【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

文字の大きさ
79 / 169
組織の調査1

天使の翼

夜明けの国を出た私たちは小さな町に泊まることになった。

食堂で食事をすることになり、私とヒサメは向かい合って座る。
よくよく考えれば、ベルへと私の会話はヒサメに聞こえていたのかもしれない。
そうだとしたら、私、何か余計なことを言ったのでは。
しかし、目の前のヒサメは普段通りの表情でご飯を頬張っている。
何も言ってこないから、セーフか?
そんなことを考えながら炒飯を食べていると、ヒサメが口を開く。
「リビ殿は神官様たちの話を聞いてどう思った?何か気づいたことがあれば教えてくれ。オレとリビ殿とではおそらく見方が異なるだろう。二人の意見をすり合わせて情報を整理しよう。」

食堂はそれなりに賑わっており、町の人たちの会話が聞こえてくる。
私たちの席は端の方で、多少ざわついていることで話し合いもしやすい環境だ。

「ひとつ思ったのですが、この世界の闇魔法の人間は多分全員転移者だと思います。もしかしたら、光魔法の人間もそうなのかも。闇魔法の人間が違う言語を話していたのはそのせいで、それを含めて恐れられていたなら納得です。この世界の人間は皆自然魔法しか使えない。だから、彼らにとってそれ以外の人間は異質すぎる。どんな魔法を使えるかも分からない恐怖の対象になる。」
「その意見には同意だ。そもそも闇魔法を持っている狼獣人や人魚の一族は戦争以来恐れられているが、それよりももっと前は、そもそもすべての獣人族や人魚、というか人間以外、人間とは全く異なる存在として嫌厭されていた。住む場所は今よりももっときっちりと分かれていて、今もその名残がある。戦争が起こったことによって、人間も人間以外も協力せざる負えない状況になったことで、そのきっちりとした境界が緩和された。自然魔法を持っている人間以外の種族は次第に差別が薄れ、そうして闇魔法の種族の恐れが残った。まぁ、言語の違う竜人族やエルフの一族がまだ、異なる存在とされているんだが、それはまた別の話だ。」

風上の村で出会った竜人族の親子がいた。
風上の村人の様子からして、言語がお互い通じないのが当たり前のような反応だった。
それに、かなり遠いところに竜人族の国はあるらしかった。
言葉の壁があることにより、自分とは違う生物だという差別があるのだろう。

ヒサメは少し考えてから話を続ける。

「闇魔法はどんな魔法を使えるか分からない。反対に、光魔法は治癒魔法であることが明確だ。つまり、光魔法は相手に攻撃することができないということが唯一はっきりしている。だからこそ、狙われやすく誘拐されやすい。光の神殿が厳重なのはそのせいだ。」
「光魔法の人は、身体を鍛えることでしか自衛できないということですね。それに、加護の力をたくさん与えられて暴走したとしても治癒の効果しかない。そういえば、神官様や聖女様は天使の翼を授けてもらえるって話でしたけど、それは攻撃魔法を持たない光魔法保持者のために、神様が逃げる手段を与えてくれたってことなんですかね。」
「どうだろうな。」

ヒサメは少し黙ったあと、声を潜めて私の方に顔を近づける。

「これはただの空想話として聞いてほしいんだが。光の神官様と聖女様はその職に就いたら最後、辞めることは許されない話はしたな。あの神殿の中で祈り続け、外に出るときは限られた者としか話せない。人を癒すために、祈りを捧げ続けるために、心穏やかに過ごし続けるそんな日々。オレならば、頭がおかしくなりそうだ。」
「同意です。」
「だろ?そんな神官様や聖女様が弱音を吐けるのはただ一人、祈りを捧げる神様だ。そんな神様に助けてと願った者がいたとしたら?天使の翼は、一体何から逃げるためのものなのか。」

誰かを癒すために、祈りを捧げるために。
そんな自分の立場から逃げるために与えられる翼だとしたら。

「え・・・、あれって空を飛ぶことが出来る翼、なんですよね?」
「ある意味飛べるだろう、その翼で上界に行けるなら。」

上界に暮らす天使はもともと、神官様や聖女様だったということなのか?
いや、そうなると下界が出来てから上界が出来たことになってしまう。
上界は下界で発生する負と正の魔力を糧としているのだから、その順番で出来てもおかしくはないか?
いやいや、そもそも悪魔と天使は神様に近しい存在とされているはずだ。
そんな認識をされているのに、下界よりも後に出来ることがあるか?

「もしも、その翼が天使になるためのものだとしたら、どうして周知されてないんでしょうか。神官様や聖女様はいずれ天使になる尊い存在なのだと広めてしまえば、もっと貴重な存在になるのでは?」
「さきほどの仮定の話を真実だとしよう。彼らはこの縛られた下界から上界へ逃げるのだ。誰も干渉することのできない上界へ。そうなってしまえば、治癒できる人間が大幅に減ることになる。天使の持つ光魔法は下界に与えられることはない。つまり、下界にいてもらわなくては困るわけだ。」

光魔法を持つ者は他人のためだけに生きていかなくてはならない、ということか。

「しかし、そんな定められた生き方をしなさいと言われても、彼らは人間ゆえに耐えられない。そこで、神官様や聖女様はその魔力の高さゆえに天使の翼を授けて貰えるという逃げ道を用意されている。というのがオレの考えだ。彼らを縛り付けたい者にとってそれは邪魔なものでしかない。だからこそ、天使になれるというのが広まるのは不都合だ。」



神官様や聖女様が自分の役割から逃げるためには神様にお願いして天使になるしかなかった。
しかし、それを不都合に思う存在たちが、天使の翼の本当の意味を隠すようになる。
祈りを捧げ、魔力を高め続ければいずれ、きっと天使の翼を授けてもらえる。
そんな希望をちらつかせることによって、今日も神官様や聖女様は祈りを捧げ続けている。
いつか、その翼で自由になれる日が来ることを願って。


はじめのうちは神官様や聖女様だって、人々の役に立てることは喜ばしいことだと思うはずだ。
彼らの心は美しく、人々に寄り添いたいと考えるような人ばかりだろうから。
傷を癒し、人々に感謝され、自分の職を誇りに思うだろう。
だけど、それが自分の幸せに直結するかといえばそうではない。
限られた空間と限られた人に囲まれた生活。
心穏やかであるためにはそうしなければならないとがんじがらめになった決まり。
そうしてそれが、自分が死ぬまで終わらない。
特別だ、希少な存在だと持ち上げられて、その結果他者のためだけに生きていくことを強制されている。
でも、彼らはその職を放棄して逃げることなどできない。
苦しんでいる人々を救えるのは光魔法を持っている自分しかいないと言われ続けているから。
そんな人々を見捨てて自由になることがとてつもなく悪いことだと思わされているから。
彼らの心はとても美しいから、彼らが逃げ出せないことをみんなが分かっている。

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜

月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。 ※この作品は、カクヨムでも掲載しています。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

ダンジョン・イーツ! ~戦闘力ゼロの俺、スキル【絶対配送】でS級冒険者に「揚げたてコロッケ」を届けたら、世界中の英雄から崇拝されはじめた件~

たくみさん
ファンタジー
「攻撃力ゼロのポーターなんて、配信の邪魔なんだよ!」  3年尽くしたパーティから、手切れ金の1万円と共に追放された探索者・天野蓮(アマノ・レン)。  絶望する彼が目にしたのは、ダンジョン深層で孤立し、「お腹すいた……」と涙を流すS級美少女『氷姫』カグヤの緊急生放送だった。  その瞬間、レンの死にスキルが真の姿を見せる。  目的地と受取人さえあれば、壁も魔物も最短距離でブチ抜く神速の移動スキル――【絶対配送(デリバリー・ロード)】。 「お待たせしました! ご注文の揚げたてコロッケ(22,500円)お届けです!」  地獄の戦場にママチャリで乱入し、絶品グルメを届けるレンの姿は、50万人の視聴者に衝撃を与え、瞬く間に世界ランク1位へバズり散らかしていく!  一方、彼を捨てた元パーティは補給不足でボロボロ。 「戻ってきてくれ!」と泣きつかれても、もう知らん。俺は、高ランク冒険者の依頼で忙しいんだ!