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序章
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特にこれといったことも無く時は過ぎ、ついに林間学校の日がやってきた。金持ち学園なのによくやるものだ。
朝は体操、昼は庭の雑草抜き、夜はレクリエーションとやることは盛りだくさんで、早くも脱落者が出ていた。具体的にいえば帰る生徒がちらほら居たのだ。だらしがない。
前世のある俺には雑用なんてへでもないので、意気揚々とイヴァングの分までこなしてやっていた。
ちなみに今は広場の雑草を抜いていた。
「こっちは終わったよ。ヨルハはどう?」
「おう、もうちょっとで終わりそうだぜ。皇子殿下の方は?」
「僕がやったよ。殿下はベンチでお休み中。」
「流石は殿下。レオンお前甘やかしすぎじゃねえの?」
「そうかな。明日はもうちょっとやるように言ってみるよ。」
ヨルハは両親が平民だったこともあって抵抗がないのか手際がいい。流石は庶民派宰相の息子といったところだろうか。嫌味ではない。
「そっちはどう?アレクサンドラ、ヨーロタ。」
「えっ、あ、もう少しかな、アハハ。」
こいついっつも笑ってんな…。
「終わった。」
そしてこいつは愛想がない。だが言われたことはきちんとやるのでまあいいだろう。
全員が終わったところで風呂に入り食事となった。流石に金持ち学園とだけあって風呂は個別だった。
「イヴァ、トマトも食べなきゃダメだよ。」
「いらん。お前が食べろ、レオン。」
「もう、しょうが無いな。でも一個は食べてね?」
「…わかった。」
「母親かよ。仲がよろしいんですねお二人さん。」
「まあね。母親じゃないけど。」
他愛もないお喋りをしながら夕食を食べる。…ちょっとヨルハの機嫌が悪いな。やっぱりこんな生活は嫌なんだろうか。そりゃそうか。
「レオン、きゅうりも食べてくれ。」
「えっこれ全部?一口はちゃんと食べてね?」
「わかっている。」
そんなやり取りをしているとヨルハが憂鬱そうにため息を吐いた。
「はあ。早く終わんねーかな…。」
「どうしたのヨルハ、やっぱり楽しくない?」
「いや、なんつーか…なんでもない。」
「?」
ヨルハは机に突っ伏してブツブツと何か言っている。「嫉妬じゃん」「こんなんじゃダメだ」「俺って心狭い…」…?急に何を言ってるんだ?
「レオン、ピーマンも」
「イヴァ?どうしてそんなに野菜を食べないの?」
こうして俺たちの夜は深けていった。
二日目の夜、夜中に目が覚めてしまった…。御手洗に行こう。
…それにしても綺麗な夜空だな。山が近いだけある。
少し見ていくか。
そうして一人夜空を眺めていると、不意に横から声をかけられた。
「何してるんだ、こんなところで。」
…アレクサンドラだ。若干こちらを睨んでいるようにも見える。なんでだ?
「ちょっと空を見てたんだ。綺麗だな、と思って。」
素直に答えればアレクサンドラの端正な顔が歪む。なんだ、何が気に触るんだ?
「アンタの方が綺麗だろう。意味がわからない。」
いやお前が意味わかんねーよ。なんで俺が綺麗だったら星見ちゃダメなんだよ。
「えっと…褒めてくれるのは嬉しいけど、人の美醜と自然の美しさはまた別物だと思うな。」
「…随分と前向きなんだな、アンタ。」
「そこが僕の美徳だと思っているよ。」
「そうか。」
急に黙るな。何なんだこいつ。
「…ここ、いいか。」
「うん?どうぞ。」
アレクサンドラが隣に座り込む。どうしたんだ一体。
「アレク。アレクって呼んでくれ、レオン。」
急に名前呼び…?何がお前の琴線に触れたんだ?俺はもう訳が分からないよ。
「…わかった、アレク。ありがとう。」
とりあえずこういう時は肯定だ。合わせておけば問題無し!
「いい。…綺麗だな。」
「そうだね。綺麗な夜空だ。」
「空じゃない…お前だ。」
うん?そうだね俺は美しいね?でも男に口説かれる筋合いは無いぞ?
「…ありがとう。君も十分美しいよ。」
もう自分でも何を言ってるか分からないがこれでいいだろう。そろそろ立ち去るとしよう。深夜テンションだからこんなことになるんだ。
「それじゃあ僕はそろそろ行くね。アレクもあんまり夜更かししちゃダメだよ。おやすみ。」
「…おやすみ。」
…何だったんだ、一体…?
奇妙なことがありつつも、三日間の林間学校は無事に終了した。
俺の人生は、たぶんきっとイージーモードだ。
《アレクside》
お高く留まってそうな奴。それが第一印象だった。
きっと俺のような成金貴族なんかとは目を合わせるのも嫌だろうと、そう思った。
けれどレオンハルトは表面上は人当たりがよく、善人そうな奴だった。誰もがその異質な──静謐な雰囲気に話しかけることすら躊躇するというのに、当の本人はそんなつもりはないらしい。本気でそう思っているならばおかしな奴だ。
所謂’高嶺の花’であるレオンハルトと俺がまともに話したのは、林間学校二日目の夜だった。
なんとなく目が覚めてしまい、外側に面した廊下を歩いていると奴はいた。
「何してるんだ、こんなところで。」
そう問えば奴──レオンハルトは可笑しそうに答えた。
「ちょっと空を見てたんだ。綺麗だな、と思って。」
変な奴だ。だが確かに月明かりに照らされるレオンハルトは絵になる美しさだった。
そんな自分の思考回路に嫌気が差す。
認めたくはないが…どうやらその他大勢と同じく、俺もこの男に惹かれているらしい。
「成金貴族」「誇りのない」「意地汚い」そんな暴言とは無縁の世界で生きてきたんだろうこんな奴なんかに。
けれど…それでも、どう罵られようと構わないから隣に居たいと、そう思ってしまったから。
「アレク。アレクって呼んでくれ、レオン。」
レオンは言った、俺を美しいと。…初めて言われた、そんなこと。
誰も煙たがられ、娼婦の子だと蔑まれる俺を。あの人は事もなげに褒めたのだ。
随分とポジティブな人だとは思ったが、どうやら性格まで出来た人らしい。
林間学校はもう終わる。けれどもきっと、明日からも俺はレオンの傍にいるのだと思う。許される限り、永遠に。
朝は体操、昼は庭の雑草抜き、夜はレクリエーションとやることは盛りだくさんで、早くも脱落者が出ていた。具体的にいえば帰る生徒がちらほら居たのだ。だらしがない。
前世のある俺には雑用なんてへでもないので、意気揚々とイヴァングの分までこなしてやっていた。
ちなみに今は広場の雑草を抜いていた。
「こっちは終わったよ。ヨルハはどう?」
「おう、もうちょっとで終わりそうだぜ。皇子殿下の方は?」
「僕がやったよ。殿下はベンチでお休み中。」
「流石は殿下。レオンお前甘やかしすぎじゃねえの?」
「そうかな。明日はもうちょっとやるように言ってみるよ。」
ヨルハは両親が平民だったこともあって抵抗がないのか手際がいい。流石は庶民派宰相の息子といったところだろうか。嫌味ではない。
「そっちはどう?アレクサンドラ、ヨーロタ。」
「えっ、あ、もう少しかな、アハハ。」
こいついっつも笑ってんな…。
「終わった。」
そしてこいつは愛想がない。だが言われたことはきちんとやるのでまあいいだろう。
全員が終わったところで風呂に入り食事となった。流石に金持ち学園とだけあって風呂は個別だった。
「イヴァ、トマトも食べなきゃダメだよ。」
「いらん。お前が食べろ、レオン。」
「もう、しょうが無いな。でも一個は食べてね?」
「…わかった。」
「母親かよ。仲がよろしいんですねお二人さん。」
「まあね。母親じゃないけど。」
他愛もないお喋りをしながら夕食を食べる。…ちょっとヨルハの機嫌が悪いな。やっぱりこんな生活は嫌なんだろうか。そりゃそうか。
「レオン、きゅうりも食べてくれ。」
「えっこれ全部?一口はちゃんと食べてね?」
「わかっている。」
そんなやり取りをしているとヨルハが憂鬱そうにため息を吐いた。
「はあ。早く終わんねーかな…。」
「どうしたのヨルハ、やっぱり楽しくない?」
「いや、なんつーか…なんでもない。」
「?」
ヨルハは机に突っ伏してブツブツと何か言っている。「嫉妬じゃん」「こんなんじゃダメだ」「俺って心狭い…」…?急に何を言ってるんだ?
「レオン、ピーマンも」
「イヴァ?どうしてそんなに野菜を食べないの?」
こうして俺たちの夜は深けていった。
二日目の夜、夜中に目が覚めてしまった…。御手洗に行こう。
…それにしても綺麗な夜空だな。山が近いだけある。
少し見ていくか。
そうして一人夜空を眺めていると、不意に横から声をかけられた。
「何してるんだ、こんなところで。」
…アレクサンドラだ。若干こちらを睨んでいるようにも見える。なんでだ?
「ちょっと空を見てたんだ。綺麗だな、と思って。」
素直に答えればアレクサンドラの端正な顔が歪む。なんだ、何が気に触るんだ?
「アンタの方が綺麗だろう。意味がわからない。」
いやお前が意味わかんねーよ。なんで俺が綺麗だったら星見ちゃダメなんだよ。
「えっと…褒めてくれるのは嬉しいけど、人の美醜と自然の美しさはまた別物だと思うな。」
「…随分と前向きなんだな、アンタ。」
「そこが僕の美徳だと思っているよ。」
「そうか。」
急に黙るな。何なんだこいつ。
「…ここ、いいか。」
「うん?どうぞ。」
アレクサンドラが隣に座り込む。どうしたんだ一体。
「アレク。アレクって呼んでくれ、レオン。」
急に名前呼び…?何がお前の琴線に触れたんだ?俺はもう訳が分からないよ。
「…わかった、アレク。ありがとう。」
とりあえずこういう時は肯定だ。合わせておけば問題無し!
「いい。…綺麗だな。」
「そうだね。綺麗な夜空だ。」
「空じゃない…お前だ。」
うん?そうだね俺は美しいね?でも男に口説かれる筋合いは無いぞ?
「…ありがとう。君も十分美しいよ。」
もう自分でも何を言ってるか分からないがこれでいいだろう。そろそろ立ち去るとしよう。深夜テンションだからこんなことになるんだ。
「それじゃあ僕はそろそろ行くね。アレクもあんまり夜更かししちゃダメだよ。おやすみ。」
「…おやすみ。」
…何だったんだ、一体…?
奇妙なことがありつつも、三日間の林間学校は無事に終了した。
俺の人生は、たぶんきっとイージーモードだ。
《アレクside》
お高く留まってそうな奴。それが第一印象だった。
きっと俺のような成金貴族なんかとは目を合わせるのも嫌だろうと、そう思った。
けれどレオンハルトは表面上は人当たりがよく、善人そうな奴だった。誰もがその異質な──静謐な雰囲気に話しかけることすら躊躇するというのに、当の本人はそんなつもりはないらしい。本気でそう思っているならばおかしな奴だ。
所謂’高嶺の花’であるレオンハルトと俺がまともに話したのは、林間学校二日目の夜だった。
なんとなく目が覚めてしまい、外側に面した廊下を歩いていると奴はいた。
「何してるんだ、こんなところで。」
そう問えば奴──レオンハルトは可笑しそうに答えた。
「ちょっと空を見てたんだ。綺麗だな、と思って。」
変な奴だ。だが確かに月明かりに照らされるレオンハルトは絵になる美しさだった。
そんな自分の思考回路に嫌気が差す。
認めたくはないが…どうやらその他大勢と同じく、俺もこの男に惹かれているらしい。
「成金貴族」「誇りのない」「意地汚い」そんな暴言とは無縁の世界で生きてきたんだろうこんな奴なんかに。
けれど…それでも、どう罵られようと構わないから隣に居たいと、そう思ってしまったから。
「アレク。アレクって呼んでくれ、レオン。」
レオンは言った、俺を美しいと。…初めて言われた、そんなこと。
誰も煙たがられ、娼婦の子だと蔑まれる俺を。あの人は事もなげに褒めたのだ。
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