異世界ゴーストレイヴン ~不幸すぎる俺は幽霊に呪い殺され異世界転生!なぜかその幽霊まで憑いてきたので一緒に異世界で無双します!~

バルト

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始まりの呪い

第27話:反撃

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「ルナ!!」
「ルナちゃん!」

俺が叫び、サヤが目を見開いた。

倒れたルナベールは、痛みに顔をしかめながら必死に身体を起こそうとするが、腕が震えて上がらない。

ガルグルスが再び咆哮し、爪を振り上げた。狙いは、動けないルナベール。

「……ッ!!」

俺は即座に飛び出した。

「サヤ!! ルナを助けるぞ」
「分かってる! 行くよ、レイン!」

俺たち二人の足が同時に駆ける。

「レイン! ウチが囮になる!」
「……いけるか?」
「うちらの大切なルナちゃんを傷つけたあいつ、マジで許せない」
「頼んだ、サヤ」
「うん」

風を切る音とともに、サヤの瞳が妖しく深く染まり、彼女は大きく息を吸い込む。

スウゥゥゥゥッ――――

同時に、全身へ黒い靄がふわりとまとわりつく。空気がピリリと張りつめ、風もないのに金髪がふわりと舞い上がった。褐色の肌に、冷たい透明の光が薄く浮かぶ。

そして――

「《幽終の王冠ファントム・クラウン》、ゴーストモード――」

青黒いオーラがサヤの全身からぶわっと吹き上がる。空間が彼女を中心に揺らぎ、空気の流れすら反転する錯覚。金髪は漆黒に、肌は青白く。白装束に三角巾――“幽霊”そのものの姿へ。

重い踏み込みとともに、ガルグルスがサヤへ巨大な爪を振り下ろす。

「華麗に回避……じゃなくて」

ズドォンッ!!

――爪は確かに命中した。だが、サヤの体は霧のようにふわりとすり抜け、何もなかったかのようにそこへ立っている。

「ウチ、物理攻撃無効なんだよねぇ~、残念でした♪」

無数の目がわずかにうごめき、ガルグルスは困惑して爪を引く。だが再び怒りを燃やし、もう一撃――

ドォンッ!!

――そしてまたすり抜ける。

「も~、しつこいってばぁ☆ 当たんないの、理解してくれないかなぁ~?」

宙でくるりとターンして挑発するサヤ。鮮やかな身のこなしと不可思議な存在感に、ガルグルスの意識は完全に彼女へ向いた。

「……あの無茶な性格も、今はありがたい……!」

俺は駆け寄ってルナベールの身体を抱き起こす。驚いたルナがかすかに目を開いた。

「今は何も言うな……!」

サヤの陽動が成功し、爪が通過するたび「ズバァッ!」「ゴォンッ!」と衝撃音が響く。サヤは笑いながらすり抜け続けた。

「……ほらほらぁ、当たんないよ~ん?」

俺はルナを安全な岩陰へ抱え込み、背中で庇いながら息を整える。

岩陰から覗く巨体はさらに怒りを募らせ、一撃ごとに荒々しさを増している。

「あれ? 避けてないでさっさと倒しちゃっていいのか! ハイッ、デスゲ――」

サヤの瞳が殺気を帯び赤く光った瞬間――

ガルグルスは本能で何かを察したらしく、体を激しくねじって視線を逸らした。獣の直感。凶悪な魔物が恐怖に突き動かされた動きだ。

「はあ!? 外れた!?」

サヤが目を剥き、舌打ちする。

「ならもう一発ッ!! こっちを見ろカニィ!!」

怒号とともにもう一度 《呪いの眼差しデスゲイザー》。だが――避ける。さらにもう一度――視線をそらす。

「なんなのこのカニッ! まるで分かってるみたいな動きしてる! これじゃ当たんない!!」
「俺がフォローする! 打ち続けてくれ!」

俺は岩陰から身を乗り出し、すぐ構えた。

「カタストロフィアッ!」

地面に淡い紫の光がうねり、足元にヒビが走る。

――それだけ、だった。

「あ、あれ……!?」
「ちょっとちょっとー! 早くなんとかしてよレイン―!」
「わかってる……! 今度こそ!!」

俺は叫び、二度目の《厄災招来》を叩き込む。その直後――

ゴガァンッ!!

ガルグルスが振り上げた爪が天井に激突し、天井がぐらつく。そして――

ドガアァァン!!

さっき俺が作ったひびに狙いすましたみたいに、岩塊が落下。ガルグルスの足場を完全に崩した。

「……きた!!」

バランスを失った巨体が仰向けに倒れ、硬い甲殻が地面に激突。轟音が洞窟に反響する。足をバタつかせるだけで、身動きが取れない。

「サヤッ!! 今だ!!」
「了解! いっちょ決めてくるわッ!」

サヤが一気に跳び出す。青白い霊気をまとった白装束の影が、薄暗い空間を疾駆する。

巨大な敵の目が、ふと動いた。

「はいはーい、注目ぅ! 今度こそ逃がさないからね?」

目が合う。その瞬間、サヤの瞳に光が宿る。

「デスゲイザー!……直☆撃☆」

閃光みたいな殺気が放たれた。

――魔物の視界に“異形”が現れる。

長い黒髪。血の通わない白い肌。
ぐちゃぐちゃの髪の隙間から覗く、“目”。

“それ”は音もなく地を這ってくる。
「ギチ……ギチ……」骨が軋むような音だけを残して、確実に、ゆっくりと。

魔物は本能で悟る。逃げられない、と。

「……ア、……グ……」

ぬめった何かが身体にまとわりつく。影の中から白い腕が何本も伸び、肉を裂き、筋を抉る。

「ギィィィィアアアアッ!!!」

自分の爪で目を潰そうとする。見なければ助かる、と。

だが、“それ”はもう目の前。髪で顔の半分を隠し、コクン、と首を傾げ――

「……ィ……ア"……ア"ア"ア"ア"ア"ァ"」

“口”が開く。音とも言葉ともつかない不快な呻きが耳の奥にめり込み、脳が震え、思考が崩れる。

そして――

ずるり。

白い指が喉の奥を撫でるように滑り込む。
呼吸が塞がれ、肺が破れ、心臓が凍る。

「怖いねぇ……可哀想に……」

サヤの声が届いたとき、魔物の肉体は痙攣し、意識は“死”の底へ沈んでいた。

数秒後、残ったのは巨大な甲殻の残骸と、重たい静寂だけ。

「やったか」

俺は息を呑む。

「ふぅ~……普段中々使えない分、張り切っちゃった!」

サヤが肩へ手を当ててポーズ。口元にはいたずらな笑み。

「けどやっぱレインの運ゲーあってこそだね。ナイスアシスト☆」
「サヤもよく立ち向かった。お疲れ」

ふらふらと起き上がったルナベールが、俺たちのやり取りに苦笑し、そっと呟く。

「お二人のおかげで……助かりました。ありがとう」
「大丈夫か!? さっきの……けっこう痛そうだったぞ……!」

俺は駆け寄り、息を切らしながら声をかける。

「……どこか折れてたりしない?」

サヤも顔を覗き込み、真剣な眼差しで問う。

ルナベールは小さく微笑んで首を横に振った。

「ご心配ありがとうございます……大丈夫、そこまで重くはありません。――持ってきた回復薬が、ちゃんと役に立ちました」

腰のポーチから小瓶を取り出し一口。淡い光が体表に滲み、痛みが和らいでいく。

「っ……ふぅ。これで……帰還には支障ありません。けれど……皆さんがいてくれて、本当に良かった」
「バカ言うな。助けられたのは、こっちもだ」

俺が笑って肩を貸すと、サヤも力強く頷く。

「ルナちゃん、マジで頼りになるって。あんなんウチらだけだったら秒で死んでたし」

ルナベールは手早く装備を整え、ガルグルスの亡骸へ向かう。

「素材の剥ぎ取りを始めます。レア素材があるかもしれません。手分けして周囲も確認を」

 俺たちは頷いて動いた。体表からは深海の甲殻、雷耐性の膜、そして中央から鈍く輝く魔核が取れた。

「これ、売ったらめちゃくちゃ高かったりしない?」
「レア素材は魔素税がかかりますが……それでも結構な報酬になるはずです」

素材を袋に詰め終えた俺たちは、崩落の反動で開いた背後の隙間を見つけ、そこから慎重に脱出した。

――そして。

「戻ってきたーっ!!」

夕焼けが差し込む街門をくぐった瞬間、サヤが両手を上げて叫ぶ。

「……もう二度とあんな水びたしのとこ入りたくない……」

俺は馬車の荷台で力なく天を仰いだ。

「でも、無事に帰ってこれてよかったですね」

ルナベールのその一言が、何よりの“初任務成功”の証だった。俺たちはギルドでシェリルへ報告し、正式な報酬とともに初任務の完了を告げられた。
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