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幕間 (第一部 ⇒ 第二部)
男は猪のように突進するのみ。
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「あら。おはよう。今日は何を持って来てくれたのって・・・顔赤いわよ!? 風邪じゃない?」
店に着き、商品を並べているといなくなった満田の代わりに来た新しい店長に話しかけられた。こいつも高校の同級生だが満田と違って性格は良く、友達としての関係も良好だ。そんな新店長が見た俺の顔はいつもより赤かったらしく、病気じゃないかと心配されたようだ。
「大丈夫。風邪じゃないよ。朝からバタバタして体動かしただけ。・・・持ってきたのは大根とキュウリ、あとトマトかな。」
「あら、嬉しい。キュウリとトマトは大口の注文が入っていたから助かるぅ。」
こいつは俺たち生産者が商品を持ってくるのを素直に喜んでくれる。
「そう言ってもらえると嬉しいよ。店長が変わって店に来る楽しみが増えた。」
「このお店はね、買い物に来てくれるお客様はもちろんだけど、並べる商品もないと成り立たないの。どっちも大切にしなきゃ。」
「満田とは大違いだな。みんなそう言ってるよ。店の雰囲気も良くなったって。」
「みっちゃんはねぇ、極端過ぎるのよ。最後は自分が見つけた農家からだけ集荷しようとしてたでしょ?あの後、あたしがどれだけ頭を下げたことか。」
満田が打ち出した6月から農家を選定する方針は新店長が即座に撤回していた。そしてすべての農家に謝って元通り出荷してもらえるようになっている。
「・・・あいつ、あれからまだ一回も店に来てないんだろ?」
「そう。家にも戻ってないらしいわ。ご両親も心配しているでしょうね。」
「まったくどれだけ他人に迷惑かければ気が済むんだ。」
「おかげで私は急きょ転職して店長をやるハメになっちゃってさ。日光の当たる時間のお仕事なんて初めてだからお肌が荒れて困っちゃう。」
「・・・大丈夫、肌はいつも通りテカテカしているよ。さっきも言ったけどさ、俺らにとっては君が店長になってくれてよかったよ。ずっと店長でいてくれよな、『ヒデ』ちゃん。」
俺は親愛の情を込めて同級生の名前を呼んだ。前田英夫 (まえだひでお)、通称ヒデちゃん。2メートルはあろうかというでかい体に鍛え抜かれたムキムキの筋肉。
見た目は男の中の男だが、心はその辺の女より何倍も乙女。トレードマークの青髭が朝なのにまぶしい。
「いやん。その名前で呼ばないで。姫ちゃんて言って。」
そう言いながらヒデちゃんは俺の背中をバンッと叩く。
「いってっ。・・・わかったよ『ヒデちゃん』。あ、そうだ。商品並べ終わったら少し時間ないかな?相談したいことがあるんだけど。」
「・・・話を聞いたらちゃんと姫ちゃんって呼んでね。」
ヒデちゃんは「ルンルンっ。」と言いながら内またの小走りで事務所へと入って行った。
そう、俺は今朝の出来事を女の感性を持つこの男に話をしてみようと思っていた。
――――――――――
「年下の女の子が雄ちゃんのことを好きみたいですってーーーーー!!!!」
「こ、声が大きいよ。ヒデちゃん。」
事務所だと誰かに聞かれるかもしれないと思った俺はヒデちゃんと店の裏に来ていた。だが、さっきの大声は店の売り場まで確実に響いてる。俺は人差し指を口に当てて「シーっ!」というジェスチャーをする。それを見た彼は声のトーンを幾分落とした。
「あら、ごめんなさい。びっくりしちゃって。・・・それで、その子は本当に雄ちゃんのことが好きなの?」
「たぶん、そうだと思う。」
あの時、リリーナはユイに向かって『ちゃんと』、『はっきり』そして『好き』という単語を言っていた。その後は口をふさがれていたけど、いくら俺でも何を言わんとしていたかわかる。
「雄ちゃんはその子のこと、どう思っているの? あたしに相談するってことは気にはなっているんじゃない?」
確かに自然と姿を目で追ってしまうことは自覚している。けど・・・。
「何らかの気持ちは持っていると思う。だけどそれが仲間に向けてのものなのか、一人の女の子に対してのものなのかわからない。・・・それに俺はもう31だ。 その子は21。いくらなんでも年が離れすぎだろ?」
ヒデちゃんは優しく首を振りながら大きく「ふぅーっ。」とため息をつく。
「中年の男はどうしてこう逃げ腰なのかしら。女はね、好きになっちゃったら年齢なんかまったく気にしない。年の差なんて低過ぎるハードルだわ。」
「そう、なのかな?・・・でも今まで育ってきた環境も違うし。」
異世界の女の子だし。
「だから何だって言うの! 自分を好いてくれている女の子がいるんだったら、男は猪のように突進するのみ。次会ったら押し倒しちゃいなさい。」
ヒデちゃんは満面の笑みでビッと親指を立てる。
「でも、その子は男が嫌いで触られたりすると拒絶反応が出るんだ。」
押し倒そうものなら俺の死は免れ得ない。
「何よそれ・・・。」
ヒデちゃんは体をブルブル震わせていたかと思うとガバッと両手を広げ、そして抱き着いてきた。青髭が頬に当たって痛い。
「ちょ、ちょっと!? ヒデちゃん。やめて。」
「雄ちゃん。その子は男嫌いなのに好意を持ってくれたんでしょ、ってことは100%大丈夫。こちらから『告白』して早く楽にしてあげなさい。」
急に告白だなんだと言われて体がむず痒くなる。
「と、とりあえず話はしてみるから。ヒデちゃん離れて。」
ヒゲが、ヒゲがジョリジョリで痛いっ。
「姫ちゃんって呼んで。ヒデなんて可愛くもない。」
ヒデちゃんは俺を抱きしめていた手の力を抜き、スッと離れる。そして真っ白な歯を見せながらニカッと笑うと言った。
「結果、ちゃんと報告してね。失敗したらあたしが慰めてあげるわ。」
店に着き、商品を並べているといなくなった満田の代わりに来た新しい店長に話しかけられた。こいつも高校の同級生だが満田と違って性格は良く、友達としての関係も良好だ。そんな新店長が見た俺の顔はいつもより赤かったらしく、病気じゃないかと心配されたようだ。
「大丈夫。風邪じゃないよ。朝からバタバタして体動かしただけ。・・・持ってきたのは大根とキュウリ、あとトマトかな。」
「あら、嬉しい。キュウリとトマトは大口の注文が入っていたから助かるぅ。」
こいつは俺たち生産者が商品を持ってくるのを素直に喜んでくれる。
「そう言ってもらえると嬉しいよ。店長が変わって店に来る楽しみが増えた。」
「このお店はね、買い物に来てくれるお客様はもちろんだけど、並べる商品もないと成り立たないの。どっちも大切にしなきゃ。」
「満田とは大違いだな。みんなそう言ってるよ。店の雰囲気も良くなったって。」
「みっちゃんはねぇ、極端過ぎるのよ。最後は自分が見つけた農家からだけ集荷しようとしてたでしょ?あの後、あたしがどれだけ頭を下げたことか。」
満田が打ち出した6月から農家を選定する方針は新店長が即座に撤回していた。そしてすべての農家に謝って元通り出荷してもらえるようになっている。
「・・・あいつ、あれからまだ一回も店に来てないんだろ?」
「そう。家にも戻ってないらしいわ。ご両親も心配しているでしょうね。」
「まったくどれだけ他人に迷惑かければ気が済むんだ。」
「おかげで私は急きょ転職して店長をやるハメになっちゃってさ。日光の当たる時間のお仕事なんて初めてだからお肌が荒れて困っちゃう。」
「・・・大丈夫、肌はいつも通りテカテカしているよ。さっきも言ったけどさ、俺らにとっては君が店長になってくれてよかったよ。ずっと店長でいてくれよな、『ヒデ』ちゃん。」
俺は親愛の情を込めて同級生の名前を呼んだ。前田英夫 (まえだひでお)、通称ヒデちゃん。2メートルはあろうかというでかい体に鍛え抜かれたムキムキの筋肉。
見た目は男の中の男だが、心はその辺の女より何倍も乙女。トレードマークの青髭が朝なのにまぶしい。
「いやん。その名前で呼ばないで。姫ちゃんて言って。」
そう言いながらヒデちゃんは俺の背中をバンッと叩く。
「いってっ。・・・わかったよ『ヒデちゃん』。あ、そうだ。商品並べ終わったら少し時間ないかな?相談したいことがあるんだけど。」
「・・・話を聞いたらちゃんと姫ちゃんって呼んでね。」
ヒデちゃんは「ルンルンっ。」と言いながら内またの小走りで事務所へと入って行った。
そう、俺は今朝の出来事を女の感性を持つこの男に話をしてみようと思っていた。
――――――――――
「年下の女の子が雄ちゃんのことを好きみたいですってーーーーー!!!!」
「こ、声が大きいよ。ヒデちゃん。」
事務所だと誰かに聞かれるかもしれないと思った俺はヒデちゃんと店の裏に来ていた。だが、さっきの大声は店の売り場まで確実に響いてる。俺は人差し指を口に当てて「シーっ!」というジェスチャーをする。それを見た彼は声のトーンを幾分落とした。
「あら、ごめんなさい。びっくりしちゃって。・・・それで、その子は本当に雄ちゃんのことが好きなの?」
「たぶん、そうだと思う。」
あの時、リリーナはユイに向かって『ちゃんと』、『はっきり』そして『好き』という単語を言っていた。その後は口をふさがれていたけど、いくら俺でも何を言わんとしていたかわかる。
「雄ちゃんはその子のこと、どう思っているの? あたしに相談するってことは気にはなっているんじゃない?」
確かに自然と姿を目で追ってしまうことは自覚している。けど・・・。
「何らかの気持ちは持っていると思う。だけどそれが仲間に向けてのものなのか、一人の女の子に対してのものなのかわからない。・・・それに俺はもう31だ。 その子は21。いくらなんでも年が離れすぎだろ?」
ヒデちゃんは優しく首を振りながら大きく「ふぅーっ。」とため息をつく。
「中年の男はどうしてこう逃げ腰なのかしら。女はね、好きになっちゃったら年齢なんかまったく気にしない。年の差なんて低過ぎるハードルだわ。」
「そう、なのかな?・・・でも今まで育ってきた環境も違うし。」
異世界の女の子だし。
「だから何だって言うの! 自分を好いてくれている女の子がいるんだったら、男は猪のように突進するのみ。次会ったら押し倒しちゃいなさい。」
ヒデちゃんは満面の笑みでビッと親指を立てる。
「でも、その子は男が嫌いで触られたりすると拒絶反応が出るんだ。」
押し倒そうものなら俺の死は免れ得ない。
「何よそれ・・・。」
ヒデちゃんは体をブルブル震わせていたかと思うとガバッと両手を広げ、そして抱き着いてきた。青髭が頬に当たって痛い。
「ちょ、ちょっと!? ヒデちゃん。やめて。」
「雄ちゃん。その子は男嫌いなのに好意を持ってくれたんでしょ、ってことは100%大丈夫。こちらから『告白』して早く楽にしてあげなさい。」
急に告白だなんだと言われて体がむず痒くなる。
「と、とりあえず話はしてみるから。ヒデちゃん離れて。」
ヒゲが、ヒゲがジョリジョリで痛いっ。
「姫ちゃんって呼んで。ヒデなんて可愛くもない。」
ヒデちゃんは俺を抱きしめていた手の力を抜き、スッと離れる。そして真っ白な歯を見せながらニカッと笑うと言った。
「結果、ちゃんと報告してね。失敗したらあたしが慰めてあげるわ。」
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