【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

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太陽の国

初仕事

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役所は太陽の国の中央に建つ大きな建物だった。
中は広く案内窓口がいくつかあって、その中に仕事の窓口も見つけられた。
そこへ向かおうとすると後ろから声をかけられた。
振り返るとそこには王宮で個人証明書の手続きをしてくれた眼鏡の男性が立っていた。
「おはようございます、リビさんソラさん。ヴィントから話は伺っています。仕事の相談でしたら私が承りますのでどうぞ、こちらへ」
通されたのは少し奥の仕切られたテーブル席で、私とソラはざわつく役所の中をおそるおそる歩いて座った。
向かいに座った男性はお辞儀をして四角い眼鏡をくいっとあげた。
「気を悪くなさらないで下さいね。ソラさんは珍しいドラゴンで守り神とされていますから皆が興味津々なのです。それにリビさんもこの町には珍しい魔法の持ち主ですから。落ち着いて話せる場所を確保させて頂きました」
穏やかにゆっくりと話す彼は、私が言語を覚えたてだと分かっているような話し方だった。
「改めまして自己紹介を。この役所の責任者をしておりますエルデと申します。今後お二人の担当をさせて頂きますので何かありましたら私に仰って下さいね」
王宮で会った時には分からなかったが、とても優しい笑顔を向ける人だと感じた。
言語が理解できるというのは、相手のことをもっとよく知れることなのだと思った。
「お仕事はどのようなものをお探しですか?例えば、町の依頼を受けるものであれば、一つ受けるごとに報酬が貰えます。依頼内容によっては長期のものも短期のものも、1日で終了するものも様々です」
エルデはファイルを取り出すとパラパラと捲ってこちらに提示した。
「最初ですので簡単な依頼ですと、薬草収集があります。国の近くに生えているものなので比較的見つけやすいと思います。依頼人はこの国の薬師の方で、忙しくて自分では行けないから代わりに取ってきて欲しいというものですね」
ソラと共にファイルを覗き込むとそこには植物のイラストが描かれている。
「キュ!」
「そうだね、あの大きな木の近くで見たね」
「キュウ!」
「そうだね、エルデさん、この依頼受けさせて下さい」
エルデは頷くとハンコを押して別のファイルへと紙を移す。
「畏まりました、では期限は2日以内。植物が収集出来ましたらまた役所にお越しください」
にこやかに送り出され、私とソラは国の外へと出た。
一度見たことのある植物を見つけるのは簡単で、ソラと一緒に摘むとあっという間に依頼分を収集できた。
この植物は確か、喉を潤す効果があった気がする。
植物図鑑を日々読んでいる私とソラにとって、この植物収集という依頼は向いている気がした。
摘み終わってすぐに役所に戻りエルデに報告をすると、植物を確認して終了のハンコが押された。
「確かに確認致しました。個人証明書のカードを提示して下さい」
エルデが懐中電灯のようなもので光をピカッとさせると、カードに終了した仕事の欄が記載された。
レジのバーコード読み取りみたいなものだろうか。
「カードを確認すれば、受けている仕事内容も確認することが出来ますし、これまでに働いた実績を確認することが可能です。カードの使い方で分からない所があればなんでも聞いて下さいね。それからお金の欄を見て下さい」
カードの液晶パネルには所持金の欄が増えていた。
「報酬のお金もカードに入ります。何かを購入するときにはカードを提示して下さい。…ヴィントから聞きました、今までお金を使わずに生活していたと。それもそのはず、貴女は1年迷いの森で過ごされたと伺っています。お金について、少々お話させて頂いてもよろしいですか」

こうして私とソラはエルデからお金について学んだ。
ものの値段の相場や、物を購入する際の注意点。
値下げ交渉や、ぼったくりに関する情報。
カードを盗まれても本人以外使用出来ないが、脅された本人がお金を相手に渡すことは可能など。
やはり、どこの世界でも犯罪は似たりよったりである。
ソラはうんうんと頷きながらエルデの話を聞いているが、お金という概念が理解できているのだろうか。
「ソラ、お金分かるの?」
「キュキュ」
「うん、そうだね。売られてるものをお金を払わずに食べないように気をつけないとね」
迷いの森ではそんなことを考えてはいられなかったが、もしも誰かが作った畑だった場合はお金を支払わなくてはならない。それ以前に勝手に食べてはいけないのだけど、あの森は自生しているものしかなかったから結果的にはセーフだ。
エルデは何かを察したのか、植物についても話してくれた。
「畑や木を育てて売買している人は勿論いますが、その場合はきちんと表記してありますのでご安心下さい。看板が立っていたり、地面に線や文字が書かれていたりして分かりやすいので、誤って食べてしまうことはほとんど無いと思います」
今までは文字を読むことすら出来なかったが、さすがに看板が立っていたら食べないかもしれない。
読めないなりに何かの警告や私有地である可能性を日本という国で学んでいる。
この世界が例え日本と全く異なるものだったとしても、人間が暮らす環境というものは応用できるということだ。
そうして私は今文字が読める。
言葉が話せる。
それがとてつもなく大切であることを実感している真っ只中だ。

ヴィントには引き続き言語を教えてもらいながら、日中は魔法の練習や仕事をこなすことにした。
植物収集の仕事を主にして、植物の効果の勉強も合わせて行うことが出来た。
図鑑で読めない所が出てくると夜にヴィントに確認することが出来るこの環境は勉強にとても良いものだった。
分からないことをすぐに確かめられるというのは、とても有り難いことだと思った。
「そういえばなのですが、エルデさんとヴィントさんはお知り合いですか」
なんとなく気になっていたことを聞いてみると、ヴィントは図鑑に視線を落としながら頷いた。
「ああ、幼なじみだ。エルデと俺は別の国の出身でな。体力のあった俺は騎士に、頭が良かったエルデは役所に勤めるためにこの国へ来た」
「そうなんですね、太陽の国は色々な国の方がいらっしゃるということですか?」
「そうだな、大きな国だし医療施設や居住環境も整っている。出稼ぎに来る者も、永住する者もいる。それに…」
ヴィントは言い淀むと顔を上げて私の顔を見た。
「この太陽の国は闇魔法を持つ人間の差別を禁止した数少ない国なんだ」
闇の魔法は処刑されていたこともある。
王宮で聞いたときは処刑されなくて良かったと思いつつも、どこか他人事のように感じていたが、過ごしていると分かってくる。
私に向けられる奇異の視線を。
普段は国の外にいるが、王宮へ行ったり役所に行ったりするときは人の視線が集まるのが分かる。
私が怖いのだろうか。
気持ち悪いのだろうか。
人の心の中は見ることは出来ないし、彼らは決して言葉にはしないのだろう。
それはこの国で差別出来ないからだったんだ。
「俺は、魔法の属性なんて、単なる色違いみたいなもんだと思ってる。花だって、空の色だって、青も赤もある」
ヴィントの言葉にソラも元気よく手を上げた。
ヴィントは、ふふ、と小さく笑うとソラを撫でた。
「ドラゴンも青も赤もいるよな」
「キュ!」
自信満々に答えたソラは、草原の上にごろんと寝転がって目を瞑った。
ヴィントはソラを撫でながら静かな声で言う。
「魔法に善し悪しはない。あるとするならば、どう使うか誰が使うかだ。だから、リビがはじめに来た国がここで良かった。本当に」
その声は真剣で、切実で。
もしかしたら、ヴィントとエルデがこの国に来た理由が関係あるのかもしれないと思った。
そうだとしても聞くことなど出来ずに、私はいつもの日常に戻るだけだった。
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