【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

文字の大きさ
21 / 169
太陽の国2

収穫祭

ヒサメに追い払われ、フブキに手を振られた。
ソラに何故かがんばれと言われ、私は走っていた。
たくさんの人が楽しそうに過ごしているこのお祭りの中。
ヴィントが待っているとすれば、中央広場だと分かっていた私は人混みをかき分けてようやく広場が見えるところまできた。
まだ待っていてくれているだろうか。
まだ明るいとはいえ、もうすぐ夕時が近づいている。
ヴィントはたしか、夜は仕事があると言っていた。
だからこそ私は、少しでもいいからヴィントと収穫祭を巡ってみたかった。
中央広場の噴水の近く。
ヴィントは背が高いから、私は一目で彼が立っているのが見えた。
良かった、待っててくれたんだ。
私は、手をあげて彼に声をかけようとした。

だけど私は、声をかけることはできなかった。

ヴィントが隣いる誰かと楽しそうに話しているのが見えたのだ。
徐々に広場に近づくにつれ、ヴィントが良く見える。
そうして、誰が隣にいたかはっきりと見えた。
清楚な魔法学校の制服に身を包み、綺麗な長い髪を靡かせた女性は、ヴィントに笑いかけていた。

ヒカルだった。

二人の手には同じ形の綺麗な飴細工が握られていて、私は一歩広場から遠ざかった。
「可哀想なお嬢さん」
そんな声がふいに聞こえて、私は振り返る。
するとそこには背の高い紫のヴェールを被った人が壁際に立っていた。
「どなた、ですか」
「警戒しないでちょうだい。私は占い師。人の過去を見ることが出来るの」
ゆっくりと近づいてきたその人は、ヴィントとヒカルを指さした。
「彼女はこの国の人気者。国民に愛され、学園でも優秀で優しくて将来はきっと聖女様になるでしょうね。言い寄ってくる殿方は数知れず、学園では眉目秀麗な男性が彼女を口説きに来るの」
占い師は私の肩にゆっくりと左手を置いて、囁いた。
「華やかで美しい衣装にも負けない美しい顔とあの笑顔。落ちない殿方はいないでしょうね。それに比べてお嬢さん。あなたはなんてみすぼらしい格好なのかしら。地味な灰色や茶色を身にまとって、マントはボロボロで、ブーツは泥だらけ。髪はぼさぼさで肌だってこんなに汚いんですもの。どちらを選ぶかなんて一目瞭然じゃないかしら」
私は途端にこの場にいるのが恥ずかしくなった。
自分の格好を見下ろして、占い師が言ったことが全部本当で。
それで、あんなに眩しく笑うヒカルを見て私は、羨ましいと思った。
占い師は追い打ちのようにさらに付け加えた。
「あなたはこの世界で何もかも失ったのに、彼女は何もかも持っていたのよ。住む場所も、学ぶ場所も優しくしてくれる人も、この世界で生きる上で必要なものは全部揃っていたの。その点、お嬢さんはどう?死ぬかもしれなかった、不安しかなかった、頼れる人も場所も見つからず言葉さえ通じなかった。ねぇ、彼女が憎いでしょ?そうでしょ?」
私の中で黒い何かがふつふつと湧き出るような感じがする。
それがいけない感情なのが分かる。
「堪える必要なんかないの。だってそれは正しい感情ですもの。誰だって彼女が羨ましい、妬ましい、憎らしい。それが当然なんですもの」
「離してください」
私は占い師の手を振り払っていた。
「自分よりも上手くいっている人が羨ましい、確かにそう思います。でも、それに対してどんな感情を抱いたとしてもそれは私の心の中だけの問題です。それから、勝手に人の過去を見ないで」
私はそれだけ言うと、中央広場とは反対方向に走り始めていた。



そうして気づいたら迷いの森の中にいた。
誰もいないここは今の私にとって居心地が良かったのだ。
足を抱えて座り込んで、膝におでこをくっつけて丸まった。
何もかも占い師の言う通り。
こんな汚い格好の女がヴィントの隣で収穫祭を見て回ろうとしてたなんて最悪だ。
彼だって私が行ってもきっと困ったに違いない。
だから、会わずに引き返して正解だったんだそうに違いない。
そう思わないと、私は今にも大声で泣きだしてしまいそうだった。
心の中の黒い物がもやもやと感情を支配して、どうにかなりそうだ。

『魔力が強くなってるわね、人間』

そんな声がして私は顔をあげた。
目の前には妖精のツキがいて、葉っぱの上に座っていた。
『あら、声が聞こえるみたいね。ようやく、ドラゴンを介さずに話ができるってこと』
「ツキさん、どうしてここに」
『人間が走ってこの森に入ってきたから見に来たの。ドラゴンも一緒じゃないみたいだし、それにあなたの魔力が高まってる。暴走されたら森が危険だから知り合いの私が来たのよ』
ツキは面倒そうにそう告げた。
「暴走なんて、しませんよ」
『あら、魔力コントロールが未熟なあなたがなんでそう言い切れるの?いい?負の感情は魔力を高めると共にコントロールを不安定にさせるの。あなたなら自滅もありえるわね』
ふわりと飛んだツキは私の膝に降り立った。
『なに、失恋でもしたの?』
「・・・なんでですか」
『だいたい負の感情で支配されるときって恋愛が絡んでるのよね。失恋、嫉妬、裏切り、トラブルってそういうの多いでしょ』
「これが失恋なのか、わかりません」
『そんなのは自分で考えて。それよりも、魔力が高まっていることが問題なの。どんな属性だろうと負の感情によって魔力は高まるのよ。でも、闇属性はその負の感情で高まった魔力はそのままなの。だからこそ、コントロールする力が必要なのよ」
「コントロールと言われても・・・」
『いい?感情で高まった魔力のコントロールは感情をコントロールすることで安定する。安定すれば、その魔力はもうあなたのもの。使いこなせれば闇属性の魔法は最も魔力が貯めやすい魔法なのよ』
ツキに魔法を教えて貰っていたことを思い出す。
ソラは忠実にツキの口調を真似てくれてたんだな。
『自分の負の感情を理解して、分析して、客観視する。そうすれば、次第に安定するでしょ』
「ツキさん、カウンセラーみたい」
『生き物って自分の感情のコントロールが下手な者が多いのよね。妖精もそうなの。それによって森が壊されたら困るから私は妖精たちの宥め役ってわけ。あなたは弟子だから仕方なくよ』
ため息をつくツキは私の膝の上に座った。
「私、彼の隣にいる自信がなくて逃げてきてしまいました。こんな汚い格好で、こんなにみすぼらしい姿で、彼女に勝てる気もしなかった」
『あなたの失恋話に興味はないわ』
「いいじゃないですか、誰かに話した方が安定するんです。それに、妖精だって失恋するでしょ」
ツキは一瞬だけこちらを見ると、またそっぽを向いてしまった。
『恋ってなんて面倒なのかしら。苦しむことの方が多いのに、誰かを好きになるなんてね』
「ツキさんの話ですか」
『・・・違うわよ。湖の妖精、会ったでしょ?』
湖の妖精、といえばこの森を彷徨っていたときに溺死させられそうになった妖精だ。
「湖に引きずり込まれて殺されるところでしたよ」
『ああ、あなたまだ妖精の言葉を理解できなかったから知らないのね。あの子はあなたに助けて欲しかったのよ』

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜

月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。 ※この作品は、カクヨムでも掲載しています。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

アラフォー幼女は異世界で大魔女を目指します

梅丸みかん
ファンタジー
第一章:長期休暇をとったアラフォー独身のミカは、登山へ行くと別の世界へ紛れ込んでしまう。その場所は、森の中にそびえる不思議な塔の一室だった。元の世界には戻れないし、手にしたゼリーを口にすれば、身体はなんと6歳の子どもに――。 ミカが封印の箱を開けると、そこから出てきたのは呪いによって人形にされた大魔女だった。その人形に「大魔女の素質がある」と告げられたミカは、どうせ元の世界に戻れないなら、大魔女を目指すことを決心する。 だが、人形師匠はとんでもなく自由すぎる。ミカは師匠に翻弄されまくるのだった。 第二章:巷で流れる大魔女の遺産の噂。その裏にある帝國の侵略の懸念。ミカは次第にその渦に巻き込まれていく。 第三章:異世界で唯一の友人ルカが消えた。その裏には保護部屋の存在が関わっていることが示唆され、ミカは潜入捜査に挑むことになるのだった。

ダンジョン・イーツ! ~戦闘力ゼロの俺、スキル【絶対配送】でS級冒険者に「揚げたてコロッケ」を届けたら、世界中の英雄から崇拝されはじめた件~

たくみさん
ファンタジー
「攻撃力ゼロのポーターなんて、配信の邪魔なんだよ!」  3年尽くしたパーティから、手切れ金の1万円と共に追放された探索者・天野蓮(アマノ・レン)。  絶望する彼が目にしたのは、ダンジョン深層で孤立し、「お腹すいた……」と涙を流すS級美少女『氷姫』カグヤの緊急生放送だった。  その瞬間、レンの死にスキルが真の姿を見せる。  目的地と受取人さえあれば、壁も魔物も最短距離でブチ抜く神速の移動スキル――【絶対配送(デリバリー・ロード)】。 「お待たせしました! ご注文の揚げたてコロッケ(22,500円)お届けです!」  地獄の戦場にママチャリで乱入し、絶品グルメを届けるレンの姿は、50万人の視聴者に衝撃を与え、瞬く間に世界ランク1位へバズり散らかしていく!  一方、彼を捨てた元パーティは補給不足でボロボロ。 「戻ってきてくれ!」と泣きつかれても、もう知らん。俺は、高ランク冒険者の依頼で忙しいんだ!

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。