、わ、私、なんかした?」
「今日で15回目だぞ。ため息つくの。しかもまだ1時間目なのに。」
「え、嘘、そんなに?!」
「なんかあったのか?」
「い、いや、別に」
「言ってみろよ、俺、こう見えて転校する前、歩くスピーカーって言われてたからよ。」
そう言いながら、匡平は不気味に笑った
「いや、ダメじゃんそれ!相談事言いふらすとか1番最低なやつでしょ。」
「はははっ」
今度は無邪気に笑った。
「まあ、聞くことぐらいできっから、放課後、屋上な」
そう言い、次の瞬間には机に突っ伏し、匡平は夢の中だった。
意外と優しいんだよね。この人。
まあ、距離感アホすぎて訳わかんないけど。
放課後になり、ミヤは係の仕事を済ませ匡平との約束通り、屋上へと向かった。
扉を開けると屋上のど真ん中で爆睡している匡平がいた。
「森島くん?」
ミヤが呼んでも起きる気配がない。
ミヤは恐る恐る匡平に近づいた。
「森島くん」
だめだ。この人全然起きない。
ミヤは匡平の耳元で呼べば起きると考えゆっくり顔を匡平の耳元へ近づける。
わあ、まつげ長い。
女子がキャーキャー言うだけの顔してるな~
ぱっちり二重だし、整ってるな~
ミヤが心底匡平の整った顔に関心していると、突然、匡平がぱちっと目を開けた。
「きゃあ!」
ミヤは驚きと恥ずかしさのあまり、後ろへ倒れた。
そこへ匡平が覆い被さる。
「ちょ、ちょっと、」
「俺さー、実はずーっと起きてたんだよね、どんな反応するかと思ったら、俺の顔ずっと覗き込んでるし」
「え、起きてたの?!」
「うん、やっぱミヤ、面白いな」
「からかわないで!しかもこの体制はまずいでしょ!」
「うるせーな、静かにしとけばミヤも可愛いのに。」
「静かにしてればって何!それにお世辞はいいから、はやくどいてよ!」
「世辞なんかじゃねーよ。長いまつ毛に茶色い目、それに、」
「キスしたくなる唇」
そう言い、匡平はイタズラっぽく笑った
ミヤも流石にすぐには言葉が出ず、赤面した。
匡平はミヤの顔を面白そうに見ながら、覆い被さるのをやめた。
「まあまあ、冗談はさておき、何があったんだよ」
「本当に言いふらさない?」
「んなことしねーよ」
「その根拠は?」
「お前の相談事だから」
「え、」
「勘違いすんな、この学校来て、最初に友達になったからってだけだからな」
「わ、分かってるよ!そんなこと。」
じゃあ、最初に友達になっていれば誰の相談事でも真面目に聞いてたってこと?
ミヤは胸がキュッと引き締められるのを感じた。
ミヤは匡平に昨日の流星との出来事を全て話した。
その間、匡平は真剣な眼差しでミヤの話に耳を傾けていた。
「なるほどそういうことか。」
「うん…」
「ムカつくな、お前の彼氏」
「ムカつくけど、よくよく考えたらもう半年以上も会ってない。そりゃ、冷めるし、他に彼女作って楽しみたくなる気持ちになるよ。」
「なんでお前が我慢してんだよ、こっちはあいつの不都合を飲んで待ってやってんのに、なんであいつは自分だけ楽しんでやがる」
「うん、まあ、それが正論だよね。で、でも!そういう関係かはまだわかんないから」
「でも、普通に考えて嫌だろ。自分が見えないところで異性と仲良くしてるとか」
「うん、まあ。」
「それに、俺も気になることがある。」
「何?」
「その金髪の美少女ってどんなやつだ?」
「えっと、確か、目が青くて、私ぐらいの髪の長さだったような…」
「名前は?」
「流星がなんか言ってたけど…覚えてない。ごめん。」
「いいよ、その代わり、来週、写真持ってこい」
「わ、分かった。」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「詩音が連れていきたい所って本屋?」
「そう!」
ミヤと詩音の2人は駅前にある大きな書店に来ていた。
「なんの本見るのよ」
「まあ、ついてきなって」
詩音に連れられやってきたのは職業のコーナー。
このコーナーには専門的な職業の本からメジャーな職業の本まで幅広い種類の本が並べられていた。
その中で詩音が手に取ってミヤに勧めたのが職業大百科という本。
その本にはあいうえお順でたくさんの種類の職業の説明が書かれてある本だった。
「この本読みながらさ、気になった職業に印つけてけば良いんじゃない?たくさんの職業知れて間違いないと思うんだけど!」
「おー!確かに!」
そう言いながら、ミヤはパラパラとページを捲ってみた。
確かに、わかりやすいので他の職業との比較もしやすそうだし、1つぐらい興味が湧く職業が見つかりそうだった。
「いいね、これ。ありがとう詩音!これ買ってく!」
ミヤは職業大百科を持ってレジに行った。
会計を済ませ、2人は書店を出た。
「気に入って貰えて良かったよ。」
「詩音のおかげでなんとかイメージは湧きそう」
「なら良かった。あれ、あの人って、イケメン転校生じゃない?!」
「え?」
詩音が指差す方を見ると、そこには匡平がいた。
「も、森島くん!!」
「ちょっとミヤ、声がデカい!」
「あ、ごめん。」
しかし、ミヤの大きな声は匡平の耳に届き、ミヤ達に気付いた匡平はどんどんミヤ達に近付いてきた。
「ちょっと来ちゃったじゃん!かっこいい!」
「詩音は怖がってんのか、見とれてんのかどっちなの」
「んーどちらかといえば、怖がってる」
「嘘つけ」
「ミヤ、」
「も、森島くん!奇遇だね!ばったり会っちゃうなんて」
「お前が俺をストーカーしてたからじゃねーの?」
「え、ミヤ、森島くんに付きまとってたの?」
「そんなことあるわけないじゃん!」
「え~本当に~」
詩音はニヤニヤしながらミヤをつついた。
「やめてってば!」
「あ、そうだ!ちょっとお茶しない?!」
詩音は目を輝かせながらそう提案した。
「ちょっと、詩音何言ってんの?森島くん、行くわけないよね?」
「別にいいけど」
「ええ!!!」
「やったー!森島くんってノリ良いんだね!じゃあ行こう!」
何この状況…
死にそうなんですけど。
3人は書店からそんなに遠くない喫茶店に入った。
喫茶店に入ってからは詩音がずっと匡平に質問し続けていた。
「前の学校ではモテたの?」
「いや別に」
「またまた~!」
詩音、気持ち悪!
どうしちゃったのよ。
ミヤは完全に話に置いてかれていた。
「彼女はいるの?」
「いる」
「えー!やっぱイケメンだもんねー!」
「ミヤ、さっきからこいつうぜー」
「それな。」
「いやちょっとおい!ミヤまでウザイとか言うな!」
「いやウザイっていうか、気持ち悪い?」
「ミヤ、シバくぞ~!」
「やめて、あはは!」
すると、時刻はぴったり午後1時になった。
喫茶店に流れるテレビは1時からのニュースに切り替わった。
「もう1時か。うちら1時間ぐらい話してたんだね。」
「話してたっていうか、詩音が森島くんに質問責めしてただけだけど」
「はは、まあね」
すると、
「皆様こんにちは!ランチニュースのお時間です!本日は山田アナが名古屋城にリポートしに行ってくれています。現場の山田アナ!」
「はーい!私は今、名古屋城に来ています。この冬の季節でしか見られない絶景スポットがあるそうなので本日はそれを皆様にリポートしていきたいと思います。いつもランチニュースを見てくださっている視聴者の皆さんもたくさん名古屋城に遊びに来られていますよー!」
アナウンサーのその言葉と共に、名古屋城に遊びに来ている、視聴者の姿がたくさん映される。
その中には流星とあの、金髪の美少女がも映っていた。
「あ!あの人!」
「なになに、知り合い?」
「森島くん!私が言ってた、金髪の美少女ってあの人だよ!」
ミヤはテレビに映る少女を指さした。
「隣の男はミヤの彼氏?」
「うん」
「残念だよ」
「何が?」
「ミヤの彼氏の隣の女は俺の彼女だ。」
「そう、だったんか」
「でも、今気付いたんだ。」
「何を?」
「私は、優一の事が好きなんだって。」
優一はりみの突然の吐露に心底驚いた様子で言葉が出なかった。
「好きなの!優一が!優一のこと応援するって言ったけど、自分でもそう決めたけど、優一の気配り出来るところとか、誰に対しても平等に優しいところとか、一緒にいて楽しいところとか!笑顔が可愛いところとか!全部グッときて、好きになった。本気で!恋愛してる自分に酔ってるとか言われるかもしれないけど、確かに酔ってる!私は優一のことも、優一の事が好きな自分のことも、どっちも好き!大好き!」
りみはじっと優一を見つめる。
言ってやった。
ずっと言えなくてモヤモヤしてたこと。言えた。
でも、優一がなんて答えるかは分かってる。
でも、こんなとこで終われない。
ここで終わったら、また私は自分を嫌いになる。
「そうやったんや、俺、全然気付かんくて、俺、ごめんな。」
突然の優一からの謝罪にりみは困惑した。
「え、なんで?!なんで優一が謝るの?」
「りみの気持ちに気付いてなかったとはいえ、りみにミヤの話とかたくさんしてもうたし、」
「そんなのいいわよ!全然気にしてないから。」
「…それに、俺はりみの気持ちには応えられへん。」
「まだ、答えは出さないで。」
「え?」
「私、絶対優一を落としてみせるから!」
「落とすってそんな…」
「私を舐めないで頂戴。これでも、元祖ぶりっ子だったんだから。私に落とせない男はいない!」
りみは堂々と胸を張った。
「………ははははっ!」
りみの自信満々な宣言に優一は思わず吹き出した。
「おもろいこと言うなあ。でも、そんなに言うなら、お手並み拝見や」
優一はりみに優しく笑いかけた。
りみにも自然と笑みがこぼれた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ミヤは詩音と一緒に帰り道を歩いていた。
「もうすぐ3年かあ、早いね」
「本当にね。ミヤは大学行くの?」
「うん、詩音は?」
「私も、多分進学すると思う。」
「そっか、体育会系の?」
「んーどーだろ。でも、最近体育教師も良いなって思ってさ、教員免許取ろうかなって」
「あー良いじゃん!詩音運動神経良いし成績も良いから向いてるんじゃない?」
「成績が良いって、オール5のミヤに言われたくないな。」
「それは、1学期だけだから!」
「とかいって2学期も1個落としただけだったじゃん。」
「まあまあ、この話はもういいよ。」
仕切り直すようにミヤはそう言った。
「そういうミヤは?将来の夢」
ミヤはそのことについて詩音に問われた途端、言葉が出てこなくなってしまった。
思わず目が泳いでしまう。
いくら親友の詩音でも将来の夢のイメージが1つも出てこないのは恥ずかしかった。
ミヤは焦りを募らせながら、何か無いかと考えを巡らせる。
が、ミヤの頭には何も浮かんでこなかった。
そんなミヤをみて詩音が口を開いた。
「その様子は…まだ無いみたいだね。」
「…情けない。」
「難しく考えすぎなんじゃない?ほら、もう私達の年齢になると軽く考えすぎるのも良くないけど、難しく考えたって良いことないと思うよ?」
「うん…そうだよね」
私、どんな大人になりたいんだろう。
よく考えたら、そんなこと考えたこと無かったかも。
それって結構やばくない?!
そんな高校2年生いる?!
「私って超やばいじゃん」
「え?」
「将来のこと考えたこと無かった。今まで生きてきて」
「嘘?!高校受験の時は?」
「その時は、自分の選択の幅が広がれば良いと思いながら勉強してただけで、明確にどんな大人になりたいか考えながら勉強してなかった…」
「はぁぁ。ミヤ、あんたってやっぱ、ぬけてるよね~。」
「うぅ。どうしよう。」
「まあまだ3年まで少し時間あるから、それまでに色々考えよう!私も協力するから!」
「ありがとう、詩音」
「詩音はやっぱ凄いなあ」
「え?笑」
「ちゃんと自分のこと考えられてて。」
「ミヤがそれができない理由って、自分のこと考えてない分、人のことを考えられてるってことじゃないの?それは、ミヤの良い所だと思うんだけどな~」
「ダメなとこだよ!」
「ミヤはそう思うの?」
「うん」
「そっかぁ、ねえ!今週末、暇?」
「ええ、うん。」
「連れていきたいとこある!だから、絶対空けといてね、ばいばーい!」
そう言いながら、詩音は大きく手を振り、言ってしまった。
「はあ。私、大丈夫かな。」
ミヤは一言そう呟き、重い足取りで歩いた。
帰宅し、自分のベッドに突っ伏すと、今日が週に一度の流星と話が出来る日だと思い出し、重い体を起こした。
パソコンを起動させ、流星にビデオ電話を掛ける。
しばらく、着信音がミヤの部屋に鳴り響いた後、流星の顔がミヤのパソコンに映し出された。
「ミヤ!元気?」
「うーん、あんまり」
「疲れた顔してんな。なんかあった?」
「ちょっと進路のことで。」
「進路かー、そうか、もう俺たち3年だから考えなきゃいけないのか。」
「そうだよー、流星の将来の夢は?」
「んー、」
流星はこめかみに指を当てて考える。
「小説家!とか?」
「小説家!その考え無かったなー。」
「徳島浩史みたいな綺麗な小説を書きたい!」
「流星なら出来るよ!あ、でも、」
ミヤは口を噤んだ。
ミヤの様子から察したように、流星が一言付け加える。
「大丈夫だよ、目と耳が機能しなくても小説は書ける。」
「そっか、そうだよね!」
「うん、それよりさ、」
「何?」
「浮気してない?」
「するわけないでしょ!」
「そうだよな。」
「そんな信用無いの?」
「違う違う!心配なの、ミヤ、可愛いから」
ミヤは突然のその言葉に反応が一瞬遅れる。
「はは!照れてる!可愛い~」
「やめてよ!」
「やめない」
「え」
流星は真剣な表情で画面の向こうからミヤを見つめる。
「こんなこと言ったら、重いって思われるかもしれないけど、離れ離れになって、俺寂しくて毎日死にそうだから。でも、週に一度のこのテレビ電話でどうにか頑張れてる。だからミヤ、どこにも行くなよ。ずっと俺のミヤでいて。」
流星はミヤを愛おしそうに見つめた。
ミヤの顔がぽっと赤くなった。
「私だって、毎日寂しいんだから。学校での面白い出来事も感動する出来事も、全部、流星がいたらって考えてる。早く戻ってきて。手術成功させて、帰ってきて。」
「わかってる。俺も早く戻りた「りゅうせーい!」
すると突然、流星の言葉を誰かが遮った。
その声のすぐ後に金髪の美少女が画面に姿を現した。
その金髪の美少女は画面に思いっきり顔を近づけて、
「えー!この子誰?!彼女?かーわーい!」
「ちょっと、アンナ!そこどけよ!あっち行けって!」
「えーやだ!このあとカラオケ行ってくれる約束でしょ?」
「おい!俺がいつそんな約束した?」
「昨日いいよって言ってた!」
「言わせたの間違いだろ」
仲良さそうに会話を繰り広げる2人を画面越しに見ていたミヤにはふつふつと怒りが湧いてきた。
「随分仲が良いのね。」
ミヤが怒りの感情を含ませてそう言った。
すると金髪の美少女が画面を覗き込みながら、
「そうよ!ねえ、流星!」
と言った。
「んなわけあるか!ミヤ、違うんだ、ミヤ、」
「もういい!!嘘つき!」
ミヤは怒鳴り散らしたあと勢いよくパソコンの電源を切ってしまった。
なんなのあいつ。
調子の良いこと言っといて。
ばか。
ミヤはまたもやベッドに突っ伏し
た。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「はぁ」
「お前、キモイんだけど」
1つため息をついたミヤに向かって匡平が毒づいた。
「え、何、わ、私、なんかした?」
「今日で15回目だぞ。ため息つくの。しかもまだ1時間目なのに。」
「え、嘘、そんなに?!」
「なんかあったのか?」
「い、いや、別に」
「言ってみろよ、俺、こう見えて転校する前、歩くスピーカーって言われてたからよ。」
そう言いながら、匡平は不気味に笑った
「いや、ダメじゃんそれ!相談事言いふらすとか1番最低なやつでしょ。」
「はははっ」
今度は無邪気に笑った。
「まあ、聞くことぐらいできっから、放課後、屋上な」
そう言い、次の瞬間には机に突っ伏し、匡平は夢の中だった。
意外と優しいんだよね。この人。
まあ、距離感アホすぎて訳わかんないけど。
放課後になり、ミヤは係の仕事を済ませ匡平との約束通り、屋上へと向かった。
扉を開けると屋上のど真ん中で爆睡している匡平がいた。
「森島くん?」
ミヤが呼んでも起きる気配がない。
ミヤは恐る恐る匡平に近づいた。
「森島くん」
だめだ。この人全然起きない。
ミヤは匡平の耳元で呼べば起きると考えゆっくり顔を匡平の耳元へ近づける。
わあ、まつげ長い。
女子がキャーキャー言うだけの顔してるな~
ぱっちり二重だし、整ってるな~
ミヤが心底匡平の整った顔に関心していると、突然、匡平がぱちっと目を開けた。
「きゃあ!」
ミヤは驚きと恥ずかしさのあまり、後ろへ倒れた。
そこへ匡平が覆い被さる。
「ちょ、ちょっと、」
「俺さー、実はずーっと起きてたんだよね、どんな反応するかと思ったら、俺の顔ずっと覗き込んでるし」
「え、起きてたの?!」
「うん、やっぱミヤ、面白いな」
「からかわないで!しかもこの体制はまずいでしょ!」
「うるせーな、静かにしとけばミヤも可愛いのに。」
「静かにしてればって何!それにお世辞はいいから、はやくどいてよ!」
「世辞なんかじゃねーよ。長いまつ毛に茶色い目、それに、」
「キスしたくなる唇」
そう言い、匡平はイタズラっぽく笑った
ミヤも流石にすぐには言葉が出ず、赤面した。
匡平はミヤの顔を面白そうに見ながら、覆い被さるのをやめた。
「まあまあ、冗談はさておき、何があったんだよ」
「本当に言いふらさない?」
「んなことしねーよ」
「その根拠は?」
「お前の相談事だから」
「え、」
「勘違いすんな、この学校来て、最初に友達になったからってだけだからな」
「わ、分かってるよ!そんなこと。」
じゃあ、最初に友達になっていれば誰の相談事でも真面目に聞いてたってこと?
ミヤは胸がキュッと引き締められるのを感じた。
ミヤは匡平に昨日の流星との出来事を全て話した。
その間、匡平は真剣な眼差しでミヤの話に耳を傾けていた。
「なるほどそういうことか。」
「うん…」
「ムカつくな、お前の彼氏」
「ムカつくけど、よくよく考えたらもう半年以上も会ってない。そりゃ、冷めるし、他に彼女作って楽しみたくなる気持ちになるよ。」
「なんでお前が我慢してんだよ、こっちはあいつの不都合を飲んで待ってやってんのに、なんであいつは自分だけ楽しんでやがる」
「うん、まあ、それが正論だよね。で、でも!そういう関係かはまだわかんないから」
「でも、普通に考えて嫌だろ。自分が見えないところで異性と仲良くしてるとか」
「うん、まあ。」
「それに、俺も気になることがある。」
「何?」
「その金髪の美少女ってどんなやつだ?」
「えっと、確か、目が青くて、私ぐらいの髪の長さだったような…」
「名前は?」
「流星がなんか言ってたけど…覚えてない。ごめん。」
「いいよ、その代わり、来週、写真持ってこい」
「わ、分かった。」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「詩音が連れていきたい所って本屋?」
「そう!」
ミヤと詩音の2人は駅前にある大きな書店に来ていた。
「なんの本見るのよ」
「まあ、ついてきなって」
詩音に連れられやってきたのは職業のコーナー。
このコーナーには専門的な職業の本からメジャーな職業の本まで幅広い種類の本が並べられていた。
その中で詩音が手に取ってミヤに勧めたのが職業大百科という本。
その本にはあいうえお順でたくさんの種類の職業の説明が書かれてある本だった。
「この本読みながらさ、気になった職業に印つけてけば良いんじゃない?たくさんの職業知れて間違いないと思うんだけど!」
「おー!確かに!」
そう言いながら、ミヤはパラパラとページを捲ってみた。
確かに、わかりやすいので他の職業との比較もしやすそうだし、1つぐらい興味が湧く職業が見つかりそうだった。
「いいね、これ。ありがとう詩音!これ買ってく!」
ミヤは職業大百科を持ってレジに行った。
会計を済ませ、2人は書店を出た。
「気に入って貰えて良かったよ。」
「詩音のおかげでなんとかイメージは湧きそう」
「なら良かった。あれ、あの人って、イケメン転校生じゃない?!」
「え?」
詩音が指差す方を見ると、そこには匡平がいた。
「も、森島くん!!」
「ちょっとミヤ、声がデカい!」
「あ、ごめん。」
しかし、ミヤの大きな声は匡平の耳に届き、ミヤ達に気付いた匡平はどんどんミヤ達に近付いてきた。
「ちょっと来ちゃったじゃん!かっこいい!」
「詩音は怖がってんのか、見とれてんのかどっちなの」
「んーどちらかといえば、怖がってる」
「嘘つけ」
「ミヤ、」
「も、森島くん!奇遇だね!ばったり会っちゃうなんて」
「お前が俺をストーカーしてたからじゃねーの?」
「え、ミヤ、森島くんに付きまとってたの?」
「そんなことあるわけないじゃん!」
「え~本当に~」
詩音はニヤニヤしながらミヤをつついた。
「やめてってば!」
「あ、そうだ!ちょっとお茶しない?!」
詩音は目を輝かせながらそう提案した。
「ちょっと、詩音何言ってんの?森島くん、行くわけないよね?」
「別にいいけど」
「ええ!!!」
「やったー!森島くんってノリ良いんだね!じゃあ行こう!」
何この状況…
死にそうなんですけど。
3人は書店からそんなに遠くない喫茶店に入った。
喫茶店に入ってからは詩音がずっと匡平に質問し続けていた。
「前の学校ではモテたの?」
「いや別に」
「またまた~!」
詩音、気持ち悪!
どうしちゃったのよ。
ミヤは完全に話に置いてかれていた。
「彼女はいるの?」
「いる」
「えー!やっぱイケメンだもんねー!」
「ミヤ、さっきからこいつうぜー」
「それな。」
「いやちょっとおい!ミヤまでウザイとか言うな!」
「いやウザイっていうか、気持ち悪い?」
「ミヤ、シバくぞ~!」
「やめて、あはは!」
すると、時刻はぴったり午後1時になった。
喫茶店に流れるテレビは1時からのニュースに切り替わった。
「もう1時か。うちら1時間ぐらい話してたんだね。」
「話してたっていうか、詩音が森島くんに質問責めしてただけだけど」
「はは、まあね」
すると、
「皆様こんにちは!ランチニュースのお時間です!本日は山田アナが名古屋城にリポートしに行ってくれています。現場の山田アナ!」
「はーい!私は今、名古屋城に来ています。この冬の季節でしか見られない絶景スポットがあるそうなので本日はそれを皆様にリポートしていきたいと思います。いつもランチニュースを見てくださっている視聴者の皆さんもたくさん名古屋城に遊びに来られていますよー!」
アナウンサーのその言葉と共に、名古屋城に遊びに来ている、視聴者の姿がたくさん映される。
その中には流星とあの、金髪の美少女がも映っていた。
「あ!あの人!」
「なになに、知り合い?」
「森島くん!私が言ってた、金髪の美少女ってあの人だよ!」
ミヤはテレビに映る少女を指さした。
「隣の男はミヤの彼氏?」
「うん」
「残念だよ」
「何が?」
「ミヤの彼氏の隣の女は俺の彼女だ。」
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