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泉の谷
闇魔法の学者
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そうして私とソラはアワン族長に付いて行くことになった。
泉に行くまでに私は少し気になっていたことを聞いてみた。
「以前にも闇魔法の学者さんが来たとおっしゃっていましたが、闇魔法の人ならばここに入ることを許可していたってことですか」
前を歩くアワン族長は杖をついて小石の転がる広い道を進む。
「闇魔法の中でも、毒が効かない者だけじゃ。というのもな、その学者さんが来るまでは、どうしてエルフ以外は体調が悪くなるのか分からんかった。エルフは無意識に水魔法で体内浄化することができるし、泉の治癒のおかげで問題がなかった。あるとき突然その学者さんが訪ねてきて、〈原因不明の体調不良は植物の可能性がある〉と言ってきた。それなら調べてくれと頼んだわけじゃ」
「あの、守り人がいるのにその人は泉の谷に入れたんですか」
アワン族長は高らかに笑う。
「その学者さんは守り人を手懐けおった。後にも先にもあんな特殊な人間は初めてじゃ。その当時の族長も驚いておったよ。しかしな、その学者さんは有名人じゃったから、族長も植物の調査を頼んだんじゃ」
「有名人、ですか?」
「リビは植物に詳しいから知っとるかもしれん。植物図鑑を描いたヒバリ先生じゃ。エルフは草花が好きじゃからなぁ、ヒバリ先生がいらっしゃって皆喜んでおったよ。思っていたよりも若くて、物腰の柔らかい好青年って感じじゃった。エルフの女性はほとんど色めきだっておった。いや、エルフの男性もだったかもしれんのぉ。そう思わせるような不思議な魅力を纏う学者さんじゃった」
ヒバリって、100年前に植物図鑑を出しているあの?
もしかしたら、日本からの転移者かもしれないと思っていた人だ。
「あの、ヒバリさんがこの泉の谷に来たのはいつですか」
「いつじゃったかの・・・。アズが泉の谷を飛び出した後だから、70年前くらいかの」
「あの、確かヒバリさんが出してる植物図鑑は100年前のはずなんです。それだと、少なくとも描いた当時が10代だとしても40歳より上ってことになるんですけど。本当に若かったですか?」
「そう言われてみれば、そうじゃな。エルフは見た目が若いから気づかなんだが、よくよく考えてみるとおかしな話じゃ。どう見ても20歳半ばの若者じゃった。でも人間なのは確かじゃ。」
どうなっているんだ?
私はヒバリに会いたいと一度は思った。
しかし100年前に生きていた人ならばもういないと諦めていたのだ。
もしかしたらまだ生きているのだろうか。
いや、今の情報だけじゃ、やっぱり死んでいるかもしれない。
「それ以降、ヒバリさんは泉の谷には来ていない、ですか」
「その一度だけじゃ。泉の周りに咲く花に毒があるから気を付けてと警告して、解毒に有効な植物を教えてから泉の谷を出ていった。図鑑には載っていないものじゃったから、新しい名前まで付けてくれてのぉ。」
「名前、ですか」
広くて大きな泉が見えてきて、その水面がキラキラと光る。
それに照らされて真っ赤な花が燃えるように咲いていた。
「”アカツキの花”赤くて綺麗だからと言っておったが、アカツキとはどこの言葉なのか、聞いたこともない。リビは知っておるか?」
もちろん、知っている。
知らないはずはない。
「知っています。とても似合う名前だと思います」
日本語を話す機会はかなり減っている。
そんな中でひとつの明かりのように示されるそれは、何を意味しているのか。
日本名を付けたかっただけなのかな。
あの図鑑のおかげでこの世界の言葉を勉強するときに大いに役立った。
彼が散りばめている日本語が私を救っているのは偶然か、必然か。
意図しないところで勝手に助かっているだけだとしても、私はヒバリさんに感謝している。
「私もヒバリさんに会いたかったです」
「そうじゃな。リビは気が合うかもしれん。ヒバリ先生は”食べた植物の効果を正確に把握できる”と言っておった。リビにそっくりじゃろ。」
その魔法を使って植物図鑑を完成させたというわけか。
通りであの図鑑、詳細が事細かに書かれているわけだ。
「さて、それじゃあ泉の精霊様を呼んでみようかの」
アワン族長は泉の手前で手を合わせる。
「この泉の谷をお守り下さりありがとうございます。本日も皆が健やかに過ごしております」
広い泉の真ん中に波紋が広がり、そこから何かが顔を出す。
「あの方が泉の精霊様じゃ」
「え」
私は目を疑っていた。
そこには、イルカがいたからだ。
泉に行くまでに私は少し気になっていたことを聞いてみた。
「以前にも闇魔法の学者さんが来たとおっしゃっていましたが、闇魔法の人ならばここに入ることを許可していたってことですか」
前を歩くアワン族長は杖をついて小石の転がる広い道を進む。
「闇魔法の中でも、毒が効かない者だけじゃ。というのもな、その学者さんが来るまでは、どうしてエルフ以外は体調が悪くなるのか分からんかった。エルフは無意識に水魔法で体内浄化することができるし、泉の治癒のおかげで問題がなかった。あるとき突然その学者さんが訪ねてきて、〈原因不明の体調不良は植物の可能性がある〉と言ってきた。それなら調べてくれと頼んだわけじゃ」
「あの、守り人がいるのにその人は泉の谷に入れたんですか」
アワン族長は高らかに笑う。
「その学者さんは守り人を手懐けおった。後にも先にもあんな特殊な人間は初めてじゃ。その当時の族長も驚いておったよ。しかしな、その学者さんは有名人じゃったから、族長も植物の調査を頼んだんじゃ」
「有名人、ですか?」
「リビは植物に詳しいから知っとるかもしれん。植物図鑑を描いたヒバリ先生じゃ。エルフは草花が好きじゃからなぁ、ヒバリ先生がいらっしゃって皆喜んでおったよ。思っていたよりも若くて、物腰の柔らかい好青年って感じじゃった。エルフの女性はほとんど色めきだっておった。いや、エルフの男性もだったかもしれんのぉ。そう思わせるような不思議な魅力を纏う学者さんじゃった」
ヒバリって、100年前に植物図鑑を出しているあの?
もしかしたら、日本からの転移者かもしれないと思っていた人だ。
「あの、ヒバリさんがこの泉の谷に来たのはいつですか」
「いつじゃったかの・・・。アズが泉の谷を飛び出した後だから、70年前くらいかの」
「あの、確かヒバリさんが出してる植物図鑑は100年前のはずなんです。それだと、少なくとも描いた当時が10代だとしても40歳より上ってことになるんですけど。本当に若かったですか?」
「そう言われてみれば、そうじゃな。エルフは見た目が若いから気づかなんだが、よくよく考えてみるとおかしな話じゃ。どう見ても20歳半ばの若者じゃった。でも人間なのは確かじゃ。」
どうなっているんだ?
私はヒバリに会いたいと一度は思った。
しかし100年前に生きていた人ならばもういないと諦めていたのだ。
もしかしたらまだ生きているのだろうか。
いや、今の情報だけじゃ、やっぱり死んでいるかもしれない。
「それ以降、ヒバリさんは泉の谷には来ていない、ですか」
「その一度だけじゃ。泉の周りに咲く花に毒があるから気を付けてと警告して、解毒に有効な植物を教えてから泉の谷を出ていった。図鑑には載っていないものじゃったから、新しい名前まで付けてくれてのぉ。」
「名前、ですか」
広くて大きな泉が見えてきて、その水面がキラキラと光る。
それに照らされて真っ赤な花が燃えるように咲いていた。
「”アカツキの花”赤くて綺麗だからと言っておったが、アカツキとはどこの言葉なのか、聞いたこともない。リビは知っておるか?」
もちろん、知っている。
知らないはずはない。
「知っています。とても似合う名前だと思います」
日本語を話す機会はかなり減っている。
そんな中でひとつの明かりのように示されるそれは、何を意味しているのか。
日本名を付けたかっただけなのかな。
あの図鑑のおかげでこの世界の言葉を勉強するときに大いに役立った。
彼が散りばめている日本語が私を救っているのは偶然か、必然か。
意図しないところで勝手に助かっているだけだとしても、私はヒバリさんに感謝している。
「私もヒバリさんに会いたかったです」
「そうじゃな。リビは気が合うかもしれん。ヒバリ先生は”食べた植物の効果を正確に把握できる”と言っておった。リビにそっくりじゃろ。」
その魔法を使って植物図鑑を完成させたというわけか。
通りであの図鑑、詳細が事細かに書かれているわけだ。
「さて、それじゃあ泉の精霊様を呼んでみようかの」
アワン族長は泉の手前で手を合わせる。
「この泉の谷をお守り下さりありがとうございます。本日も皆が健やかに過ごしております」
広い泉の真ん中に波紋が広がり、そこから何かが顔を出す。
「あの方が泉の精霊様じゃ」
「え」
私は目を疑っていた。
そこには、イルカがいたからだ。
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