告白1秒前

@るむば√¼

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そっけない

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「木原君.......!
    私、木原君のことが、好きなの!」
木原君は気まづそうに言った。
「篠原、俺ー」

そう、途中まで言いかけた後、流星は虫でも見るような顔つきになった。

「お前を選んだ自分が本当に恥ずかしいよ。」

とミヤに向かって吐き捨てた。

「名古屋に行ってみたら、お前なんかより良い女たくさんいてさ、あー俺、勿体ないことしてたんだって気付いちゃったんだよね。だから俺の前から消えてくんね?」

「きゃぁぁあ!」

ミヤはベッドから勢いよく体を起こした。
全身汗がダラダラと流れていた。

「はあ、はあ、夢…?」

ミヤはゆっくりベッドから出て、姿見の前に立った。
ミヤは自分の顔を見て驚いた。
泣いているのだ。
夢だと分かっていてもこの脱力感と喪失感。
ミヤは身震いしながら着替えを済ませた。

夢にうなされて飛び起きたことは初めての経験だった。
夢にうなされて泣いていたこともだ。
多分、それもこれも、昨日の出来事が原因だろう。

ーーーーーーーーーーーーーーー
1日前

「森島くん!私が言ってた、金髪の美少女ってあの人だよ!」

ミヤはテレビに映る少女を指さした。

「隣の男はミヤの彼氏?」

「うん」

「残念だよ」

「何が?」

「ミヤの彼氏の隣の女は俺の彼女だ。」

「え?見間違いでしょ!」

詩音が驚愕した顔で匡平に問い詰める。

「見間違うわけねぇ。ミヤの彼氏の隣は俺の彼女だ。アンナだ。」

「アンナ!そう!流星が言ってた!アンナって」

「くそっ、」

匡平は悔しそうな顔で喫茶店のテーブルを拳で殴った。

「どういうことだよ、アンナ。」

あーもうわかんない。
私はこの半年間何を待ってたんだろう。
何を必死に我慢して、耐えて、待ってたんだろう。
バカみたいじゃん。

「いや、でもさ友達同士かもしれないよ?」

「有り得ねえ。アンナは俺以外の男とは一切連絡手段を絶ってたんだよ。そこまでするアンナが男友達と遊びに行くなんて思えねえ。」

「で、でもさ、」

「今日土曜日だよ?!ただの友達同士が週末に名古屋城なんか行く?!観光デートみたいなことして。」

「確かにそうだけど、」

「なんでよ」「なんでだよ」

ミヤと匡平は深いため息をついた。

ーーーーーーーーーーーーーーー
昨日のことを思い出してみると、私、って流星にだいぶ振り回されてるなとしみじみ思う。
昨日もそう思って、私は早川凪紗に連絡した。
そして、私は今日、人生で初めて合コンに行く…!
流星に振り回されてばっかの自分が情けなくて私は勢いで、「明日、合コンに連れてって頂けませんか?」と早川凪紗にメールを送った。流星を狙っていたことも知っていたけど、今更そんなことどうでも良かった。

「頑張るぞ」

ミヤは出来る限りのおしゃれをして、家を出た。
合コン自体は夕方から開催するそうなのだがミヤは朝から早川凪紗に呼び出されていた。
なんでこんな時間にと疑問に思いながらもミヤは集合場所に向かった。

集合場所に着くともうすでに到着していた早川凪紗が腕を組んでこちらを睨みつけていた。



「ちょっとあんた、合コンに連れていってくださいって頼んできたくせに遅れてくるとは良い度胸じゃない。」

「ご、ごめんなさい」

「大体ねえ、急すぎるのよ。
私は毎週日曜日は合コンの日って決まってたから良いけど、他の誰かに前日に合コン連れてってって言ったって、無理なご相談なんだからね。」

「はい、反省してます。」

「はぁあ。やっぱり。私の思った通りね。」

「え?」

「ダサすぎんのよ!服装が!合コン舐めてると平手打ちするよ?」

「は、はい!」

「私があんたをはやく呼び出したのは服を買うため。私が連れてきた友人がこんなダッサイブスだと知れたら、私の好感度もガタ落ちなんだから。良い?合コンは戦争なの。合コンが始まる前は友達かもしれないけど、合コンが始まってからは、同性は男に飢えた猛獣だと思った方が良い。」

「も、猛獣ってそんな…」

「返事は!」

「は、はい!」

凪紗はミヤの腕をグイグイ引っ張り、たくさんのアパレルショップが建ち並ぶ通りまで来た。

「ここ、入るよ」

そう言われて入ったお店はミヤが入ったこともないようなおしゃれで煌びやかなお店だった。

そして、一直線に試着室へ連れられ、

「はい、これ着てみて。」

と服を何着も手渡された。
訳が分からぬまま、ミヤは服を傷付けないように慎重に着替えた。
こんなお店に入るのも、こんなお店の服を着るのも初めての経験だったのでミヤは凄く緊張していた。

着替え終わり、カーテンを開けると、凪紗が立っていた。

「んーだめ。次」

「んーださい。次」

「体に合ってない。次」

「その色合わない。次」

「地味すぎる。次」

「派手すぎる。次」

「男ウケ悪そう。次」

こうして、永遠と服を着て、脱いで、を繰り返し、やっとの思いで合コン用の服が決まった。

「良いんじゃない。」

凪紗は一言だけ呟き、服の支払いをそそくさと済ませた。

「あ、お金」

「良いよ。別に」

「なんでよ、」

「今買ってあげた分、合コンで私が輝くための足蹴にしてやるから」

「あはは、ありがとう。早川さんって優しいんだね」

「凪紗でいいよ。優しいんじゃない。木原くんが遠くに行っちゃったことに同情してるだけ。」

「…それでも、私は嬉しいよ、ありがとう凪紗。」

その言葉を聞き、凪紗は一瞬、頬を赤らめたがすぐに顔を逸らし、

「……さあ、そろそろ戦いが始まるから、その前にお化粧直ししなくっちゃ。ほら、行くよ!」

とだけ言った。
ミヤもそれに着いていく。

「うん!」




ーーーーーーーーーーーーーーー

「じゃあ、1人ずつ自己紹介していこうか!」

「いいね、いいね!そうしよう!」

合コンは、男女2人ずつの4人と、合コンにしては少人数で行った。
凪紗がどこからか呼び寄せた男子2人は、顔も整っていて、恐らく、ミヤ達より年上だった。

「じゃあ、私から!」

凪紗は軽く手を挙げて控えめそうに話し始めた。

「早川凪紗です、趣味はお菓子作りです!あんまりぃ、男の子と話したことないので積極的にはいけないけど、よろしくお願いします!」

「おお!可愛い!」

「お菓子作り出来るんだ!凄いね!」

「こんな可愛いのに、男とあんまり話したことないんだ!勿体ないな~」

「いえいえ!」

す、すごい。
男子が一気に凪紗の話に食い付いてる。
これが毎週合コンを開催している女の力か。
恐るべし…!

「じゃあ、次は~」

すると、凪紗がミヤに視線を送り、顔で、「次いけ」と言ってきた。
ミヤは慌てて大きく手を挙げた。

「はい!私いきます!」

っやば!声デカすぎた~

「お、げ、元気良いね…あはは」

ブブブ
ミヤの手元の携帯が響いた。
ちらっと確認すると、凪紗から「お前何やってんだ(ꐦ°᷄д°᷅)」

とメールが来ていた。

「すいません。」

思わず謝罪が口に出てしまう。

「え?何が?」

周りは困惑した表情でミヤを見つめる。

「あ、いや、なんでもないです。」

「そっか、じゃあ、自己紹介どうぞ!」

「はい、篠原ミヤです。高校2年の17歳でお菓子作りが趣味です。徳島浩史の小説が好きです。よろしくお願いします。」

「徳島浩史って誰?」

「知ってる?」

「いや、知らねえ」

「えー、誰だろう」

すると、またもや携帯が振動した。
みると、凪紗から「マニアックな話はウケないから!(ꐦ°᷄д°᷅)」

とメールが来ていた。

「すいません。」

「え?」

「あ、いや!なんでもないです。」

やばい。やばい。
さっきから私、すいません、しか言ってない。
こんなんでどうするのよ。
しっかりアピールしなくっちゃ。

ミヤはぐっと唾を飲み込み、勇気を振り絞って口を開いた。

「あ、あの、み、み、皆さんは、どんなお菓子が好きですか?」

「お菓子かぁ、俺、定番のクッキー好きかな。」

「俺はフォンダンショコラとか!」

「そっか!ミヤちゃん、お菓子作り得意なんだもんね!」

「あ、はい!よ、よく、クッキー作りますよ。」

「マジで?じゃあ今度食べたいな~」

「作ってきます!」

「はは、ありがとう。」

ミヤの前の席に座る男が優しそうにそう答えた。
その優しそうな雰囲気がミヤには好感が持てた。

ブブブ
またミヤの携帯が振動する。
今度はなんだろうとミヤが携帯を見ると、「お菓子作り被ってるんですけど?!合コンにおいてキャラ被りは絶対NG(ꐦ°᷄д°᷅)」

と凪紗からメールがきていた。
「すいません」と言いそうになる口を抑えてミヤは深呼吸する。

落ち着け。落ち着け。
そうだ、私ばっかり目立っちゃいけないんだ。
凪沙にはこんなに可愛いお洋服まで買って貰っちゃったんだから、少しでも恩返ししないと。
協力プレイだ。

「あ、でも、じ、実は、お菓子作りは、凪紗から教えて貰って…」

「へえ!凪紗ちゃんから!じゃあ凪紗ちゃんはもっと色んな物作れんの?」

「そんなに、自慢出来るような事じゃないですけど、一応は」

「人に教えられるってすごいな。」

ブブブ
ミヤの携帯が振動する。
みると、「グッジョブ( ・∀・) イイネ!」

そのメールを見て、ミヤは一安心した。

「じゃあ、男性陣も自己紹介お願いします!」

「おけおけ、じゃあ、俺から!」

そう言ったのは凪紗の前に座る男子だった。
その男子は一見チャラそうに見えるが喋ると真面目そうで悪い人ではないだろうと思った。

「岸本航太です。19歳です、今まで、勉強しかやってこなかったから、スポーツとか全然出来ないです。仲良くなれたら嬉しいです!よろしく」



「ずっと努力してきたんですね、凄いです」

「そうかな、ありがとう」

「じゃあ、次俺か?」

私の前に座る男子は一見真面目そうだが、話してみると明るく、少しチャラいぐらいの人だった。

「清水奏太(かなた)です。こいつとは真逆で、運動全般得意だけど、勉強は全然ダメ。はは。今日は女子メンが可愛すぎるから来て良かったって思ってる。連絡先交換しようね~、航太と同じ19歳ね。」



「話しやすそうな人が来てくれてこっちも良かったです!」

「マジで?良かった~」

ーーーーーーーーーーーーーーー
ミヤ達は出でくる料理を楽しみながら、航太と奏太とたくさん話した。

「じゃあそろそろ、席替えしよっか!4人だけど!」

「そうですね!」

凪紗もノリノリでそれに同意した。

「じゃあ、気になる女子の隣行こうぜ!」

奏太がニヤニヤしながら言った。

「分かった。」

航太は一言だけそう言い、席を移動する。
ミヤは正直、もう精神が限界だった。
昼間から入ったこともないおしゃれなお店で服を何十着と試着させられ、初めての合コンで凪紗や男子達に気を使いながら、会話を繋ぎ気疲れしていた。

やばい、もう笑えないかも。
1日の疲れが今になってどっと出てる。
みんなまだまだ乗り気なのに。
コミュ障の私が来るところじゃなかったんだ。
やばい。死にそう。

ミヤがぼーっとしていると、ミヤの両サイドには航太と奏太が座っていた。

「きゃ!え、なんで、」

「俺たち2人とも、ミヤちゃんを気に入ったみたい」

と航太が言った。

「え、な、なんで」

なんでこんなことになってるんだ?!
私、ずっと相づち打ってただけで、会話もろくにしてないのに。
なんでだ?!

「連絡先交換しない?」

奏太がミヤの太ももに手を置いて、そう言った。

「あ、いや、あの…」

「俺も良い?」

航太も加わり、そう言った。

「その、えっと、」

どうしよう、断りづらい…
なんて答えたら良いのか分かんないよ…
どうしよう。

「ミヤ?!」

すると突然、聞き覚えのある声がミヤを呼んだ。
ミヤは咄嗟に立ち上がり、声の方を見ると、そこには、ミヤがずっと待っていた、待ち焦がれていた流星が立っていた。

「流星!」

「ミヤ、何してんだよ、行くぞ」

流星はすぐさま、ミヤの方に駆け寄り、ミヤの手を掴んでお店を出た。

「流星!」

「大丈夫か?」

「え?」

「合コンだろ?あれ、ミヤ、ああいう所大丈夫なのかなって思って。」

「あ、い、今、チャレンジしてるところ。」

「そっか、引っ張って来ちゃってごめんな。店入ろ。」

「え…」

助けに来てくれたんじゃないの?
それに、半年振りに会ったのに、こんなにそっけないの?

ミヤは呆然としたまま、流星に言われた通り、店に戻る。

「あ、ミヤちゃん!来た来た!」

「急に連れてかれたからびっくりしたよ」

「あ、ご、ごめんね」

「ミヤ」

また流星がミヤの名前を呼んだ。
ミヤが振り返ると、流星は笑顔で「じゃあな。」

と言い、流星の家族らしき人達が座っているテーブルへと、呆気なく行ってしまった。

りゅう、せい…?
怒らないの?
彼氏を置いて合コンに行って。
どうして?
もう新しい彼女がいるから?
アンナさんがいるから?
私は、彼女として最低なことをしたのに。
もう私のことはどうでも良いの?

ミヤは流星から突き放されてしまったような気がして涙が出そうになった。

「ごめん、私帰るね!」

ミヤはそう、言い、素早く荷物をまとめて、店を出ていった。

その様子を凪紗達、そして、流星も心配そうに見つめていた。

おかえり、流星。そして、さよなら。

ミヤは泣きながら夜の街を走り抜けた。

ーーーーーーーーーーーーーーー
次の日からは流星が登校してきた。
流星の帰還にみんな喜んでいてクラス中が明るい雰囲気に包まれていた。

「あれ、先生、俺の机無いんですけど…」

「あ、そうそう。木原くんがいない間に転校生が来たんですよ。篠原さんの隣に座っているのが転校生の森島匡平くんです。」

「そうだったんですね。」

「今、机を出してくるので少し待っていてください。」

そう言って、山下先生は教室から出ていった。

「あいつが流星か。」

匡平が心底軽蔑した目で流星を見る。

「うん…」

「お前昨日会ったんだろ?アンナのこととかなんか言ってたか?」

「言ってなかった…」

「なんかあったのか?」

「ごめん、今は聞かないで。」

「じゃあ、放課後な。」

ーーーーーーーーーーーーーーー
放課後になり、ミヤは匡平が待つ屋上へ向かおうした。
すると、屋上へ繋がる階段に流星が座っていた。

「流星…?」

「お、ミヤ。やっと来た。」

「なんでここにいるの?」

「伝えたいことがあってさ。」

ミヤの心拍数が一気に上がる。
冷や汗もかいてきた。

「えっと…」

流星は一瞬躊躇いながらも再び口を開いた。

「えっと、俺のことは気にしなくて良いから。」

その言葉はミヤが全く予想だにしていなかった言葉だった。

「俺さ、手術、無事成功したんだ。それで、リハビリも順調にいったから、家でのリハビリも許可されて、予定より、ずっとはやく帰って来れた。」

「そっか。良かった。おめでとう」

「それに、俺言ったよね、ミヤには幸せになって欲しいって。だから、遠慮しないで、1歩踏み出して欲しい。」

「え、どういうこと?」

「昨日の合コンだって、今から会いに行こうとしている人だって、みんな良い人だと思う。だから、俺はなんの心配もないよ。そもそも、俺が置き去りにしたんだから、俺がどうこう言える事じゃないしね。だから、幸せを掴もうとしているミヤを応援するよ。本当に俺は大丈夫だから。」

「つまり、彼女を置き去りにした罪悪感を抱いて、彼女が幸せを掴もうとしているのをただ黙って応援すると。」

「うん。他の人にいっていいって言ったのは俺だし。」

「………………」

「今まで本当にありがとう。」

「なんでそんな無責任なの?!テレビ電話では浮気するなとか言っといて、自分は他の女の子と浮気して、いきなり帰って来たと思ったら私の幸せを応援するとか言って、自分は浮気しちゃってるから、彼女が他の男にいこうとしてるのは好都合だとか思ってるかもしれないけど、私は全然そんなつもりじゃない!私は流星に振り回されてばっかの自分が嫌で、待てって言っておけばずっと待ってる犬みたいに思われていたら嫌だった。だから、見返そうとした。嫉妬させようと……そんな自分が嫌だ。私は、酷いやつだ……」

気付くとミヤの目からは涙がボロボロと溢れ出していた。

私、泣いてるの?
感情が抑えられない。
こんなに泣きわめいたって、流星はもう帰ってこないのに、
最悪だ。

「待てって、泣くなよ。浮気ってなんのことだ?アンナか?!」

「しらばっくれないでよ」

「本当にアンナとはなんともなくて、本当だよ!」

こんなこと、前にもあったような気がする。
あの時はりみが助けてくれたんだっけ。

今、私を助けてくれるのは…

その時、屋上のドアが突然開いたかと思うと、匡平が出てきた。

「ミヤ、何やってんだ。大丈夫か?」

匡平くんなのかもしれない。

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