【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

文字の大きさ
34 / 169
泉の谷

泉の谷の族長

私は今、ソラの背に乗って到着したアイルと泉の谷の入口いる。
シグレは入ることはできないからと森に入る手前のところで待っているとのことだった。
いつものように鈴の音が聞こえ、そうして行き止まりだったその森の木々が次第に開いていくのを目にしていた。
そこから出てきたのはアイルと同じように赤髪の女の人だ。
アイルよりも歳上には見えるが、年齢は分からない。
「はじめまして、私はフジャンです。精霊から聞いたと思いますが、ここには人間にとって有毒な花が咲いています。エルフならば、己の水魔法で浄化できる程度の毒なのですが、人間ではそう簡単なことではありません。アイルさん、貴女の水魔法がエルフと同等でないと判断した場合、ここに入ることはできません」
「いいですよ、何をすればいいですか」
フジャンは一つの大きな木を指差した。
「あの大木を包めるくらいの大きな水の塊を出して見せてください」
フジャンがそう言ったその瞬間。
アイルが右手を大きく上に上げると水の膜が一気に出来上がり、その木一本のみならず、自分たちの周りに見えている木すべてを囲んでしまった。
「これでどうです?もっと大きな水にしましょうか」
フジャンは笑いだして、それからアイルを見つめた。
「その破茶滅茶な魔法、お姉ちゃんにそっくり。それだけ出来れば問題なさそうですね」
「お姉ちゃん…って」
「私は貴女の母の妹。アイルさん、よく来てくれましたね」
フジャンはそう言ってアイルを抱き締めた。
アイルはどこか戸惑っていたが、やはり血がつながっていることがわかるのだろう。
小さな声でありがとう、と聞こえた。
「それじゃあ、谷の長の元へ行きましょうか。何か話があるのでしょう?」
私達は頷いてフジャンについていった。



「ならぬ」


そのトーンは森の精霊に却下された時と同じだった。
時は少し戻り、1時間前のこと。
フジャンに案内された私たちは、泉の谷というエルフの住む町に入ることが出来た。
泉の谷にはかわいらしいレンガ調のおしゃれな家々が並んでいて、その奥には大きな泉が見えている。
遊んでいる子供たちや、振り返る大人のみんなはアイルのように赤みがかった髪色をしていて、このエルフの一族は赤髪なのだということが分かる。
森に囲まれていて、泉が太陽の光に照らされその反射光でキラキラと町中が光って見える神秘的なところを除いて、とても普通の町に見えた。
ドラゴンが珍しいのか、はたまた人間が珍しいのか。
町を通り抜ける間、エルフの皆さんの注目の的だった。
私は黒髪だし、余計に目立つな。
そんなことを考えながらアイルを見れば、なんだか哀愁のある瞳で町中を見回している。
アイル先生のお母さんの故郷、だからかな。
賑やかな住宅街を抜けたところに、同じくレンガ調の趣のある家が見えた。
植物のつるが巻き付いており、年月を感じさせる家だ。
決して古いとは言ってない。
フジャンはドアをノックすると、返事も待たずに玄関の戸を開けた。
「アワン族長、アイルさんが来ましたよ。入りますからね」
手招きをされて家の中に入ると、リビングの椅子に座る上品なおばあちゃんが見えた。
ゆらゆらと揺れるロッキングチェアに座るその人はゆっくりと目を開けるとアイルを見た。
「よく来たねぇ、アイル。あの子に本当にそっくりじゃ。正真正銘アズの子じゃね」
アズというのはアイルの母親の名前なのだろう。
アワン族長は懐かしそうに目を細めた。
「あの子がこの泉の谷を飛び出してもう何年になるかのう」
「80年ですよ、族長」
「そうじゃったそうじゃった。人間の男と結婚すると言って元気よく出ていったんじゃった」
頷くアワン族長にアイルは話しかける。
「母は、その、だいぶ反対されたんですよね?ほぼ駆け落ち状態で、泉の谷にはもう二度と戻れないって聞いてました」
「反対していたのは当時の族長やらじじい共じゃ。考え方が古くてのぉ、異種婚のロマンも分からん老いぼれ連中が、こぞってアズに説教したんじゃ。まぁ、そんな説教右から左に受け流すアズには効果なしじゃった」
アワン族長は楽しそうに笑っている。
「当時、私含めて他の女性陣はアズの背中を押しとったよ。アズは水魔法が上手じゃったから、連れ戻せって言うじじい共を私が黙らせたんじゃ。そのおかげで今は私が族長、ってわけじゃな」
フジャンがお茶を入れてくれて、私とソラはお茶を一口飲む。
あ、苦いやつだ・・・。
私とソラはそっとテーブルに湯呑を置く。
「母がみんなに反対されていたわけじゃないって知って安心しました。けれど、母は病気になり、その・・・65年前に亡くなったんです。この泉の谷を出たから、病気になってしまったんですよね?」
アイルの言葉は次第にゆっくりと、静かになる。
フジャンは優しそうに笑っている。
「知ってるんです、65年前お姉ちゃんが死んだことを旦那様が教えてくれたんですよ」
「・・・父が、ですか?」
フジャンは立ち上がると、奥の部屋に行き箱を持って戻ってきた。
そこには大量の手紙が入っていた。
「お姉ちゃんの旦那様は結婚してからずっと、この泉の谷の入口に来て手紙を置いてくれたんです。手紙にはずっとお姉ちゃんの様子が書かれてて、そして貴女が生まれたことも、成長していく様子も、そして、お姉ちゃんが病気になったことも教えてくれたんですよ」
「・・・知りませんでした、そんなことしてるなんて」
「お姉ちゃんが意地をはっていたから内緒にしていたみたい。それに、お姉ちゃんが亡くなったっていう手紙が最後だったから。たくさんの謝罪が書いてあって読んでいて悲しみがとても伝わってきた。旦那様が謝ることないのにって何度も思いました」
フジャンから手紙を受け取ったアイルは、中を見て目を潤ませる。
その最後の手紙には謝罪と、アズと自分の娘だけはなんとしても守り抜きますと書いてあるのが見えた。
「あの子がかかった病気はたしかに泉の谷を出たことで可能性は上がったのかもしれん。だが、泉の谷にいたとて、かかる者もおった。結婚ゆえと後悔し悲しむ必要はなかったんじゃ。・・・とはいえ、当時この病気の治療法は確立されておらんかったから、余計に泉の谷を出ていくものは減ったんじゃ。じゃが、20年前、その治療法を見つけた素晴らしい先生がおった。アイル、おぬしじゃ」
私とソラは驚いてアイル先生を見た。
アイルは涙を拭いつつも、アワン族長の言葉に頷く。
「エルフがかかるこの病気の治療法を見つけるのに35年もかかってしまいました。母が亡くなったこの病気で、亡くなる人がいなくなるように薬師になったのに。父にもそのことを喜んで貰いたかったのに、私がその治療法を見つけた時には、父が亡くなって5年も経ってしまっていました」
フジャンはアイルの背中をさすり、アワン族長はアイルに優しい笑顔を向けた。
「お父上が、アイルの素晴らしい功績を知らぬまま旅だったことは残念じゃった。だが、アイルのおかげでこの泉の谷が大きく変わったのも事実じゃ。鉱石の浄化を生業にしているとはいえ、病気のことがあるゆえに泉の谷から出たがらない者しかおらんかった。そのせいで、この泉の谷の入口まで来てくれる商業人相手にしか商売ができなかったんじゃ。治療法が分かった今、大きな商業の町の商人相手に交渉できる者もおって、商売は拡大しとるんじゃよ」
アイルはアワン族長の言葉に何度も頷いた。
そして、父の手紙の文字を優しい瞳で見つめていた。

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜

月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。 ※この作品は、カクヨムでも掲載しています。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

アラフォー幼女は異世界で大魔女を目指します

梅丸みかん
ファンタジー
第一章:長期休暇をとったアラフォー独身のミカは、登山へ行くと別の世界へ紛れ込んでしまう。その場所は、森の中にそびえる不思議な塔の一室だった。元の世界には戻れないし、手にしたゼリーを口にすれば、身体はなんと6歳の子どもに――。 ミカが封印の箱を開けると、そこから出てきたのは呪いによって人形にされた大魔女だった。その人形に「大魔女の素質がある」と告げられたミカは、どうせ元の世界に戻れないなら、大魔女を目指すことを決心する。 だが、人形師匠はとんでもなく自由すぎる。ミカは師匠に翻弄されまくるのだった。 第二章:巷で流れる大魔女の遺産の噂。その裏にある帝國の侵略の懸念。ミカは次第にその渦に巻き込まれていく。 第三章:異世界で唯一の友人ルカが消えた。その裏には保護部屋の存在が関わっていることが示唆され、ミカは潜入捜査に挑むことになるのだった。

ダンジョン・イーツ! ~戦闘力ゼロの俺、スキル【絶対配送】でS級冒険者に「揚げたてコロッケ」を届けたら、世界中の英雄から崇拝されはじめた件~

たくみさん
ファンタジー
「攻撃力ゼロのポーターなんて、配信の邪魔なんだよ!」  3年尽くしたパーティから、手切れ金の1万円と共に追放された探索者・天野蓮(アマノ・レン)。  絶望する彼が目にしたのは、ダンジョン深層で孤立し、「お腹すいた……」と涙を流すS級美少女『氷姫』カグヤの緊急生放送だった。  その瞬間、レンの死にスキルが真の姿を見せる。  目的地と受取人さえあれば、壁も魔物も最短距離でブチ抜く神速の移動スキル――【絶対配送(デリバリー・ロード)】。 「お待たせしました! ご注文の揚げたてコロッケ(22,500円)お届けです!」  地獄の戦場にママチャリで乱入し、絶品グルメを届けるレンの姿は、50万人の視聴者に衝撃を与え、瞬く間に世界ランク1位へバズり散らかしていく!  一方、彼を捨てた元パーティは補給不足でボロボロ。 「戻ってきてくれ!」と泣きつかれても、もう知らん。俺は、高ランク冒険者の依頼で忙しいんだ!