【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

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泉の谷

夢を現実にするために

谷の人たちは必死にビルを引き止めようとするが、ビルは私の手を引いて泉の谷から外へ出た。
私、やばいこと気づかせてしまったのでは。
「あの、すみません私、場を乱すことを言ったかも」
「何言ってるんですか。私とっても嬉しかったんですよ!謝らないで!」
「は、はい」
美少女に圧されて私は全力で頷いた。
「谷のエルフは病気のこともあって外に出るなんて発想が薄いんですよ。だから私も谷のために働くのが普通だと思ってて。でも、リビさんの言葉にはっ、とさせられたんです。私は泉から出られないエルフじゃないって。だって交渉のために泉の谷から出るように練習したんだもの。未だに外へは行かないエルフだってたくさんいるのに、私ならこうやって外に出られるの」
両手を広げて青空を仰ぐビルは子どものようにくるくると回った。
「ビル、転ぶぞ」
振り向けば精霊の森から出てくるトゥアがいた。
「お兄ちゃん」
「さっきの威勢は良かったな。さすがは俺の妹だ」
トゥアは私の隣に来ると、背中を思いっきり叩かれた。
「あんた、良いこと言うじゃん」
「え、そうですか?」
「でもな、シグレのとこに妹はやらねぇぞ。そもそも今日はシグレの顔を拝みに来たんだよ」
確かに今日は訓練の日でもうすぐシグレが来る予定だ。
喧嘩にならないといいけど。
私は不安になりながらシグレの到着を待った。



「リビさん、人が増えてませんか」
シグレは腕組みするトゥアと頬を染めるビルを見比べる。
「えと、彼はビルさんの兄で交渉人のトゥアさんです」
私が紹介するとシグレはトゥアにお辞儀をする。
「はじめまして、シグレと申します。白銀の国の王の側近…」
「詐欺師じゃねぇか」
トゥアの言葉に顔を上げたシグレは微笑みつつ首を傾げる。
「どういう意味でしょうか」
「面が良くて物腰が柔らかく笑顔を作るのが上手い。どう考えても詐欺師だろうが!お前みたいなやつに妹はやれねぇわ!!」
「お兄ちゃんやめてよ!!シグレさんに失礼じゃない!」
ビルがトゥアの腕を引っ張ろうとするがテコでも動かない。
「私はビルさんと良い仕事が出来ればと思っているんです。決して詐欺では」
「そんなこと言ってビルの能力を使いたいだけだろ!ビルに何させる気だよ」
シグレは私の顔を見て口を開く。
「先に説明したほうがいいですかね…」
「なんで私に聞くんですか…」
「今全ての現状を把握してるのが貴女だからです。白銀の国のことも泉の谷の中のこともリビさんが知っているでしょう」
私は少し考えてから魔守石の話をまずし始めた。


「…というわけでビルさんは今魔守石の加工と浄化両方できるというわけです」
その説明に驚いたのはトゥアだった。
「魔守石の加工もできるのか?」
「うん。図書館で鉱石について勉強してた時に知ったの。魔守石の加工は浄化に比べたら簡単だし、浄化の練習にもなるから。それに、魔力コントロールで困ってる子供を助けるなら、吸収しかできない魔守石でもいいって思ってたの」
「コントロールできずに表に溢れる魔力を吸収するという意味では理屈は理解できるが、それが子供たちの悩みに上手く利用できるかは分からないだろ」
「それは、お兄ちゃんの言う通り分からないの。」
表情が暗くなるビルにトゥアは慌てる。
「いや、悪いという意味ではないからな」
「うん。私は今まで一人で練習してきたし、その鉱石の効果の実証実験はしてない。自分で加工や浄化した鉱石を売買したこともないから、アイル先生に浄化出来てるって言って貰えたときには少し安心したの」
ビルはペンダントを握りしめ、ほっ、と息をついた。
シグレはその様子を見つつ、話を加える。
「ビルさんに売買経験がなくても、アイル先生のお墨付きであれば技術は問題なさそうですね。それでしたら、私にもお手伝いできると思います。この世界で困っている子供たちのために魔守石を売るという商売は今まで私は聞いたことがありません。需要さえあれば商売は可能ですから、情報収集からしていくのがいいと思います。前例の少ないことは一から方法を模索していくしかありませんが、焦らず進めていきましょう」
シグレの優しい言葉にビルが頷くのでトゥアがシグレを睨む。
「情報収集って、あんたそんなに顔が広いのかよ。白銀の国って、今まで結構閉鎖的だっただろ」
「私の場合、国の外に出ていた兵を監視する仕事もしていたので、いろいろな国に赴くこともしばしばありました。自国以外に知り合いもいますので、それとなく情報を集めることは可能です。それに、ビルさんもトゥアさんも交渉人でしょう。今までに築き上げた人脈を利用して、魔力コントロールについての話をしてみるのはいかがですか。商人というのは情報に敏感な人が多い。あらゆることにアンテナを張り巡らせて商売になる事柄を探しているはずです。それに、リビさんもいます。太陽の国で困っている話がないか情報を集めることができるんじゃないでしょうか」
シグレに話を振られた私は驚きつつも頷いた。
「はい、太陽の国だったらアイル先生や役所の人や国王に聞いてみることもできるかと思います」
「ね?ここにいる人だけでも集めることが出来る情報はたくさんありますよ。その情報を聞きつつ、需要の有無を確認するのも手ですよ」
「ありがとうございます、シグレさんもリビさんも」
声が震えるビルは泣かないようにしているのか、唇を噛んでいる。
谷の人たちの前では頑張っていたが、不安は大きかったのかもしれない。
谷の外に出ることは彼女の勇気だった。
一人で頑張らなくてはと、どこかで思っていたのかもしれない。
そんなことを思う必要はない。
一人で頑張るのは、本当に辛いのだから。
「おい、結局あんたがビルをどう利用すんのか聞いてねぇぞ」
トゥアの声に私はそうだった、とシグレを見上げる。
「そうですね、簡単に言えばビルさんには魔守石の加工と浄化を手伝って貰いたいんです」
「魔守石、ですか?白銀の国でも魔守石を何かに使ってらっしゃるんですか」

ビルの質問に頷いたシグレは治癒の鉱石についてビルとトゥアに説明した。

「治癒の鉱石の仕組みについてはお話できませんが、その元に使用される魔守石を増やしたり再利用するには加工と浄化が必要なんです。この治癒の鉱石も人々を救うための石なんです。その仕事をビルさんに手伝って貰いたいというお話です」
「手伝います!」
「即答するんじゃねぇよビル!!」
トゥアの言葉にひるむこともなくビルは兄の顔を真正面から見つめた。
「私はもう、この谷を出なければいけないかもしれない。外の世界に疎い私が生きていくためには、外の世界の人の協力が必要でしょ。それなら私はシグレさんに協力したい。」
トゥアは何かを言い返そうと口を開いて、それから言葉が詰まって出てこない。
そうして、やっと出てきた声は以前のビルのような小さな声だった。
「・・・じゃぁ俺も連れて行けよ」
「え、お兄ちゃん、何を言ってるの。お兄ちゃんまで谷を追い出されるなんてこと、そんなの」
「お前まで俺のこと置いていく気かよ!!」
トゥアはビルを抱きしめて、顔を肩口に埋めた。
「俺はビルの夢を応援したい。職人になることも、困ってる子供助けたいっていうのも、全部応援してやるから、側に・・・いたい」
「お兄ちゃん・・・」
抱き合う二人の手はお互いをぎゅっと握りしめていた。
そんな二人が17歳よりもずっと幼く見えたのは、さっきまでの気丈な振る舞いが自分たちを守るためのものだと知ったからだ。



私はシグレの肩を叩いて、二人から少し離れたところまできた。
何かを話しているビルとトゥアを眺めながらシグレはため息をつく。
「これじゃあ私は大切な妹を連れ去ってしまう悪者じゃないですか。谷の方たちと揉めたのは、私の想定の範囲外ですよ」
「それは分かってます。そもそもこれは、谷の人たちがあの子供たちに期待を背負わせたことによって起こりうることだったんです。珍しい能力を利用して谷の生業を安定させたいというのは、全部が悪いとは言いませんけど。それならそれで、彼女の背中を押してあげられたら、彼女だって谷のことを守りたいって思えるはずなのに。彼女は孤独になったとしても谷を出ようと決意するほど、あの谷はビルさんを縛っていたってことですよ」
兄のことを大切にしているはずなのに、その兄とも離れることを考えていたほどに彼女の覚悟は決まっていたのだ。
その覚悟を谷の人は感じ取れなかっただけ。
それだけのことだ。
ただ、きっかけを与えた私にも多少なりとも責任はある。
「ビルさんのこと、好待遇で迎えてくれるんですよね」
「ええ、もちろん。白銀の国は技術者や職人は昔から大切にされています。ヒサメ様はもっと、大切にして下さりますよ。」

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