【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

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泉の谷

泉の谷の族長

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私は今、ソラの背に乗って到着したアイルと泉の谷の入口いる。
シグレは入ることはできないからと森に入る手前のところで待っているとのことだった。
いつものように鈴の音が聞こえ、そうして行き止まりだったその森の木々が次第に開いていくのを目にしていた。
そこから出てきたのはアイルと同じように赤髪の女の人だ。
アイルよりも歳上には見えるが、年齢は分からない。
「はじめまして、私はフジャンです。精霊から聞いたと思いますが、ここには人間にとって有毒な花が咲いています。エルフならば、己の水魔法で浄化できる程度の毒なのですが、人間ではそう簡単なことではありません。アイルさん、貴女の水魔法がエルフと同等でないと判断した場合、ここに入ることはできません」
「いいですよ、何をすればいいですか」
フジャンは一つの大きな木を指差した。
「あの大木を包めるくらいの大きな水の塊を出して見せてください」
フジャンがそう言ったその瞬間。
アイルが右手を大きく上に上げると水の膜が一気に出来上がり、その木一本のみならず、自分たちの周りに見えている木すべてを囲んでしまった。
「これでどうです?もっと大きな水にしましょうか」
フジャンは笑いだして、それからアイルを見つめた。
「その破茶滅茶な魔法、お姉ちゃんにそっくり。それだけ出来れば問題なさそうですね」
「お姉ちゃん…って」
「私は貴女の母の妹。アイルさん、よく来てくれましたね」
フジャンはそう言ってアイルを抱き締めた。
アイルはどこか戸惑っていたが、やはり血がつながっていることがわかるのだろう。
小さな声でありがとう、と聞こえた。
「それじゃあ、谷の長の元へ行きましょうか。何か話があるのでしょう?」
私達は頷いてフジャンについていった。



「ならぬ」


そのトーンは森の精霊に却下された時と同じだった。
時は少し戻り、1時間前のこと。
フジャンに案内された私たちは、泉の谷というエルフの住む町に入ることが出来た。
泉の谷にはかわいらしいレンガ調のおしゃれな家々が並んでいて、その奥には大きな泉が見えている。
遊んでいる子供たちや、振り返る大人のみんなはアイルのように赤みがかった髪色をしていて、このエルフの一族は赤髪なのだということが分かる。
森に囲まれていて、泉が太陽の光に照らされその反射光でキラキラと町中が光って見える神秘的なところを除いて、とても普通の町に見えた。
ドラゴンが珍しいのか、はたまた人間が珍しいのか。
町を通り抜ける間、エルフの皆さんの注目の的だった。
私は黒髪だし、余計に目立つな。
そんなことを考えながらアイルを見れば、なんだか哀愁のある瞳で町中を見回している。
アイル先生のお母さんの故郷、だからかな。
賑やかな住宅街を抜けたところに、同じくレンガ調の趣のある家が見えた。
植物のつるが巻き付いており、年月を感じさせる家だ。
決して古いとは言ってない。
フジャンはドアをノックすると、返事も待たずに玄関の戸を開けた。
「アワン族長、アイルさんが来ましたよ。入りますからね」
手招きをされて家の中に入ると、リビングの椅子に座る上品なおばあちゃんが見えた。
ゆらゆらと揺れるロッキングチェアに座るその人はゆっくりと目を開けるとアイルを見た。
「よく来たねぇ、アイル。あの子に本当にそっくりじゃ。正真正銘アズの子じゃね」
アズというのはアイルの母親の名前なのだろう。
アワン族長は懐かしそうに目を細めた。
「あの子がこの泉の谷を飛び出してもう何年になるかのう」
「80年ですよ、族長」
「そうじゃったそうじゃった。人間の男と結婚すると言って元気よく出ていったんじゃった」
頷くアワン族長にアイルは話しかける。
「母は、その、だいぶ反対されたんですよね?ほぼ駆け落ち状態で、泉の谷にはもう二度と戻れないって聞いてました」
「反対していたのは当時の族長やらじじい共じゃ。考え方が古くてのぉ、異種婚のロマンも分からん老いぼれ連中が、こぞってアズに説教したんじゃ。まぁ、そんな説教右から左に受け流すアズには効果なしじゃった」
アワン族長は楽しそうに笑っている。
「当時、私含めて他の女性陣はアズの背中を押しとったよ。アズは水魔法が上手じゃったから、連れ戻せって言うじじい共を私が黙らせたんじゃ。そのおかげで今は私が族長、ってわけじゃな」
フジャンがお茶を入れてくれて、私とソラはお茶を一口飲む。
あ、苦いやつだ・・・。
私とソラはそっとテーブルに湯呑を置く。
「母がみんなに反対されていたわけじゃないって知って安心しました。けれど、母は病気になり、その・・・65年前に亡くなったんです。この泉の谷を出たから、病気になってしまったんですよね?」
アイルの言葉は次第にゆっくりと、静かになる。
フジャンは優しそうに笑っている。
「知ってるんです、65年前お姉ちゃんが死んだことを旦那様が教えてくれたんですよ」
「・・・父が、ですか?」
フジャンは立ち上がると、奥の部屋に行き箱を持って戻ってきた。
そこには大量の手紙が入っていた。
「お姉ちゃんの旦那様は結婚してからずっと、この泉の谷の入口に来て手紙を置いてくれたんです。手紙にはずっとお姉ちゃんの様子が書かれてて、そして貴女が生まれたことも、成長していく様子も、そして、お姉ちゃんが病気になったことも教えてくれたんですよ」
「・・・知りませんでした、そんなことしてるなんて」
「お姉ちゃんが意地をはっていたから内緒にしていたみたい。それに、お姉ちゃんが亡くなったっていう手紙が最後だったから。たくさんの謝罪が書いてあって読んでいて悲しみがとても伝わってきた。旦那様が謝ることないのにって何度も思いました」
フジャンから手紙を受け取ったアイルは、中を見て目を潤ませる。
その最後の手紙には謝罪と、アズと自分の娘だけはなんとしても守り抜きますと書いてあるのが見えた。
「あの子がかかった病気はたしかに泉の谷を出たことで可能性は上がったのかもしれん。だが、泉の谷にいたとて、かかる者もおった。結婚ゆえと後悔し悲しむ必要はなかったんじゃ。・・・とはいえ、当時この病気の治療法は確立されておらんかったから、余計に泉の谷を出ていくものは減ったんじゃ。じゃが、20年前、その治療法を見つけた素晴らしい先生がおった。アイル、おぬしじゃ」
私とソラは驚いてアイル先生を見た。
アイルは涙を拭いつつも、アワン族長の言葉に頷く。
「エルフがかかるこの病気の治療法を見つけるのに35年もかかってしまいました。母が亡くなったこの病気で、亡くなる人がいなくなるように薬師になったのに。父にもそのことを喜んで貰いたかったのに、私がその治療法を見つけた時には、父が亡くなって5年も経ってしまっていました」
フジャンはアイルの背中をさすり、アワン族長はアイルに優しい笑顔を向けた。
「お父上が、アイルの素晴らしい功績を知らぬまま旅だったことは残念じゃった。だが、アイルのおかげでこの泉の谷が大きく変わったのも事実じゃ。鉱石の浄化を生業にしているとはいえ、病気のことがあるゆえに泉の谷から出たがらない者しかおらんかった。そのせいで、この泉の谷の入口まで来てくれる商業人相手にしか商売ができなかったんじゃ。治療法が分かった今、大きな商業の町の商人相手に交渉できる者もおって、商売は拡大しとるんじゃよ」
アイルはアワン族長の言葉に何度も頷いた。
そして、父の手紙の文字を優しい瞳で見つめていた。
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