【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

文字の大きさ
87 / 169
白銀の国3

友愛

しおりを挟む
朝になり、昨夜と同じ広い部屋で朝食を取ることになった。
同じようなビュッフェ形式で、トゥアがソラと果物を皿に盛っている。
私も何か食べようと選んでいると、隣にザッフィロが来た。
「おはよう。」
「おはようございます。昨夜はソラのことありがとうございました。」
「別にかまわねぇよ。ヒサメ様と話でもあったんだろ?」
ザッフィロはそう言いつつ、焼き魚を取っている。
「話は確かにしてましたが、えっと、見えてました?」
あのバルコニーのガラス窓は特殊な加工がしてあって中からは見えないということだった。
「いや、出てくるところを見ただけだ。ああいう特定の人物にしか知られていない場所って王城って感じがするよな。あんたは、それを教えてもいいって思われる立場にいるわけだ。」
「多分、その、ヒサメ様の部下だからだと思います。」
「婚約者じゃないのか?」
「なんっ・・・なんでですか?」
大声を出しそうになり、私は慌てて音量を下げる。
ザッフィロは眉を顰めて首を傾げる。
「なんでもなにも、静寂の海の二人の様子からそういう仲だと思ってたんだが。部下っていうのもカモフラージュみたいなもんなのかと。俺が怒らせてしまった時もあんたのことでヒサメ様は怒ってただろ?それに、クレタが亡くなった時、ヒサメ様のあんたへの対応が部下って感じはしなかったから。」

確かにヒサメは私のことを気に掛けてくれることが多い。
でもそれは、恩人という出来事のせいであって、恋愛は絡んでいない。

「あの、本当に違います。ヒサメ様も私も、お互いに何とも思ってないんですよ。人間の部下なんてヒサメ様も初めてだから、対応を図りかねているんだと思います。」
「あんた、割と鈍いな。それなら、昨日の猫の時のことはどう説明するんだ?」
「あれは確実に揶揄われただけですよ。トゥアさんとザッフィロさんの反応が面白かったせいです。」
ザッフィロは納得がいかない様子で食い下がる。
「昨日、城へ行く時。あんたヒサメ様の隣にいたよな。あれってそういうことだろ。国の人に、あんたがヒサメ様の隣なのだと示すためだろうが。それって特別な意味合いがないと、しないだろ。」

「そうですね。」

ザッフィロに答えたのは私ではなく、後ろにいたシグレだ。
ザッフィロは肩を跳ね上げて驚いている。
私も驚いたが、そう何度も驚くのが癪で平気な振りをしてみる。

「あれは、いつまで経ってもよそ者を受け入れることが出来ない頭の固い上役の皆様をヒサメ様が黙らせるために、リビさんを隣に置いたのです。貴女の功績を無碍にできないようにするために。国民のほとんどが、リビさんのことを認識し始めている。ヒサメ様が認めている人間なのだと。そうなってしまえば、国の政治を担う上役であっても勝手に貴女を排除することは難しくなりますので。」
シグレはさらに一歩こちらに近づくと、私とザッフィロにしか聞こえない声で言った。
「ああでも、そうですね。あんなに大勢の国民がいたのですから、考えた人もいるでしょう。ヒサメ様の隣を許されたということは、そういうことなのでは、と。人の思考は自由ですから、好きなように想像するでしょうね。意図することも、意図しないことも、不思議と広まってしまうので。」
困ったように微笑むシグレは白々しい。
私は呆れたようにため息を飲み込んで問いかける。
「あの、昨夜からどうしてそういう方向に進めようとするんですか。シグレさんだって分かってるはずです。私がそういう器じゃないってことくらい。」
私のその言葉に、シグレはふいに私の手を掴んだ。
そうしてシグレは、ザッフィロの手も掴んだ。
戸惑う私とザッフィロは、あの特殊なガラス窓の扉の向こう、バルコニーへと引っ張られた。




ザッフィロは、こんなとこに入っていいのかと戸惑った表情をしているが、シグレは話を続けた。
「貴族の娘と結婚させようとする動きが出始めています。無理やりにでも婚姻を結ばせるおつもりなのでしょう。そうなったらヒサメ様はきっと、結婚しますよ。」
拳を握りしめているシグレは怒りの感情を押し殺しているように見えた。
王であるヒサメがいつまでも妃不在では体裁も悪いのかもしれない。
それに、妃が担う業務もこのままでは行うことができず、国民を不安にさせてしまう。
「ヒサメ様は国民のことを大切にしています。それゆえに、己の結婚はただの儀式に過ぎなくてもかまわないのです。そうであっても、ヒサメ様はきっとお相手のことを大切にします。子を成したとしても、その子供を大切にします。そういう人です、そういう人だからこそ、私は許せない。」
シグレの手が私の手を力いっぱい握る。

「家族の愛を求めていたヒサメ様に、また愛のない家族を作らせることが許せないのです!」

ヒサメはきっとどんな結婚相手でも大切にはしてくれる。
それは、私もそう思う。
だけど、そこに愛を含めることが出来ない。
妃の立場である相手を大切にし、王子の立場であるその子を大切に思えたとしても。
ヒサメが一番欲しかった愛のある家族は、そこには存在しない。
シグレは部下として、いや、友として。
ヒサメのことを想っているんだ。

「私だって、ヒサメ様が結婚するのならヒサメ様が愛せる人がいいですよ。でも、それって、私じゃないでしょ。ヒサメ様が私を気に掛けるのは、フブキさんの恩人の一件があるせいなんですよ。それだけで愛せるなら、今後誰かを愛することだって出来るはず・・・」
私の言葉が止まったのは、掴まれた手があまりに強い力で握られていたからだ。
「そんな簡単な話ではありません。人を信用することができないのに、その上愛するだなんてハードルが高すぎるんですよ。ヒサメ様にとっては難易度が高すぎるんです。ですがその信用を得ている貴女なら、可能性があります。この際、愛の種類はなんでもいい。恋愛である必要はありません。友愛よりも重ければ重いほどいいです。」

私が頭を抱えているとザッフィロがあのさ、と口を挟む。
「なんで俺まで連れてきたんですか?こんな話、部外者の俺が聞いていいもんかと。」
「ザッフィロさんは、リビさんがヒサメ様の婚約者だと思っていたと仰いましたね。そのまま、そのように振舞ってください。リビさんが素直に分かりましたと頷いてくれるはずがありませんから、周りから固めようと思っているんです。」
「それ本人の前で言う話じゃないですよ。」
ザッフィロは複雑そうな表情で隣の私を見た。
「あんた、ヒサメ様のこと本当に何とも思ってないのか?」
「友愛ならありますよ、さすがに。でもそれで結婚とはならんでしょうが。」

そう言った瞬間、ガラス扉が開いた。
「あの、リビさんいらっしゃいますか?」
顔を覗かせたのはボタンで、手には白い封筒を持っていた。
「ボタン、どうかしましたか。」
「シグレさん、白銀の国へと届いた書簡の中にリビさん宛てのものがあったのですが。」
シグレはボタンから白い封筒を受け取って、封蝋を見た瞬間眉を顰めた。

「これは、厄介なことになりそうですね。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜

月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。 ※この作品は、カクヨムでも掲載しています。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

辺境ぐうたら日記 〜気づいたら村の守り神になってた〜

自ら
ファンタジー
異世界に転移したアキト。 彼に壮大な野望も、世界を救う使命感もない。 望むのはただ、 美味しいものを食べて、気持ちよく寝て、静かに過ごすこと。 ところが―― 彼が焚き火をすれば、枯れていた森が息を吹き返す。 井戸を掘れば、地下水脈が活性化して村が潤う。 昼寝をすれば、周囲の魔物たちまで眠りにつく。 村人は彼を「奇跡を呼ぶ聖人」と崇め、 教会は「神の化身」として祀り上げ、 王都では「伝説の男」として語り継がれる。 だが、本人はまったく気づいていない。 今日も木陰で、心地よい風を感じながら昼寝をしている。 これは、欲望に忠実に生きた男が、 無自覚に世界を変えてしまう、 ゆるやかで温かな異世界スローライフ。 幸せは、案外すぐ隣にある。

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...