【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

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白銀の国2

鍛冶屋と短剣

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「あの、夫婦喧嘩ですか」
「ええ、毎回くだらない理由で店が壊れそうになるんです。いい加減にして欲しいですよね」
店が壊れるとは?
私はボタンと一緒に町中を走って行った。
武器屋の看板が見え、その扉をボタンが勢いよく開けた瞬間。

剣が飛んできて壁に突き刺さった。

そうして中には恰幅の良さそうな男性と、恰幅の良さそうな女性が武器を投げ合っているのが目に飛び込んできた。
「出来もしない仕事請け負ってくれるんじゃないよ、自分の力量も分からないのかい!!」
「できるって言ってんだろ、いつまでも俺の技術が停滞してるわけねえだろうが!!」
両方の壁には槍やら剣やら刺さっていて、その二人の元へ真っすぐボタンは進んでいく。
そうして、二人が同時に投げた剣をボタンは弾き落とした。
「おや、ボタンじゃないか。おかえり」
「おお、ボタン。仕事頑張ってるか?」
喧嘩をしていた二人はボタンを見ると笑顔になった。
どうやら、娘のことは大事にしているようだ。
「おかえりじゃないよ。今も仕事中なの。今度はなんで喧嘩してるの」
ボタンの呆れた声に母親は眉を吊り上げる。
「この馬鹿親父が追加で仕事を請けてきたのさ。今依頼されてる剣が8本もあるのにだよ!?」
「だから、出来るって言ってんだろ!!徹夜すれば!!」
「ほら計画も立てられない馬鹿なのさあんたは昔から!!だからアタシが打つ羽目になるんだろ!」
打つ、ということはボタンの母も剣を作れるということか。
「二人でやればいいでしょ!!今は禁止されてないんだから」
ボタンの声に二人は渋々頷いたようだ。
「あの、禁止されてたんですか」
私がおずおずと質問すれば、ようやく二人は私がいたことに気づいたようだ。
「おや、お客さんいたのかい。ごめんね、すぐ剣片付けるから」
「お母さん、この人は私の護衛対象のリビさん。二人が喧嘩してるって八百屋のおじさんが教えてくれたから一緒に来てもらったんだよ。謝って」
「すまねぇな、リビさん。ここらへんじゃうちの喧嘩が有名になっちまって、何かあるとボタンの耳にすぐ入っちまう。俺は喧嘩したくねぇんだがよ」
母が父を睨む。
また始まりそうなので、私は話を挟むことにした。
「ボタンさんにお世話になっていますリビです。ところで、禁止というのは鍛冶屋のことですか」
「ああ、女は武器を作るのが禁止だったのさ。ザラ様のときはね。女は武器なんか手にするもんじゃないって古い人でさ。だから、隠れてしか作れなかったのさ。この馬鹿旦那がたくさん仕事とってくるせいで、アタシも鍛冶しないと回んなくてさ!あははっ!」
豪快に笑う奥さんは壁に刺さる剣を凄い力で抜いていく。
奥さん、強そうだ。
前王ザラは女性が武器を扱うことの全てを禁止していたということか。
考え方が古いというより、視野が狭いというか極端というか。
「それなのに今じゃ娘は国の騎士だよ!時代は変わるねぇ」
豪快に刺さった剣を抜く母はどこか誇らしげで、娘が騎士になったことを喜んでいるみたいだ。
「私忙しいんだよ。二人の喧嘩を止めに来ていたら、騎士の仕事もままならないよ」
ボタンが天井に刺さった大きな剣を片手で抜くと、母も父も笑っている。
「強くなったなぁボタン。そいつは今この店の中で一番の重量級だぞ!さすが国の騎士様だ」
「アタシたちの子なんだ、腕っぷしが強くなるって分かってたよ!ヒサメ様もきっとそれを見込んで下さったんだねぇ」
なんだか想像していたよりも仲が良さそうだ。
ボタンは呆れながら剣をちゃんと元の場所へと戻し、踵を返す。
「それじゃあ仕事に戻るから。店を壊す喧嘩だけはやめてよね」
そう言ってボタンが扉を開けると急に呼び止められた。
「ちょっと待ちな!あんた、リビさんだっけ?その、短剣、見せてくれないかい?」

まさか自分に声がかかるとは思わず、私はとっさにそれを隠す素振りをしてしまった。

「あ、あの、これは」
私は迷いの森にいた最初のころを思い出す。
この短剣は私を襲った男の武器だ。
今の今までなんとなく持ち歩いていた使いどころのない短剣。
それでもこの短剣を見れば嫌でも思い出す。
私が殺したかもしれない男たちを。
「そんなに大事なものなのかい?少し確認したいことがあっただけさ、取ったりしないよ」
奥さんにそう言われ、私はおずおずと短剣を手渡した。
「これ、どうしたんだい?買ったの?」
私は何と言えばいいのか言葉を詰まらせた。
ボタンもそれを不安そうに見ていて、何か言わなくてはと思った。
その時、奥さんの方が先に口を開いた。
「先日、国外にいた兵士の人が戻ってきてね。戦利品の中に短剣があったから手入れを頼まれたのさ。その短剣の鞘の模様とそっくりだったから気になって。やっぱり、同じもののようだね」
短剣を返してもらったが、私は何も言えなかった。
「兵士の仕事内容は知らないけど、前王ザラ様の命令で動いていた兵士みたいだね。だから危険な相手との仕事だったんじゃないかと踏んでるんだ。戦利品ってことは、短剣の持ち主は死んでる可能性が高い。リビさんにとって良くない短剣なんじゃないかって、考えすぎかねぇ」
奥さんの言葉に私は色々な考えが巡っている。
あの男たちが何者なのか知ることが出来るかもしれない。
でも、同時に私は何があったのか話さなくてはいけない。
考えあぐねていると、ボタンが私の肩に手を置いた。
「リビさん、今一つだけ答えてください」
私は少しだけ背の高いボタンを見上げた。
「この短剣、貴女のですか」
「・・・いいえ」
「そうですか。お母さん、リビさんは私が守るから問題ない。それから、兵士に余計な事言わないで。報告は私がヒサメ様に直接するから」
ボタンはそう言うと扉を開けて私を促した。
「はいはい、分かってるよ。それじゃあ、娘をよろしくねリビさん」
「あんまり無理すんなよボタン。リビさんも気を付けてな」
二人にそう言われて私は会釈して外に出た。
ボタンもぎこちなく手を振ってから扉を閉めた。




「その短剣のこと、ヒサメ様に報告します。前王ザラ様の命令に関わることなら黙っておけません。いいですね?」
ボタンにそう問われて私は頷いていた。
いつまでも過去に封をしたままではいられない。
言わなくてはいけない時がくる。そう思っていた。
でもまさか、白銀の国だとは思ってもいなかったが。
「人に言いたくないことは一つや二つあると思います。ですが、一つの綻びが信用を失うことにもなる。ヒサメ様に認められている貴女には、ヒサメ様に嘘をついてほしくはありません。嘘をつくくらいなら、全てを丸ごと最後まで騙し抜くぐらいの覚悟を持って頂きたい。どうしますか」
ボタンは私に選択肢を与えようとしている。
ヒサメの騎士として、私がどのような人間か判断しようとしている。
だからこそ、この2択なのかもしれなかった。
「この短剣を手入れた経緯をすべて話します。私には、ヒサメ様を騙せる演技力はないので」
ボタンはゆっくりと瞬きをすると私の背中を押した。
「それではヒサメ様の会議が終わるまで部屋でお待ちください。私は部屋の外で待機しています」
休憩するために宛がわれたホテルのような部屋。
ボタンが扉の外に出たのは私に対しての配慮だろう。
ヒサメ様に言わなくちゃ。
今はその覚悟を決めるための時間だ。
今までこの短剣はほとんど使っていない。
迷いの森にいたときは、髪をこれで切ったりしたけど。
森を出た後は薬草を切って採取するときだけ鞘から出して使っていた程度だ。
模様なんて気にしたことなかったし、短剣をまじまじと見たこともなかった。
柄は滑りにくく、刃の切れ味も多分良いものだ。
今までマントの下に携えていたから短剣のことを聞かれることはなかったが、もしかしたら持ち歩いていてはいけないものかもしれない。
どちらにせよ、ヒサメ様に全てを話してからこの短剣をどうするのか聞けばいい。
ベッドに寝転がって目を閉じれば、あの時の緊張が蘇るようで枕に顔を埋めた。
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