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太陽の国2
収穫祭
ヒサメに追い払われ、フブキに手を振られた。
ソラに何故かがんばれと言われ、私は走っていた。
たくさんの人が楽しそうに過ごしているこのお祭りの中。
ヴィントが待っているとすれば、中央広場だと分かっていた私は人混みをかき分けてようやく広場が見えるところまできた。
まだ待っていてくれているだろうか。
まだ明るいとはいえ、もうすぐ夕時が近づいている。
ヴィントはたしか、夜は仕事があると言っていた。
だからこそ私は、少しでもいいからヴィントと収穫祭を巡ってみたかった。
中央広場の噴水の近く。
ヴィントは背が高いから、私は一目で彼が立っているのが見えた。
良かった、待っててくれたんだ。
私は、手をあげて彼に声をかけようとした。
だけど私は、声をかけることはできなかった。
ヴィントが隣いる誰かと楽しそうに話しているのが見えたのだ。
徐々に広場に近づくにつれ、ヴィントが良く見える。
そうして、誰が隣にいたかはっきりと見えた。
清楚な魔法学校の制服に身を包み、綺麗な長い髪を靡かせた女性は、ヴィントに笑いかけていた。
ヒカルだった。
二人の手には同じ形の綺麗な飴細工が握られていて、私は一歩広場から遠ざかった。
「可哀想なお嬢さん」
そんな声がふいに聞こえて、私は振り返る。
するとそこには背の高い紫のヴェールを被った人が壁際に立っていた。
「どなた、ですか」
「警戒しないでちょうだい。私は占い師。人の過去を見ることが出来るの」
ゆっくりと近づいてきたその人は、ヴィントとヒカルを指さした。
「彼女はこの国の人気者。国民に愛され、学園でも優秀で優しくて将来はきっと聖女様になるでしょうね。言い寄ってくる殿方は数知れず、学園では眉目秀麗な男性が彼女を口説きに来るの」
占い師は私の肩にゆっくりと左手を置いて、囁いた。
「華やかで美しい衣装にも負けない美しい顔とあの笑顔。落ちない殿方はいないでしょうね。それに比べてお嬢さん。あなたはなんてみすぼらしい格好なのかしら。地味な灰色や茶色を身にまとって、マントはボロボロで、ブーツは泥だらけ。髪はぼさぼさで肌だってこんなに汚いんですもの。どちらを選ぶかなんて一目瞭然じゃないかしら」
私は途端にこの場にいるのが恥ずかしくなった。
自分の格好を見下ろして、占い師が言ったことが全部本当で。
それで、あんなに眩しく笑うヒカルを見て私は、羨ましいと思った。
占い師は追い打ちのようにさらに付け加えた。
「あなたはこの世界で何もかも失ったのに、彼女は何もかも持っていたのよ。住む場所も、学ぶ場所も優しくしてくれる人も、この世界で生きる上で必要なものは全部揃っていたの。その点、お嬢さんはどう?死ぬかもしれなかった、不安しかなかった、頼れる人も場所も見つからず言葉さえ通じなかった。ねぇ、彼女が憎いでしょ?そうでしょ?」
私の中で黒い何かがふつふつと湧き出るような感じがする。
それがいけない感情なのが分かる。
「堪える必要なんかないの。だってそれは正しい感情ですもの。誰だって彼女が羨ましい、妬ましい、憎らしい。それが当然なんですもの」
「離してください」
私は占い師の手を振り払っていた。
「自分よりも上手くいっている人が羨ましい、確かにそう思います。でも、それに対してどんな感情を抱いたとしてもそれは私の心の中だけの問題です。それから、勝手に人の過去を見ないで」
私はそれだけ言うと、中央広場とは反対方向に走り始めていた。
そうして気づいたら迷いの森の中にいた。
誰もいないここは今の私にとって居心地が良かったのだ。
足を抱えて座り込んで、膝におでこをくっつけて丸まった。
何もかも占い師の言う通り。
こんな汚い格好の女がヴィントの隣で収穫祭を見て回ろうとしてたなんて最悪だ。
彼だって私が行ってもきっと困ったに違いない。
だから、会わずに引き返して正解だったんだそうに違いない。
そう思わないと、私は今にも大声で泣きだしてしまいそうだった。
心の中の黒い物がもやもやと感情を支配して、どうにかなりそうだ。
『魔力が強くなってるわね、人間』
そんな声がして私は顔をあげた。
目の前には妖精のツキがいて、葉っぱの上に座っていた。
『あら、声が聞こえるみたいね。ようやく、ドラゴンを介さずに話ができるってこと』
「ツキさん、どうしてここに」
『人間が走ってこの森に入ってきたから見に来たの。ドラゴンも一緒じゃないみたいだし、それにあなたの魔力が高まってる。暴走されたら森が危険だから知り合いの私が来たのよ』
ツキは面倒そうにそう告げた。
「暴走なんて、しませんよ」
『あら、魔力コントロールが未熟なあなたがなんでそう言い切れるの?いい?負の感情は魔力を高めると共にコントロールを不安定にさせるの。あなたなら自滅もありえるわね』
ふわりと飛んだツキは私の膝に降り立った。
『なに、失恋でもしたの?』
「・・・なんでですか」
『だいたい負の感情で支配されるときって恋愛が絡んでるのよね。失恋、嫉妬、裏切り、トラブルってそういうの多いでしょ』
「これが失恋なのか、わかりません」
『そんなのは自分で考えて。それよりも、魔力が高まっていることが問題なの。どんな属性だろうと負の感情によって魔力は高まるのよ。でも、闇属性はその負の感情で高まった魔力はそのままなの。だからこそ、コントロールする力が必要なのよ」
「コントロールと言われても・・・」
『いい?感情で高まった魔力のコントロールは感情をコントロールすることで安定する。安定すれば、その魔力はもうあなたのもの。使いこなせれば闇属性の魔法は最も魔力が貯めやすい魔法なのよ』
ツキに魔法を教えて貰っていたことを思い出す。
ソラは忠実にツキの口調を真似てくれてたんだな。
『自分の負の感情を理解して、分析して、客観視する。そうすれば、次第に安定するでしょ』
「ツキさん、カウンセラーみたい」
『生き物って自分の感情のコントロールが下手な者が多いのよね。妖精もそうなの。それによって森が壊されたら困るから私は妖精たちの宥め役ってわけ。あなたは弟子だから仕方なくよ』
ため息をつくツキは私の膝の上に座った。
「私、彼の隣にいる自信がなくて逃げてきてしまいました。こんな汚い格好で、こんなにみすぼらしい姿で、彼女に勝てる気もしなかった」
『あなたの失恋話に興味はないわ』
「いいじゃないですか、誰かに話した方が安定するんです。それに、妖精だって失恋するでしょ」
ツキは一瞬だけこちらを見ると、またそっぽを向いてしまった。
『恋ってなんて面倒なのかしら。苦しむことの方が多いのに、誰かを好きになるなんてね』
「ツキさんの話ですか」
『・・・違うわよ。湖の妖精、会ったでしょ?』
湖の妖精、といえばこの森を彷徨っていたときに溺死させられそうになった妖精だ。
「湖に引きずり込まれて殺されるところでしたよ」
『ああ、あなたまだ妖精の言葉を理解できなかったから知らないのね。あの子はあなたに助けて欲しかったのよ』
ソラに何故かがんばれと言われ、私は走っていた。
たくさんの人が楽しそうに過ごしているこのお祭りの中。
ヴィントが待っているとすれば、中央広場だと分かっていた私は人混みをかき分けてようやく広場が見えるところまできた。
まだ待っていてくれているだろうか。
まだ明るいとはいえ、もうすぐ夕時が近づいている。
ヴィントはたしか、夜は仕事があると言っていた。
だからこそ私は、少しでもいいからヴィントと収穫祭を巡ってみたかった。
中央広場の噴水の近く。
ヴィントは背が高いから、私は一目で彼が立っているのが見えた。
良かった、待っててくれたんだ。
私は、手をあげて彼に声をかけようとした。
だけど私は、声をかけることはできなかった。
ヴィントが隣いる誰かと楽しそうに話しているのが見えたのだ。
徐々に広場に近づくにつれ、ヴィントが良く見える。
そうして、誰が隣にいたかはっきりと見えた。
清楚な魔法学校の制服に身を包み、綺麗な長い髪を靡かせた女性は、ヴィントに笑いかけていた。
ヒカルだった。
二人の手には同じ形の綺麗な飴細工が握られていて、私は一歩広場から遠ざかった。
「可哀想なお嬢さん」
そんな声がふいに聞こえて、私は振り返る。
するとそこには背の高い紫のヴェールを被った人が壁際に立っていた。
「どなた、ですか」
「警戒しないでちょうだい。私は占い師。人の過去を見ることが出来るの」
ゆっくりと近づいてきたその人は、ヴィントとヒカルを指さした。
「彼女はこの国の人気者。国民に愛され、学園でも優秀で優しくて将来はきっと聖女様になるでしょうね。言い寄ってくる殿方は数知れず、学園では眉目秀麗な男性が彼女を口説きに来るの」
占い師は私の肩にゆっくりと左手を置いて、囁いた。
「華やかで美しい衣装にも負けない美しい顔とあの笑顔。落ちない殿方はいないでしょうね。それに比べてお嬢さん。あなたはなんてみすぼらしい格好なのかしら。地味な灰色や茶色を身にまとって、マントはボロボロで、ブーツは泥だらけ。髪はぼさぼさで肌だってこんなに汚いんですもの。どちらを選ぶかなんて一目瞭然じゃないかしら」
私は途端にこの場にいるのが恥ずかしくなった。
自分の格好を見下ろして、占い師が言ったことが全部本当で。
それで、あんなに眩しく笑うヒカルを見て私は、羨ましいと思った。
占い師は追い打ちのようにさらに付け加えた。
「あなたはこの世界で何もかも失ったのに、彼女は何もかも持っていたのよ。住む場所も、学ぶ場所も優しくしてくれる人も、この世界で生きる上で必要なものは全部揃っていたの。その点、お嬢さんはどう?死ぬかもしれなかった、不安しかなかった、頼れる人も場所も見つからず言葉さえ通じなかった。ねぇ、彼女が憎いでしょ?そうでしょ?」
私の中で黒い何かがふつふつと湧き出るような感じがする。
それがいけない感情なのが分かる。
「堪える必要なんかないの。だってそれは正しい感情ですもの。誰だって彼女が羨ましい、妬ましい、憎らしい。それが当然なんですもの」
「離してください」
私は占い師の手を振り払っていた。
「自分よりも上手くいっている人が羨ましい、確かにそう思います。でも、それに対してどんな感情を抱いたとしてもそれは私の心の中だけの問題です。それから、勝手に人の過去を見ないで」
私はそれだけ言うと、中央広場とは反対方向に走り始めていた。
そうして気づいたら迷いの森の中にいた。
誰もいないここは今の私にとって居心地が良かったのだ。
足を抱えて座り込んで、膝におでこをくっつけて丸まった。
何もかも占い師の言う通り。
こんな汚い格好の女がヴィントの隣で収穫祭を見て回ろうとしてたなんて最悪だ。
彼だって私が行ってもきっと困ったに違いない。
だから、会わずに引き返して正解だったんだそうに違いない。
そう思わないと、私は今にも大声で泣きだしてしまいそうだった。
心の中の黒い物がもやもやと感情を支配して、どうにかなりそうだ。
『魔力が強くなってるわね、人間』
そんな声がして私は顔をあげた。
目の前には妖精のツキがいて、葉っぱの上に座っていた。
『あら、声が聞こえるみたいね。ようやく、ドラゴンを介さずに話ができるってこと』
「ツキさん、どうしてここに」
『人間が走ってこの森に入ってきたから見に来たの。ドラゴンも一緒じゃないみたいだし、それにあなたの魔力が高まってる。暴走されたら森が危険だから知り合いの私が来たのよ』
ツキは面倒そうにそう告げた。
「暴走なんて、しませんよ」
『あら、魔力コントロールが未熟なあなたがなんでそう言い切れるの?いい?負の感情は魔力を高めると共にコントロールを不安定にさせるの。あなたなら自滅もありえるわね』
ふわりと飛んだツキは私の膝に降り立った。
『なに、失恋でもしたの?』
「・・・なんでですか」
『だいたい負の感情で支配されるときって恋愛が絡んでるのよね。失恋、嫉妬、裏切り、トラブルってそういうの多いでしょ』
「これが失恋なのか、わかりません」
『そんなのは自分で考えて。それよりも、魔力が高まっていることが問題なの。どんな属性だろうと負の感情によって魔力は高まるのよ。でも、闇属性はその負の感情で高まった魔力はそのままなの。だからこそ、コントロールする力が必要なのよ」
「コントロールと言われても・・・」
『いい?感情で高まった魔力のコントロールは感情をコントロールすることで安定する。安定すれば、その魔力はもうあなたのもの。使いこなせれば闇属性の魔法は最も魔力が貯めやすい魔法なのよ』
ツキに魔法を教えて貰っていたことを思い出す。
ソラは忠実にツキの口調を真似てくれてたんだな。
『自分の負の感情を理解して、分析して、客観視する。そうすれば、次第に安定するでしょ』
「ツキさん、カウンセラーみたい」
『生き物って自分の感情のコントロールが下手な者が多いのよね。妖精もそうなの。それによって森が壊されたら困るから私は妖精たちの宥め役ってわけ。あなたは弟子だから仕方なくよ』
ため息をつくツキは私の膝の上に座った。
「私、彼の隣にいる自信がなくて逃げてきてしまいました。こんな汚い格好で、こんなにみすぼらしい姿で、彼女に勝てる気もしなかった」
『あなたの失恋話に興味はないわ』
「いいじゃないですか、誰かに話した方が安定するんです。それに、妖精だって失恋するでしょ」
ツキは一瞬だけこちらを見ると、またそっぽを向いてしまった。
『恋ってなんて面倒なのかしら。苦しむことの方が多いのに、誰かを好きになるなんてね』
「ツキさんの話ですか」
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