【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

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静寂の海

人魚との交渉

宿の外で待っていたヒサメは私とボタンが出てくるのに気づくと振り返った。
ただでさえ目立つその容姿は化粧ときっちりと着こなした制服によって余計に一目を惹きつけていた。
白銀の国の王が変わったことは徐々に噂になっているらしいが、まだ狼獣人は恐れられているのだろうということが、町の人々の反応でなんとなく分かる。
そうは言ってもやはりこの容姿だ。
町の女性がヒサメに見惚れて色めきだつ声が聞こえてくる。
「うわ、美人ですね」
私がそんなことを口にすればヒサメは朝の挨拶でもするように返した。
「ああ、リビ殿も綺麗だ」
後ろでボタンが小さなガッツポーズをしているが、ヒサメはおそらく何も考えてないことだろう。
ヒサメが歩いていくと町の人々がどんどん道をあけていくので、私たちはその後ろをついていった。



静寂の海は太陽の光に照らされて水面がキラキラと光っていた。
岩場の多いところまで進めばそこには、海が綺麗に切れている場所があった。
私の頭にははてなが浮かんでいる。
モーセの十戒で海を割るような描写があるが、まさにそれだ。
割られた海の地面には砂が階段のようになっていて海の底まで続いている。
すると、その階段から上がってくる一人の男がいた。
「白銀の国王、ヒサメ様ですね。お待ちしておりました。話し合いは事前にお伝えした通り海底で行います、よろしいですか」
「ええ、問題ありません。この度は交渉の機会を頂きありがとうございます」
男はヒサメにお辞儀をすると階段を下り始めた。
「ボタン、何があるか分からない。表で黒羽鳥と待機だ。」
「はい、合図があればすぐに参ります」
ボタンはそう答えると、私に敬礼した。
「ヒサメ様の交渉の協力をお願いいたします。ご武運を」
「はい、行ってきます」



砂の階段を下りていく。下へ下へ進んでいく。
両脇には海の壁があって魚が泳いでいるのが見える。
水族館の中を歩いているようだが、この壁にガラスなどはない。
「こちらは鉱石に込められた水魔法で海を操って水のない空間を作っているんです。最近では地上の人と商売することもありますからね。このような空間を設けているんです」
「そうでしたか、海を操るとはよほどの高位の水魔法を有している種族なのですね」
「我々人魚族は基本水の中で生きていますから。水の操り方を熟知している。それだけのことです」
私は目の前のヒサメの隙間から、前にいる男を覗いて見る。
足、あるよね?この人も人魚族なのか?
そんな私の表情がバレたのか、ヒサメが男に問いかける。
「話には聞いていましたが、人魚族は海だけで生活しているわけではないのですね」
「ああ、そうですね。人魚族は陸に上がればこのように足を持つ生き物なので。ただ、ヒレはありますよ。ほら」
そうして男はズボンをめくり、ふくらはぎにあるヒレを見せる。
「人間と見た目で違うのはこういうヒレや、水で呼吸できるエラ、深海でも周りを見渡せるこの目玉でしょうか。まぁ、地上で暮らしている人魚族の中には人魚だと気付かれていない場合もよくあることです。」
よく見てみれば、確かに男の目はビー玉のように透き通っている気がする。
よく見ないと分からない。
陸で暮らしている人魚がいるのだとしたら、もうすでに会っているのかもしれない。



そうしてようやく階段が終わると、広い空間に出た。
そこにはソファやテーブルが置いてあって、一種の会議室のようだ。
男はソファにヒサメと私を促すと向かい側のソファに座った。
「改めてご挨拶をさせて頂きます。この静寂の海の代表、コラッロと申します。このような場所までお越し頂き、ありがとうございます」
ヒサメが頭を下げるので私も慌てて頭を下げた。
この人、代表だったのか。
「白銀の国王ヒサメと申します。この度はお時間を取って頂き感謝致します。手紙でも申し上げた通り、この度は鉱石浄化の仕事をお願いしたく参りました。現段階、猟虎の獣人の種族と交渉成立、泉の谷とは交渉中となっています。今、浄化できる職人の人数が問題になっており、人魚族の方に協力して頂ければその問題を解決できる段階にあります」
「ええ、お仕事の内容は理解しています。ですが、その仕事をお請けできる状態にないのです」
コラッロはなんだか少し疲労の色が見えている。
何か別の仕事を抱えているのだろうか。
「実は今、人魚族の間で病気が流行っていまして、高熱で倒れる人魚が続出しているんです。私の妻も先日倒れてしまいまして。子供たちの世話で悪戦苦闘している最中でして。そんな中、ヒサメ様に来ていただいたのは、白銀の国が他よりも医療技術に優れているとの噂を耳にしたからです。今流行っているこの病、海に咲く花が治療薬になることは分かっているんです。ですが、副作用が強く吐血してしまう場合があるとか。海の中で血が流れると海のモンスターが寄ってきてしまいます。他に治療法をご存知であれば、ご助力頂きたいとこのような形でお願いすることになって申し訳ありません」
コラッロは頭を下げるが、ヒサメは表情を動かさなかった。

「なるほど、オレは人質というわけか」

私はその言葉にヒサメの顔を見た。
「え、どういうことですか!?」
私はコラッロとヒサメの顔を交互に見た。
ヒサメは腕を組むと周りの海を見渡した。
「この空間は今、魔法によって成り立っている。そうでなければここは本来深海の場だ。そして、その魔法を自由に解くことが出来る代表が目の前にいる」
「解かれたら深海の圧力で死ぬってことですよね!?!?」
「察しが良くて助かる。代表はわざわざこの空間までオレを連れてきて、病気を治す手助けをして欲しいということだ」
お願いという名の脅迫というやつか。
コラッロはめちゃくちゃ申し訳なさそうな顔をしているのが何とも言えない。
「本当にすみません。私は代表になったばかりで、この静寂の海を取り仕切ってきた上役の皆様の言葉に逆らえず。医療技術を貸していただけるのであれば、鉱石の浄化の仕事は必ず請けます。どうか、この病気を治療して頂けないでしょうか」
コラッロの言葉は切実さが伝わってくる。
とはいえ、こんな強制的なやり方はどうなのだろう。
「この病は海に住む者がかかりやすく、海熱病と言われています。高熱が続き、もともと体温の低い人魚はそれだけで動けなくなってしまう。陸に上がっている人魚が近隣の町で調べてみても、やはり海に咲く花の情報しか得られない。大きな国ならばもっと医療が発達しているかもしれないと、今回、ヒサメ様にお手紙を頂いて思ったのです。我々静寂の海は、他国とあまり交流がありません。陸で遠くまで行くことは難しく、ツテもない。この機会を逃す訳にはいかなかったのです」
「事情は把握しました。ですが、一般的な病ならまだしも白銀の国は海熱病とは縁遠い。似たような病と比較して他の薬でも可能か調べることはできるかもしれないが、かなりの時間を有します。海熱病は自然治癒はできない病なのですか?」
「出来ない訳ではありません。ですが、治るまでにかなりの時間がかかる。それに体力がない、例えば子供やお年寄りは命を落とす可能性もある。どうにか、治療法を見つけたいのです」
インフルエンザ、のようなウイルス病なのだろうか。
そんなことを考えていると、壁の海に小さな影が見えた。

『パパ、パパ』

パパというのはコラッロのことだろうか。
彼は項垂れていて気付いていないようだ。
「あの、コラッロさん。多分、呼んでますよ」
「え?」
コラッロが目を向けた瞬間、その小さな影はふらふらと手を伸ばす。
「ペルラ!!どうしてここに!」
コラッロが海の壁へと入って行くと、彼の足は尾ひれへと変わっていく。
『パパ、あつい・・・』
「そうか、熱が出てるな。ごめんな、ママのとこに行っちゃったんだな」
コラッロはそう言って小さな人魚を抱きしめている。
「コラッロさんの子供のようですね。どうやら海熱病を発症したようです。」
「そのようだな。とはいえ、どうする。海熱病に対応可能な薬があるかどうか白銀の国に確認するとして、ボタンに連絡を取るか。それとも、医療チームをこちらに来させて診察させるか」
ヒサメが頭を悩ませるなか、私はコラッロのいる海の壁の近くに来た。
「あの、海に咲く花ってすぐ取れます?」
「え?ああ、少し行ったところにあります。しかし、人数分はありませんし、副作用があるので・・・」
「2輪でいいので、取ってきて貰えませんか」
「え、しかし」
戸惑うコラッロを説得するため、ヒサメに呼び掛ける。
「ヒサメ様、シグレさんに私の魔法聞いてます?」
するとヒサメはこちらに歩いてきた。
「正確には聞いていない。シグレもオレも、魔法を開示することは危険を伴うと分かっているからな。」
「私の魔法は、食べた植物の効果を相手に付与することが出来る、です。」
驚いた顔をするコラッロはすぐに表情を曇らせる。
「!!しかし、それでは副作用も一緒なのでは」
「私は効果を選べます、熱を下げる効果のみ選択して付与すれば、いけるはず。しかし、そのためには魔力増幅の薬草がたくさん必要です」
そう言った瞬間、ヒサメは大きな声で名前を呼んだ。

「ボタン、おりてこい!!」

黒羽鳥に乗ったボタンが急降下で降りてきて、目の前に着地した。
「魔力増幅の薬草が大量にいる。手に入れてきてくれ。」
「はい、ただちに」
そう言うとボタンはまた凄いスピードで黒羽鳥と共に空へと舞い上がる。
「オレはシグレに連絡して医療チームをこちらに来させる。コラッロ殿は海に咲く花を頼む」
「は、はい。分かりました。」
コラッロは頷くと、子供をソファに寝かせた。
「あの、ペルラを、娘を見ていてもらえませんか。人魚族以外には病気は移らないので」
「はい、見ておきます」
コラッロが海へと入るとペルラはその小さい手を伸ばす。
『パパ、行かないで』
「ごめんね、パパすぐ戻ってくるから」
『どこ行ったの』
「病気が治る花を取りに行ったんだよ」
ペルラとそんな会話をしていると、ヒサメは水晶でシグレと連絡を取っているようだ。
「医療チームは全速力だとしても2日はかかる。リビ殿、それまで一人で対応することになるができるか」
「海に咲く花の効果を持続させるためには魔力増幅を食べ続けて対応するしかありません。病気の人魚の数は分かりませんが、シグレさんとの特訓で魔力は上がってるはず。自分の限界ぎりぎりまでやってみせます」
「分かった、オレはそのサポートをしよう」

コラッロが戻るまで、私はペルラの側にいた。
『パパ、戻ってくる?』
「うん、もうすぐ来るよ」
そんな私とペルラを見ていたヒサメはぽつりと呟いた。
「やはり、人魚の言葉が分かるのだな」
「みたいですね、子供はまだ、共通言語が話せないのかもしれません。分かって良かった」
「その魔法・・・いや、今はとりあえず、海熱病の問題からだな」
何かを言いかけてやめたヒサメはコラッロとボタンが帰ってくるのを待っていた。

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