【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

文字の大きさ
91 / 169
黄金の国

グウル国王

目を開けると、月明りではなく太陽の光が入ってきているのが分かった。
物音がして、開いている隙間を見るとパンと水が置いてある。
「ローザさん?」
「怪我の具合はどうですか。」
ローザにそう言われ、私は包帯を巻いている箇所を確認する。
包帯には血が滲んでいて、鈍い痛みがある。
「贅沢かもしれませんが、血を止める薬草はありませんか?」
「薬草?調合ができるのですか?」
そんな問いかけに、見えもしないのに首を振る。
「私の魔法は食べた植物の効果を付与すること。だから、薬草があればなんとかなります。」
「魔法は、使わない方がいいって言ったはずです。こうしてる間にも貴女の魔力は減少している。魔法を使えばそれだけ、減りが早くなりますよ。薬なら持ってくるので。」
ローザが立ち上がる音がして、私は思わず呼び止めた。
「ソラはどうしてますか。」
「ソラ様は薬で眠っています。一番奥の部屋に閉じ込められている状態です。ですが、危害を加えることは絶対にないのでご安心を。」
ソラの身が安全なのは良かったが、どうやって助け出すかが問題だ。
「ソラ様の警護は私以外の騎士に任されています。かなりの人数をソラ様に充てているようですね。」
「国王が欲しかったのはソラですもんね。ソラを手に入れた今、私が死んでさえくれればいいと思っているのでは?」

「グウル王は、そんな方じゃなかったんです。本当に。」

力の入った言葉に、それが嘘をついているようには聞こえない。
「ローザさんが知っている国王は、どんな人なんです?」
砂の擦れる音が聞こえ、ローザが腰を下ろしたのが分かった。
「黄金の国が、周りからどう思われているのか。勿論、騎士である私もよく知っています。代々この国は、宝石の商売を生業にしてきた。山で採掘し、宝飾として使用できるように加工して、それを別の国の貴族に売る。そうして富を得たこの国は、他の国にも劣らない安定した財政状態を維持している。金で解決はよくあることです。なぜなら周りもそれで納得してくれるから。この国は宝石の加工職人が多かった。だから、戦える武力なんてものはなかったんです。民を傷つけずに解決できるのなら、お金など安い物。それが歴代の国王の考えだったのです。そうして、現在のグウル国王も金を出し惜しみすることはない、豪快な方でした。」

綺麗な宝石を欲しがる貴族がいて、その希少性から値が上がっていく。
この国の職人はそれほど優秀な人が多くいて、それだけ欲しがる人がいたということだ。
値段は次第に吊り上がり、宝石というものは手に届かない存在になっていく。

「この国にはあらゆる商人が来るようになりました。上質な絹、滑らかな陶器、純度の高い金属など、高値で買ってくれるこの国に集まるのです。そして、流行に敏感なグウル王はそれを試しに買ってくれるということを分かっている。中には、表では売買できないものを商売しにくる者もいました。捕獲禁止の魔獣や、珍しいエルフを奴隷として売りに来るんです。それをグウル王は買って、私に任せるんですよ。私が、逃がすと知っているから。」
言葉を詰まらせるローザの声が悲しそうだ。
「貴女を穴に落としたとき、それはもう驚きました。使ったことのない地下牢に落とすなんて本当に思っていなかった。その上、槍を使うなんて見たことがない。私の心臓がうるさく悲鳴をあげて、それでも私は一縷の望みを抱いていた。グウル王が一言、私に任せると言ってくれたなら。今までのように、逃がすと分かっている私に頼んでくれたなら。貴女を殺すつもりがないと思えたのに。」

ローザの話す国王は、人を殺すような人間ではなかったということだ。
信じていたかった国王は、ローザに何も言ってはくれなかった。
だから彼は、黙って一人でここに来ている。

「商人の中に怪しい人物はいませんでしたか?ドラゴンの話をする商人はいませんでしたか?」
私の呼びかけにローザは静かに答える。
「グウル国王は商売の話をするとき、会議室でなさいます。その時側にいる騎士は私ではありません。その騎士も商売の時の会話は他言無用とされているんです。」
「そんな危険になりえる場面で、ローザさんは護衛じゃないんですね。騎士団長なのに。」
そんなことを何気なく言えば、ローザはぽつりと言った。

「私は、先代の国王から買われた奴隷のエルフなんです。」

そんな台詞に驚きはしたが、私は黙って耳を傾ける。
「まだ幼かった私は、何があって裏の商売人に捕まったのかさえ覚えていません。そんな私を先代の国王は買ってくれて、私を本当の子供のように育てて下さった。グウル王は私のことを年の離れた弟のように、面倒を見て下さった。だからこそ、その恩に報いるために騎士になったのです。」

珍しいエルフは山賊や海賊、闇の商売人に捕まって奴隷として売買されてしまう。
そんな幼いエルフは売られた先でどうなってしまうのか。
考えただけでも恐ろしいが、ローザは家族のように育てて貰えたのだ。

「私が騎士になって、さらには団長になっても、商売の時は別の騎士を護衛につけさせていました。それは、先代の国王と、グウル国王の優しさなのです。闇の商売人の聞くに堪えない恐ろしい奴隷の話を私に聞かせないため。直接国王から聞かされたことはありませんが、一度だけ騎士が話しているのを聞いたのです。聞いてるだけでおかしくなる話ばかりだと。人間じゃないだけマシだと。他言無用なのは、私の耳に入れさせないためなのでしょう。」

話を聞いている限りでは、グウル国王はローザをかなり大切にしているように思えた。
残酷な話を聞かせないように、徹底的に守っているように思える。

「可能性の話、なのですが。グウル王は何者かに操られているのではないかと思っています。」
「操られる!?そんな魔法があるのですか?」
「可能性、ですからね。でも、貴方から見て突然国王が変わったのなら疑う余地はあります。一応なのですが、国王のこともよく見といてくれませんか?なにか異変があれば教えてください。」
「分かりました。しかし、グウル国王を操るだなんて一体誰がそんなことを。」

証拠が何もない以上、ドクヘビのことを話す訳にはいかない。
それに、本当に操られているかどうかも分からないのだ。

「国王が変わったのはいつですか。というか、ソラに会いたいと言い出したのはいつです。」
「変わったのは、1か月ほど前でしょうか。ソラ様に会いたいというのは噂が出始めてすぐのことです。」
「それなら、1か月前に国王に謁見した人物を調べたほうがいいです。商人でも貴族でもなんでも、手がかりになると思います。」
「分かりました。しかし、貴女がここから出る方が先決では?このままでは持って5日程度ですよ。」
5日、と明確な数字を出されて悪寒がする。
まだ体力があるうちになんとかしたい。
「この地下牢、亡くなった遺体を運び出すための通路が存在するはずなんです。ですので、私はそちらを調べています。貴女はできるだけ魔力や体力の消費を抑えてください。いいですね?」
ローザはそう言うと立ち上がり、靴音が遠ざかる音がした。

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜

月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。 ※この作品は、カクヨムでも掲載しています。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

ダンジョン・イーツ! ~戦闘力ゼロの俺、スキル【絶対配送】でS級冒険者に「揚げたてコロッケ」を届けたら、世界中の英雄から崇拝されはじめた件~

たくみさん
ファンタジー
「攻撃力ゼロのポーターなんて、配信の邪魔なんだよ!」  3年尽くしたパーティから、手切れ金の1万円と共に追放された探索者・天野蓮(アマノ・レン)。  絶望する彼が目にしたのは、ダンジョン深層で孤立し、「お腹すいた……」と涙を流すS級美少女『氷姫』カグヤの緊急生放送だった。  その瞬間、レンの死にスキルが真の姿を見せる。  目的地と受取人さえあれば、壁も魔物も最短距離でブチ抜く神速の移動スキル――【絶対配送(デリバリー・ロード)】。 「お待たせしました! ご注文の揚げたてコロッケ(22,500円)お届けです!」  地獄の戦場にママチャリで乱入し、絶品グルメを届けるレンの姿は、50万人の視聴者に衝撃を与え、瞬く間に世界ランク1位へバズり散らかしていく!  一方、彼を捨てた元パーティは補給不足でボロボロ。 「戻ってきてくれ!」と泣きつかれても、もう知らん。俺は、高ランク冒険者の依頼で忙しいんだ!